犴と鮫   作:鷲谷ヒメリ

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真実はいつも
ナイフの様に僕を切り裂き
心に棘を埋め込むのだ


真実の行方

 ガラ、と崩れたビルから剥き出しになった鉄筋が折れて、コンクリートの破片ごと落下する。

 地形が変わりかねない爆発と熱波から、少しでも身を守ろうと姿勢を低くして頭を下げ、身を強張らせて目をギュッと閉じていたスタークは、予想していた熱と痛みが全く来ない事に気が付いて、恐る恐る顔を上げた。その顔にかかる、巨大な影は。

「な……なん……なん……なんっじゃこいつはぁあああああ!?」

 薄緑の巨大なエイに似た姿をした、珍妙な謎の生き物のものだった。

 巨大なエイのような何かは、愕然とするスタークには全く見向きもせず、ゆったりと絨毯の様な鰭を上下に波撃たせて背中の瓦礫を揺り落とすと、自分の仕事は終わったとばかりに身体を小さく縮めて捻り出し、何かに吸い込まれるようにして地上へ降りる。その先には、卯ノ花烈の斬魄刀の鞘があった。

「……アンタの斬魄刀なのか。それ」

 愕然としたままのスタークをほったらかしにして、アメミトが烈に問いかける。

肉雫唼(みなづき)といいます。ご覧の通り、生物型の始解で、大きさは先程のように視界を覆い尽くす程の巨体から、子犬程まで可変です。また、この子の体内には治癒能力があるので、緊急時には負傷者をこの子に飲み込ませる事も」

「そうか……いやでも、治療とはいえよくわからん生き物の内分泌液まみれになるのはちょっと……」

「あら、そうですか。まだ何も言ってはいませんが」

 そっとアメミトは左手を突き出して首を左右に振った。

 烈は周りを確認して、それからスタークとアメミトへ目を向ける。

「それでは、次はお二人の治療を……と、言いたいところなのですが……あの、そちらの十刃(エスパーダ)。大丈夫なのでしょうか?」

 烈に抱き抱えられたハリベルを指差され、アメミトは小首を傾げた。

「大丈夫とは何だ」

「いえ……何か顔が、薄ら赤い様なので」

 指摘され、アメミトはスッと目線を下に向ける。アメミトの胸に顔を押し付けられる様にして抱かれていたハリベルは、フルフルと何かを堪える様に震えて赤らんだ顔を隠していた。尤も、そもそも仮面で顔の大部分が隠れているので、赤らんでいても分かりづらいのだが。アメミトはピンとして、クスリと揶揄う様に笑う。

「……何で今更そんなに恥ずかしがってるんだ、ティア。いつも同じベッドで抱き合って寝ているだろうに」

「寝る時はアパッチ達もいるだろう!!主に私達の寝相の悪さのせいで!!」

 ハリベルが、バッと顔を上げた。一緒に寝てるんだ。そして寝相悪いんだ。と密かに耳を欹てていた八十千和は自身の上官とやり取りをする破面(アランカル)達への警戒を少し緩める。

「お前な!私がお前の事心底好きなのをわかっててやってるなら物凄くタチが悪いぞ!?好いた相手に抱き締められてパニクらない奴が、一体何処にどれ程いるんだ!!前もって言っておくが、私は童貞だぞ!!」

「そうか。で、参考までに感想は?」

「う……ッ、ぐう……なんかちょっといい匂いした……!」

「そうか。まあ、アンタ私の事大好きだものな。それこそ、仮面越しの頬にキスしただけで有頂天になるくらい。というか、童貞じゃなくて処女の間違いだろう。まさかと思うが、自分がタチだと思っていたのか?」

「うわぁあああああ!!何でそんなこと言うんだ!!」

 ハリベルはすっかり、アメミトに手玉に取られている様に見えた。それを見ていた烈は、右手を口元に添えて、あらあら、と面白いものを見る目をしている。見せもんじゃねえぞ、と突っ込んでくれる優秀な部下は、まだ此処に来ていない。

「何ですかこれ痴話喧嘩?」

「公衆の面前で何つう会話してんだよ……」

 一角の治療を終えたイヅルが、呆れ果てた顔をする。こんな人達に日番谷隊長も狛村隊長も斑目三席もやられたのか……複雑だ。そんな心の声が聞こえてくる様だった。というか、隣の清音には聞こえていた。何故なら割と似た様な気持ちだったので。スタークもいつも通りが過ぎる二人に、少しうんざり気味に溜息を吐く。

 それが或いは騒がしかったのだろうか。春信の治療を受けていた桃が、小さく呻いて目を覚ました。一瞬自分の状態も含めて何がどうなっているのか分からず、茫然としていた桃はすぐに自分を取り戻すと、ゆっくりと上体を起こして周りを確かめた。

 まず視界に飛び込んできたのは、腹に穴を空けた状態で治療を受ける冬獅郎の姿。桃はそれに息を飲み、倒れそうになったのを春信が支えた。

「大丈夫ですか?雛森副隊長」

「は、はい……あの、今どうなって……って、いやーーーー!?」

 気遣わしげな春信に相槌を打った桃は、不意打ちで視界の端に映り込んだ者の姿に悲鳴を上げる。その悲鳴に、烈もスタークも反応した。

「え、え、十刃(エスパーダ)!?どうしてここに!?」

「ああ、うん。そうなるよな普通はな」

 ふらつきながら立ち上がった桃は、斬魄刀の柄に手を掛けた。当然の様に警戒され、怯えられてスタークはとほほ、と肩を落とす。

「落ち着け若いの。もう私達はアンタらと敵対する事は無い。する理由も無い。だから刀から手を離せ」

 ハリベルに襟を掴み上げて揺さぶられながら、アメミトは桃をそう宥めた。桃が恐る恐る烈の方に目線を向けると、烈はアメミトの言葉を肯定する様に無言で頷く。それを受けて渋々、桃は斬魄刀から手を離した。

 ハリベルが落ち着いた頃合いで、アメミトはさて、と立ち上がろうとした。その時。

 巨大な炎の剣の鋒が、遠方で聳え立った。

 

 

 ワンダーワイスの死と共に解き放たれた炎は、模造品(レプリカ)の空座町に巨大なクレーターを作り上げた。その中心に、元柳斎が蹲っている。その両腕は、最早炭に近いレベルで焼け焦げていた。

 クレーターの淵から、藍染は元柳斎を見下ろす。

「……あれ程の爆炎を、これだけの被害に抑えるとは。流石は護廷十三隊総隊長だ。君がその身で抑え込んでいなければ、君の炎は君達の張った脆弱な結界など消し飛ばし、今頃この小さな町の何倍もの大地が、灰になっていただろう。感謝するよ、山本元柳斎。君のお陰で、()()()()()()()()()

 心にも無い賛辞を送り、藍染はクレーターの内側に足を運び、斬魄刀に手を掛けた。

「山本元柳斎。君には、"殺しはしまい"などとは言うまい。尸魂界(ソウルソサエティ)の歴史そのものである君だけは、せめて、私の剣で止めを刺そう」

 藍染は斬魄刀を構える。剣が届く距離まで近付いた藍染に、元柳斎は焼け焦げた左腕を伸ばし、その足首を捕まえた。

「……何度も言わせるなよ、小童。甘いわ」

 ジリ、と空気が熱を持つ。普段働かない、働く必要の無かった藍染の生存本能が、警鐘を鳴らした。元柳斎の焦げた腕に亀裂が走る。

「破道の九十六、一刀火葬」

 元柳斎の焼け焦げた左腕を燃料に、炎が巨大な刃の形を取って、藍染を飲み込んだ。

 一刀火葬は、焼き焦がした我が身を触媒として発動する、禁術に指定された犠牲破道である。藍染の策略によって使い物にならなくなった自らの軀の一部を、使い捨ての武器とする元柳斎の決断が早過ぎた。

 藍染は霊圧で身を守りながら、炎の中から力尽くで抜け出す。建物の屋上に飛び乗って、油断ならない老害だと歯噛みした。

 そこに、上から現れた強襲者。

 仮面を被り(ホロウ)化した、一護である。

「月牙、天衝!!!!」

 振り下ろされた黒い月牙天衝が、建物ごと藍染の左肩を斬り裂いた。

「まだだぜ」

 黒い月牙天衝が刀身に収束する。一護は一歩踏み込んで、それを振り上げた。

「月牙纏威衝!!!」

 振り上げられた月牙纏威衝を、藍染は瞬歩で躱す。剣圧で、その向こうの小さなビルの上半分が粉砕された。

 一護は左脚を軸にして、素早く振り返る。月牙纏威衝を維持したまま、藍染の背中から斬りかかった。

 藍染はまともに一護を見る事もせず、斬魄刀でそれを受ける。その衝撃で、月牙纏威衝が刀身から剥ぎ取られ、飛び散った月牙天衝が瓦礫の海に落ちて穴を穿つ。

 一護は数歩分の距離を取って後ろに下がった。黒刀を刺突の形に構え、黒い月牙天衝を刀身に乗せる。藍染は、一護がもう一度月牙天衝を纏うつもりだと読んで、黒刀を弾き飛ばそうと踏み込もうとした。

 だが、その読みは外れる事となる。

 黒刀に乗せられた月牙天衝が収束する。そこまでは同じだった。だが、黒刀に乗せられた月牙天衝が、刃の形を成す事はしなかった。

 鋒に作られたのは、黒い鏃。

「月牙天衝……孔影(こうえい)!!!」

 一護が黒刀で渾身の突きを放つ。その勢いで放たれた月牙天衝は、バリスタの矢の様に真っ直ぐ、そして目視するのも困難な程に猛烈な速度で、藍染の心臓へ向かって飛んだ。

 藍染は咄嗟に、身体の前面、心臓の周辺に鬼道の結界を三重に張る。それでも藍染の勘は、藍染自身の信用を無視して危険を訴えた。

 矢の様な月牙天衝が結界に激突する。結界がひび割れたのを視認した瞬間には、月牙天衝が藍染の胸を貫いていた。

 藍染の足下に、胸から流れ出た血が水溜まりを作る。左手を孔の空いた胸に添えて、藍染は血の混じった咳をした。

 普通ならば致命傷だ。実際に、一護はウルキオラによって二度、同じ様に胸に孔を空けられて殺されている。織姫による治療、或いは(ホロウ)の力の暴走の副産物が無ければ、一護は此処にはいない確信があった。

 にも関わらず、藍染は膝すら着かず薄ら笑いを浮かべていた。

「……何が可笑しい」

 仮面の奥で一護が睨む。藍染は血塗れの左手の甲で口の端を拭った。

「……殺し損ねたな、黒崎一護。今のが私の、最後の隙だ」

 藍染が顔を上げる。そこに、焦りの色が見えない事を不審に思いながら、一護は黒刀を構えた。

「充分だ。その傷じゃ、ろくに戦えねえだろ」

「……傷?こんなものが、傷だと?」

 藍染がそう言うと、左肩と胸の傷の周りがひび割れる。割れた身体は、元の形に戻ろうと自らを繋ぎ合わせ始めた。

 超速再生か、と一護が戦慄する。だが、藍染はそれを読み取った様に。

「超速再生じゃあ、無い。私が(ホロウ)化など、すると思うか」

 藍染が踏み込んだ。振り抜かれた斬魄刀を、一護は黒刀で受け止め押し返す。双方の間に再び距離が空いた。

「———これは、主に対する防衛本能だ」

「……どういう意味だ」

 疑問を口にした一護に答える様に、藍染はボロ切れの様になった白い死覇装を開く。その中心に在ったのは。

「———それは———……」

「……崩玉だ」

 藍染の身体に直接埋め込まれた、崩玉。一護が付けた傷を修復したのは、これである。そして一護が知る由もないが、ハリベルによって消し飛ばされかけた右肩から先が復元されたのもまた、崩玉を埋め込みその力を直接享受していたからであった。

 藍染は塞がり始めた左肩の傷に触れ、残留霊圧を指で拭い取る。

「これが、君の霊圧か。素晴らしい。よく成長したものだ。私の、思い通りに」

「———……何…………!?」

 意味深な藍染の言葉に、一護は息を飲む。背筋に嫌な寒気が広がった。

 藍染は語る。

 一護は朽木ルキアと出逢い、石田雨竜との競合で死神としての力を覚醒させた。

 阿散井恋次との戦いで自身の斬魄刀の力を知り、更木剣八との戦いで卍解への道を開き、朽木白哉との戦いで内なる虚の力を解放した。

 グリムジョーとの戦いでは虚化の力を完全に我が物とし、ウルキオラとの戦いでそれを越えた境地へと至ったと。

「黒崎一護。君の今迄の戦いは、全て私の掌の上だ」

 藍染の指から、拭い取った黒い霊圧が散る。一護の仮面の左の目元にヒビが走った。

「……今までの…………俺の戦いが……てめえの……掌の上…………!?何だよそれ……どういうことだよ……」

 藍染は応えない。一護の仮面が動揺を反映する様に崩れて消えていく。

「どういうコトだって、訊いてんだよ!!!」

 完全に仮面が消え去り、一護は感情のままに絶叫した。信じられる訳が無かった。

 一護は、今までの自分の選択が、全く預かり知らぬ所で他者によって定められていたレールの上を走らされていただけだったなどと、認めるわけにはいかなかった。だとしたら、自分が家族を護る為に死神の力を得て戦うと決めた想いも、織姫を救う為に護廷十三隊に切り捨てられようとも虚圏(ウェコムンド)へ乗り込む決断をした事も、今こうして、家族やクラスメイト達を護る為、藍染に殺させない為に白哉達に背中を押され、戻ってきた事も。全て、全て、全て、藍染が仕組んだ筋書きだったなどと。

 そこに一護自身の意志など、存在しなかったのだと言われるに等しかった。

「そう声を荒げるな。黒崎一護」

 左の人差し指を立てて、藍染は一護を制する。

「そんなに驚くことは無いだろう?私はただ、君こそが私の探究に於ける、最高の素材になる。そう確信して、君の成長を手助けしてきた。そう、言っているだけだ」

 藍染は疑問を抱かなかったのか、と問う。

 それまでの人生で(ホロウ)を目にした事が無かったにも関わらず、ルキアとの出逢いの直後に(ホロウ)の襲撃を受けた事を。

 滅却師(クインシー)が弱い(ホロウ)を誘引する為に使う撒き餌如きに、大虚(メノスグランデ)が引き寄せられた事を。

 死神としての戦いに慣れ始めた頃に、それまで霊圧の捕捉さえ出来ていなかったルキアが、都合良く見つかって尸魂界(ソウルソサエティ)に報告された事を。

 恋次、剣八、白哉。皆一護の力と拮抗するタイミングで戦っていた事を。

 一度たりとも、違和感を覚えなかったのかと、藍染は一護に問うた。

「出会いは運命だと思ったか?襲撃は偶然だと思ったか?戦いの勝利は、君の努力の結果だと思ったか?」

 堪え切れず、一護は跳ぶ。月牙纏威衝を黒刀に纏い、藍染に斬りかかった。

 藍染の剣と一護の月牙纏威衝が激突する。数度撃ち合い、藍染の首目掛けて一護が振り抜いた黒刀は、しかし藍染に左手で止められた。

「……落胆させないでくれ。こんなものじゃ無い筈だ。今の君の力は」

 一護は目を見開く。(ホロウ)化が解けているとはいえ、月牙纏威衝は月牙天衝の威力を全てそのまま相手に叩きつける技だ。それにも関わらず、一護の剣を止めた藍染の掌には、殆ど傷が付いていなかった。

「信じられないか。私の言葉が」

 藍染は砂か埃を払うかの様に、一護の剣を払い退ける。

「……当たりめーだろ……!」

「だが、"事実"だ」

「嘘だ!!!今までの戦いが全部てめえのせいだと!?全部てめえがそう仕向けたってのか!?そんなモン、簡単に信じられる訳がねえだろ!!てめえ前に言ってたよな!?"自分がルキアを見つけた時は、ルキアは現世で行方不明になった後だった"って!!なのに"ルキアにあった時から俺のことを知ってた"だと!?仮に万が一、億が一てめえの言った事が全部本当だったとして、筋が通らねえ!!矛盾してんじゃねえか!!」

「……面白い事を言う」

 藍染はほくそ笑んだ。

「今、君は自分で言っただろう。"嘘だ"、"そんなもの簡単に信じられない"。そして、今の私の言葉とその時の私の言葉がどちらも本当だとして、矛盾していると言うけれども。その時の私の言葉が嘘ではないという確証は、一体何処にあるんだい?」

 一護は自分の心臓が止まったかと思う程、呼吸も忘れて言葉を失った。

「……無理も無い事だ。同情しよう。この世界には最初から、真実も嘘も無い。あるのはただ、厳然たる事実のみ。真実も嘘も、あくまで自らの内側で創り上げられる幻想だ。にも関わらず、この世界に存在する全てのものは、自らに都合の良い"事実"だけを"真実"と誤認して生きる。そうするより他に、自らの自尊心を保ったまま生きる術を持たないからだ。だが、世界の大半を占める力無きものにとって、自らを肯定し、自尊心を構築するのに不都合な"事実"こそが悉く、正しい意味での真実となり得るのだ」

 一護は言葉を返せない。返すに値する言葉を持ち得なかったからだ。

 藍染は続ける。事実の全てを知っているのかと。

 ルキアを現世駐在の任に就かせたのは誰か。

 恋次の装備に霊圧探知能力を持たせたのは誰か。

 副隊長らへの報告に、旅禍の進行方向に関する情報を加えたのは誰か。

 藍染は本当に、崩玉完成から百年以上、その在処を突き止める事ができていなかったのか。

 その全てを、知ってはいないだろうと。

「……一つ……訊きてえ」

 一護は俯いたまま、搾り出すように問いを投げかける。

「あんたさっき言ったよな……俺が……あんたの探究の、最高の素材になると確信してたって……何でだ……?何を根拠に、そう確信した……?」

 ルキアと出会った時から見ていたと言うのなら、一体何時そう確信したのかと。

「……最初からだ」

 藍染は一護に背を向けて、そう答えた。

 一護は藍染の、乱雑とも取れる回答に苛立たしげに左手を握り締める。

「……適当なこと言ってんじゃ……」

「……解らないか。()()()()だと言っているんだ」

 首だけで振り返って、藍染は重ねて答えた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 一護は、全身の血管が凍り付いたかと思った。驚愕というよりも、恐怖と生理的嫌悪感だと、動揺する一護は気付けない。

「君は生まれた瞬間から、特別な存在だった。何故なら君は、人間と———」

 その先を、一護が聞き取ることはできなかった。何者かが二人の間に割り込むように、剣を振り下ろしながら落ちてきたからだ。その衝撃と音で、聞き逃したのだった。

 だが、聞き逃した事にマイナスは無い。そもそも聞く必要など無かったからだ。答えは、一護の目の前に現れたのだから。

「———喋りすぎだぜ。藍染」

 刀を、斬魄刀を手にして、黒い着物を、死覇装を身に纏い、一護を庇うように藍染に立ちはだかっていたのは。

 

 一護の父、黒崎一心だった。

 

 一瞬、一護は目の前の光景を飲み込めなかった。一護の知る、放任主義でライン超えの愛妻家で、イマイチ親子間の距離の取り方にある意味で難のある父の背中だとは思えなかったからだ。だが、それでも確かに、一護の魂は目の前の大きな背中が父のものであると確信していた。

「…………お…………親父…………か……?」

 恐る恐る確かめる。一心は一護の方を振り返ると、無言で歩み寄っていく。

 何も言わない一心に、一護は動揺したまま。

 そして、一心は動けない一護の額に思いっきり頭突きをかました。

「痛い!!!」

 一護の身体が三度、屋上の床を跳ねながら縦に回転して飛んでいく。危うく落下しそうになった一護は、必死に縁を両手で掴んだ。

 一心は落ちまいとする一護の鎖骨周辺を容赦無く踏みつけ、一護を叩き落とす。

「てめえこのやろぉおおおおおお!!!」

 逆上する一護が落ちていく。一心は藍染を目だけで一瞥し、瞬歩で一時的に撤退した。

「距離を取ったか……賢明な機転だ」

 血筋か、と呟いて、藍染は崩玉に触れた。




いいとこだけど次回は虚圏の方に場面が移ります(原作と展開が全く変わらないので)

というわけで次回、ウルキオラとヤミー
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