犴と鮫   作:鷲谷ヒメリ

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今回はポエムお休み


和平協定

 黒腔(ガルガンタ)の中を、巨大な船が進む。舵輪を握るのは一本角の仮面を持つ破面(アランカル)、アパッチ。周りは無理をするなと気遣ったが、どちらかといえば、何かしていた方が気が紛れるので、アパッチは操縦役をゴリ押しでもぎ取ったのだ。

 ブルーとオレンジのヘテロクロミアが、哀愁を宿して半ば伏せられる。目尻にはほんの少し、涙が滲み出していた。

「大丈夫か、アパッチ?」

 不意に背後から声をかけられた。反射的に半身で振り返ると、ミラ・ローズが船室に続く階段があるドアに凭れかかっている。

「お前こそ大丈夫なのかよ。皆からも休んでろって休憩用のベッドに押し込まれてたじゃねえか」

「いやなんか……大人しく寝てんのも逆に落ち着かなくってさ。一護の事とか、虚圏(ウェコムンド)に戻った後の事とか考えてたら、寧ろ休まんなくて」

「寝ろよ無理矢理にでも」

 アパッチは苦笑して、前を向き直る。正論で平手打ちされたミラ・ローズは、困ったような曖昧な笑みを浮かべたまま、黒腔(ガルガンタ)の暗闇を眺めていた。

「…………寂しいんだ」

 ポツリと、アパッチが呟く。独り言かと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。恐らくは、アパッチ自身、誰からも隠し切るつもりだったのだろう本音が、堪え切れずに零れ落ちてしまったのだろう。

「元々(ホロウ)なんて、心に孔が空いてて当然なのに。元から空いてる孔とは別に、でかい孔が胸に空いてる感じがあるんだ」

 舵輪を握る手が、僅かに力んだ。ミラ・ローズはただ静かに相槌を打つ。

「……もっと、どうでもいい話とかしたかった」

「うん」

「第三の宮に呼んで、一緒に遊びたかった」

「うん」

「干し柿の作り方、教えてもらう約束だってしてた」

「……うん」

 段々と、アパッチの声は震え始めていた。胸が締め付けられる様な痛みを訴える。それでも、アパッチの目に涙は無い。空座町で流し切ってしまったかのように。

「…………ギン、って……呼んでみたかった……ッ」

「……うん」

 ブルーとオレンジのヘテロクロミアが痛ましく歪んだ。

 それが一体、何と名付けるべき感情なのか。ミラ・ローズは勿論アパッチ自身にも判らない。しかし、確かに愛ではあるだろう。愛とは、感情のベクトルだ。性愛も親愛も博愛も敬愛も、感情の名前とは、愛が示す色を区別するためのものだ。アパッチは、その感情の色に名前を付けないまま、市丸ギンという男を心から愛していた。

「……やっぱり、スンスンかアメミト様呼んで、操縦代わってもらうか?」

 気遣わしげにミラ・ローズが提案する。アパッチは前を向いたまま、首を横に振った。

「もう着くし、要らねえ」

 すげなく断るアパッチの視界には、船の前方、もうすぐそこに黒腔(ガルガンタ)の出口が見えていた。その向こう側に広がるのは、三日月だけが浮かぶ常夜の空と、一面の白砂の海。

「そっか……帰ったら、ちゃんと休めよ」

「お前が言うな」

 手厳しいな、と苦笑してミラ・ローズは船内に戻って行った。ハリベル達に、もうすぐ到着する事を知らせる為だ。その寸前に、扉の内側にいたスンスンとすれ違う。

 ヘーゼルグリーンと紅電気石(ルベライト)が、一瞬交差する。その一瞬で、スンスンはミラ・ローズと意思の統一を行った。

 スンスンは板張りの通路を早足で歩き去るミラ・ローズの背中を見送って、扉を少しだけ開き舵輪を握るアパッチの背中を見遣った。

 背中越しにも、アパッチが受けた悲しみも傷も、苦しい程伝わってくる。スンスンは紅電気石(ルベライト)を痛ましげに伏せ、袖の中で両手を握り込んだ。

「…………ホンット、酷い男ですわね。市丸ギン」

 恨み言のようにも聞こえる声で呟かれた言葉は、黒腔(ガルガンタ)の闇に溶けていった。

 

 

 虚圏(ウェコムンド)の夜は明けず、時間の経過は一見すると判りづらい。しかし、(ホロウ)達は外側から考えているよりもずっと正確な体内時計で以て、どれだけ時が過ぎたかを把握していた。

 そして、藍染統治下においては、持ち込まれた時計を筆頭とする文明の利器によって、より正確な時間の経過を知ることができた。

 さて、そんな時間の経過こそ認知しているものの、夜明けという概念が存在しない虚圏(ウェコムンド)で、五日程度経った頃である。

 薄暗い廊下を横柄そうな態度で歩いているのは、空色の髪の破面(アランカル)、グリムジョー。その隣を競っているかのような早足で歩いているのは、足首まで覆うワンピースのようなローブを着た、子供ほどの身長の破面(アランカル)、ウルキオラ。

 別に二人は示し合わせて、共に目的地へ向かっているわけでは無い。ただ偶然、道の合流地点でばったり鉢合わせただけである。

「チッ……何でてめえと連れ立って歩かなきゃならねえんだ」

「俺とお前の行き先が同じだからだ。大広間へ行くならば、この道を通る他に無い。嫌ならお前が時間をずらせばいい」

「何で俺がてめえの都合に合わせて行動を決めなきゃならねえんだよ!!」

「だったら文句を垂れるな」

「大体スタークの野郎、普段第1十刃(プリメーラ)の称号なんざ興味もねえ面してたクセに。何で急に持ち出して召集命令出しやがったんだ」

「知るか。大方お前のように、呼び掛けても言う事を聞かなさそうな連中を従わせる為だろう。そういう入れ知恵をしそうな奴に、一人心当たりがある」

「…………アメミトか……何企んでるかは知らねえが、余計な事しやがるぜ」

 グリムジョーは舌打ちした。そういうところを把握してるからだろ、とウルキオラは半目で溜息を吐く。

「黒崎一護に敗れ、ノイトラに死体蹴りで殺されかけた癖に、態度だけは一人前だな」

「何だとてめえ!!大体黒崎に負けたのはてめえもだろうが!!つーか、前から気になってたが何だその貧相なナリは!!」

「貧相言うな!!仕方が無いだろう。本来なら死んでたところをミラ・ローズと黒崎一護に生かされたんだ!この程度の弱体化で済んでるだけ御の字だろう!!」

「弱ってんなら弱ってるなりに、しおらしくしておけ!!」

「お前にだけは死んでも弱味など見せるか!!」

 喧々轟々。喧嘩未満のやり取りを交わしているうちに、二人は大広間の入口に到着する。大扉が開いて、先にウルキオラがグリムジョーを追い抜いて、大股で大広間に足を踏み入れた。グリムジョーは先行したウルキオラにカチンと来たが、何だかんだで決定的に霊圧も肉体も弱体化した今のウルキオラを攻撃する気にもなれず、不機嫌さを撒き散らしながら後に続くに留める。今のウルキオラを叩きのめしたところで、強くなれるわけでも、強さの証明になるわけでも無い事は、グリムジョーも理解していた。

 果たして既に大広間には、先の死神との戦いを生き延びた破面(アランカル)達が、ほぼ揃っていた。

 死神、護廷十三隊との戦いで、十刃(エスパーダ)はその半数以上が戦死し、その従属官(フラシオン)もほぼ死んだ。それ以外の数字持ち(ヌメロス)は、虚圏(ウェコムンド)に乗り込んだ死神の内、回道による治療を行える者によって、辛うじて一命を取り留めたものを含めて、グリムジョーの想定よりも生き残っていた。死神達の動きによっては全滅もあり得たが、どうやら向こうは如何なる理由かは知らないが、こちらを殲滅するつもりは端から無かったらしい。

「あっ!ウルキオラ様ー!こっちっスー!」

 幼い子供の声が、ウルキオラを呼びつける。何だ、と二人が振り向くと、そこには小さな子供の集団がいた。ピカロ達と、ネルである。

 あいつらも呼ばれたのか、とウルキオラは素直にネル達の方へ歩み寄って行った。何でピカロがいるんだよ、とグリムジョーは辟易した顔をする。

「ミラ・ローズがねー!虚夜宮(ラスノーチェス)に住んでいいよって言ってくれたのー!」

「空いた宮がたくさんできたからってー!」

「あたし達の好きなようにリフォームしていいんだって!」

 ウルキオラを取り囲んだピカロ達が次々に話しかける。ウルキオラはそれら全てに、そうか、と律儀に相槌を返した。

「ネルたちも、第三の宮にお部屋作ってくれることになったっス!お姉ちゃんたちと一緒っス!」

「成る程。それでそっちのシロアリとデカブツは、申し訳なさそうに縮こまってるのか」

 スイ、とウルキオラの目がネルの後ろで気配を押し殺している(ホロウ)……のフリをした破面(アランカル)二人に向けられる。破面(アランカル)二人、ペッシェとドンドチャッカは心臓を跳ね上げて、短く濁った高音の悲鳴を上げた。

「い、いや〜……申し訳ないというか何というか……」

「オラ達が十刃(エスパーダ)と一つ屋根の下で暮らすなんて畏れ多いというか……でヤンス」

 歯切れの悪い二人に、ウルキオラは少し側に寄って出来るだけ小声で耳打ちする。

「……お前達は先代第3十刃(トレス)、ネリエルの従属官(フラシオン)だろう。何を気後れする必要がある」

「むしろ、だからこそ複雑なのだよ。私達は既に死人も同然。ネル様もあのか弱い御姿の間は、御自身が何者であったかを存じ上げない」

「そんなオラ達が、ミラ・ローズ様のご厚意とはいえ、再び虚夜宮(ラスノーチェス)に住んでいいのか……でヤンス」

「気にし過ぎだろ。ネルを見ろ。大好きな姉とお前らと一緒に暮らせると思って、ピカロ共々はしゃぎ倒してるぞ」

「……ウルキオラ様の口から、そんな言葉が出てくるとは思わなかったでヤンス」

虚閃(セロ)るぞ」

 ムスッとした顔をするウルキオラを見て、おお、と感嘆するペッシェとドンドチャッカ。それを遠巻きに眺めていたグリムジョーは、アイツ弱くなっただけに留まらず、随分つまんねえ奴になったな、と吐き捨てた。

 不意に、周囲が俄かに騒ついた。ウルキオラもグリムジョーも、ほぼ同時に周囲と同じ方向、則ち玉座の方を向く。

 かつては、藍染がそこに座していた。それより以前は、もしかしたらバラガンが使っていたかもしれない。そんな、支配者の象徴ともいえるその席に、新たに腰を下ろしていたのは。

「……は?」

 グリムジョーの喉から、呆けた声が漏れ出る。

 そこには、足を交差するように重ね、腕を組み、背凭れに頭までつけて踏ん反り返る様に座る、ハリベルの姿があった。

 その一歩分後ろには、ハリベルの従属官(フラシオン)四人が二人ずつ左右に分かれ、召使の様に控えている。そこから少し横に離れた場所にはスタークと、()()()()()()()()()()()()が佇んでいた。

「……聴け。生き延びた破面(アランカル)達」

 徐に、ハリベルは組んでいた腕を解き、右手を挙げる。

「古き支配者は、死神に敗れもう戻らない。統率する者無くては、虚圏(ウェコムンド)は築かれた秩序を失うだろう。故に、私は此処に、お前達に宣言する」

 ハリベルが立ち上がった。一歩前に出て、白い死覇装の前面を開く。

 グリムジョーは目を見開いた。開かれた死覇装の下には、十刃(エスパーダ)の序列を表す数字が刻まれていたはずだった。だが、ハリベルの右胸の内側には、ある筈の数字は無く。代わりに、()()()()()()()()()()()()()()()が上書きされていた。

 三日月は、虚圏(ウェコムンド)の空に浮かぶ象徴である。それを囲う正五角形、異名を晴明桔梗とされるそれは五行の調和を表し、ベツレヘムの星にして黄金比を内包する"完全性"の象徴である。

「私が王だ」

 短く告げられたのは、空白の王位への即位宣言であった。それを聴き受けたハリベルの従属官(フラシオン)の四人と、スタークとリリネットは、片膝をつき首を垂れる。

 騒めきが大きくなる。ふざけるな、と誰かががなり立てた。それを皮切りにして、次々と異議を唱える声が上がる。理由は様々だが、共通しているのはハリベルの即位を認めない、という点だろう。

 そして当然、グリムジョーもまた、ハリベルの即位に対する反感を口に出した。

「てめえが王だと?ナメたコト抜かしてんじゃねえぞ!」

 グリムジョーは斬魄刀を抜き放つ。

「てめえが王を名乗ろうってんなら、先ずは俺と殺り合えよ!!その度胸も無え腰抜けに、虚圏(ウェコムンド)の王なんてもんが務まるかよ!!」

 斬魄刀の鋒をハリベルに向けて、グリムジョーは吼え立てた。そしてすぐに、左手の爪を刀身に乗せると、布を裂くように引っ掻く。

「軋れ、豹王(パンテラ)!!!」

 刀剣解放(レスレクシオン)。グリムジョーはその姿を、しなやかな身体を持つ肉食獣へと変貌させた。黒く鋭い爪を広げ、牙を剥く。

「口だけの腑抜けども!てめえらも納得がいかねえってんなら、力と行動で示せ!!俺はやるぜ。あの生意気なクソ女をぶち殺して、座り心地の悪そうな椅子をぶん奪る!!」

 グリムジョーに煽られた破面(アランカル)達は、弾かれた様にまた、斬魄刀を抜いた。殺意と霊圧が大広間を満たし、ネルは怯えてペッシェにしがみつく。

 グリムジョーが先陣を切った。破面(アランカル)達がそれに続いて、一斉にハリベルに飛び掛かる。

 ハリベルはただ、悠然と佇んでいた。臆する事無く、それぞれに得物を構えて向かってくる破面達を見据えている。その碧玉(グリーンジャスパー)の眼は、宝石の様に燦光していた。

「俺が、王だ!!!」

 グリムジョーの鋭い爪に豹王の爪(デスガロン)が被さった。後続を置き去りにして、我先にとグリムジョーがハリベルの頭上に飛び上がる。豹王の爪(デスガロン)を振り上げ、グリムジョーは静かに立ち尽くすハリベルに向けて、全力で振り下ろした。

 

 

 藍染惣右介との戦いの決着から、一月程経った頃。黒崎一護は自宅のベッドで目を覚ました。

 目覚めてまず最初に、一護の視界に映ったのは共に戦った四人の顔。その一人、井上織姫が嬉しそうに一護の名を呼んだ。起き上がった一護は、ここが自分の家の、自分の部屋である事を声に出して確認する。

 黒い着物、死覇装を着た小柄な女、朽木ルキアは、一護の確認に肯定を返し、大きな声を出して恥ずかしそうにする織姫の頭を、宥める様にして撫でた。

「貴様はあれから、一月近くも眠っておったのだ……」

「……一月……」

 一護は唖然とする。そんなに長く寝ていたのかと。そしてすぐにハッとして、自分の身体を……正確には、身体の中の霊力の有無を確かめた。

 ルキア達は沈痛な面持ちで、その様子を伺う。そして、ルキアが切り出した。

「浦原から聞いた。貴様は……死神の力を失ったそうだな」

「……そうか。聞いたのか。どうもそうらしいぜ。死神代行も返上しねえとな」

 一護は悟った様に目を伏せる。元より、最後の月牙天衝を使うと決めた時から、こうなる事は覚悟の上だった。

「……消失の第一段階では、激痛を伴い、意識を失い、断界の中で肉体に起きた時間経過が逆流する」

 ルキアが説いたのは、一護の身に起きた事象について。これらは、浦原から教えられた事だった。髪が短くなっているのも、誰かが切ったわけでは無く、時間経過の逆流によるものだと。

「その時点で死神の力を失い、第二段階で残った霊圧が安定して目を覚まし———程無く、残る全ての霊力も消えてゆく———」

「……そうか。やっぱりな」

 一護は、あっさりと受け入れた。それに、むしろルキア達の方が面食らう。

 驚かないのか、とルキアが問えば、一護はそんな気はしていた、と返した。そして、ベッドから降りようと腰掛ける姿勢になると、一瞬だけ思案する。

「……外に出ていいか?」

 そう言って、一護は上着を羽織って家を出た。

 空座町の空は、あんな事があったにも関わらずいつも通り青い。町並みは、慣れ親しんだ変わらぬ景色。唯一違う点があるとすれば、霊の気配を感じない事か。

 一護は後ろを振り返る。霊体であるルキアの気配も、徐々に薄れていっていた。

 そうして実感する。一護の中の力は、消えて失くなるのだと。

「———お別れだ、一護」

「……そうみてえだな」

「何だ。そう淋しそうな顔をするな。貴様に私が見えなくなっても、私からは貴様が見えているのだぞ」

「何だそれ。全然嬉しくねーよ。あと淋しそうなカオもしてねえ!」

 お互いに悪態を叩き合って、手の届く距離で向き合う。一護の目には、少しずつルキアの姿の輪郭が消えていく様に見えていた。

「……みんなに、よろしく伝えといてくれ」

「……ああ」

虚圏(ウェコムンド)にいる奴らにも、機会があれば、元気でやってるって言っといてくれ」

「……ああ」

 ルキアの姿が、解けていく。

「———じゃあな、ルキア。ありがとう」

 遂に一護の視界から、ルキアの姿は消え失せた。

 

 

 黒崎一護の霊力が全て消え失せたその日、尸魂界(ソウルソサエティ)は瀞霊廷のとある一角が、いつに無く騒がしくなっていた。一番隊隊舎である。

 普段隊首会に使われる広間には、既に護廷十三隊の各隊長が揃っていた。ただし、通常左右二列に分かれて並んでいる隊長達は、総隊長である山本元柳斎も含め、向かって左側に一列に並んでいた。広間の奥には帳台が設置され、向き合って立っていたのは何故か、流魂街に居を構える志波空鶴。その隣には、何某かの書類の束を抱える夜一の姿があった。

「なんでおれがこんな事……」

「そう言うな。此度の調印式に於いては、双方との中立性を保てる者でなければ務まるものも務まらんじゃろ。まあ……お主というか、志波家も元は五代貴族として名を連ねていた手前、完全な中立とは、流石にいかんじゃろうがな」

「だけどな……」

 空鶴は不服そうに帳台に置かれた紙に目を落とす。そこに書かれた内容にザッと目を通し、うんざりした様な溜息を吐いた。

「護廷十三隊と虚圏(ウェコムンド)&()q()u()o()t();()()()()()&()q()u()o()t();()()調()()()なんか、よく四十六室が許したもんだぜ」

 空鶴が右手の人差し指で、紙———協定公文書の一行目をなぞる。文章の上には、一番隊隊花の菊と、正五角形に囲われた三日月が描かれていた。

 広間の出入口の扉が開く。一番隊三席の沖牙源志郎が、折り目正しく一礼した。

虚圏(ウェコムンド)女王、ティア・ハリベル、及び配下五名。到着しました」

「通せ」

 源志郎の報告を受けた元柳斎は、一言命令する。

 足を踏み入れたのは、割れた仮面を着けた白装束の一団。先頭を歩くのは褐色の肌に金髪の、顔の下半分を襟を立てて隠した女破面(アランカル)。ハリベルである。

 その後に続くのは、プラチナブロンドを高い位置で結えた燦光する翠玉(エメラルド)の眼の女破面(アランカル)アメミトに、気怠げな黒髪の破面(アランカル)の男スタークと片角の折れたヘルメット型の仮面を被った少女破面(アランカル)リリネット。頭の左側をすっぽり覆う仮面の少年破面(アランカル)のウルキオラに、胸に大きな裂傷の痕を残す空色の髪の破面(アランカル)グリムジョー。この調印式に於いて、ハリベルが連れてきたのは、アメミトを除けば全員が十刃(エスパーダ)の生き残り達だった。

 六番隊隊長の朽木白哉が、アメミトの姿を見て自身の首に手を添える。井上織姫がアメミトとウルキオラによって拐かされるその直前に、赤子の手を捻るかの様に捩じ伏せられた、苦い記憶が蘇ったからだ。喉を押し潰されたあの苦しみが、アメミトの燦光する翠玉(エメラルド)と、揺れるプラチナブロンドをトリガーとしてフラッシュバックする。白哉の形のいい眉が僅かに吊り上がり、眉間には皺が寄った。

 一方、破面(アランカル)側ではリリネットが、十三番隊隊長の浮竹十四郎を見て、ゲェ、と顔を顰めた。十四郎が、自分達が撃った虚閃(セロ)を撃ち返したのを覚えているからだ。

 スンスンの励ましを受け、虚圏(ウェコムンド)へ帰還してからスタークは、自分の中に残っているリリネットの欠片を丁寧に拾い集め、かつての自分がした様に再び別の個体としてリリネットを復活させた。リリネットの記憶は幸か不幸か、仮面の軍勢(ヴァイザード)のラヴとローズ相手に狼の弾頭を顕現した以降のものを失くしていた。それを知ったスタークは、物悲しさと同時に、死の瞬間を覚えていなくて良かったと安堵した。

 スタークは八番隊隊長の京楽春水を一瞥すると、リリネットの頭を軽く小突く。小突かれたリリネットは、不満そうに唇を尖らせた。

「待たせたな」

 ハリベルが元柳斎の正面に立つ。その隣にはアメミトが並び、スタークとリリネット、ウルキオラ、グリムジョーと続いた。

「それでは、これより護廷十三隊、並びに虚圏(ウェコムンド)の和平協定締結の為、調印式を執り行う。立会人はこのおれ、志波空鶴が務める」

 空鶴が式の執行を宣言した。一通りの内容を読み上げ、双方に認識の齟齬が無いかを確認し、元柳斎とハリベルは一歩、帳台へと進む。

 最初に、元柳斎が公文書に細い小筆で署名した。次いでハリベルが、羽ペンでその横に署名する。空鶴は記された名前に間違いが無いかを確かめて、墜天の崩れ渦潮をコンパクトな円形に整えた判を押した。

 次に、護廷十三隊の各隊長と、ハリベルが連れてきた破面(アランカル)に署名欄だけが書かれた紙が回される。これにそれぞれ署名して、空鶴へと返された。

「では、護廷十三隊総隊長、山本元柳斎重国。及び虚圏(ウェコムンド)女王、ティア・ハリベル。宣誓を」

 空鶴が進行する。元柳斎とハリベルはそれぞれ斬魄刀を抜き、鋒を互いへ向け、刃を交差させた。

「尸魂界の秩序と安寧を」

虚圏(ウェコムンド)の平穏と安息を」

「「三界の均衡を護らんが為、此処に告ぐ。我らは久遠の果てまで、互いを尊重し、敬愛し、並び立つ同胞たらん事を」」

 剣を掲げる。二つの白刃が、鈍く光り輝いた。




原作破面編範囲これにて完!
次回からは短い話を二、三挟んでウルキオラの章です


オマケ:破面大百科
調印式小話

グリムジョー:チッ……何で俺がこんな事……
ウルキオラ:威勢良くハリベルに挑んで、ものの見事にボロ負けしたからだろ。そら、名前とっとと書け(署名回し
グリムジョー:うるせえな……大体てめえはあいつが王を名乗るの納得して……字ぃきっっったな!?何だこれ!?甲骨文字!?
ウルキオラ:何だと貴様!!俺の字のどこが汚いと言うんだ!!
グリムジョー:どこも何も全体的にぐちゃぐちゃで読み辛えよ!?リリネットの方が綺麗まであるんじゃねえか!?
ウルキオラ:黙れ!手が小さくなってペンが持ち辛いんだ!
グリムジョー:そういう問題のレベルじゃねえだろこれ!!

スターク:(ウルキオラ……字、汚いんだ……意外だな……)
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