犴と鮫   作:鷲谷ヒメリ

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人が求めるのは
矮小な正しさか
絢爛な偽りか


REAL OR FAKE

 鴉の鳴き声が響く。夕焼けの中にその黒い影が飲み込まれる。

 朱色の鳥居の上に立つ黒い着物の小柄な女死神は、セーラー服を着た少女を庇い立てるように此方を睨む、病的に白い肌の少年を見下ろした。

「……霊骸。成る程。その言葉を知っているということは……貴様、訊いているな」

 死神、朽木ルキアを模した改造魂魄(モッドソウル)は夕焼けの赤に染まる白い斬魄刀の鋒を、少年、ウルキオラに向ける。

「九条望実を引き渡せ。そうすれば、貴様に危害を加えることはない」

「……断る、と返したら?」

「残念だが、斬るしかないな。出来ることなら、破面(アランカル)を斬って余計な問題は起こしたくはないのだが……」

「そうか。ならば、それこそ残念だったな」

 ウルキオラは無理矢理口角を上げた。挑発と、緊張を誤魔化そうとして。

あの馬鹿垂れ(ハリベル)は、既に事の次第を把握済みだ。因幡影狼佐に伝えておけ。貴様は既に、三界でも特に敵に回してはいけない女を二人、敵に回しているとな。尤も……」

 ウルキオラのクロムトルマリンが強い光を一瞬煌めかせる。夕日は殆ど沈み、空は夜の帷を徐々に広げ、星がその存在を主張し始めた。

「お前が生きて戻れれば、の話になるがな」

 ウルキオラは、殆ど鍛えてこなかった自身の表情筋に命令する。笑え、と。

 霊骸のルキアは小さく、そうか、と呟いて木の葉が枝から落ちるような静かさで、鳥居から飛び降りた。斬魄刀———袖白雪の柄頭から伸びる真っ白な帯が、新雪のように揺れる。

「コン!」

 足を大股に開いたウルキオラが、小脇に抱えたコンを呼んだ。

「うおっ!?な、何だよ?」

「お前、戦闘能力を持たされている以外は、普通の義魂丸(ソウルキャンディ)と同じと考えても構わないな?」

 霊骸のルキアを見据えたまま、ウルキオラが訊ねる。コンは若干しどろもどろになりつつ、そうだけど、と頷いた。

「けど、それがどうし……ホゴォッ!?」

 ウルキオラの質問に怪訝そうな顔をしたコンは、次の瞬間叫喚する。ウルキオラの手が、喉奥まで突っ込まれたからだ。

 ぬいぐるみの中を弄って、ウルキオラが引っ張り出したのはコンの本体である義魂丸(ソウルキャンディ)。ウルキオラはそれを迷い無く飲み込んだ。

 義骸を脱ぎ捨て、霊体の———破面(アランカル)として本来の姿になったウルキオラが飛び出す。

 緑色のフードのついた、薄く緑がかった白のパーカー。同じ色のスポーティーなサルエルパンツ。両腕には深緑のラインが入ったアームカバーを着け、黒いインナーシャツの襟からは(ホロウ)の孔が僅かに顔を覗かせている。頭の左半分を覆うのは、破面(アランカル)の証である割れた仮面。

 鞘の先端が地面に擦れそうになりながら、ウルキオラは自身の斬魄刀の柄に手をかけた。

 ウルキオラが一歩大股で、前に踏み込む。刹那、二つの白刃が激突した。

「コン!!九条望実を連れて、浦原商店に戻れ!!」

 ギリ、とせめぎ合いながら、ウルキオラはコンに叫ぶ。二つの刀身の接触点から、ウルキオラの斬魄刀が凍りつき始めた。

 ウルキオラが脱ぎ捨てた義骸に入ったコンは、後ろに転びかけたのを望実に受け止められており、ウルキオラの背中と霊骸のルキアを交互に見て、意を決して望実の手を取って走り出す。

「……っ!待て!」

「させると思うな」

 霊骸のルキアが、横を通り過ぎて逃げ出すコンと望実を阻もうと半身で反転しようとした。しかし、ウルキオラは霊骸のルキアの斬魄刀を弾き、二人の後を追わせまいと響転で割り込む。

 コンと望実が鳥居を潜り、境内から走り去っていった。それを気配で確かめたウルキオラは、大きく息を吐き出す。

 かつて黒崎一護と戦った時と、似て異なる台詞を言い放つ為に。

「あいつらを捕まえたいなら、俺を倒してからにする事だ!」

 左の人差し指を突きつけて、ウルキオラは虚弾(バラ)を放った。

 

 

 すっかり暗くなり、街灯が着き始めた住宅街を、少年と少女———ウルキオラの義骸に代わりに入ったコンと、望実が走る。

 二人が目指すのは浦原商店。ある意味ではこの空座町で最も信用が無い浦原喜助が居て、しかしそれ故に最も安全な場所。

 望実は度々振り返った。一人置いてきてしまったウルキオラの身を案じてだ。

 望実とて、霊骸のルキアを足止めする役割を誰かがやらなければならず、それをウルキオラが引き受けたのだという事は理解はしている。それでも、不安に駆られずにはいられない。

「心配すんなって。アイツ、あれでも十刃(エスパーダ)だぜ。引き際くらい見極められるだろ。オレたちが逃げ切ったってわかったら、すぐにアイツもちゃんと退くって」

 ウルキオラと同じ顔で、しかしどことなく情けないような雰囲気を纏うコンは、望実を安心させようと声かけた。でも、と望実が俄かにゴネ始めた、その時。

 コンが突然足を止めた。その一瞬後、目の前に何かが落とされ、アスファルトが破壊される。

 コンが砕けて飛び散ったアスファルトの欠片から庇うように、身体を翻して望実を抱きしめた。背中にそこそこの大きさの破片がぶつかって、コンは痛え、と呻く。

「コン!大丈夫なの!?」

「な……なんとかな……つーか、今のは……」

 砂煙がもくもくと立ち込める中、その向こう側に見えたシルエットにコンは冷や汗をかいた。いやまさか。しかし、霊骸のルキアがいるのであれば或いは。

「よぉ。待ちかねたぜ」

 ガラ、と瓦礫が崩れる音がして、砂煙が薄くなった先にそれはいた。コンは全身の血の気が引く思いで、望実を庇いながら摺り足で後退りする。

「れ……恋次……の、霊骸……ッ」

 六番隊副隊長、阿散井恋次。その霊骸が不遜に笑っていた。

「何だよ。看破が早いっての。せっかくどう丸め込むか、何度も頭ん中で予行演習してたのによ」

 ガシャン、と霊骸の恋次は節で分かれた斬魄刀———蛇尾丸を肩に担ぐ。

「……恋次はそもそも、丸め込むなんて頭いい事できねーよ」

「それは流石にバカにされすぎだろ、原種」

 無理矢理引き攣った笑みを浮かべるコンが軽口を叩いた。霊骸の恋次のツッコミが素早く投げつけられ、コンはお世辞にも出来が良いとは言えない頭をフル回転させる。

 どうにか口八丁で時間を稼いで、浦原が気付いて駆けつけるのを待つしか無い。

 幸いにして、コンが入っているウルキオラの義骸は、破面(アランカル)用に調整された特別性の為死神用よりも多少力強く頑丈で、いざとなれば望実を抱えて走ればいい。

「しっかし、よくできてんなあお前。マジで恋次そっくりだぜ。影狼佐の野郎、死神じゃなくて造形作家にでもなった方が良かったんじゃねーの?」

 爪が掌に食い込む程手を握り締めて、コンは自身の内から顔を覗かせる恐怖を捩じ伏せる。そうでもしないと、いつもの調子を維持できなかった。

「そっくり、なんてお粗末な事言うんじゃねえよ。俺は阿散井恋次そのものだ」

「……どういうことだよ」

「わからねえか?ま、所詮は廃棄行きの不良品だったってことだろうが……霊骸の霊圧は原種より強いってことがよ」

 言われて、コンは望実にぬいぐるみ……ウルキオラ曰く、"ムルムルくん2号"を押し付けて身軽になり、意識する。死神や滅却師(クインシー)と比較して鈍い霊圧感知能力を懸命に叩き起こして、目の前の恋次に瓜二つの人形に集中させた。

「……リップサービスじゃねーのかよ……」

 冷や汗が背中を伝う。大雑把な認識ではあるが、確かにコンの知る恋次よりも霊圧が大きい。これが影狼佐の手腕か、と一人納得した。

「護廷十三隊の使命は瀞霊廷、そして尸魂界を守護する事。その為には、より強い者がその責務を負うべきだとは思わねえか?」

「そりゃ強いに越した事はねえだろうがよ。けど、だからって女の子一人を組織ぐるみで追いかけ回すのは違くねえか」

「女の子ねえ……てめえらがどこまで把握してるのかは知らねえけど、それがただの女だと思ってるなら大間違いってやつだ」

「ただの、とは思っちゃいねーけど」

 ジリジリ睨み合いながら、コンは膝を少し曲げた。望実に一歩後ろに下がるよう、手の動きで指図すると、爪先にグッと体重をかける。

 その動きに、霊骸の恋次は目敏く気付いた。

 ほぼ同時に、コンがアスファルトが小さく陥没する程の力で霊骸の恋次目掛けて砲弾のように跳び、霊骸の恋次が蛇尾丸を振りかぶる。

「甘えんだよ!」

 振り抜かれた蛇尾丸が伸び、鞭のように空を斬った。迫る返しのついた刃を上に跳んでギリギリ躱したコンは、そのまま脆い霊子の塊を宙空に作って踏み切り板のように蹴る。空振りした蛇尾丸の刃が、勢い余ってコンクリートブロックの壁を粉砕した。

「これで、どうだ!!」

 身体を縦に回転させ、右足を振り上げる。霊骸の恋次がコンパスの射程圏内に入るタイミングに合わせて、ハンマーのように踵を落とした。

 破面(アランカル)用の義骸と、死神用の義骸とでは、仕様が異なる点がある。破面(アランカル)用の義骸は、何故そのようにしたのかの意図は浦原のみぞ知る事だが、器子の物質である義骸に入った状態でも、霊体に近いフィジカルパフォーマンスを発揮できるように調整されていた。恐らく、仮面の軍勢(ヴァイザード)が使用している義骸と性能としては酷似しているのは、どちらも死神と(ホロウ)の力を両立している為、技術を一部流用しているからだろうか。

 そして更に、コンは対(ホロウ)戦闘用の改造魂魄(モッドソウル)として"脚力"を強化された個体である。その脚技は、並の(ホロウ)の仮面程度であれば余裕でカチ割れる程強力だ。

 早い話が、改造魂魄(モッドソウル)としての最大スペックを発揮しうるだけの条件が、整っていたのである。

 直撃すれば、倒せはせずとも大きなダメージは与えられるはず。コンは曲がりなりにも対(ホロウ)戦闘用の改造魂魄(モッドソウル)として造られた、忌々しい自分の能力をこの瞬間に限っては何よりも信じた。

 コンの踵が霊骸の恋次に迫る、その瞬き一つ分寸前。霊骸の恋次は左手を自分の頭とコンの踵の間に割り込ませ、掌で受け止めた。

「なっ……!」

「軽いな。お前、本当に戦闘用の改造魂魄(モッドソウル)か?」

 受け止めたコンの踵を掴み、霊骸の恋次はコンを横に投げ飛ばす。コンクリートブロックの壁に叩きつけられたコンは、倒れ込んで打ちつけた背中の痛みに悶絶した。

「コン!」

「……ったく、あんま手間かけさせんなよ。おら、とっとと来てもらうぞ。九条望実」

「……ッ」

 霊骸の恋次が一歩近付くのと同時に、望実は"ムルムルくん2号"を抱き締めて一歩後退る。その繰り返しで望実は緊張で呼吸が浅くなり、喉がヒリヒリとした痛みを感じる程に渇いた。

 足の開きの差で、霊骸の恋次と望実の間の距離がじわじわと縮んでいく。あと一歩二歩で、霊骸の恋次の手が届くという、その時だった。

 

「俺と同じ顔と声で、好き勝手してんじゃねーよ偽物」

 

 そんな声と同時に降ってきたのは、蛇尾丸の伸びる刀身の鋒。霊骸の恋次を狙って放たれたその一撃を、霊骸の恋次は咄嗟に後ろに飛び退がって躱した。

 痛みに倒れ込んだまま、コンは降ってきた蛇尾丸の刃の出所を目で辿る。そこにいたのは。

「よお。お前、コンか?珍しい格好してっから、一瞬わからなかったぜ」

 コンがよく知る方の———本物の阿散井恋次が、宙空に立っていた。

「てめえ……どうやって脱出したんだ。霊圧を封じる枷を着けた状態で、断界に閉じ込められていたはずだろ」

 霊骸の恋次が、恋次を見上げて苦々しい顔をする。恋次は自分の霊骸を見下ろし、愉快そうに鼻で笑った。

「そんな素直に答えてやるとでも思ったのかよ」

 霊子の足場から降りて、恋次は伸び切った蛇尾丸を縮める。着地したのは霊骸の恋次と対面する望実の正面では無く、倒れ伏すコンの側。

「立てるか?」

 左手で蛇尾丸を肩に担ぎ、片膝をついて右手をコンに差し伸べる。痛みで眉間に皺を寄せたコンは、少し覚束ない動きで右手を伸ばし、恋次の手を握り返した。

 ぐい、と恋次は立ち上がってコンの腕を引っ張り、やや強引に立ち上がらせる。横目で霊骸の自分を睨むと、担いだ蛇尾丸を構えて臨戦態勢に入った。

「護廷十三隊の死神として、仕事は熟すべきってのはわかっているけどな……それはそれ、これはこれ。仲間に手ェ出されて、黙ってられる程オトナじゃねえんだわ」

「仲間ねえ……手違いで延命しただけの廃棄予定の粗悪品と、藍染の裏切りと暴挙に手も足も出ず現世の死神代行に全てを背負わせた弱いお前ら。同族意識でもあるのか?」

「テメエ……」

 踏み込みかけて、恋次はその寸前で自分を制す。ここで戦うのは、あまり良くない。

「……(うえ)に行こうぜ。ここで戦えば、何も知らねえ一般人に迷惑だ」

「俺は別にどちらでもいいぜ。どこで戦おうが、てめえが俺に勝てねえ事に変わりねえからな」

「減らず口叩きやがる」

 ダンッ、と二人の恋次が跳ぶ。反射的にコンは、二人の姿を追って顔を上に向けた。

 霊子の足場を作り、宙空に立つ。獲物は同じ。戦術も戦法も同じ。違うのは唯一、霊圧の大きさのみ。

「まどろっこしいのは好きじゃねえからな。手加減はしないぜ」

「奇遇だな。俺もてめえ相手に手を抜く気はサラサラねえよ」

 霊圧が膨れ上がった。地上にいるコンと望実は、その重さに堪らず膝をつく。

「「卍、解!!!」」

 霊圧が二つ、爆発したかのように解き放たれた。空の雲は二人の頭上だけ円を描くように吹き飛ばされ、電柱を繋ぐ電線が弦楽器の弦を弾いたように揺れる。

 狒狒王蛇尾丸。巨大な蛇の骸骨のような頭と、無数の節に分かれた胴体を持つ恋次の卍解だ。

 先に動いたのは恋次。狒狒王蛇尾丸の頭蓋を霊骸の自分に突撃させ、その対応を観察するつもりだった。霊骸の恋次は自分を囲むように狒々王蛇尾丸に蟠を巻かせ、恋次の狒狒王蛇尾丸の突撃を防御する。

 手堅いな。まあ一発目はこんなものか。と恋次は冷静に分析する。今のは精々牽制程度のものだ。これをまともに受けてくれる程、甘い相手ではないのは想定内。

 狒狒王蛇尾丸を引く。次の一手を撃つべく恋次は構え、それを蟠を巻く狒狒王蛇尾丸の隙間から目視した霊骸の恋次は、蟠を解いて返しの一撃を放った。

「見てから反応してんのかよ!鈍臭えな!」

 鞭のように迫る霊骸の恋次の一撃を、恋次は大蛇の胴体で受け止める。そこで、目を見張った。

 ———重てえ……!!

 霊骸は原種よりも強く作られている。それは浦原から伝言を受けて情報として把握していた。だが、これは想像以上に———ッ!

「なんだ。さっきまでの威勢はどうしたよ」

「うる……っせえな!!」

 重く鈍い音が大きく響き、狒狒王蛇尾丸同士が互いを弾き飛ばしあった。

 恋次が反動で大きく後ろに退がる。そこに霊骸の恋次が瞬歩で上に跳び、狒狒王蛇尾丸を振り上げた。

「潰れちまえ!!」

 ゴオッ、と重い音と共に、狒狒王蛇尾丸が振り下ろされる。恋次は自分の狒狒王蛇尾丸を振り上げてそれを迎え撃つが、力負けして諸共に叩き落とされた。辛うじて、狒狒王蛇尾丸の大蛇の顎を道路に突き刺し、そちら側に引っ張る事で民家への衝突を回避する。

「恋次!!」

 コンと望実が、アスファルトに叩きつけられクレーターを作った恋次に駆け寄った。

「大丈夫かよ!?クソ……足場悪いな!」

「これくらい大した事ねえよ。つーか、中身がコンってわかってても違和感すげえな。あの鉄面皮ヤローの顔で心配されんの」

「あっ、なんか意外と大丈夫そう」

「思ったより丈夫なのね」

 よっこらせ、と恋次は手で勢いをつけて立ち上がる。上にいる霊骸の自分を一瞥して、一瞬思考を巡らせると、今度はコンに目を向けた。

「おい、コン。少し耳貸せ」

「え?何どうし……いででででっ」

 呼ばれたコンが動くより早く、恋次は左手でコンの耳を自分の方に引っ張る。コンは怪我したら後でウルキオラに文句言われるだろ、と抗議しようとしたが、恋次に耳打ちされた内容に目を見張り、言葉を飲み込んで頷いた。

 仕切り直しだ、と恋次が跳ぶ。狒狒王蛇尾丸が蛇行して霊骸の恋次に向かって突き進み、牙を向いた。霊骸の恋次は馬鹿の一つ覚えが、と吐き捨てて蟠を巻いて防御する。

「同じ卍解!同じ技!同じ戦い方!それならより霊圧の強い方が勝つ!!原種如きに、俺は倒せねえ!!」

 霊骸の恋次の狒狒王蛇尾丸が、恋次の狒狒王蛇尾丸の蛇行する猛進を跳ね飛ばした。霊骸の恋次の狒狒王蛇尾丸の顎が口を開け、霊圧を凝縮する。

「狒骨大砲!!!」

 霊骸の恋次の狒狒王蛇尾丸が、霊圧の光線———狒骨大砲を発射する、その直前。

「うおぉおおおおお!!!」

 真下から、何者かが大蛇の顎を蹴り上げた。

 発射寸前の狒骨大砲が、強引に口を閉ざされた事で暴発する。顎が砕け、煤煙を吐き出して狒狒王蛇尾丸がダラリと垂れ下がった。

「な……っ!?」

 霊骸の恋次は目を見開いて動揺する。一体誰が、と周囲を探して見つけたのは、全力のジャンプで宙の戦場に飛び込んできた、コン。

 繰り返すが、コンは"脚力"を強化された対(ホロウ)戦闘用の改造魂魄(モッドソウル)である。

「どうよ。取るに足らねえと見くびってた奴に、一杯食わされる気分は」

 ズシ、と空気が重さを増した。恋次の狒狒王蛇尾丸の口が開き、霊圧が高密度で凝縮される。

「しまっ……!」

 コンに気を取られすぎた。霊骸の恋次が体勢を立て直すよりも早く、恋次が動く。

「ありったけぶち込んでやる!!狒骨……大砲ォオオ!!!」

 霊骸の恋次が放とうとしたものよりもずっと大きな霊圧の光球か、人一人を軽く飲み込む霊圧の光線が放たれた。

 

 

 一方、神社で霊骸のルキアの足止めをしていたウルキオラは。

「……こんなものか」

 所々が凍りついた境内で、霊骸のルキアは雪のように白い斬魄刀———袖白雪を弄ぶように手首を返す。

 その視線の先には、境内に植えられた木の幹に叩きつけれ、浅い息を吐くウルキオラの姿があった。

「ハァ……ハァ……クソ……ッ」

 ウルキオラは斬魄刀を砂利に突き立てて、杖の代わりにしてどうにか立ち上がる。左脚は凍りつき、冷たさのあまり感覚が遠のいていた。右肩は叩きつけられた衝撃で、恐らく感覚的に考えると脱臼しているらしい。

「貴様は第4十刃(クアトロ・エスパーダ)だそうだが……4番目でこの程度か。十刃(エスパーダ)の強さもたかが知れたものらしい。この様子では、第9十刃(ヌベーノ・エスパーダ)と相打ちになったという私の原種も、大凡護廷十三隊の役目を負うには不足のようだな」

 霊骸のルキアの目が淡く青色の光を灯す。ウルキオラは眉間に皺を寄せ、クロムトルマリンに剣呑な色を宿して霊骸のルキアを睨んだ。

「俺の力がこの程度などと、見くびられては困る。今の俺は訳あって、霊力を著しく喪失した状態だ。元の姿なら、お前を殺す事など造作もない事……」

「愚かだな。お前の本来の力など知らぬが、今のお前の力が私よりも弱く、そしてこうして私に屈しつつある現実が全てではないのか?」

「……この……ッ」

 ふらつきながら、ウルキオラは斬魄刀を構える。屈辱だった。破面(アランカル)である自分が、本物よりも強く作られているとはいえ、死神のパチモノ如きに遅れを取っているという事実が。

 ウルキオラは響転(ソニード)で、霊骸のルキアの視界から消えた。霊圧感知をすり抜けて、霊骸のルキアの背後に回り、背中から心臓を狙って斬魄刀を刺突の形に構える。

「舐めるなよ、死神!!」

 霊骸のルキアの身体を貫かんと、刺突が繰り出された。しかし。

「甘いな」

 ガキンッ、と音がして、ウルキオラの剣が阻まれる。ウルキオラと霊骸のルキアの間の石畳から、氷柱が伸びてウルキオラの剣を止めていた。

「しまっ……」

「終わりだ」

 霊骸のルキアの冷気を伴う一閃が、ウルキオラを斬り裂いた。




本物と霊骸の書き分けむずすぎワロタ
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