人形を美しき歌姫と信じたまま
夢の中で想い焦がれる
それを誰が笑えよう
人は誰しも他者を正しい姿で捉えられず
限りなく現実に近い幻想を通してしか
他者を視る事は叶わないのだ
夢には、二種類ある。見ている間はそれが夢であると自覚できないものと、今自分が夢を見ているのだと自覚した状態で見る、所謂明晰夢と呼ばれるものである。
少女は、それが明晰夢だと自覚していた。ただ、普通の明晰夢とは少し、様子が違うことも理解していた。それが夢だと自覚して尚、自分の身体を自分の意思で動かす事が許されなかったからだ。
学校のトイレだった。高校のでは無い。中学の女子トイレだ。少女は複数人の同級生に囲まれていて、彼女達の顔を見上げているのは、尻餅をついているからだと認識できていた。
(あ、これ……
中学の頃、少女はイジメに遭っていた。理由はあまり覚えていない。確か自分には、どうしようもない理由だったからだ。
少女を囲む同級生達の顔は、靄がかかったようにハッキリしない。少女が彼女達の顔を、あまり鮮明には覚えていないからだった。少女がそれ以上にちゃんと覚えていたのは、自分が何をされて、イジメに遭っていることに気付いた友人が、すぐに自分を助けて、守ってくれたことくらい。
髪を引っ張られた。少女はそれを覚えていた。この後、何をされるのかも知っていた。少女の髪を掴む同級生の手には、鋏が握られていた。
少女は抵抗しなかった。しようと思っても、どうせ身体は動かない。きっとこの明晰夢は、夢を見ている自分の干渉を許さないものなのだろうと思った。何せ少女は、ずっと他人事のように目の前の蛮行を見ていたのだから。
ジョキン、と音がして、髪が、兄が褒めてくれた髪が切られた。肩の辺りでザンバラに切られた髪は、見るも無惨だった。
(やだなあ……何で、みんなでお買い物に行こうって約束した日に、こんなひどい夢見るんだろう)
少しだけ悲しくなった少女を置いて、顔のぼやけた同級生達は愉快そうに笑って女子トイレを出ようとする。少女の身体は、少女自身の意思を無視して立ち上がった。
そして少女が疑問の声を口にするよりも先に、
少女の髪を切った同級生の首が飛んだ。周囲から悲鳴が上がる。同級生達のぼやけた顔に、恐怖に染まった目だけが、メガネのピントが合ったようにくっきりと映った。
一人、胴と下半身が泣き別れた。
一人、右腕が肩から切断された。
一人、また一人、少女の意に反して惨殺されていく。少女の手が、血の赤で染まっていく。少女の意識は、それを見ていることしか出来ない。
(何……?何が、どうなって……ッ!?)
少女の視界に、手洗い場の鏡が映る。少女はそこに映った自らの姿に戦いた。
そこには、白い髪と白い肌。白い死覇装を纏い、黒い結膜と金の虹彩を持つ、まるで
「———……ッ、きゃあぁあああ!!!」
悲鳴を上げ、少女———織姫は飛び起きた。
階段を駆け上がった直後のように、心臓が激しく鳴っている。まだ冬と春の境なのに、嫌な汗がじっとりと背中を湿らせている。
「…………何、今の……?」
額に汗で張り付いた前髪を除けて、織姫は深呼吸をした。数回繰り返すうちに、心臓は平時と同じ静かで規則的な鼓動を刻み始める。
過去に似たような夢を見た覚えが、無いでも無い。
(けど、昨日は
まさか、と思い至ったのは、普通の人間の女性の意見が欲しいと相談に来たウルキオラの事。
ウルキオラは
「……どうしよう」
昨日約束したばっかりなのに。織姫はうーん、と唸りながら、腕を組んで天井を仰ぎ見る。
目覚ましをセットしたデジタル時計は、午前六時半を表示していた。
午前八時、浦原商店。
現世で対影狼佐抗戦を組む
「ああ、そうだ。望実」
卵焼きを二切れまとめて口に放り込んだウルキオラが、ふと声を上げる。
「今日、五時半くらいに一緒に出かけるぞ。井上織姫と、その友人と。お前の買い物に行くから」
「は?」
正に望実にとって、寝耳に水だった。
「待って?何人が知らないところで勝手に」
「コン。お前も着いてこい。何かあった時、俺の義骸を代わりに使って貰うからな」
「何かある前提なのも哀しいけどなぁ……いいぜ!かわいいお嬢様に囲まれてアハンウフフ……」
夢見がちな表情でうっとりするコンに、望実の冷ややかな視線が突き刺さる。
「……スケベ」
「なぁっ!?」
ガンッ、という音が聞こえそうな程、コンは急転直下でショックを受けた。ウルキオラはそのやり取りをさらりと流し、白菜の漬物を乗せた白ご飯をかき込む。
「言っておくが、何も無ければお前は鞄の中だぞ」
「夢くらい見せてくれよ!!」
「現世で自律的に喋って動き回るぬいぐるみなど、怪異以外の何者でも無いだろ。都市伝説になりたく無かったら、大人しくしていろ。望実にも井上織姫にも迷惑になる」
「ちょっと待って、だからウルキオラ訊いて。いや訊け!」
ウルキオラは驚くほどマイペースだった。これは望実も苦労するな、とルキアと恋次は目線で頷き合う。二人から見て、ウルキオラと望実は一護と織姫に被って見えているらしい。特にルキアは、ウルキオラがおそらく出会って間もないはずの望実を命懸けで守ろうとしている姿を、実際にその目で見ているので尚更。
「大体、私は別に何も要らない!服だって用意して貰ってるし!食事は作って貰えてる!これ以上は身の丈に合わないって!」
「何を言う。女は物要りだと訊いているぞ。主にスンスンから」
「それ一番参考にしちゃいけない人っスね」
居間を仕切る障子の向こうから、浦原がのそのそと出てくる。
「浦原喜助」
「お話は聞いてましたよ。今の所、尸魂界での夜一さんとグリムジョーさんご活躍もあって、影狼佐もその対応で動けないでしょうし、羽を伸ばすくらいなら問題ありませんよ。是非行ってください」
「嘘でしょ」
「話が解る奴で助かる」
浦原とウルキオラはグーサインを送り合った。望実は頭を抱えて呻き声を漏らしながら、箸を置いて机に突っ伏す。その背中を、恋次が慰めるような手つきで撫でた。ルキアはルキアで、本当にこの
午後五時半、空座町駅。
ウルキオラと望実、コンの三人は朝告げられた通りに、織姫からのメールで指定された駅前にて待ち合わせをしていた。
「……参考までに、誰が来るの」
「井上織姫の他には、友人が二人都合がついたらしい。霊感がある、俺達の事情にもある程度理解がある二人だそうだ」
望実の質問に、ウルキオラは伝令神機のメール画面を見ながら答える。
程無くして、ウルキオラは人並みの中に見知った髪色を見つけた。来たか、と呟いて、左手をメガホンのように口元に添え、右手を挙げる。
「おい、井上織姫。こっちだ」
大声、と呼ぶ程ではないがいつもよりも大きめの声で、ウルキオラは右手を振って呼んだ。背が縮んだ分、大袈裟にアピールしなければ人の多い時間帯では埋もれてしまう。
呼びかけた相手、織姫は思ったよりもすぐにウルキオラに気付いて、おーい、と笑顔で手を振りかえした。その後ろに続く二人のうち、体力のありそうな方が織姫越しに見えたウルキオラの姿にギョッとする。
「ちょ、ちょっと織姫……アイツ、まさか……」
体力のありそうな方が、織姫の肩を叩いて小声で訊ねた。そこでふと織姫は、体力のありそうな方———有沢竜貴がかつて、まだ大人の身体だったウルキオラとヤミーに殺されかけていたことを思い出す。その時の記憶は、浦原によって置換処理が施されていた筈だが、或いは身体が覚えているのかもしれない。
少し織姫が目線をずらすと、一緒に来ていた眼鏡の方———本匠千鶴も、少し身構えているように見える。
「ひ……姫……?あのセーラー服の美少女の隣にいる、血色終わってるガキンチョさ……なんか、アレじゃない?たまに姫とか茶渡とか石田とかが追っ払ってる怪物みたいな……」
「あ、千鶴ちゃんも解るんだ?そうそう。ウルキオラくんはよく茶渡くんや石田くんが退治してる
「アラ……?」
「ほら。浦原さんに訊いたけど、ハリベルさんやアメミトさんとも会ってるでしょ、二人とも。あの人達と同じ種族だよ」
「同じ……?ええ……?」
千鶴が聞き慣れない名詞に疑問符を浮かべ、続けて織姫から教えられた事に首を傾げた。千鶴の目には、真顔で織姫に向かって手を振るウルキオラが、あのよくわからない事態で出逢った美女達の同胞には見えない。半分くらいは、今のウルキオラは義骸に入っている為、
一方で、竜貴はやっぱり、と呟いて、早足で織姫の前に出る。そんなに警戒しなくったって、大丈夫なのにな。織姫は仕方がないなといった風に、眉を下げた。
ややあって、織姫達とウルキオラ達が合流する。軽く挨拶と、自己紹介をしてから商店街へ歩いて行った。
「ところで、買い物といっても何を買うんだ。俺は女が必要とする物に全く当てがないのだが」
「うーん……いろいろあるけど、まずはお洋服かなぁ。今望実ちゃんが着てる服って、浦原さんが用意してくれた物でしょ?自分の好みで選んだ服が一着くらいあってもいいと思うなぁ」
「あとは、ブラシとか?できればヘアアイロンとか欲しいわよねぇ。なんたって望実ちゃん、髪こんなにサラッサラなんだもの!手入れをサボって傷んだりしたら世界の損失よ世界の損失!」
「うわあ!急に抱き付かないで!」
会話に横入りしてきた千鶴が、望実を腕の中に閉じ込めるように抱きしめる。望実はそれに抵抗するが、どこにそんな力があるのか、千鶴の腕はびくともしない。
「やだ、望実ちゃん。ちゃんと食べてる?細くて心配になるわ」
「ちょっとどこ触ってるの!スケベスケベスケベ!!」
「ふぐっ!?」
千鶴はさり気なく、望実の胸の下に右手を滑らせた。望実はそれに気付くと、なりふり構わず千鶴の鳩尾に肘鉄を叩き込む。蛙が潰れるような声を上げて、千鶴が望実を解放した。
「ちょっと千鶴。あんまふざけてないでよー?転けても知らないからねー」
竜貴はそれを後ろ目に、いつもの事として流して注意だけ呼びかける。
「転けるというか、思いっ切り望実に暴力振るわれ……いや、先にセクハラしたのは彼方か……?」
どうでもいいことを考え込むウルキオラに、織姫は苦笑を浮かべていた。
同時刻、商業ビルの屋上。
二人の男子高校生と、死神の女が、商店街へ向かう一行を観測していた。
死神の女は朽木ルキア。浦原の指示を受け、極秘裏にウルキオラと望実の護衛としてここに居た、
高校生二人は茶渡泰虎と石田雨竜。二人は織姫に頼まれて、万が一の時は竜貴と千鶴を安全圏まで逃す為に駆けつけられるよう、一定の距離を保って一行を見守っていた。
「今のところ、追っ手の気配も無さそうだね」
雨竜は横目で周囲を見渡す。
「このまま何も起きなければ、それが良いのだがな。しかし、お前たちは良かったのか?」
「何がだ」
ルキアのふとした疑問に、泰虎が返事をした。ルキアは少し渋るそぶりを見せると、否、内に秘めても仕方ないと意を決する。
「一護の側に居なくても、良いのか?私が言うのもなんだが、お前たちの姿が見えぬと、彼奴も心配するのでは……」
「ああ、そういうことなら、気にしなくて大丈夫」
雨竜は軽い調子で答えた。
「浅野くんと小島くんが、黒崎と一緒にいるからね。最近は黒崎のやつもアルバイトを始めてるし、茶渡くんもボクシングジムに通っている関係で、いつも一緒にいるわけでもない。そして僕は元々友達ではないから、一緒にいなくても不自然は無いからね」
「えっ?」
「えっ」
雨竜の答えに、ルキアと泰虎はほぼ同時に振り向いた。その反応に、雨竜の方が疑問を浮かべる。
「待ってくれ。その反応はおかしくないかい?何も変な事は言ってないだろう?僕は
「…………貴様、もしや自覚がお有りでないな?」
「石田……今まで散々一緒に
「なっ!?」
雨竜がわかりやすくショックを受けた。ルキアと泰虎は目配せして、互いに肩を竦め合う。
この石田雨竜という男は、理屈屋で合理的な人間を自称する割には大分感情的で、猪突猛進じみたところがある。泰虎もルキアも、そしてきっと織姫と一護も、そう長くはないが密度の高い関わり合いの中で理解していた。
「……〜〜〜〜っ、だぁー!もう!この話はやめだ!井上さん達の方に集中しよう!」
「話を広げたのはお前だろうに」
青い事だな。ルキアはやれやれと首を振った。
さしたる問題も起きず、何事も無く商店街へ到着した一行は、まず最初に小さなブティックに入った。いの一番に、織姫と千鶴は目を惹くデザインの服をハンガーラックから取って、望実の下へ持ってくる。
織姫が持ってきたのは、花柄のワンピースやキャラもののTシャツ。それからサスペンダー付きのフレアスカート等。千鶴が持ってきたのは、脚の付け根ギリギリの丈のホットパンツに白いキャミソール。あとはオフショルダーの七分丈シャツ等。
「望実ちゃんがどんな服が好きかわかんないから、似合いそうなのたくさん持ってきたよ!」
「よりどりみどりだから、好きなだけ着たい服選んでいいわよ。どうせお金はそこの病人顔ボウヤ持ちでしょ?」
「誰が病人面だ。あと坊やじゃない。少なくともお前よりもうんと長く生きている。金はその通りだが」
「え、ええっと……」
望実は目を白黒させて、織姫と千鶴が持ってきた服を見回す。そしてすぐに、助けを求めるような顔でウルキオラの方を向いた。
「……何だ、その顔は」
「ど、どうしよう。ウルキオラ……」
「知らん。選択肢を与えられたのはお前だろう」
「そんな……薄情者め……」
「どさくさに紛れて何だとお前」
右手を拳の形で握り締め、顔の横に掲げたウルキオラを、竜貴がどうどう、と宥める。本能的な恐怖が消えたわけでは無いが、あまりに思春期くらいの人間の子供と変わらない様子に、警戒するほどでも無いかと安心し始めている事に、織姫だけが気付いていた。
「だったら、ウルキオラくんの意見も訊いてみようよ。ウルキオラくんは望実ちゃんにどんな服着て欲しい?やっぱり可愛い系かな?」
「は?」
「いやいや、姫。ここは望実ちゃんの一番の武器を活かすべきよ。つまりすらっとした太腿!アピールするならショートパンツ!上半身の細さは幅の大きいシャツでカバー!或いはあえてオフショルで健康的な肌を……」
「やめろやめろ、畳み掛けるな」
ずい、と選んできた服を両手に織姫と千鶴がウルキオラに迫る。ウルキオラは両手を胸の前に掲げて、待ったをかけた。
織姫が薄ら期待を込めた目で、千鶴が妙にギラついた目でウルキオラをじっと見つめる。観念したウルキオラは、溜め息と共に人差し指を伸ばした。
「井上織姫の方は、望実のイメージに対して華やか過ぎる。同じ柄物でも、もっと落ち着いた色味の方が望実には合う……と思う。眼鏡女の方は……望実が着るには少し過激というか、主に脚周りが露出過多というか……そういうのは望実のようなちんちくりんよりもハリベルやミラ・ローズのような身長の高い女の方が映え———いっだい!!」
ズドムッ、と望実の裏拳がウルキオラの腹を直撃する。腹を抱えて蹲ったウルキオラを見下ろす望実の顔は、真っ赤になっていた。
「……〜〜〜〜〜ッ!この、ウルキオラのスケベ!ノンデリ!唐変木!」
「な……んだと……お前……ッ!」
油の切れたロボットのようなぎこちなさで顔を上げたウルキオラは、僅かにふらつきながら立ち上がり、望実を睨んだ。
「うーん、流石にこれはウルキオラが悪りぃよな……」
「あのね、ウルキオラくん。もしかしたら感覚が麻痺してるのかもしれないけど、身長が170cm超える女の人ってすごく珍しいんだよ」
「それこそバレーボールの選手くらいじゃない?」
ウルキオラの鞄から、コンが顔を出して望実側に着く。織姫と竜貴の追撃で、見えない矢が幾つも突き刺さったウルキオラは、遂に撃沈した。
結局、ウルキオラの意見を参照にシックな色合いのワンピースを一つ。まだ肌寒さも続くという理由で白いキルト生地のボレロを一つ。ついでに中に着る用のキャミソールも一つ購入した。
ブティックを出た後は、竜貴の勧めで靴屋に向かいスニーカーを一つと、オシャレ履きとしてローファーを一つ購入。次に、望実が普段、浦原商店にある石鹸で顔を洗っていることを知った千鶴に引っ張られ、ドラッグストアで洗顔料と保湿ケア用品を幾つか見繕い、そのまま小さな家電量販店でヘアアイロンを買った。代金はほぼウルキオラ持ちである。
全て回った頃にはもうかなりいい時間になっており、一行はそのままファストフード店で夕飯にする事にした。
「……覚悟はしていたが、財布が寒いな……」
ダブルパティバーガーに齧り付きながら、ウルキオラは遠い目をしている。今日の買い物道中で使った総額は、ちょっと考えたく無かった。
「レシートは取ってんだろ?あとで浦原に半分くらいは立て替えて貰えねえかな」
鞄の中から顔を出したコンは思案する。ウルキオラはコンを片手で押さえつけ、鞄の中に戻そうとした。
「ダメ元で交渉はしてみるが、あまり期待は出来ん。死神達が奴に度々ぼったくられているのは、聞いているのでな。少なくとも金銭関係において奴に信用は無い」
「なかなか辛辣ね……」
ファストフード特有の少し萎びたポテトを口にした千鶴は、そう言ってセットのジンジャーエールで喉を潤す。
そういえば、とウルキオラは鞄を無理矢理閉めてコンを閉じ込めながら、竜貴と千鶴を順に見遣った。
「井上織姫は親族が居ないから兎も角、お前達はいいのか?自然な流れで全員こうして夕食を共にしているが」
「あー、大丈夫。あたしは今朝親に友達とご飯食べてから帰るって言ってあるから」
「あたしもー。ていうか、もう高校生なんだから別に帰りが遅くなるくらい親だって気にしないわよ。うちは特に……ね」
「ああ。千鶴んとこ割と放任気味だもんね。だからってクラスメイトホテルに連れ込もうとすんのはアレだけど」
「それは本当にアレだな。せめて飲酒できるようになるまでは貞節を守っておけ」
「あれ!?何で急にあたしが刺される流れになったの!?」
ドッ、と笑いが起こる。もー!と文句を垂れる千鶴の様子が可笑しくて、望実も腹を抱えていつもより大きな声で笑っていた。それを横目に見るウルキオラは、どこか安堵したように目を穏やかに細める。そんな時。
肌を指すような冷たい霊圧が、ウルキオラの
「!!」
「どうしたの?ウルキオラくん」
半分立ち上がりかけ、後ろを振り返るウルキオラに、織姫は首を傾げる。だが織姫もすぐに、ウルキオラど同じく冷たい霊圧を感じ取り、反射的に身構えた。
「……?二人とも、なんかあった?」
竜貴は不思議そうに二人を見遣る。心なしか、少し寒さが強くなってきたな、と感じながら。
「……飲食代、先払いだったのは幸いだったな。全員、さっさと完食しろ。店を出る」
「は?」
ウルキオラは残ったバーガーとポテトを口にパンパンに詰め、セットドリンクのホワイトソーダで流し込んだ。よく入ったな、と竜貴が感心するよりも早く、織姫もチーズバーガーとポテトを一気に食べ切ってしまい、トレードゴミをウルキオラのものと一まとめにする。
「二人ともポテト余りそう?」
「えっ」
「ひ、姫……?」
「急がないと、ちょっと危ないかもしれないから」
そう言うと織姫は、竜貴と千鶴の残ったポテトを口に流し入れた。
「望実。それ食えるか」
「……芋だけ間に合わない、かも」
「じゃあポテト寄越せ」
「ん」
望実は受け入れるのが早く、特に言い返すこともなく、さっと残ったポテトをウルキオラに引き渡す。ウルキオラは受け取ったポテトをザッと口に流し入れ、空の容器を畳んだ。
「全員、むぐ……片付いたな……もぐ……行くぞ」
全員分のトレードゴミをまとめて返却場に持って行き、一行はさっさとファストフード店を後にする。外は異様に寒い。そも、空調が効いているはずの店内でさえ寒さを感じた時点で、竜貴も千鶴も疑問を感じるべきだったと息を呑んだ。
「どうするの、ウルキオラくん?」
早足で商店街を抜けて、織姫が訊ねる。
「可及的速やかに、浦原商店に戻りたいところだがな。幸か不幸か、此方には死神と無関係の有沢竜貴と本匠千鶴が居る。向こうとて、一般人を巻き込んで、危害を加えるような真似はしないだろう」
大荷物を手提げ袋にまとめて抱えるウルキオラは、周囲を気にしながら返した。
「……本当にそうかな」
ウルキオラに手を引かれる望実は、不意に溢す。
「影狼佐は、手段を選ばない。自分の目的を達成するためなら、その過程で誰がどれだけ傷付いても、必要な犠牲だと正当化する。アイツは、そういう男だよ」
「望実ちゃん……」
織姫は望実を案じるように眉を下げる。
その足下、織姫の足跡で赤色と宵闇色の霊光が、小さく弾けた。
時々なんで原作だと時系列的に死んでる男とアニオリヒロインのいつか来るお別れを育てて歩く話を書いてるんだと正気に帰りそうになる。これ本来ハリベル夢なんですけどね???????