犴と鮫   作:鷲谷ヒメリ

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※今回ポエムお休み
※若干の背後注意


束の間のイントロダクション

 カァンッ、と目の詰まった木刀がぶつかり合う音がした。

 青空の下、セーラー服を着た少女と、黒い着物から袖を抜いて半裸になった坊主頭が、木刀で打ち込み稽古をしている。劣勢なのは少女の方で、坊主頭はもっと気合を入れろと怒鳴るように発破をかけた。

 ここは浦原商店の地下で、青空は天井に描かれた偽物だ。打ち合う二人を遠巻きに見守っているのは、派手な睫毛エクステを着けた中性的な美丈夫と、病的に白い肌に頭の左側を覆う仮面の欠片を被った少年、そしてチープなデザインのライオンのぬいぐるみ。

「〜〜〜ッ、やあッ!!」

 セーラー服の少女が木刀を振り上げ、坊主頭に飛び掛かる。坊主頭は自身の木刀を態と折り、片方で少女の木刀を受けるともう片方で脇腹を叩きつけた。

 少女の小柄な体躯が地面に転がる。仮面の欠片を被った少年、破面(アランカル)のウルキオラが慌てて少女に駆け寄った。

「無事か、望実」

「ん……うん。平気……」

 軽く咳き込んだ少女、九条望実は木刀を支えに身体を起こす。それを見届けた坊主頭、斑目一角は折れた暴行の鋒側で肩を軽く叩いた。

「いよーっし、立ったな。次行くぞ!」

「待て禿頭。そろそろ望実を休ませろ。もう朝から五時間はぶっ通しで撃ち合っているだろう。第一、直に昼飯の時間だ」

 構えを取ろうとした一角を、ウルキオラが手を掲げて制する。それとほぼ同時に、ウルキオラの腹の虫が爆音で鳴いた。

「「「…………」」」

 緊張感というものは荼毘に付された。気を削がれた一角は舌打ちして、派手な睫毛エクステを着けた美丈夫、綾瀬川弓親に折れた木刀を投げ渡す。弓親は代わりに大きめのタオルを投げ渡し、受け取った一角はそれで上半身をガシガシと擦るように拭いた。

 そしてタイミングよく、浦原商店の店員である握菱鉄裁が降りてくる。昼食の呼び出しだった。ぞろぞろ身嗜みを正しながら居間に上がれば、普段使いよりも大きなちゃぶ台に大皿の炒飯と取り皿が並んでいる。丁度ルキアがレンゲを人数分持ってきたところだった。

「どうもお疲れ様です。進捗どうっスか?」

「一部の人間が精神的に死ぬ訊き方は辞めろ」

 ちゃぶ台に上座も何もあったものではないが、便宜上上座と呼んでも差し支えない席にデンと座っていた浦原喜助が、扇子で口元を隠してそう訊いた。ウルキオラは半目で浦原を睨み、望実をなるべく浦原から遠い席に座らせる。

 そう間を置かずに、外を警戒に出ていた阿散井恋次と朽木白哉が戻ってきた。それから更木剣八と草鹿やちるが長い惰眠から起きて出てくる。尚、十一番隊の救出に貢献したスンスンとピカロ・隠密師(エスコンデール)の二人は、昨晩の時点でハリベルへの報告の為虚圏(ウェコムンド)に帰還している。全員が揃ったところで、鉄裁の音頭で昼食が始まった。

「恋次、紅生姜取って」

「あいよ」

「ちょっ、隊長そんなごっそり取らんでくださいよ!俺らの取り分が減る!」

「あァん?ちゃんとあんだろうが。その目は節穴か?」

「隊長ー。一応人数見てから言ってくださいよ。もう隊長の一掬いで三分の一消えてますからね」

「……」

「朽木白哉。これはそのレンゲ匙で食うものだ。ぼーっとしていたらそこの野蛮人共に全部喰われるぞ」

「「誰が野蛮人だ!!」」

 うるせえな。花刈ジン太は炒飯をかき込みながら半目で騒々しい死神達と破面(アランカル)を見ていた。

 

 大皿に山のように盛られた炒飯が殆ど無くなった頃、鉄裁が配った熱い煎茶を各々が口にし始めた辺りで、店の方から少女の声が聞こえてきた。

「おっと、来ましたね」

 待ってました、といった風の浦原と対照的に、ウルキオラとルキアは揃ってどうして、と目を丸くする。

 声の主は、まだ学校にいるはずの井上織姫だったからだ。

 どうぞお入りください、と浦原が声だけで織姫を招く。失礼します、と一言断りを入れた織姫は、脱いだ靴をきちんと揃えてから居間に上がってきた。

「さて、ウルキオラさんからお話は伺ってます。井上さん、昨晩貴女に起きた虚(ホロウ)化の件ですね?」

 目深に被った帽子の下から剣呑な目を光らせ、扇子で口元を完全に隠した浦原が、織姫に確認を取る。織姫は真剣な面持ちで頷いて、正座した足の上に乗せた手を握りしめた。

「井上さん。貴女の中の虚(ホロウ)は、現在どういった状態か判りますか?」

 浦原に質問された織姫は一瞬目を丸くして、すぐに目を僅かに伏せて軽い瞑想の真似事をしてみる。だが、素人なのと雑念が多少混じっているのとで、上手く精神の内海を覗き込むことはできなかった。

「う……ちょっと、わかりません……」

「いえいえ、そうお気になさらず。可能であれば井上さん自身がご自分の状態を把握できるのが一番いいですが、できないのならば仕方がありません。となれば……そうですね。ここ最近で何か井上さんの周りで何か変化のあった事などはありますか?」

「変化……ですか……」

 別の角度から問われた織姫は、少し考え込んだ。思い当たる節があるとすれば、一つ。

 虚圏(ウェコムンド)から戻って以来見るようになった、あの夢。

 織姫は慎重に言葉を選びながら、例の夢についてできるだけ詳細に浦原に説明した。

 過去に受けたイジメの夢。或いは、物心つく前の、兄が自分を連れて親元を飛び出す前の夢。そこに現れる、白い死覇装の自分が実行した虐殺のこと。

 織姫から語られたそれらを、浦原は脳で咀嚼し、吟味し、抽出した情報を整理した。

「成る程……ありがとうございます。となると……ではウルキオラさん。次に貴方にご確認したい」

 ひらひら、空いた左手を舞わせた浦原は、あまりにも早い切り替えでウルキオラの方に目を向ける。

「なんだ」

 まさかまだ自分に振られるとは思っていなかったウルキオラは、煎茶を啜ると浦原を半目で睨みつけた。

「ウルキオラさんが黒崎さんとミラ・ローズさんの霊圧によって、現在の躯で復活した際。元の姿よりも背が縮んでいる……つまり、魂魄を構成する霊子の総量は縮んだ背丈の分減っているわけですが……」

「縮んでる縮んでるって……喧嘩売ってるのか貴様」

 プチ、と額の毛細血管が切れる幻聴がウルキオラの耳の奥に木霊する。浦原はウルキオラの怒りの滲んだ声を完全に無視して続けた。

「さて、ウルキオラさん。ならば貴方の躯の復活に際し、その減った分の霊子は一体何処へ流れたのか、把握していますか?」

 その質問に、ウルキオラは間抜けた声を出して首を傾げる。浦原はその反応で、大凡の回答を察した。

「何処へ流れたも何も、虚圏(ウェコムンド)の大気に溶けたんじゃ無いのか?生存競争で死んだ在野の大虚(メノス)の残骸と同じように、大気に溶けて余剰は砂に成ったんだろう?」

「……やはり、そういう認識でしたか」

 パチン、と浦原は扇子を閉じる。

「そうっスね。まずはウルキオラさん。貴方の認識の訂正からしましょうか」

 トン、と浦原の人差し指がちゃぶ台を突いた。どういう事だ、とウルキオラが訊くよりも先に、浦原は口を開く。

「井上さん。ちょっと一瞬でいいので、盾舜六花を出していただいてもよろしいですかね」

「えっ?あ、はいっ」

 浦原に請われた織姫が、左手の指先で六枚花弁のヘアピンに触れた。浦原は扇子を持つ右手側の袖に左手を差し入れ、中で何かを弄り始める。霊光を纏ったヘアピンの花が六つに分かれ、盾舜六花が呼び出された。

 袖の中で、何かが小さな音を立てて震える。浦原はやはり、と確証を得たように喉の奥で呟いた。

「おい、浦原喜助。一体何がやはり、なんだ。説明をしろ説明を」

「そう急かさないでください、ウルキオラさん。今説明しますから」

 飄々と扇子を揺らし、浦原はウルキオラを宥めるようにそう言う。袖の中から手を引っこ抜くと、そこには液晶の付いた何かしらの機械が握られていた。

「結論から先に言いましょうか。井上さん、貴女に宿った虚(ホロウ)は、ウルキオラさんから分離した霊子から発生したものっス」

 空気が凍りついた。言葉を失ったウルキオラを気にする様子も見せない浦原は、機械を操作して表示された画面を、全員に見えるようにちゃぶ台の上に置く。

「霊圧には、種族それぞれ、人それぞれに固有の波形が存在します。技術開発局でも、これらの波形を精査する事で虚(ホロウ)の出現を検知、霊場の異変等を発見しています。で、これは霊波形の解析を行う装置を小型化したものっス」

 浦原は機械の画面を指差した。そこには横長の枠が三つ縦に並び、それぞれに異なる波形が表示されている。

「一番上は、その霊圧の持ち主の魂魄の分類を表しています。真ん中の枠は霊圧の強さ。振幅が細かくなる程密度が高く強い霊圧と見れますね。一番下は個人の霊圧の波長。言ってしまえば、指紋のようなものと思っていただければ。因みにこれは、凡例として阿散井さんの霊圧を表示しています」

 一つ一つ指差して浦原が説明した。それぞれの枠に波形が一つずつ流れているこれが、恋次の霊圧の性質や強さを表しているのだと言う。尚、技術開発局で使われている計測器は、これらの波が全て重なった状態で一つの画面に表示されるのだという。基本的に、新人以外は重なった波形を瞬時に読み取り、解読できるらしい。

 閑話休題(話が逸れた)。

 個人情報保護とは、とコンが薄ら引きながら呟いた。浦原はそれを気に留めず、機械を再び操作する。

 画面の表示が変化し、一番上の枠に表示された波形の数が二つに増えた。

「比較対象として、ウルキオラさんの霊圧を表示しました。一番上の、種族を示す波形が二つ重なっているのがわかりますか?」

「……おう」

「一つは恋次の波形と似ているな。これはどういうことだ?」

 ルキアが訊ねる。種族を表す二つの波形は、恋次のものと似た波形、つまり死神の波形の上に別の波形が重なっていた。

「破面(アランカル)はご存知の通り、死神化した虚(ホロウ)っス。つまり、保有する力の性質は虚(ホロウ)と死神の二つ。その為、虚(ホロウ)と死神の波形が重なって表示されます」

「……複数の力を持つ者は波形もその数だけ表れる、ということか」

 白哉が静かに整理する。浦原は全員が前提知識を理解したとみると、遂に本題へと移るべく機械をまた操作した。

「では、問題の井上さんの霊圧ですが……ご覧の通りっス」

 機械音が鳴って、画面にまた異なる波形が映し出される。それを見たウルキオラは、ルキアは、恋次は、コンは、白哉は、望実は、織姫は、一角と弓親さえも、信じられないものを見たかのように目を見開いた。

「何……すか、コレ」

 一角は搾り出すように、浦原に訊ねる。

 画面には、種族の枠に波形が三つ。個人の枠には二つ現れていた。

「種族の波形はこのように、人間の下に破面(アランカル)……つまり虚(ホロウ)と死神の波形が重なってます。つまり、井上さんの中の虚(ホロウ)はただの虚(ホロウ)ではない、ということが確実っス。そして、より問題なのが一番下」

 浦原が指差す、一番下の枠の中の波形。個人を示すその波形は、何故か二つ重なって表示されている。

「浦原さん。一番下は指紋みたいなものって言ってましたよね?」

「そうっス」

 弓親の確認に、浦原は肯定を返した。

「なら……なんでコレ、二つ重なってるんですか?」

 弓親は重ねて問う。同時に、ある違和感を覚えていた。

 重なっている波形の片方を、ついさっき見たような気がしていたのである。浦原は弓親のその違和感を見透かして、言った。

「アタシもちょっと、面食らっていますよ。だってコレ、井上さんとウルキオラさんの霊圧が重なって、一つの霊圧になってるんスから」

 全員が絶句した。ウルキオラに至っては、元々病的に白い顔が真っ青になって、生気を完全に失っている。

「なん……なんで……」

「理由はアタシにも今一つわかりませんが、この霊圧の解析結果を見る限り、ウルキオラさんから分離した霊子は虚圏(ウェコムンド)の大気に溶けること無く、井上さんの魂魄に取り込まれ、新たな虚(ホロウ)……いいえ、破面(アランカル)を生み出した。と考えるのが自然でしょう。今現在のところは大人しくしているように見受けられますが、いつ昨晩のように井上さんの躯を奪い、危害を加えるやもわかりません」

 そこまで言うと、浦原は扇子を開いていつものように口元を隠した。ウルキオラは真っ青になったまま、わなわなと行き場を見失った両手を揺らす。

「俺……俺の、せい……?」

「"せい"、と言うほどのものでもないでしょうが、まあ、要(・)因(・)の(・)一(・)つ(・)で(・)は(・)あ(・)る(・)でしょうねぇ」

 バタンッ、とそれなりに大きな音を立て、ウルキオラはとうとう後ろにひっくり返ってしまった。白目を向いて泡を吹いているところからして、心的ショックのあまり失神してしまったらしい。

「ウルキオラー!!」

「しっかりしろウルキオラ!!あくまで様々な要因が重なったか故の偶然だ!事故だ!お前がそう気負う必要は無い!!」

「大丈夫だよウルキオラくん!そのおかげで昨日は切り抜けられたんだから、怪我の功名!塞翁が馬だよ!」

「多分聞こえてねえぞ」

 コン、ルキア、織姫が、ひっくり返って失神したウルキオラを揺すり起こそうと声をかける。冷静な恋次の声を他所に、浦原は伝令神機を手にして何処かに電話をかけた。

「———ああ、もしもし。アタシです。浦原です。ちょっと野暮用お願いしてもよろしいっスか?ひよ里さん」

 電話口の向こうから、関西弁で文句を叫ぶ声が周りにも聞こえてくる。

 喧騒の中で白哉は静かに煎茶を口にして、剣八はやちる共々壁に背をつけて食後の惰眠を貪った。

 

 

 

『———て訳で、総隊長さんとは連絡ついたらしいで。浦原の準備が整い次第、乗り込む事になりそうやからそっちも構えといてや』

「わかった。周知しておく。しかし悪いな。面倒事ばっかり、お前達に任せてしまって」

 オレンジの照明が薄暗く部屋を照らす寝室。仮面と繋がる外殻の欠片で肝心を隠しただけで、一糸纏わぬままベッドの淵に腰掛ける金髪の破面(アランカル)、ティア・ハリベルは伝令神機に向かって苦笑する。その背中には、薄ら爪で引っ掻いたような痕が付いていた。

 通話相手は現世に身を置く虚(ホロウ)化した元死神、仮面の軍勢(ヴァイザード)の一人である矢胴丸リサだ。リサは通話越しに短い溜息を吐く。

『ほんまやで。一応、あたしらかて護廷十三隊に思うところもあるし、内輪揉めは勝手にしとき思うけど……ぐーたらすけこまし隊長と可愛い妹分が大変な目に遭っとるんなら、手ェ貸したらんこともあらへんよ』

「ツンデレだなぁ」

『しばくで。まあ、後は真子達が向こう戻る話もある訳やし、さっさと片付けて貰わんと困るのもあるわな』

「ああ。陰険オールバックと盲(めくら)と市丸ギンが抜けた分の。よく戻る気になったな」

 ほんまに、とリサは通話越しに嘆息した。

『なんやかんや、真子も拳西もローズも、ついでに白もお人好しやからな』

「リサは戻らないのか?」

『戻らん戻らん。ひよ里ほっとく訳にもいかへんもん。それに八番隊も別に、あたしがおらんなってからも問題無く回っとったんやし。今更戻るんもアレやんか』

「そういうものか」

 肩で伝令神機を耳元に固定し、ハリベルは枕近くの小さなラックの上に置いていたスポーツドリンクのペットボトルの蓋を開ける。蓋を持ったまま左手で伝令神機を持ち直し、スポーツドリンクを飲んだ。

「話は二百七十度変わるんだがな。厄介ごとを押し付けるようですまないが、浦原喜助から訊いただろうが織姫のこと、どうか頼んだぞ」

『生憎、手加減したる保証はでけへんよ。十刃(エスパーダ)由来の虚(ホロウ)とか、気ィ抜いたら、下手しぃあたしらの方がぶちのめされかねへんし』

「うちのウルキオラが本当にすまない」

 苦笑して、ハリベルは中身がまだ半分近く残ったペットボトルをラックの上に戻す。二、三言伝を交わして、通話を終了し伝令神機を待機状態にした。

「愉快な事になってるな、現世」

「愉快で片付けるなよ……」

 うつ伏せになって愉快そうに、プラチナブロンドを絹糸のように流した破面(アランカル)、アメミト・レシェフがほくそ笑む。薄い掛け布団に覆われた裸体は、オレンジの明かりに照らさらて白磁の肌が薄ら色付いていた。首や鎖骨の周辺には、痛々しい歯形が刻まれ、小ぶりな赤い花が点々と咲いている。情事の後だ、と察するには容易かった。

「飲み物、要る?」

「貰う。その開いてるやつでいいぞ」

「戻さなきゃよかったな……」

 ハリベルは戻したペットボトルを再び手に取って、上半身を後ろに捻ってアメミトに手渡す。身体を伏せたままアメミトはペットボトルの中身をグッと煽り、嚥下に合わせて動く喉にハリベルは手を出したい欲求を寸前で堪えた。

「因幡影狼佐の動きは?」

 中身の減ったペットボトルをハリベルに返し、アメミトは訊ねる。ハリベルは平成を装い、静かに息を吐いてから答えた。

「卸売のていで瀞霊廷に潜り込んだグリムジョー曰く、一部の下位席官や平隊士にも霊骸が見られるようになったらしい。山本元柳斎が戻る前に、乗っ取り完了させるつもりかもな。これに関しては、時間勝負そう」

「奴は一体、四十六室をどう誤魔化すつもりなのだろうな」

「さてな……力で脅すのか、それとも……」

 思案するハリベルに、アメミトは徐に起き上がり、後ろからゆったりした動きで抱きつき、両腕を首に回した。背中に柔らかいものが押しつけられる感覚といつもより高い体温がダイレクトに伝わって、ハリベルは息を飲む。

「メノリに頼んでた件。あっちは進捗どう?」

 ハリベルの動揺など知らぬ存ぜぬという態度で、アメミトは公の話を続けて振った。態とか、コイツ。とハリベルは奇妙な苛立ちと、下腹部に空いた虚(ホロウ)の孔の内側の過剰反応とに頭を抱える。

「…………浦原喜助から提供された、檜佐木修兵、朽木ルキア、阿散井恋次、それから松本乱菊の霊骸の肉片。アレのおかげで随分捗っているようだぞ」

「間に合いそう?」

「"間に合わせる"とは言っていた」

 なら良い。そう微笑んだアメミトは、右手の指先でハリベルの乳房と肋骨の間をなぞった。ぞわり、とハリベルの背中を痺れたような、くすぐったいような感覚が走る。アメミトが更に、指を這わせて外殻の欠片と肌の境目を舐るように撫でると、喉の奥から普段よりも一段高い声が漏れ出て、鼻を抜けていった。

「フランチェスカはもう暫く休んでから、また死神達の救助に向かうだろうし、エミルーは虚夜宮(ラスノーチェス)周辺の巡回警備に走ってる。コヨーテとリリネットはシィアンの代わりに指定自治コロニーの視察で不在。静かなものだな」

 アメミトは燦光する翠玉(エメラルド)を愉快そうに細め、自分とは正反対の褐色の肌をした肩を唇だけで嚼む。歯を立てないよう注意しながら、舌先で撫でると小さく震える自分よりも上背に恵まれた身体に優越感を覚え、自然と右手は胸の下半分に、左手は肩から滑り落ちるように下に降りて、下腹部の孔の縁をなぞった。

「ちょ……っと、アメミト……」

「んん?なぁに、ティア?」

 しらばっくれるアメミトは、愉しそうにハリベルの耳朶を甘噛みする。ハリベルは段々と呼吸が荒くなり、仮面越しに口元を手で覆った。

 アメミトは弄ぶように、核心には触れずもどかしい場所ばかり撫でる。遂に我慢ならなくなったハリベルは、下腹部の孔を撫で続けるアメミトの左手の手首を掴み、ベッドに引き倒した。

 おっと、と抜けた声を上げたアメミトは、惚けた顔でハリベルの熱っぽい碧玉(グリーンジャスパー)を見上げる。そしてすぐにニヤリと笑い、右手をハリベルの顔に伸ばした。

「いいぞ。おいで」

「……っとに、煽るな……!」

 仮面の口を開いたハリベルが、アメミトの鎖骨に噛み付いた。




全年齢だとどこまでやっていいのか悩む
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