犴と鮫   作:鷲谷ヒメリ

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独りは孤独に喘ぎ
自らを分ち二人になった
一人は一人と出会い
友となった
彼等の違いは
何だったのだろう
見えていたものは
何だったのだろう


狼と遊ぶ

 アメミトとミラ・ローズが3ケタ(トレス・シラフス)の巣に迷い込んだ日から数日。早速ハリベルは藍染から、力のある大虚(メノスグランデ)の捜索の仕事を任された。ハリベルは当たり前の様に従属官(フラシオン)を全員引き連れて行こうとしたのだが、藍染から流石に過剰戦力だと止められ、アメミト以外の誰か一人だけを連れて行く様釘を刺される。

 結果、ハリベルはじゃんけんで同行者に決まったアパッチに引き摺られながら、泣く泣く仕事に向かって行った。寂しがり屋か、とアメミトは呆れ果てるが、スンスンは多分違うんだろうなあと苦笑を浮かべている。知らぬは本人ばかりなり。

 さて、そんな経緯でフリーになったアメミトは当てもなく虚夜宮(ラスノーチェス)を彷徨いていた。

「……うん?」

 暫く歩いていると、変わり映えのない柱の列の中に紛れてアメミトの意識に働きかけるものが目につく。その後ろ姿に、アメミトは折角だとスキップ寸前の足取りで近付き、登下校中のクラスメイトに声をかける学生の様に背中を軽く叩いた。

「やあ、コヨーテ。今暇?」

「いってぇ!……なんだよ、アメミトか」

 振り返った破面(アランカル)———コヨーテ・スタークはアメミトに気付いた瞬間面倒臭そうな顔をする。まともに話をしたことこそないものの、基本的に活力というものに欠けている自分と、アメミトを筆頭に虚としてはやけに前向きで万事に意欲的かつ活動的な第3(トレス)主従は噛み合わないと踏んでいたからだ。

 なお、スターク側の事情は何も知らないアメミトには無関係である。ので、アメミトは第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)であるスタークへの興味を持って、ハリベルのいぬ間に遊びに誘おうと突発的に思いついた。人はそれを見切り発車と呼ぶ。

 スタークは短く溜め息を吐いてアメミトの燦光する翠玉(エメラルド)を見た。

「何か用かよ」

 面倒臭さを隠そうともしない態度も気にせず、アメミトは右手の親指を背後に向ける。

「ああ、今用が出来た。うちの宮で私と遊ばないか?」

「何でだよ」

「交流を深める為だよ。遊びはコミニュケーション手段として大きなツールだろ?あと純粋に、ティアいなくて暇」

「後半が本音だろ」

 ガックリとスタークは肩を落とした。どうやって断ろうかと頭を回し始めた、その時。

「おーい、スターク!何やってんだよー!」

 アメミトが来たのとは反対方向から、片角の折れたヘルムの様な仮面で頭を覆った隻眼の少女破面が駆けてきた。

「リリネット……何できちゃうんだよこのタイミングで……」

「?何のことだよー」

 右手で顔を覆うスタークに、少女破面———リリネットは首を傾げる。次いでスタークの隣にあまり見ない顔、つまりアメミトの姿を認めると、珍しー、と呟いた。

「この子、アンタの従属官?」

 アメミトは自分を見上げるリリネットを指してスタークに問う。

「……そうだ」

 奇妙な間を置いてスタークが肯定した。

「お前知ってるぞ!アメミト・レシェフだろ?ノイトラをボコボコにしたハリベルの従属官!」

「そんなことまで知られてるのか」

「私、リリネット・ジンジャーバック!よろしくなアメミト!」

 名乗ったリリネットはアメミトの周囲をちょろちょろと回る。腰に佩いた二刀一対の斬魄刀を興味深そうに眺めて、トレンチコート風の前合わせの死覇装と先端を遊ばせたベルトにかっこいい、と感嘆し、燦光する翠玉を綺麗と褒め称えた。

「そうだリリネット。これから私たちの宮でコヨーテも交えて一緒に遊ばないか?シィアンが藍染からトランプとトランプゲームのルール本を貰ったんだ」

「遊ぶの!?行く行くー!おいスタークぼっとしてんなよ。早く行こうよ!」

「えっ」

 リリネットが興味を示したことで、なし崩し的にスタークは第三の宮へ足を運ぶことになった。子供は強い。

 そんなわけで、哀れスタークは自分の従属官とアメミトに引き摺られるように第三の宮へ足を運ぶことになった。

「———てなわけで、シィアン。ブラックジャックやるからディーラー役やって」

「唐突ですわね……やるけど」

「やるのか……」

 朝のティータイム(ハリベルの低血圧解消用)に使うテーブルをゲーム用のレイアウトにセッティングして、アメミトはスンスンを呼びつける。スンスンはアメミトに連れられてきたスタークとリリネットの姿を認めると、ああ、成る程と一人納得した。

「一先ず、ルール説明から始めた方がよろしくて?」

「あー、頼むわ。俺らブラックジャック?っての知らないから」

「それでは」

 スンスンはトランプをアーチを描く様にテーブルに広げる。

「使用するトランプはジョーカーを含めた53枚。最初はディーラーを含むプレイヤー全員に2枚ずつ手札を配ります。全員の手札を配り終えるまでは裏向き、ホールカードで置いておいてください。ゲーム中、手札を表向きのアップカードにするか、ホールカードにするかはゲーム毎によりますが……今回はわかりやすくアップカードにいたしましょう。ディーラーのカードは片方をホールカードにします。これは全員が手札の合計点数を確定するまでは伏せられます」

 広げたトランプの左右端から一枚ずつ手にしてスンスンが説明を始めた。テーブルを挟んでディーラー役であるスンスンの向かいに座るプレイヤーはアメミト、リリネット、スタークの順に並んでいる。

「プレイヤーの皆様は手札の合計点数を21に近付け、その上でディーラーの私の点数を上回ってください。手札の合計点数が21を超えてしまうとバーストとなり、負けになります」

 手にしたトランプをテーブルに広げたトランプの列に戻し、スンスンは広げたトランプをまとめて束の形に戻した。

「カードの点数は2から10までは数字通りの点数。絵札となるキング、クイーン、ジャックは10点として計算します。エースは1と11のどちらか、手札の持ち主の都合のいい方を選択してください。ジョーカーを引いた場合は他の手札に合わせて1から10までの好きな数字として扱います」

 スタークがふむ、と頷く。リリネットは頭をゆらゆらと揺らし待ちきれなさそうに足をパタつかせた。

「最初に配られたままの手札で21、つまり10或いは絵札とエースの組み合わせになった場合はナチュラルブラックジャックと言って、自動的にディーラー側の敗北になります。また、プレイヤーとディーラーの両方がナチュラルブラックジャックだった場合は引き分けです。ディーラーがナチュラルブラックジャックでプレイヤーがそうではない場合はプレイヤーの負けになります」

 スンスンは説明しながらトランプを切り混ぜる。リリネットはその手つきを興味深そうに眺めて、おお、と感嘆した。

「手札の合計点数が21に満たない場合、カードを一枚引くヒットと、カードを引かずにその時点での点数で勝負するスタンドを選択できます。ヒットの時はテーブルを指先で叩くか、自分に向かって手招きをしてください。スタンドの時は掌をテーブルへ向けて水平に振ってください。21を超えるまでは何回でもヒットが可能です。プレイヤーが全員スタンドすると、ディーラーのホールカードが開示されます」

「欲張って21目指して引くとバーストのリスクが高まりそうだな」

「ディーラーは自分の点数が17を超えるまで引きます。ディーラーがバーストした場合は、バーストしていないプレイヤー全員の勝利です。ざっくりとした説明はこんなところですわ」

 トン、とスンスンは切り混ぜた山札をテーブルに置いた。

「では、始めましょうか」

 アメミトを発端とする暇つぶしのゲームが、始まる。

 

 スンスンがトランプを2枚ずつ配った。全員のカードが揃った時点で、スンスンが一枚を表向きにする。それを合図にプレイヤーの三人も手札をオープンした。カードはクローバーの10。

「お!どっちも絵札!」

 リリネットが喜びの声を上げる。開示された手札はスペードのキングとダイヤのクイーン。

「んー、これは一枚貰うか」

「俺も」

 アメミトの手札はクローバーの5とスペードの6。スタークの手札はダイヤの8とスペードの2。合計点数はどちらも11だ。

 アメミトとスタークはテーブルを叩いてヒットを示す。アメミトにはハートのエースが、スタークにはスペードの7が配られた。アメミトが小さくガッツポーズを取る。リリネットは流石にスタンドを選んだ。

 アメミトとスタークはスタンドを宣言する。プレイヤー全員がスタンドを選択した為、スンスンはホールカードを開いた。開示されたのは、スペードのジャック。

 合計点数はそれぞれアメミトが21、リリネットが20、スタークが18、ディーラー役のスンスンは20。アメミトの一人勝ちである。

「あー、ダメだったか」

「惜しい〜〜!強いと思ったのに!」

 スタークは肩をすくめ、リリネットは悔しがって足をバタつかせた。もっかいもっかい!とリリネットは次のゲームを要求する。スンスンはカードを回収して、再び切り混ぜる。

 二回目のゲームが始まった。スンスンが開示したカードはクローバーの7。三人は同時に配られた手札をオープンする。

 アメミトはハートの6とクイーン。難しい顔をして、アメミトは手札を睨んだ。

 リリネットはダイヤのキングとハートの3。んー、と悩む様子を見せる。

 スタークはダイヤの10と9。うわ、と小さく溢したスタークは、眉間を指で抑えた。

「んん……流石にリスクがでかいな。スタンド」

「え?アメミトまだ16点じゃん勿体無い。私はヒット〜!」

 スタンドを選択したアメミトにリリネットは信じられないものを見る目を向ける。すかさずヒットを宣言してカードを引いた。引いたのは、ジョーカー。

「やった!ブラックジャック!!」

「つっよ……」

 ビギナーズラックだろうか、リリネットの手札はこれで21になり、スタークは思わずドン引きした。

 スタークはスタンドを選択し、全員がスタンドしたのを確認したスンスンのホールカードが開示される。開かれたのはクローバーの10。今度はアメミトの一人負けであった。

「あ〜〜、ダメだったか」

「いやあ、ジョーカー出されたら仕方ねえよ」

 ディーラー役のスンスンにカードを返却しながら、スタークがアメミトを慰める。

 三回目、スンスンのアップカードはスペードの3。プレイヤーに配られた手札が開示され、アメミトはダイヤの10と9、リリネットはクローバーの10と3、スタークはダイヤのキングとハートの8だった。

「流石にスタンド」

「ヒット!」

「俺もスタンド」

 先ほどのゲームと同じ様に、アメミトとスタークがスタンドを選び、リリネットだけがヒットを宣言する。引いたカードは、クローバーのキング。バーストである。

「うわぁ〜〜〜〜〜!!!!!」

 頭を抱えたリリネットが、椅子からひっくり返りそうな勢いで仰け反った。危ない、とアメミトがその華奢な背中に手を添える。

 リリネットがバーストしたので、スンスンがホールカードを表向けた。クローバーの8。合計点数が12なので、スンスンは自動的にヒットした。

「あら」

 引いたのはクローバーの7。合計点数18となりカードを引けなくなった為、アメミトの勝利となった。

「俺ちゃんと勝ててなくないか」

「勝ってるだろちゃんと」

「さっきのはリリネットがブラックジャックしたせいで勝った気しないんだよな……」

 むくれるリリネットを宥めつつ、カードを返却する。四回目のゲームが始まろうというタイミングで、スタークはアメミトを呼んだ。

「なあ、アメミト」

「なんだ?」

 スンスンがカードを切り混ぜるのを眺めながら、アメミトは横目でスタークを見る。

「あんた、虚園(ウェコムンド)の始まりからずっと生きてんだろ」

 手札が配られ、スンスンのアップカードはハートのエース。アメミトはスタークの言葉に眉を顰めつつ手札をオープンした。ダイヤの9とハートの7。勝負を仕掛けるにはリスクがままある。

「誰から聞いた」

 アメミトが問いで返した。隣のリリネットの手札はダイヤのキングとクローバーの6。

「藍染様」

「あのチョロ毛野郎……」

 スタークの返答にアメミトは露骨に悪態をつく。スタークの手札はクローバーの7とスペードの9。全員の合計点数が16の横並びになった。

「ディーラーのバースト狙いもアリなんだよな、この場合」

「そうなの?」

 アメミトはスタンドを選択しつつそう言った。リリネットが首を傾げて聞き返す。

「ディーラーは17点を超えるまではヒットしないといけないからな。12点を超えるとバーストの確率って結構高いんだよ」

「ふーん」

 リリネットはアメミトに倣ってスタンドを選ぶ。先ほどのバーストが余程堪えたと見た。

「だから勝負を仕掛けるなら合計点が11の時がセオリーなんだ」

 スタークもスタンドを選び、全員が配られたままの手札での勝負を宣言した。スンスンはホールカードを開く。

「あら」

「「「あっ」」」

 開示されたカードはダイヤの10。ディーラーのナチュラルブラックジャックにより、プレイヤー全員の自動敗北であった。

「読めるかあ!!」

「これは私も見えなかったなあ」

「こんなことあんだな……」

「なんか、ごめんなさい……」

 リリネットが椅子から立ち上がって吼える。アメミトは苦笑して、スタークは口角をひくつかせて唖然としていた。気を取り直して五回目のゲームへ。

 スンスンのアップカードはダイヤのエース。この時点で三人は戦慄した。アメミトはハートの2と7。リリネットはダイヤの2とクローバーの4。スタークはクローバーのクイーンとスペードの6。

「……寂しくなかったのかよ」

 スタークがアメミトに問いかけた。アメミトはヒットを宣言しつつ、スタークへ燦光する翠玉を向ける。引いたのはハートのキング。

「何が」

「ハリベルと連むまで一人だったんだろ」

 リリネットがヒットを選択した。引いたカードがハートの3なのを確認して、まだいけるな、と鼻を鳴らす。

「寂しかったに決まってるだろ何言ってんだ」

 アメミトの返答に、スタークはだよなあ、と頷いてスタンドした。まだスタンドを宣言していないリリネットはもう一度ヒットを選択。ハートの9を引いて合計点数が18になったところでようやくスタンドを宣言した。

 スンスンがホールカードを開示。悪夢再来、ハートのクイーンである。第三の宮に最上級大虚(ヴァストローデ)の阿鼻叫喚が木霊した。リリネットなどテーブルに突っ伏して泣いている。

「お前の引きどうなってんの?」

「私が知りたいですわ」

 流石にスタークに問われて、スンスンはバツの悪そうな顔をして呻いた。ここまで来ると仕込みを疑うが、生憎というべきかスンスンはまだそこまで手先は器用ではない。

「……あの、六回目、します?」

「…………やる」

 たっぷり間を取って、突っ伏していたリリネットが真っ先に続行を宣言した。

 六度目のゲーム。スンスンアップカードはクローバーのクイーン。全員に緊張が走りつつ、アメミトから順番に手札を開示した。

「…….また難しい手札が……」

「ぐぅああぁ〜〜〜〜〜!!」

「………………」

「……なんか、ほんとう、ごめんなさい」

 順番にクラブのキングとハートの7、ハートのキングとダイヤの6、ダイヤの4とハートの9。全員が、勝負を仕掛けるにはリスクのある手札である。

「守りに入るしかないなあ。スタンド」

「引いたら絶対バーストする〜……!スタンド!!」

 アメミトとリリネットは守勢に回りスタンドを選択。

「……勝つなら行くか」

 スタークはまさかの勝負をかける。ヒットを選び、引いたカードはハートのエース。

「うおぉ!?」

「粘るな……」

「まだ弱いな……もう一枚くれ」

 吉と出るか凶と出るか。スタークはもう一度ヒットを宣言。引いたのは。

「スペードの4!これでスタンドだ!」

 合計点数18点。プレイヤーの中ではスタークが一番強い手札を完成させた。

「「えぇええええ!!!??」」

 アメミトとリリネットが思わず立ち上がる。その衝撃で椅子が後ろに倒れた。全員のスタンドが宣言された為、スンスンはホールカードを開示する。

 ハートの2。合計点数は12の為、自動的にヒットとなり一枚引いた。

「……ほんっっっとうにごめんなさい!!」

 スペードの7がスンスンの手札に加わったことで、スタークは崩れ落ちた。

「いやこれはしょうがないってコヨーテ。アンタはよく挑んだよ」

「そうだぞスターク。あそこで勝負仕掛けられるやつそうそういないんだから胸張れよ」

「ぐぉお〜〜〜〜〜〜〜っ」

 アメミトとリリネットに慰められて、スタークはより一層沈み込む。居た堪れなくなったスンスンはカードを回収しつつ繰り返しごめんなさいと呟いた。こればっかりは本気で運が全てなのでどうしようもない。

 さて、そんなことでいい時間になった為、ゲームはこれでお開きとなった。

「楽しかったよアメミト!」

「なんだかんだいって盛り上がったな」

「こちらこそ、楽しかったぞ」

 また遊ぼう、と互いに約束しあって握手をする。第三の宮の出入り口まで二人を見送ったアメミトは、ついでにそろそろ帰ってくるであろうハリベル達を出迎えに行った。

 

 余談。帰還したハリベルとアパッチが第三の宮の自室に戻ると、テーブルの位置が移動していることに気付いた。ハリベルがアメミトに問い質すと、第1十刃であるスタークとその従属官のリリネットが遊びに来ていたのだと答えられ、ハリベルは途端に機嫌を悪くする。その様子にアメミトは動揺して、慌てて宥めようとした。

「ティ、ティア。別に普通にトランプで遊んだだけだって。シィアンだってディーラー役で一緒に遊んだし。な?」

「え、えぇ。後半にかけて大変申し訳ないことをしてしまった気はしますが……」

「あれは運だからしょうがない」

「……私もアメミトと遊びたかったのに……おのれ藍染」

「え、あ、うん。藍染に八つ当たりするのはやめような。じゃあ、紅茶淹れたら皆で遊ぼうか!7並べにするか?大富豪?ポーカーでもいいぞ」

「……ページワン」

 その日は睡魔に負けるまで、全員でページワンで遊んだ。




ブラックジャックのシーンは実際にトランプを並べながら書きました。スンスンの引きがマジで強すぎで思わず笑った。
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