緋月昇は記録者である~きらめきの記録~   作:Feldelt

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第1話 新たな戦い

讃州中学勇者部。その活動は人のためになることを勇んでする部活。ボランティア、というのが一番分かりやすいだろう。もっとも、本業は……もう終わったことだ。だからこれからは、人のためになることを行っていく有名な組織として活動していく……はずだった。

 

 


 

 

「……どうして、また……」

 

平穏を取り戻したはずの勇者部は、日常を謳歌していたはずだった。もう戦うことはないと、そう信じていたはずなのに。

 

「どう考えても樹海だ、俺の仕事は終わったはずだろ……」

「どう思う、そのっち。そのっち?」

 

東郷が園子を呼ぶが反応がない。というか、樹海全体を見回しても園子が見当たらない。レーダーの反応の外……いいや、そもそもこの樹海の中に入れていない可能性のほうが高い。だとするなら……いや、そもそも彼女たちはもう勇者になる能力はないはずだ。システムだって、もう必要ないからとアプリはアンインストールされている。そのはずだろ。

 

「昇、まずは落ち着きなさい」

「落ち着いてる。落ち着いてるからこそ飲み込めてない。……が、飲み込むための時間をくれそうにもないな」

 

そもそも園子ははじき出されてるのに俺は何故樹海に入れられているんだ。記録者としての仕事といえばそれまでだが、だったら大赦が兆候を掴んでるはずだろ。なのに、それがなかったということは明らかにイレギュラー。敵はあの戦いでおおむね倒したんだから、しばらくは再生に時間がかかるはずなんだ。だから……壁の外からの攻撃じゃない?

 

「緋月くん、考えてるところ悪いけど……」

「あぁ、わかってる東郷。もう戦闘は始まってるんだろう?だが、有象無象だ。ここからなら射線も通る。動かなくても片づけられるだろう」

「そうね……何か気づいた?」

「仮説程度には。だが、俺が今ここにいることの説明がつかない」

 

霊札だって今は持ち合わせていないから全くの非力だって言うのに、何故俺はここにいる?樹海内状況の記録のためとはいえ、仮説が正しければそんなことをする必要はないだろう。それとも……いやむしろ記録することそのものを求めている?何のために?

 

「状況終了よ!」

「東郷さん、ひーくん、ただいまー!」

「おかえり、友奈ちゃん。怪我はない?」

「うん、だいじょーぶ!」

「緋月のほうは……相変わらず難しい顔してるわね」

「難しい顔にもなりますよ、今俺がここにいることの整合性が何一つないんですから……」

「でも、昇先輩はいっつもわたしたちと一緒に樹海の中にいたじゃないですか!」

「それは大赦がそうしろと言うからだ。……今回の樹海化、大赦は知らないぞ」

 

全員が『えっ』と声を出すと同時にレーダーにはバーテックスの反応が復活する。第二波、本命の大型もいる。

 

「ちょっと待ってよ緋月、大赦は知らないって……じゃあ急に仕掛けられたってこと?」

「風、考えるのは後よ。まずは敵を殲滅するところから始めましょう」

 

夏凜の言う通りだろう。だんだんと増えてくる敵は撃破しなければならない。それに……

 

「あれは何?バーテックスの中に、見たことない形のものがいる」

「魚かな?魚……じゃないかな?魚かな……?」

「レーダーだと、ばっちり敵の色になってるよ、お姉ちゃん」

 

新型バーテックス。懸念はそれだけじゃない。嫌でも付きまとうのは直近の経験。力を使った、リスク。満開まで使う戦いにはならないだろうが、それでも……

 

『落ち着いてください。ここでは、力を使ってもリスクはありません』

 

思考を遮るように、直接脳に響く女性の声が聞こえる。こんな芸当ができるのは……巫女様か?

 

『乃木さんも、私といます。今は戦ってください』

「……ひとまず園子の安全はわかった。新型はわからんが、あの乙女型は前に何度も倒している。連戦だが、いけるな?」

「えぇ。戦えないアンタのところには一匹たりとも通しはしないわ」

「それじゃあ勇者部、連戦行くわよ!」

『おー!』

 

そう掛け声をして少女たちは戦線に向かう。俺は癖でまた記録を取っているが、現在の状況にまだ納得のいくところはない。巫女様と仮定して……当代の巫女様がコンタクトをしてきたのならもっと前から一緒にいたはずだ。そもそも当代の勇者は適性の高い少女を集めているというシステム上巫女様が見初めた勇者という例のほうが稀なレベルだ。つまり、その線は限りなく薄い。それに、システムを介してではなくシステムを使っていない俺にも直接声を届かせるような能力の持ち主ともなると……巫女様と仮定してもさらに絞られる。それこそ初代大赦の長、上里様レベルの能力だ。ありえるのか、そんなことが。……現在の樹海化の状況が壁の外ではないことはほぼ確定な以上、外的ではなく内的要因と考えるのが筋。神樹様の内的要因?土地神様の集合体が神樹様なのだから、その集合が分かたれたということか?……そう考えると、『叢雲』のことも合わせて説明がつくか。だとしたら……厄介なことに巻き込まれている。だがそれでも、俺がここにいることの説明にはならない。

 

「終わったわよ、緋月くん」

「……そうか」

 

樹海化が解けていく。思考は止まらないが……いったん打ち止めか。

 

 

 

 




次回、第2話「神樹様の中で」

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