緋月昇は記録者である~きらめきの記録~   作:Feldelt

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第10話 北と南

事前に勇者部室をもう一個作っておいてよかったとしみじみ思う。

今や勇者部の人数は6+3+6+2……俺も含めて18人か?元が6,7人だったことを考えれば約3倍……全員が家庭科準備室に集まると密度が凄い……

 

「ひーくん、すみっこで狭くない?」

「むしろ隅じゃないと居場所がないだろう……幸い、このくらいのスペースだけでもあれば……書類に目を通すことは、確認することはできる……」

「昇さん、また仕事ですか……?」

「あぁ。大赦からの返答とか、この前の申請の結果とか……」

「根を詰めすぎないようにしなさい、無茶は身体に毒だと知らないわけでもないでしょう?」

「だな……」

 

今全員がこの家庭科準備室にいるのは、第二勇者部室を本格的に改装するからである。長らく俺の事務スペースとして、相談室として運用を続けていたが、勇者の人数の増加に伴って本格的に運用を始めないといけなくなってきたのだ。まぁ改装といっても業者を呼んだリフォームとかではなく単純に部室としての運用ができるよう必要な物を用意し配置するだけなのだが、今目を通した資料はその必要な物の一覧だ。

 

「ところでヒナちゃん、これで召喚された勇者はそろったのかな?」

「神託によれば、後二人来るそうですよ。ただ、少し特殊なケースみたいです」

「とくしゅなケース?」

 

何をもって特殊とするかはわからんが、この空間に後二人押し込むことになるのかと思うと頭が痛い。第二勇者部室にはもう物が運び込まれているのが救いか。ならとっとと改装に移ったほうがいいな……っとと……書類を落としてしまった。

 

「ほい、落ちたよん」

「あぁ、すまない……」

 

眼鏡をかけた少女が拾った書類を受け取り、目を通し直す。これならきっと大丈夫だろう、後は実行だけ…………ん?眼鏡をかけた勇者なんて、ここにはいないぞ?

 

「誰だ?」

「おー、スルーされたのかと思ったよ。それとももう溶け込んでいたりする?」

「わあぁ!?」

 

と、驚いた杏を横目に結城の友奈と歌野が話しかけている。この二人の気さくさには本当に助けられるね……なんて思いながら、この調子ならおそらくもう一人増えているはずだと首を回す。勇者はあと二人増えると言ってたわけだからな。そうなると、また説明資料を用意しないとな……プロジェクターと……っと、そこか。

 

回した首の視界の先に身長の高い褐色の少女を見つける。かたや友奈たちのように気さくなタイプ、こちらは千景のような寡黙なタイプだろう。勇者たちのコミュニケーションによって、眼鏡のほうが秋原雪花、褐色のほうが古波蔵棗という名前なのがわかった。こうなると、改めて始まるのが全員の自己紹介と、世界の説明である。あと何回、これをやるのだろうかと思っていたが……多分、これで終わりだろう。

 

 


 

 

「……以上が、この世界の状況と現状の説明だ」

「あぁ。わかりやすい説明、感謝する」

「同じく。状況は精霊から聞いていたけれど、より理解できたよ」

「え、精霊って……あんたの精霊、喋れるの!?」

 

神様の性質の違いだろうな……昔、大赦の文献で神樹様に含まれる土地神の性質を見たことがある。雪花が来たという北海道、棗が来たという沖縄、それらは確実に神様の性質が違う土地らしい。土着信仰という言葉があったようだが、それが強い地域なのかもしれない。あるいは、西暦以前の歴史的なものか……

 

「ッ……来たわね」

 

思考しながらプロジェクターを片付けているところに警報音が鳴る。歌野のときの反省を生かして説明資料に勇者システムの使い方を入れておいてよかった。脱ぎ着するなんてことはなさそうだな……

 

「それじゃあ、いつものように迎撃と……こいつだな」

「お札?」

「お札だねぇ。これをどう使うの?」

「通信機みたいなものだ。わざわざ端末を使う手間を省ける。会話したいときに会話できる」

「それじゃ、ありがたく使わせてもらおっかな」

 

霊札を受け取った勇者16名が戦場へ向かっていく。いや、多いな……こうまで多くなると全員の位置認識も誰が何をやったのかとかもまともに頭に入らねぇぞ……この位置からでは見える範囲も限定的だ。かといって記録のために前に出るとなると記録がおぼつかなくなることは必至、本末転倒だ。

 

「第一波、来ます!」

「敵の数が多い……この世界に来てから一番大規模な襲撃ね」

「ただ量があるだけなら対処もしやすいが……なんだ、この違和感は」

「昇さんも感じますか?」

「あぁ、こちらの陣形は鶴翼を三つ扇形に並べたような配置、前衛と中衛のフレキシブルな動きを中心にいる後衛が援護していく形だ。だが、敵はそれに対応するように前衛を三つに分けてぶつけてきている。……短時間で済ませないと分断されるか」

 

前衛を前衛で押しとどめさせ、中衛が動いてるところで手薄になる陣形と陣形の狭間を狙って食い破りに来るような戦法だ。バーテックスがそんな戦法を取ってきたということは……造反神は相当この襲撃を成功させたいらしい。だが、これをするならひとつ前の襲撃のほうがよかったのではないか?いや、勇者が増えていたのは結果論だろう。対策されるまでこの陣形を使い続けていたのにも問題はある。

 

それに……それだけが違和感ではない。

 

「300,400……さっき見たレーダー上の数値はざっと600……撃破されている量を含めて考慮しても……数が合わない」

「……潜行している!?」

「とするなら狙いはここだろう……!」

「ッ!」

 

刹那、樹海の中から潜行してきた魚型のバーテックスと、魚型が引き連れてきた100体程度の小型バーテックスが目の前から出てくる。あと一歩退却が遅ければ確実に吹き飛ばされていたが、これはまずい。中衛と後衛の間、中衛が前衛に意識が向いているタイミングでのデッドスペース……ここを的確に突いてくるか……!

 

「緋月さんは引いてください!ここは私たちが!」

「そうしたいのはやまやまだがな……!」

 

霊札で盾と剣を作り、小型バーテックスの猛攻を捌く。撃破まではできないが自衛くらいはできる。通信はもう行き渡っているから、数十秒持たせればいい……!

 

「はっ!」

 

そう考えていたタイミングで数本の槍が雨のように降り、バーテックスを撃破していく。同時に、白い勇者装束の少女は魚型を前衛すら飛び越えさせるほどに吹き飛ばしていた。

 

「後ろのみんな大丈夫ー?」

「すまない、少し遅くなった」

 

通信用霊札からの声と、目の前の勇者からの声。窮地は脱したようだ。

 

「棗さん!雪花さんも……助かりました!」

「よく気づいたな……」

「潜るのは私の得意分野だ。だから、潜っている敵はなんとなくわかる」

「アタシは棗さんが動いたのをみて援護に回っただけだよん」

「本当に助かったわ。それじゃあ……今度は私たちが前で頑張ってるみんなを助ける番ね」

「はい!仲間とともに御役目を遂行します!」

 

頼もしい東郷と須美の射撃を見ながら、俺は少し下がった。おそらく敵の策は今の奇襲を成功させたいがために組んだものだろう。体感、これは完全に体感だが、小型バーテックスは俺を狙ってきた個体が多く見えた。そう感じたのは、気のせいだったらいいんだが……気のせいではなさそうだと勘が告げている。

つまり、敵も相当頭を使ってきていると考えてもいい。とんでもない量のバーテックスんい指揮系統が存在しているとなると……今後の戦いはますます厳しくなっていくことだろう。

 

──だが、俺のやることは戦いではない。勇者として戦うことは俺にはできない。だからこそ、あの子たちの戦いを少しだけでも楽にしてやりたいな……

 

 

 

 

 

 




次回、第11話「激戦の樹海」

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