緋月昇は記録者である~きらめきの記録~   作:Feldelt

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第11話 激戦の樹海

第一波は退けた。が……

 

「緋月さん、ずっと難しい顔してますね」

「全部の戦術を練り直してかつ記録も取ってるから……というのはわかるけど……気になるのは敵の狙い。まさか緋月くんを狙ってくるなんて……卑劣な」

「俺が敵の立場でも俺を狙えるなら狙うさ……勇者のメンタルを削げるなら一番弱いところから詰めていくのが常套だろうよ」

 

脳内で状況を組み換えながら戦場での振舞いを考える。どうしようもない部分もあるが……

 

「まぁ、それほど考えても実際にぼるくんが戦うわけではないんだし、もうちょっと肩の力抜いてもいいでない?」

「……それを言うか」

 

そんな思考の最中、雪花の放った一言に反応する。それだけは、俺にだって譲れない部分なのだから……やや声に怒気がこもってしまったようだ。

 

「せっちゃん、ひーくんは……」

「友奈は襲撃に備えててくれ、これは俺の矜持の問題だ」

「矜持、か。ぼるくんはそのお札があるけれど……私にとっては勇者じゃない人は護らないといけないって思っちゃう。護りたいのに護らせてくれないなんて状況を作って、そのせいで護れませんでしたなんてこと、やだよ」

「それはそうだろう。だが、人を護るためにはまず自分を護れないと始まらない。俺は、勇者が勇者として戦えるように……勇者の戦いが少しでも楽になるようにしてあげたいだけだ。俺にできることは、それぐらいしかない」

「なるほどねぇ……言いたいことはすっごくわかる」

「あぁ、こちらもそうだ」

 

雪花の言い分も、俺の言い分も筋は通っている。だからこそこの議論はこれで終わりにすることにした。言い争っても敵を倒せるわけではない。

 

「でもまぁ、こうしてちゃんと心配してくれたり私たちのこと考えたりしてくれるのは、素直に嬉しいかな。そんな経験なかったからさ……優しさがしみるわ」

 

そんな雪花の言葉を受け止め、俺は何も言わずに戦術を考えなおす。優しさだけでこの子たちを護れるのなら、それに越したことはないがな……とは思ったがそれを声に出しても何にもならない。俺は記録者だ。その本分は忘れない。そこからどこまで俺の手が伸ばせるかを考えて動いているだけだ。それを優しいなんて言葉で片づけられてはいい気分ではない。なにせ、これは俺のエゴだ。

 

「敵、再び来ます!」

「戦術構築は間に合ってない……銀と球子を再前衛に置くのは変わらず適宜援護の形をとるほうが良さげか……」

「それじゃあ行くぞ銀!タマについてこい!」

「了解です球子さん!ついていきます!」

 

この二人の前衛魂は本当に助けられる。得てして被弾も多くなるのが常だが、この前案だけ置いておいたMAP作戦もとい継手戦術をおそらく無意識とはいえ完璧にこなしている。だからそこを軸に取りながら須美、杏、東郷、園子(小)の援護で動きやすくする。その周りにその他近接の勇者、W友奈と若葉、夏凜、棗、風先輩を散らして配置することでフレキシブルに連携を取ってもらう。樹、千景、雪花、歌野にはスーパーサブ枠として一歩引いた位置から不足している部分を埋めてもらう。急ごしらえにもほどがあるが、戦術構築はできた。あとは、敵の動きとデータを頭に叩き込んで5秒先の敵の動きを読むだけだ。

 

「さっきより動きやすい……というか、敵の動きが読めるわね」

「昇さんのプランニングのおかげかしら!」

 

そんな声が聞こえてくるが俺がやったのは適材適所を極めたような配置にしただけだ。その場の連携は勇者たちのポテンシャルあってのことだろう。それに、敵が俺も狙ってくるという情報は何も不利に働くわけではない。俺を狙えると誤認させてさえしまえば、戦い方なんていくらでもある。むしろ、敵も頭を使ってきているとわかった時点で戦いやすさは変わっている。策に対して策をぶつけるのが戦場の常だ。

 

「第一波のような潜行攻撃はない。遠距離攻撃型も俺を狙えないせいか勇者を撃っている……うまくいきすぎている、何かを見落としていないか、いや……これか」

 

レーダーに映るのは超大型の新型バーテックス。なるほどこいつを使うから攪乱も何もなしに物量戦術を押してきたわけか……甘く見られてるな。

 

「皆さん!あれが最後の大型です!」

 

杏の声が響く。周囲を見回しても確かにこれ以上の攻撃はない。なら、もう心配は無用の長物だろう。

 

「小物はこっちで狩るわ、乃木さん。任せるわよ」

「あぁ、行くぞ!」

 

若葉が先陣を切りながら大型バーテックスとの戦闘に入る。続けて夏凜、棗がそれぞれ攻撃に加わるが図体のせいか有効打には見えない。

 

「……ッ!」

 

大型バーテックスは発光後特定の場所を爆発させる攻撃と、直線状のビーム攻撃の二種類の攻撃方法を持っている。前者はまともに回避できるようなものではなく、後者は後衛を確実に狙って撃ってきてる。予備動作が違うおかげでビームの方は避けれているが……爆発の方は見てから防ぐしかない。

 

「人数がいるとはいえ、この攻撃ではな……!」

 

後衛よりもさらに下がっていたはずの俺まで狙って撃ってきたビームを避け、全員の位置を確認する。さっきまで作った陣形は崩れ気味だが、歌野と千景、樹と雪花が小型を足止めしてくれてるおかげで優位はとれている。

 

「爆発の方を止めるか、接近戦に対応するための爆発ならこれを潰して……」

「昇!前に出すぎよ!」

「ちっ、向こうとの距離を見誤ったか!」

 

他に奴の情報はないかと無意識に情報を取りに行ったせいか少し前に出てしまう。夏凜の声で下がることはできたが、その声がなければさっきまで立っていた根が爆発に巻き込まれてるのを見るに……危機一髪というやつだ。爆発のせいで巻きあがった樹海のささくれが左頬を切っていったが些事だろう。

 

「爆発攻撃には射程がある、ビーム攻撃には射程がない代わりに連発ができないってとこか」

「それがわかったのはいいが、のぼる!これじゃあ攻めるにも攻められないぞ!」

「くっそー!」

 

前衛のタマと銀は防御に徹している。頼もしい限りだが時間的余裕と体力的余裕はないと考えたほうがいい。現にあの大型は確実にこちらのラインを下げている。

 

「発光部位は二か所、か……二か所同時に発光し、直後に射程内で爆発。これまで爆発した場所とその時の敵の位置関係は……」

「また来る!合わせて結城ちゃん!」

「うん!せーの!」

『勇者パァンチ!』

 

爆発攻撃の発光に合わせて結城と高嶋の同時攻撃が大型バーテックスの発光部位を抉る。バランスを崩した大型バーテックスは後ろによろめき、斜め上に発光部位から出た何かしらの光が飛んでいき、空中で爆発する。

 

「そうか、目なんだ!若葉さん!」

「心得た。夏凜!合わせてくれ!」

「了解!」

「ならこちらも行こう」

「おっけー、じゃあ渾身の女子力を込めた一撃をお見舞いさせてやる!」

 

左から若葉と夏凜、右から棗と風先輩が発光部位に対して攻撃を仕掛ける。まだ残っていた小型バーテックスはそれを妨害するように動き始めるが、それは悪手だろう。攻撃対象が被る位置にあるということは、中衛組も発光部位への攻撃に参加できるということに他ならない。なら正面だけでも巻き込むと考えるのが筋だろうが……それはもう読めている。

 

「須美ちゃんは左をお願い!私は右を撃つわ!」

「はい!」

「あとは、タマっち先輩!」

 

左右と正面、後衛からの援護でよりバランスを崩したように見える大型バーテックス。だが、奴の中央からビーム攻撃の予備動作が見える。

 

「銀!攻撃は任せたぞ!」

「はい!それじゃあ球子さんお願いします!」

「あぁ!タマに任せタマえ!」

 

あろうことか球子が己の武器でビーム攻撃の前に躍り出て精霊のバリアとともにビーム攻撃を至近距離で受けていた。銀はその球子の後ろで彼女を支えている。が、あの体勢、おいおいまさか!

 

「よし!行け!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

ビーム攻撃を全て防ぎ弾いた球子の合図と同時に銀が炎を纏った大斧で真正面から突っ込み、重い攻撃を何度も炸裂させる。

 

「今が勝機だ、畳みかける」

「はい!敵を拘束します!」

 

棗の声で樹が敵をワイヤーで縛る。発光部位も粗方ダメージを負わせ、正面はもうボロボロと言ってもいい。自由に動けやしない敵の状況に、後ろから鎌が追い打ちをかける。

 

「白鳥さん!」

「任せて!はぁ!」

 

千景が裂いた傷を歌野が鞭で連打を与えさらに壊していく。ここまで追い込めば十分だろう。

 

「とどめ任せるわよ!若葉!」

「任せろ!雪花、一緒に行くぞ!」

「おっけー、それじゃ……必殺の一撃を決めるよ!」

 

若葉と雪花の連携攻撃で大型バーテックスはついに撃破まで行きつく。小型も全て消えている。状況終了だ。

 

「敵、完全に消滅を確認。皆さん、お疲れさまでした!」

 

杏の声で皆の緊張が緩む。激戦だったが……無事に終わったようだ。

 

 


 

 

戦闘終了後、部室に戻った俺たちは通例のように怪我がないかと巫女二人と園子(中)に聞かれ、大事に至るようなものはないと答えた。どうやらあのビームを受け止めたことで最後大きくのけ反った球子は転んでかすり傷を受けたようだし、銀も銀で最後の攻撃のあと着地を失敗して足首をひねったらしい。

 

「いたたたた!?あんず~、もうちょっと優しくしておくれ~」

「もう、タマっち先輩ったらあんな無茶して……腕とか脚とかかすり傷だらけだよ」

「しょうがないだろー!」

「でも、かっこよかったよ」

「だろ!かっこよかったといえば、タマは銀もめちゃくちゃかっこよかったと思うゾ!」

「ありがとうございます!まぁ、着地失敗して今冷やしてるのはちょーっとかっこ悪い気もしますが……」

「功労者の勲章なんだぜ~」

「名誉の負傷よ、銀。まぁ、怪我がないことが一番なんだけど」

 

かくいう俺も左頬を切ったせいで大仰な絆創膏を貼られ顔の筋肉がうまく動かせない状況になっている。

 

「初陣からハードだったにゃ~。でも、みんな強いね。頼もしくてしょうがないよ」

「あぁ。一人で戦うよりも、戦いやすかった。感謝する」

「感謝するのはこっちの方よ、棗。あなた、凄腕の勇者じゃない」

「せっちゃんもすっごく頼りになったよ!ありがとう!」

「どういたしまして。いやぁ、あなたたちとはもっと早くに出会いたかったよ」

 

そんな雪花の言葉に色々な推測を始めるが、考えても仕方ないと続いたのでその推測を止めた。それを考えても、こちらからできることは何もないのだから。

 

「それでは、これからについてお話しますね」

「これから……神託があったのか、ひなた」

「はい。皆さんが戦っている間に」

「内容は、勇者が揃った今なら、防戦一方だった今の状況から攻めに転じることができるって感じ」

「造反神を鎮めるための次のステップに入ったってことね、みーちゃん」

「うん。そういうことだよ」

 

ということは、これからは防衛戦だけじゃなくて占領戦も始まるということか。考えることがまた増えたが……事態は好転しているのだろう。

 

「ある意味、ようやくスタートラインに立った感じですね。早速ですが、次の満月の日にこちらから仕掛けられるとも神託がありました。時間はあるので、皆さん。準備の方よろしくお願いいたします」

「了解だ。それまでは羽を伸ばしたりして過ごそう」

「それじゃあ今日は解散!いっぱい動いたし、お風呂入ってご飯食べて寝る!」

 

その先輩の声の後、雑談の後に勇者たちは各々解散していく。俺は部屋の隅に置いてあった資料や書類に目を通しながら、次の満月までの約二週間をどう過ごすか考える。

 

「のぼるん」

「ん、どうした園子」

「今日はもうお仕事禁止!おうちに帰るんよ~」

「ちょ、園子、引っ張るな!」

 

そんな中半ば強制的に仕事から引きはがされた俺は……夏凜と園子に振舞う夜ご飯の献立を何にするかに思考を切り替えていたのだったとさ。

 




次回、第12話「幕間、上弦の月」

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