緋月昇は記録者である~きらめきの記録~   作:Feldelt

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第12話 幕間、上弦の月

次の満月まで約一週間。勇者たちは思い思いに過ごしてリラックスしているが、俺は占領戦の戦い方を頭に叩き込んだり、仕事を片付けたり、勇者部の依頼を解決したりして過ごしている。リラックスなんてものとは縁遠いが、これはこれで充実しているのだからまぁいいだろう。

 

「よし、この書類は終わりだな……これで……」

 

横に置いてあるチェックリストにチェックを入れる。友奈発案、東郷製作のこのチェックリストはこの二週間のうちにやっておくことを整理するために作られたものだが……チェックリストの末尾には必ず23:00就寝と書かれている。少し前も寝ずに仕事や依頼をこなしていたせいで倒れたのもあって、睡眠の重要性を割としっかり説かれた挙句、園子に無理やり布団に叩き込まれたなんてこともあり……結果として仕事の一環として睡眠を入れることでここしばらくは眠れている。

 

おかげで身体の調子は悪くないが仕事の調子はすこぶる悪い。普段ならもう1.3倍のペースで終わらせていたところだが……

 

「重要度の高いものはある程度は済んでるし、会計系の書類は本庁に提出済み……依頼一覧は日付指定のないものだと……これは杏と球子が行ったと聞いたな……」

 

改めてリストに目を通してチェックを埋めていく。大赦系の書類以外は軒並みチェックが埋まっているあたり、自分の体感と実際の結果に乖離があったようだ。

 

「……はぁ」

 

ため息が出る。

このズレは、戦場で記録する自分には致命傷になりうるものだ。どこかでどうにか矯正しないといけない。だが、どうやって。

 

その方法を模索するために書類を片付けて第二勇者部室を出る。勇者部活動も今日はもう受付終了時間。自由時間に入っている頃合いだろう。

 

「緋月昇、戻ったぞ」

「おかえりひーくん!お仕事お疲れ様!」

「高嶋か、樹に占ってもらってるのか」

 

テーブルに置かれた6枚のタロットの一番上をめくる。恋人の正位置。樹曰く、高嶋の運は色々ひっくるめて絶好調のようだ。

 

「ただいま~。お、ぼるくん。ちょうどいいところに」

「雪花か。ちょうどいいというのは?」

「いやー、銀ちゃん須美ちゃんにここら辺案内してもらったんだけどさ……単刀直入に。ぼるくんから見たファッションについての話を聞きたくて」

「疎いぞ」

「それでも私ら女子にはない視点ってもんがあるでしょ、まずはこれ見て」

 

雪花のスマホの画面には大きく文字が書いてある柄物の服の写真が二着分写っていた。

 

「随分と奇抜だな……こういう服売ってるんだ……」

「まずそこに驚くでしょ?これを諏訪組の二人がお互いに似合うって言っててね、野暮だとは思うけどやっぱり言いたくなっちゃって」

「本人たちがいる前で言うんだな」

「本人たちがいる前で言ったよ。素材が可愛いから何着ても可愛いけど、着る服選べばもっと可愛くなるって」

「わからんでもないな。まぁ、制服ばかりに袖を通しているから、私服を着る機会なんざない俺が言うのもあれだが」

「で、ここから本題。ずばり、この二人に合う服は?ってことでぼるくんの意見を聞きたいわけ。可愛い女の子のファッションを年頃の男の子に聞いてみるってどうよ」

「……どうと言われてもね」

 

しかし聞かれたからには答えてあげねばなるまいて。なんか後ろで銀と須美はそわそわしてて棗はいつも通りな感じだったが……まぁ、いいか。

 

「知見がないなりに適当なことを言うかもしれないが……まず歌野だな。前提として汚れてもいい、かつ動きやすい服装がマストだろう。ジーンズと緑や茶色系統のシャツがあればそれでいい気もする」

「機能性重視ってこと?」

「だな。実際問題、農作業をする歌野には必須条件のはずだ。同様の条件で水都についても考えるが……ジーンズよりかはポケットが多いズボンのほうがいいだろう。適宜必要な物を用意して歌野にもっていく水都には必要装備だ。上は歌野同様に動きやすさ重視で考えていい。色合いも歌野と同様自然に溶け込めるような配色であればいいだろう」

「……ぼるくん」

 

聞かれたから答えたぞ、これでいいか?という前に、雪花のじっとりとした視線が眼鏡越しに伝わる。そういうことを聞きたかったわけじゃないって?

 

「ぼるくんに聞いた私が間違ってたかもなぁ~」

「聞かれたから答えただけでなんでそうなる」

「いや、うん。ちゃんと見て聞いて記録した情報を基に喋ってるから、脈絡ないこと言わないなって。欲望とかない感じ?」

「欲望か、ないと言えば嘘になるが」

「いやー、さすがにそうだよね。もしないなんてきっぱり言われたらぼるくんほんとに人間?って疑っちゃうところだったよ」

 

あはは、なんて笑いながら雪花は続ける。

 

「いやでも、理にかなった考え方でファッションを考えてるとは思わなかったな。じゃあ今度は」

「断る」

「早いて。まだ何も言ってないでしょ」

「俺をマネキンにでもするつもりだろ?」

「バレてたか。でも私服に袖を通さないなんて言ったのはぼるくんでしょ?通してもらうからな~?」

「歌野、何とか言ってくれ……」

 

これでは逃げられん、そう判断した俺は歌野に助けを求める。

 

「んー、つまりピーマンだけじゃなくて、彩りのあるパプリカも育てましょうってことね!」

「それでいいのかな……」

「いいんだよ~、それじゃあ今度のぼるん着せ替え大会みんなでやろうね~」

「聞いていたのか園子……」

 

どうやら依頼から帰ってきた園子(中)と杏と球子に事の顛末を聞かれていたらしい。

こうなってしまってはもはや逃げる術はない。うなだれるしかないのか。

 

「うんうん~のぼるんはどんな服が似合うかな~?」

「ほどほどにしてくれ……」

 

観念した俺は携帯の通知に目を走らせた。提出した書類は問題なく受理されたらしい。ただ返信を要する書き方だったから中身を開く。画面には樹海化警報の文字が現れた。

 

「……満月まで日があるが」

「まぁ、その、あれだ。神樹様といえど、間違うことだってある!」

「言いきっちゃうのはどうなのかな……でも、樹海化するなら戦わないと」

「じゃあ着せ替えは今度だね~。みんな、いってらっしゃい」

「あぁ、行ってくる」

 

おそらく今度は占領戦。敵をこちらから攻める番だ。さぁ、どう出てくる……




次回、第13話「占領戦」

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