樹海の奥、鎮座するのは今までに見たことのない新型の大型バーテックスを中心とした一団。動く気配はない。
「……なるほどな」
おそらく、敵の一団はしっかりと防衛の択を取っている。動くことなくこちらが来るのを待ち構えている。陽動も効かないだろう。なら正面から行くしかないが……気がかりなのはやはり新型。そして、妙に多い遠距離型の二つ。その遠距離型の前には星屑がうようよしているのを見るにあれは索敵要因だろう。下手に近づけば狙撃されるか……
「……東郷」
「東郷さん」
杏と声が被る。考えていることは同じか。
「杏ちゃん、緋月くん。何か思いついた?」
「はい。おそらく敵はあの大型バーテックスもどきを中心に防衛体制を取ってます。ですが、前衛が近づくには取り巻きの遠距離型が障害になります」
「この距離で威力と精度を同時に確保できるのは東郷しかいない。一発撃てば他の飛び道具組も撃てるはずだ」
「わかったわ」
「狙撃のタイミングは杏に任せる。問題は……」
「敵の遠距離型による逆狙撃ですね。東郷さんには狙撃に集中してもらうので咄嗟の回避は難しいと思います。なので、緋月さん」
「霊札による防御、か。防げて一発程度だぞ?」
「はい。その一発さえ防いでくれれば、あとは全部私達で落とします。そうすれば、前衛が大型バーテックスに仕掛けられると思います。……ただ、懸念もあります」
「大型バーテックスの動きがわからないところか」
「はい。なので、緋月さんには観察にも集中してほしいです。私も入念に見ますが、やっぱり観察という点では緋月さんがいちばん正確かと思います」
「タマのあんずにそこまで言わせるとはな、なかなかやるなのぼる」
その流れで作戦が決定していく。まずは敵の取り巻きを減らし、敵に近づく。
近づいたタイミングで前衛組が一斉攻撃。中衛はその援護。そこから先は臨機応変だが、俺か杏の指示は基本通すように意思の共有はしておいた。俺も、観察だけに注力できるならその方がいいしな……
「東郷さん、緋月さん。準備はいいですか?」
「霊札展開完了。東郷の狙撃に合わせて起動する」
「私も準備完了よ」
「それじゃあ、作戦開始します!」
杏の声とほぼ同時に東郷の狙撃が炸裂する。リロードの時間と逆探知される時間、敵の量と位置……分散してるなら複数飛んでくるか……!
「来るッ!」
前面に展開した霊札を起動し、防壁を作る。直後、激しい爆発が何か所か起こり、俺の想定通りに展開した霊札は一発を防ぎ焼けていった。だが、東郷の二発目は間に合う。作戦通りなら、敵の遠距離型がこちらを狙い撃った直後にほかの飛び道具組が遠距離型を落としているはず。
「敵遠距離型を撃破しました、皆さん!」
「あぁ、よくやった杏。勇者達よ、私に続け!」
樹海の合間から若葉を先頭に勇者たちが大型バーテックスへ仕掛けていく。ここまでは作戦通り……ここからは敵の様子の観察だな……
「……東郷、あれをどう見る」
「友奈ちゃんやみんなが攻撃を仕掛けているけれど……反撃の様子はないわね」
「だな、明確におかしい挙動だ。大型バーテックスもどきとはいえ、あの量の攻撃を受けて無事とは考え難い。反撃しないということは、反撃する必要がないんだ。何かしらの攻撃を受けることで始まる何かがあるか……?だとしたら……」
周囲の星屑は千景や歌野、樹が面制圧をすることで数を減らしているが、大型バーテックスの様子だけは変わらない。それがたまらなく不気味だった。考えられるのは、攻撃を蓄積することで何かしらの反撃を取ってくるということ。あるいは、深追いさせて誘い込むこと。いずれにせよ、一度引いた方がいい。だから、バーテックスの動きに反応するように指示を出せた。
「ッ!攻撃中止!全員引け!」
『ッ!』
通信用霊札を介して通った俺の声は勇者全員の耳に入り、即座に勇者たちは引いていく。そのタイミングとほぼ同時にバーテックスから衝撃波が放たれる。
「あっぶない……よく気づいたなのぼる!」
「あぁ、俺を観察にあてがわせた杏の采配のおかげだな……して、今のはただの衝撃波か?それとも……」
あれだけで終わるなら衝撃波の当たらない距離からの攻撃で削り切れるはずだが、そんな単純に終わらせてなんてくれないだろう。
「傷だらけの身体を切り離した……!?」
「そしてそれがいっぱいの星屑になったー!?」
振り出しだ。攻撃を与えれば与える分星屑の量が増えていくなら、あの大型の分離増殖が尽きるまでの消耗戦になるだろう。
「タマネギみたいな形をしていると思ったけれど、まさか本当にタマネギみたいなことをしてくるだなんて……!」
「驚いてる割には平常運転だな、歌野。だが、これではただの繰り返しになってしまうぞ」
「……杏、どう見る」
若葉の警鐘と俺の観察の情報。杏の作戦立案能力。この局面を切り抜けるには、全部欲しい。
「作戦はあります。まず、増えた星屑を倒します。この際、本体の大型バーテックスには一切攻撃をしないでください。そして、星屑の数が減ったら……」
「大型バーテックスへの攻撃、だな。もう一度観測する必要はあるが、外れる部分があるということは、繋がってる部分もあるということだ。そこを狙えればいい」
「つまり、これを含めて二回、あの星屑たちを倒せばいいのね」
「了解だよアンちゃん!それじゃあ行こう!」
勇者たちの展開が再び始まる。星屑は大した脅威ではないのかその量を確実に減らしていってる。本体は無傷のまま、何もせずに鎮座している。
「大方片づけたわよ!それじゃあこの大きいのにも攻撃を……!」
「待ってください!前の衝撃波のこともあるので一旦飛び道具組で攻撃します!皆さんは一度休憩してください!」
「了解だあんず!銀!次のためにしっかり休むぞ!」
「わかりました!全力で休みます!」
前線にいた勇者たちはこちらまで引いてきて、その間に杏、東郷、須美、雪花で作戦を立てていた。
「緋月さん」
「どうした、杏。懸念か?」
「いえ。緋月さんには、これから私たちがする攻撃が、敵の衝撃波を出すまでどのくらい着弾したかを大雑把でいいので数えていて欲しいんです。もちろん、分離しない部分を見つけることもそうですが……」
「どのくらいのダメージでどのくらい星屑が生まれるのか相関が欲しいということか……できる限りでやろう」
杏の戦術は俺の思考とも一致している。俺が動きやすい理由の大半だろう。ここまでの作戦立案能力があるとは正直驚いたが、戦いやすいこと、動きやすいことは重要だ。
「それじゃ、私も何本投げたか数えておくよ。あんな大きくて動かない敵、外す方が難しいって」
「そうね。雪花の言う通りこっちでも数えておくわ」
「では私もそのようにします」
「それでは……作戦第二段階、始めます!」
飛び道具組の射撃が始まる。観測する限り一発も外していないのが腕を感じる部分だが、おおよそ100発くらい撃ち込まれたタイミングで敵が動く。
「だいたい100発か……星屑の量は、前とそんなに変わってないか」
「一定ダメージ蓄積の後、回復と分裂……ゲームでも、そういう敵は厄介よ。でも、攻略法がないわけじゃない」
「長く戦えば戦うほど面倒な相手なら、短時間でとっとと倒すに限りますよね!」
「緋月さん!敵の分離してない部分は!」
「中心だ、上からなら叩きやすい!」
「わかりました!作戦第三段階に入ります!一撃が大きいタイプの皆さんは本体に、手数で攻めるタイプの皆さんは星屑の対応をお願いします!」
「心得た。いくぞ!」
杏の指示が飛ぶ。俺はその敵の特徴を記録に残しながら、この先のことに思考を寄せる。大型バーテックスの攻略はできるが、攻略が必要なタイプのバーテックスもどきが増えていくとなると杏や俺への負担が厳しくなる。バーテックス相手に頭脳戦をするなんて想像もしていなかったが、前は俺を狙ってきたことも考えるとやはり明確にこのバーテックスもどき達には指揮系統が存在している。まるでこちらを試すかのような難易度で配置してくるその手腕は……もしかしたら本気を出したらこちらの思考など筒抜けになってしまうのかもしれない。それが、俺の想像している最悪のシナリオだ。杏の立案した作戦を全て看破された挙句こちらに打撃を与えてくるなんて芸当を想定しなければいけない。だが、それを返すなんてことは……厳しい。ここまで杏の立てた作戦は俺の情報を基にしている部分が在れど俺と同じ結果を出力している。それは意思の疎通が楽な分より精度の高い作戦にブラッシュアップできるメリットをもたらすが、同時に出力された作戦が固定化されてしまうというデメリットもある。
虚を突かれたときの対策がない……それが気がかりだが、それをすぐどうこうできるのもまた不可能だ、どうする……?
「のぼるん先輩?どこか痛いんですか~?」
爆風にあおられる髪を押さえながら、園子(小)がこちらの顔を覗き込む。
この規模の爆風、大型バーテックスは撃破されたのか……
「……いや、大丈夫だ」
きっと思考の渦の先、悩み悩んだその先のことが表情に出ていたのだろう。だが、今はこの子たちには必要のない悩みだ。
「……?」
「状況は終了したか……なら、そろそろ樹海化も解けるだろう。お疲れ様」
これで、まず一つ土地の奪還を達成した。あと何回戦えばいいかはわからんが……これから先、確実に険しい道になるだろうな……
次回、第14話「その先に」
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