緋月昇は記録者である~きらめきの記録~   作:Feldelt

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第4話 召喚、再び

鷲尾須美達神世紀298年の勇者が合流して一か月経つ。ちょくちょく侵攻してくる敵を捌きながら、日常の生活を謳歌しているわけだが、ついにようやくやっとこさ大赦本庁にも顔を出すことができ、この世界の状況だからということで勇者部と大赦の橋渡し役に俺が抜擢されてしまった。くそ、こんなことになるなら本庁に顔を出さなければよかった。……なんて愚痴を言っても過ぎたことはしょうがないし、今の大赦の人間に『上里ひなた』様が直接何か言おうものなら何が起こるか容易に想像がつく以上、正式に大赦に籍を置いている俺がこの仕事をやるのはまぁ、避けられないものだったのだろう。報酬はあまり変わらないが……それに、俺が大赦との折衝能力を得たとわかった瞬間勇者部内でもあれこれ大赦に言いたい放題しているため、即座に必要な物とそうでないものに振り分けたりなど、仕事だけが増えている。愚痴ってもしょうがないとは言ったが……はは、笑うしかない。

そんな笑うしかない状況の中風先輩から任された仕事を完遂させ、部室に戻る。

 

「あ、ひーくんお疲れ~」

「友奈か。本当に疲れた……今後も人が増えるというひなたの言伝と拡大していくであろう勇者部活動をスライドにまとめて教職員にプレゼンをするのは……本当に疲れた」

「本来部長がやるべきものなのに、風ったら依頼の解決にてんてこ舞いなんだから……」

「それで、結果はどうだった?」

「無事にパソコン室横の空き教室をもらったよ……まぁ当分は俺のデスクワーク室になると思うが……」

 

部室の奥に積まれた書類の束を見やる。大赦本庁へ送る報告書のフォーマットやすでに送った報告書のコピー、バックナンバーを取るためのファイルや新型バーテックスの考察、はたまたこの一か月間に行った勇者部活動のまとめなど、まだまだ手につかないものは多い。

 

「ワーカホリックね……風はあんたがそういう事務的なことをてきぱきとこなしてくれるから助かるって言ってたけど……あんた、寝てる?」

「寝てない。2徹だ」

「今すぐ帰って寝なさい」

「これぐらいいつも通りだろ……なぁ友奈」

「寝たほうがいいよひーくん。今も眠いままだったら倒れちゃうよ!?」

「経験上、まだ倒れんよ。心配だけ受け取っておく。さて……」

 

備品棚にあった新品の紙ファイルを折り曲げて使えるようにしながら、『報告書バックナンバー』と書く。

 

「んじゃあ、心配ついでに手伝ってもらおうか。このファイルに今から渡す紙を……」

 

友奈の前にファイルを置き、書類の置かれてる机に向かおうとしたときだった。膝から力が抜け、そのまま座っている友奈に向けて覆いかぶさるように倒れてしまった。

 

「わわ、ひーくん!?」

「昇!?あーもう言わんこっちゃない!友奈、そっち持って!」

「うん!」

 

結果、夏凜と友奈の二人がかりで保健室に運ばれたらしい。らしいというのは倒れた瞬間にもう意識が飛んでいたらしく、起きたのはなんと翌日の早朝だったのだ。土曜日の朝には基本誰もいないが……勇者部は基本朝から年中いる。そのため朝から来ていた風先輩にことの顛末を聞いたのだ。

 

「とりあえずあんたは一回帰ってシャワーでも浴びてきなさい。私も悪かったわ、できると思って無茶させちゃったみたいね」

「いや、大赦の仕事が大半なんで何も悪くないですよ。それに、寝るのをすっかり忘れてただけなんで」

「寝ることを忘れることってあるの……?まぁでも大赦に言ってやるわ。緋月の仕事量を減らせってね」

「窓口俺なんですけど」

「ひなたから言えばなんとかなるでしょ」

「それだけは絶対やめてください。いいですね、絶対やめてくださいよ……」

 

本当にやめてくださいと刺しに刺した釘をさらに刺して、自宅に戻る。俺の集合は二時間後。まぁ眠れたおかげで脳はクリアだし、とりあえずはいいか……仕事はなーにも進んでないが……

 

 


 

 

かっきり二時間後、シャワーを浴びて食事をとった俺は勇者部部室に舞い戻る。今日の依頼は何個かあったはずだが、最近は新規の依頼が土日に来ることも少なくないため純粋に増員できていることはありがたかった。まぁ、小学生3人には土日はゆっくりしてもらいたいのが本音だが、当の本人たちがやりたくてやってるなんて言うもんだから止めようもない。そんな土曜の朝方に11人、勇者部部室に集まっている。ぎゅうぎゅうとは言わないが、限界だな……

 

「~♪」

「おぉー!ヒナちゃん上機嫌だね!」

「えぇ、えぇ!皆さんの~活躍の~おかげで~ついに!ついに!さらなる援軍を呼べるまでに神樹様の力が戻られました!」

「なるほど、だからか」

「はい!お察しの通り今度は西暦の時代の勇者達がこの時代にやってきます!はぁ~!私はもう待ちきれません!早く若葉ちゃんに会いたいです!」

「私のご先祖様だね~、どんな人なのかな~」

「よくぞ聞いてくれました!」

 

目を輝かせてひなたは話す。もはや『援軍が呼べる』という事実よりも『初代勇者乃木若葉』についての話が大多数を占めていて、それはそれはもう『乃木若葉』についての熱弁はとどまることを知らず時計の針は進んでいった。

 

「そんなに凄い人なんですね……その、若葉さんも含めて何人勇者はいたんですか?」

 

ひなたの勢いにやや気圧されながらも、樹が話を進めてくれる。大赦の文献によれば、検閲や損耗などは考慮してないが、勇者は4人だったとされている。乃木若葉、高嶋友奈、伊予島杏、土居球子。いずれの名前も今に至るまで大赦に名を遺す立派な勇者だ。その勇者に会えるとなると……当初のひなたほどではないが緊張はする。さすがにあの時みたいなことにはならんだろう、多分……

 

「5人です。シャイな方から活発な方まで、いろんな性格の方がいますよ」

 

その瞬間、俺は耳を疑った。一人、多い。少ないならわかる。早期に戦死したとか、重傷による離脱だとかで整合性はとれるだろう。だが、多い場合は説明がつかない。文献とひなたの情報、どちらかが間違っているとしか考えられないのだ。だが、ひなたはこの状況で嘘をつくような人間ではないし、仮にそうであったとしてもここで嘘をつく理由がない。召喚されてしまえばすぐにわかってしまう。そもそも俺の前ですぐわかる嘘なんて、つこうとすら思わないはずだ。俺ならすぐにわかる。だとするなら、大赦の文献全てが間違っていることになる。検閲や損耗の中にもう一人勇者がいたということか?ということは、もう一人の勇者は歴史から消されたことになってしまう。存在を認識できなくなってしまう。事実、俺は今まで認識できなかった。それは……バーテックスとの戦いの中で死んでしまうことよりも惨いことだろう。

 

「ひーくん?」

いいや……なんでもない」

 

友奈にはきっと俺の表情が見えてしまったのだろう。最初の声は自分でも驚くほど低い声が出た。だが、今この場で言ってどうにかなる問題でもない。ましてやこの子たちは知らないほうが幸せなことだ。『いずれ未来に伝わる勇者の話の中で、一人だけその存在が消された勇者がいる』なんてことは、そんなことは……俺しか知らなくていい。そんな、惨いことは……

 

「あんたまだ酷い顔してるわね、シャキっとしなさい!」

「いて」

 

思考の淵から痛みで抜け出す。夏凜の平手が背中を叩いたようだ。

 

「大丈夫だ、それよりも……新しい勇者が来るんだったな」

「はい。実はもう召喚の儀は済ませているのですが……遅いですね……」

「きっと途中で人助けとかしてるんですよ!」

「もう、銀じゃないんだから……」

 

そんな会話の中、警報が鳴り響く。

このタイミングでの敵襲……いわゆる着地狩りを狙ったものだろうが……いや、だとしたら……

 

「端末を見て、私達以外の勇者が戦っているわ」

「敵の真ん前に召喚されてしまったみたいね……距離もあるから急いでいかないと!」

「それじゃあ勇者部一同出陣!」

『おー!』

 

 




次回、第5話「合流」

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