緋月昇は記録者である~きらめきの記録~   作:Feldelt

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第6話 歓迎会

寄宿舎の一番広い部屋で神世紀298年の勇者3人と西暦の勇者と巫女6人の歓迎会が行われた。風先輩の挨拶から始まり、カレーが振舞われ、和気あいあいとした雰囲気で各人の自己紹介が始まる。俺はそんな様子を横目に見ながら、包丁やまな板などを洗っていた。裏方仕事はいい。ゆったりのんびりできる。

 

……まだおかわりの分もあるからしゃもじと鍋は洗えないな、なんて思いながら自分の包丁から水気を取り、包丁入れに戻す。これは……全部終わった後で回収でいいだろう。しかし……紙皿にしておいてよかった。終わった後に16枚も皿を洗うのは大変だ。

 

「お、緋月。戻ってきたわね。それじゃあ自己紹介よろしく!」

「……俺もやるんですか」

「当たり前でしょ!あんたも勇者部の一員なんだから!」

「聞いてみただけですよ……グラスをもらえます?」

「ひーくんはリンゴジュースだよね!」

「さすが友奈、わかってるな」

 

渡されたグラスの中身をゴクリと飲み干し、ふぅと一息つく。

 

「改めて……大赦書史部記録課、勇者様付樹海内状況記録者の緋月昇だ。勇者部では依頼の解決と各種事務的な書類整理、資料作成、東郷とともにホームページの管理もやっているな……この世界においては大赦と勇者の橋渡し役にもなっているからもし大赦に何かやってほしいことがあるならとりあえず俺に言ってくれれば大赦には伝えられる手はずになっている。……こんな感じでいいです?」

「よくないわよ!あんた自身のことがよくわからないじゃない!大赦の話じゃなくて緋月の話をしなさいって!」

「えぇ……あー、そのカレーは先輩と東郷と俺で作ったんだが……口に合ったか?」

「おいひいれす!おははりはりまふは?」

「銀!食べながら喋らないの!」

「それだけおいしいんだね~」

「それはよかった……まぁ、料理は好きだと言っておこうかな。包丁は自分用に作ってるし……」

「ひーくんの作るうどんおいしいんだよ~」

「というわけでこれまでです。俺もカレー食べたいので聞きたいことがある人は後でいくらでも答えます。以上!」

 

話が伸びる前に、カレーが冷める前に自分の席に座る。夏凜と園子(中)の間に座ることになってるのは何?端でいいのに……って思っていたら輪を作るような配置になっていた。端は最初からなかったようだ。

 

「へいへい、待ってたんよのぼるん~ほらほら、飲みたまえ~」

「……どうも」

「疲れ切った顔してるんじゃないわよ、昇……むしろ本番はこれからだって知ってるでしょ?」

「そうだな……」

 

少し冷めてしまったカレーを食べながら、改めて全員の顔を見る。皿を洗っている間に名前は聞けたが、あの黒髪の子、『郡千景』の情報はもう少し欲しい。食後にでも少し話してみるか……

 

 


 

 

食後、夏凜曰く本番と言っていた時間に差し掛かる。あれだけ用意した米もカレーも空になり、片づけるだけとなった。いつものように片づけようと思ったがなんか東郷と友奈がさっさと終わらせていた。俺の仕事……

 

「それじゃあ、ここからは自由時間よ。いろいろ話しましょう!」

 

そう先輩が声を張ると、須美は杏のもとへ、銀は球子と千景のもとへ、園子(小)は若葉とひなたのもとへ向かい話を始める。友奈と東郷は高嶋と千景のもとでわいわい話してるし……いいね。この隙に俺は残業できる。

 

「確か残りの資料は……」

「昇先輩、どさくさに紛れて残業しようとしてませんか?」

「そうだぞ樹。仕事は終わらせないとな……ザンギョウ、オワラセル」

「緋月ー、こんなときくらいはリラックスしなさいっての!ゲームでもやったら?」

「ゲーム……?あるんですか?」

「そ、さっき寄宿舎の倉庫で見つけてね。対戦ゲームって銀は言ってたわよ」

「だってよぐんちゃん!やってみたら?」

「決まりね、それじゃあ緋月と千景で対戦ね!」

 

コントローラーを渡され、千景と並んで座ることになった。もはやもうなるようになれと思っている俺は操作方法の確認をし、画面を見る。

 

「……私、ゲームは得意だから……手加減しないわよ」

「俺は初めてなのにか?恐ろしいね……」

 

画面の中で千景の操るキャラが自在に動いている。どうやらこのゲームは格闘ゲームのようだ。だがよくある格闘ゲームで採用されている体力制のルールではなく蓄積ダメージによって相手を疲れさせ場外にもっていくことを目的としているゲームのようだ。なるほどね……!

 

「ッ……あなた、動きがいいわね。どこかで使い方を習った?」

「説明書を読んだだけだっての!」

 

確実に俺が劣勢なのだけはわかるが……まだ残機はイーブン。格闘ゲームなら、コンボがある。そのコンボの始動は画面内では全く分からないが……入力しなければキャラは動かないわけだから……その入力の瞬間より前に動ければいい……!

 

「……見てから避けられている?違う、動きを読まれている?」

「そんな芸当ができてるとお思いで!?」

 

俺のやっていることは単純。画面を見ながら千景の手元を逐次見ることで入力よりも前に行動を起こすことができる。だが……想定よりも早く細工を感づかれてる。残り2-2の状況とはいえ、被弾はこっちが多いわけだし……よそ見の頻度が上がる以上キャラの位置が想定よりもずれていたりしてる……!

 

「あなた、まさか入力の瞬間を見ているとか言わないでしょうね……」

「なんっでわかるんだよ!」

 

仕事してる時や樹海でバーテックスの記録してる時より頭を使っている自覚がある。想定よりも早く頭の痛みが回ってきやがった。そうだよな、目は二か所見ながら逐次必要な操作を指に送ってるもんな……!

 

「けどそうとわかれば……!」

「フェイントだろ、なら1動作分こっちが通る……!」

「甘い!」

 

入力の瞬間を見た俺は気づく。フェイントぶんの時間の猶予を無に帰すジャストガード。1-1までもっていったがその瞬間に勝負は決した。千景の放つコンボが入り、俺のキャラは見事場外へ。決着だ。

 

「……ふぅ……やるわね、緋月さn……!?」

 

決着の瞬間、俺は脳への過剰な負荷のせいか千景の方へ倒れ込んでいた。

 

「な、何をしてるの!?」

「あー、またやったわね……」

 

正座していた千景の腿の上に綺麗に崩れていった俺を一回受け止めた後すぐ立ち上がった千景は慌てた様子で即座に俺の頭を床に叩きつけた。痛い。

 

「ちーちゃん、のぼるんはね~仕事もできるし、料理もできるし、結構何でもできたりするんだけど~……自己管理って言うのかな~、倒れるまでいろいろやっちゃうんだよね~」

「い、意味が分からないわ……」

「私もわからないんよ~」

「えぇ……」

「とりあえず、慣れないことに本気出して脳に負担をかけた挙句人に倒れ込むようなこのバカはとっとと自宅の布団に叩き込んでくるわ。ほら、見事に意識ない」

「はぁ、それじゃあ私たちはお暇するわ。有事にみんな寝不足だったら大変だからね」

「あぁ、ありがとう風さん」

 

翌日意識が戻った俺は何があったのかよく覚えていなかったが、とりあえずシャワーを浴びることから始めることにするのだった。結局千景のことはゲームが強いとしかわからなかったし……はぁ、やれやれ。




次回、第7話「秘密」

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