緋月昇は記録者である~きらめきの記録~   作:Feldelt

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第7話 秘密

歓迎会の後は普通に日常を謳歌し、時折やってくるバーテックスを迎撃するのを記録し、積まれた書類を整理しながら新しい書類に筆を走らせ、舞い込んできた依頼の解決に奔走する。勇者の人数が増えたことで事前に用意していたPC室横の第二勇者部室も正規運用するようになって書類仕事スペースはまた端に追いやられてしまったが、こちらの第二勇者部室は依頼解決窓口というより半ば懺悔室というか、細かなことの相談窓口みたいな扱いになっているらしい。どうしてそうなったのかというと、俺がクラスメイトの相談を多忙すぎてここで聞いてかつ解決法を提示したからなんだが……

仕事が増えることしかやってないことに気づいて、自分で自分に呆れつつある。

 

「今日の受け付けは終了時刻で~す、ごめんね。みんな帰る時間だからね、おうちに帰ろう!」

「……にしても、貴方……話を聞く合間合間によくそんな書類を整理できるわね……」

「慣れってやつだ……今日は二人がいてくれて助かった……」

 

勇者部相談室の看板を片付ける高嶋の友奈と、書類整理を手伝ってくれている千景。今日はこの二人がこっちの担当だったらしい。

 

「私は、特に何も……高嶋さんが話していたのを見ていただけで……」

「ぐんちゃんも、ちょくちょく自分の考えを話していてくれたよね。私には思いつかないことばっかりだったから、助かったよ~」

「そ、そう……?なら、嬉しい……」

 

実際、高嶋の友奈がだいたいの話を解決に導いてくれていたし、俺と千景で時折本質を突いていっただけで今日の相談は捌けていた。結城の友奈と思考までは同じではないのが、逆に俺としてはやりやすかったのもある。それに……千景の話の捉え方はしっかりと本質を掴んでいた。本当に些細な悩みから深刻そうなものまでいろいろあったが……正確に本質をとらえているのは、簡単なことじゃない。

 

「それじゃあ、俺はまだここで仕事してるから」

「そう?なら手伝うよひーくん」

「いいのか?千景は?」

「根の詰めすぎでまた倒れられても嫌だから、高嶋さんと一緒に手伝うわ」

「いやほんと、その節はすまん……」

 

半ば冷ややかな視線を受けながらも俺は書類の整理を続ける。この相談室ではメモを一切取らないということで運用しているから、ここにある書類は全て俺が関わっている仕事のものだ。お金が関わらない書類は全部こっちにもってきている。

 

「これ読んでると、ひーくんは本当に私たちのことよく見てるな~って思うよ。ほら、望さんは全部終わった後にくるからさ」

「そうね。私たちの動きを見て適宜作戦を考えたり、調子を判断したり……丸亀城には、そんな人いたとしても生き残れるかわからないから……」

「そうか……やはり相当過酷な戦いなのか……っと、失礼……ッ!?」

 

書類を置くためにやや屈んだ千景の髪が、ちょうど書類を取るために伸ばした俺の左手に当たる。さらっと払って書類を取ったが、その払った瞬間、俺は自分の目を疑った。

 

「……何、急に固まって」

 

雑に払ってしまったからか千景はやや不機嫌そうに髪を触る。それはそうだろうなんていう思いはあるが、その先に見えてしまったものが脳裏から離れてくれない。

 

「その傷…………ッ!」

「ッ!見たの……!?」

 

普段は見えない、千景の左耳。長い髪に隠されたそこにあったものは本来あるはずない傷の跡。バーテックスにやられたのならあんな軽傷で済むわけがない。自分の武器で斬ったにしても、あの鎌のサイズならあんな傷の付き方はしない。角度だってそうだ。跡の残り方だっておかしい。まるで、切れ味の鈍い刃物で捻じ切ったような、そんな傷だ。ありえるとして、カッターナイフか、ハサミ……いや、ハサミだろう。傷跡が語る力のかかり方がそう言っている。だとしたら、何故……?

 

「あぁ……それは、理不尽に押し付けられた傷だろう」

「何を……!」

 

千景の表情からは強い怒りと警戒心が見て取れる。この子は……過去に、酷い目に遭っている。それがわかった。わかってしまった。嫌というほどに読み取れてしまった。

 

「何があったかなんて聞くつもりはない。話してほしいとも思わない。だが……それは……お前の中では終わっていないのか……?」

「っ……!なんでも見透かしたような目で、私の何がわかるって言うのよ!」

「ぐんちゃん……!?」

 

千景の持っていた書類が思い切りばらまかれる。そんなことには構っていられない。今必要なのは、とりあえず目の前の……ハリネズミのような繊細な少女をなだめることだ。

 

「何もわからないさ。俺にできるのは……目で見て、耳で聞いて、記録するだけ。その派生で、情報を紐づけて推察しているだけだ」

「……なら、もう踏み込んでこないで」

「そうするさ。……知られただけというのは不公平だろう。これは……今いる勇者の中でも一部しか知らないことだ」

 

そう言って俺は右手の指を鳴らし、右腕の肘から先を造っていた霊札を崩す。

 

『なっ……』

 

二人は驚愕する。本来あるはずの、ないはずがない右腕の肘から先が消えているのだから。

 

「バーテックスに喰われた。それだけだ。俺だって、理不尽に傷ついている……知られたくない傷だ。若葉たちに話しても構わない。だが……そうだな。少し、落ちついてくれたか?」

「……あなたは、何なの……?」

 

千景の声色はさっきよりも落ち着いていた。右手を霊札で造り直し、問いに答える。

 

「緋月昇は、記録者だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

あとは全部やる。俺が全部悪い。だから……帰ってゆっくり休んでくれ。そう言って二人を第二勇者部室から出し、俺は散乱した書類をまとめ椅子に座り直す。

 

「……はぁ」

 

深いため息が出る。こういうのは引き起こすのはよくあるが収束させるのはあまり得意ではない。むしろ苦手だ。嫌われたのは確実だろう。まぁいい。むしろ嫌ってくれた方がこちらへの興味の量は増えている。増えてはいるが……褒められたものではない。

 

「……目の前のことに集中するか……」

 

書類に向き合う。今必要なのは時間だ。事実に向き合うための時間だ。それは俺にとっても、あの二人にとってもそうだろう。いつかちゃんと話ができるはずだ。それまでは……これでいい。俺は、俺の仕事をこなせれば……まずはいいということにしよう。

 

 




次回、第8話「運命の行く末」

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