緋月昇は記録者である~きらめきの記録~   作:Feldelt

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第9話 進化

第一波の撃破はつつがなく終わり、第二波の行軍を観測しつつも時間があるというのが現在の状況。時間に余裕があるうちに、歌野の疑問も解消しつつ後々説明するための資料の構成順を組み替えたりしないと……

 

「時間もありますし……そろそろ連携について考えないといけないかもしれませんね」

「そうですね。こちらは数も揃っていますが、その数を活かしていかないと、強大になっていく敵に対抗していくのは難しくなってしまうかもしれません」

「とはいえ須美。こんなに仲間がいるんだから細かいことは考えなくてもいいんじゃないか?園子はどう思う?」

「zzz……すぴ~」

「ぐっすりだな……これで戦闘中は冴えわたっているんだから凄いよなぁ。タマは一度寝たら最低10分は起きないぞ」

「ま、細かいことを考えるのは細かいことしか考えてない奴に任せるのも手よね?」

「お姉ちゃん、その言い方はちょっと……」

 

先輩の視線を受け、やれやれといった表情で言葉を返す。確かに細かいことは常日頃考えているけれどもさ……

 

「それじゃあまず先輩の突出から始める作戦でも組みますか?4パターンくらいは形になりますが」

「ほんとにそれでやるつもり!?」

「2分くらい包囲されますけど、女子力で耐えてください」

「なしなし!あんたも見てたでしょあの敵の量!」

「冗談です。さて、細かいことしか考えてない人間の細かな作戦ですが……まぁ、確かに歌野以外の勇者の能力……何が得意で何が苦手か、使役する精霊の能力、戦闘の間合いなどはある程度頭に入っています。先の戦闘でとりあえず歌野の間合いだけはわかったのでそれも踏まえると……そうですね、二人一組で互いの死角を埋め合う戦術くらいでしょうか、即席で組めるのは」

「ニコイチで動くってことだから……ニコイチ作戦だな!」

「もう少しかっこいい呼称にしましょうよ、そうですね……マルチアサルトプラン、MAP作戦とかどうでしょう」

「横文字はあまり好きではないわ、そうよね須美ちゃん」

「はい。国防に関わる作戦ならば、我が国の言葉を使うべきです」

 

思いついた作戦名を秒で否定される。歌野はいいじゃない!なんて反応をしていたが……うーむ。本来名前なんて割とどうでもいい部類の話になってしまうが、かっこいい呼称をつけようとしたのは他でもない俺な以上投げだせない。うーん……

 

「手厳しい……なら、そうだな。継手作戦とでも名付けるか」

「我が国の神社仏閣、歴史的建造物にも使われる技術、継手から名前を取ったのですね。継手のように離れることなく敵を撃滅せよと。素晴らしい作戦名です」

「須美ちゃんと同意見だわ、やるわね緋月くん」

「自分で自分の意見に賛同するんじゃないよ……どう反応すればいい……まぁいい。重要なことだがこの作戦には欠点がある」

「昇さんの思い描いてる組み合わせで、私たちがうまく動けない可能性ですね」

「鋭いな杏。さすがだ」

 

あくまでも俺が考えているペアは戦闘の効率化を重視したもの。前衛は前衛で、後衛は後衛で組むことを前提としている。だが、前衛同士、後衛同士で組んだ際、数か月一緒に過ごした程度の組み合わせになることは明白。数か月とは決して短くはない時間だが、質の高い連携を実行するという点ではまだ、この子たちは互いを知り切れていないかもしれない。

 

「だから、これはまだ封印だろう。あとは遠距離組を要に見立てた扇形の陣形が今のところ即席で組めそうなものだな」

「鶴翼の陣ですね」

「だな、そうなると間合いで前衛中衛後衛を分けられるから……」

「この鶴翼の陣を横に並べるというのもできるかもしれません。私達西暦のチームと、東郷さんたちのチーム、須美ちゃんたち小学生チームと歌野さんを合わせれば……」

「柔軟な発想だわ、さすがね杏ちゃん」

 

俺、東郷、須美、杏で戦術の話が盛り上がっていく。一方、もはや取り付く島がなさそうに盛り上がっている様子を眺めていたその他の勇者たちは雑談をしていたらしい。戦闘後に食事をしてコミュニケーションを取りたいなんて話が歌野から出たようだが、その際食べるのがうどんか蕎麦かで空気が固まったなんて話もあったらしく……そんな話を戦闘後に聞いたら俺も久しぶりに蕎麦を食べたくなった……と言うのが今回の戦闘のオチだ。

 

結局、襲来した第二波は俺たち4人の戦術談義を中断させ、最終的にはいつも通りの現場判断戦法で撃退していくことになった。巨大な新型バーテックスも出現していたが……無事に撃退できている。……俺は記録を取りながら、新型バーテックスの進化速度に驚いていた。このままの速度で進化されては、おそらくこちらが後手に回ってしまうことすらあり得てしまう可能性が出てきた。いくら精霊の力もリスクなく使えるとはいえ……どうにも言えない焦りみたいなものを感じざるを得ない。そんな戦闘だった。

 

 


 

 

戦闘終了後、部室に戻り何度目かもわからない説明資料の読み上げをした。

歌野の理解速度は素晴らしく、世界の状況もすんなり受け入れていたようだ。

歌野の疑問、諏訪の状況については考えないことにするということを若葉が話していたが……その表情から大方どうなっているか察してしまったらしい。

 

「まぁ、それは未来の私に任せた!戻ったらまた全力で頑張るとしますかね、みーちゃん」

「うん。うたのんなら、そう言うと思った」

「それじゃああとは……寄宿舎の部屋と生活必需品だな……そこら辺で必要なものがあったら大赦が用意してくれる。何かあるか?」

「色々用意してくれるの?それじゃあ、畑が欲しいわ!」

「畑、ねぇ……趣味は農業だったか…………ちょっと待って今畑と言ったか?」

「えぇ!私の生活には畑がマスト!生活必需品よ!」

「そうだね、うたのんには必要だよね」

 

眉間を押さえる。さすがに、土地は……土地は大赦でも相当大変だぞ、不動産な以上とんでもない額が動く。いくら勇者に全面協力をしてくれるこの世界の大赦と言えど、土地は……

 

「……参考までに、畑に必要な面積を聞いても?」

「そんなにビッグじゃなくていいわよ、最初から大きくしてたら手が回らなくなって、育てられる野菜も育てられなくなってしまうわ。まずはこの世界で私がどれだけできるかを試したいから……そうね……」

「寄宿舎の敷地の範囲内なら、畑を作ってもいいかもしれない。実際に見てもらったほうが早いかもしれないが……」

「ナイスアイデア!畑は土から作るものよ!それじゃあ早速どんな感じか見に行きましょう!」

「それじゃあ案内はこの三ノ輪銀にお任せあれ!」

「そのっち、私たちも行くわよ」

「うんうん~寄宿舎はこっちですよ~」

 

歌野と水都を連れて、小学生組は案内を始める。しかし、土地か……土地かぁ……!

 

「なんというか、大赦も大変なんだな」

「土地は無理だ……寄宿舎の敷地内で開墾するくらいならおそらく可能だろう、ある程度スペースがあったはずだ……それでだめなら、讃州中学の花壇を一つもらえるように交渉するのも手……あるいは勇者部とつながりのある農家さんに話を……いやそれは無理だな、生活がある……」

「ふっ、やはり似てるな」

 

思考の沼から若葉の声で脱する。俺は、誰に似ているんだ?

 

「似てる?誰にだ?」

「望さんだ。杏から聞いていただろう」

「あぁ、なるほど。その、緋月望もこんな風にぶつくさと喋りながら物事を考えていたのか?」

「あぁ、それはもう毎度のようにだ。何を言っているのかはわからなかったが、私たちのために必死に考えていることは伝わってきた。お前もそうなのだろう?」

「……そうだな。それが、俺にできることだ」

 

部室に戻ってきた歌野は目を輝かせて、寄宿舎の土地の一部を開墾すると息巻いていた。広さは約6畳程度だが、十分らしい。スペースさえあれば、後は道具も土も肥料も全部自分でやると言っている。発注するなら俺に言えば大赦が用意してくれるとだけ言い、とりあえず話の決着はついた。

 

今度は歌野の発注した道具類の申請書を書くという仕事が待っているが……まぁ、なんとかなるだろ……

 




次回、第10話「北と南」

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