無趣味な俺がカードゲーム始めたら、人生楽しくなった件について   作:苦労砲丸

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人生初のカードゲームをしてみたら、結構楽しかった件について(後編)

「おっ、おおおおおお……っ!?」

 

 手塚さんが高らかに宣言すれば、立体映像装置がその切り札ユニットの勇ましい姿を映し出してみせる。

 巨大な火山を思わせる四足竜は背中から溶岩を噴き出し、砲弾を繰り出すように噴火を繰り返しながら、雄々しい雄叫びを上げて場に着地した。

 

「さあ、攻撃だ! 〈ギガントボルケーノザウルス〉で、ブレイブドラゴンを攻撃!」

 

(やっぱりそうくるよなぁ……!)

 

 手塚さんが〈ベイビードラゴン〉を場に出した時から、切り札は読めていた。

 同じデッキを使っている俺は〈ギガントボルケーノザウルス〉の能力はわかっているが、それでもこうするしかない。

 

「〈マグマロックレックス〉でその攻撃をブロックします!」

 

「ふふふ……っ! この瞬間、〈ギガントボルケーノザウルス〉の効果発動!! 止まらぬ噴火の勢いを見せてやれ! 火流砲弾!!」

 

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

ギガントボルケーノザウルス

LV5 P11000 ドラゴン

召喚時コスト10 進化時コスト5

 

効果……このカードの攻撃がブロックされた時、相手のライフに一のダメージを与える

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 轟くような咆哮と共に、〈ギガントボルケーノザウルス〉の背中から噴き出す大量の溶岩が俺へと襲い掛かる。

 ブロックした程度じゃ止まらない噴火の勢いに飲まれた俺は、ダメージを受けると共にライフを確認した。

 

「ライフチェック……何もありません」

 

 最上級ユニットである〈ギガントボルケーノザウルス〉を倒せるようなユニットも、オプションカードも捲れなかった。

 しかし、俺にとっては実はそれはありがたいことではあったのだが……そんな喜びを掻き消すように、手塚さんが次の攻撃と効果の発動を宣言する。

 

「続いて〈マグマザウルス〉で攻撃! その時に……アバターカードの効果発動!!」

 

「アバターカード……! しまった! それがあった!!」

 

 アバターカードとは、バトルの最初から場に設置されているプレイヤーの分身のようなカードだ。

 このカードには使えるカードの種類を決定する他に、大切な存在理由がある。

 

 各アバターカードにはバトル中に使える能力が存在し、それを戦略に組み込むことも『エヴォルVS』の醍醐味……らしい。

 派手なユニットの効果は覚えていたが、アバターカードに関しては完全に失念していた俺がその効果を思い出してハッとする中、手塚さんが言う。

 

「こいつの能力は自分の場に赤のレベル5ユニットがいないと発動できないっていう重い制約があるが……使用可能になると恐ろしいまでの攻撃性能を発揮する。アバターカードの効果で、俺は〈マグマザウルス〉のダメージ量を+1させてもらうよ!」

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

アバターカード〈竜騎士○○〉

条件:自分の場にLV5のユニットがいる

効果……自分の赤の『ドラゴン』ユニットの攻撃時に自身をレストして発動できる。このターン、そのユニットが相手ライフに与えるダメージを+1する。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

(ダメージ2の『剛体』持ち! どんな強力なユニットが捲れても、〈マグマザウルス〉は破壊できない!!)

 

 〈ギガントボルケーノザウルス〉の効果で相手の邪魔なユニットを破壊しつつ、ライフにもダメージを与える。

 その後、がら空きになった相手にライフチェックで破壊されない〈マグマザウルス〉での二点ダメージを叩き込むという恐ろしいコンボを決められた俺は、あっという間にライフを0にされてしまった。

 

 まんまと相手の思惑通りに動かされてしまった俺が苦悶の表情を浮かべる中、手塚さんはさらに俺を追い詰めるようなプレイングを見せてくる。

 

「残ったエナジーで〈マグマロックレックス〉を二体召喚。これで状態は万全……ターンエンドだよ」

 

「ぐぅぅ……っ!!」

 

 俺の場にはブレイブドラゴンしかいないというのに、そこに二体のブロッカーを出すことで守りを固めてみせた手塚さんがターンを回す。

 状況の悪さに呻く俺の周囲では、バトルを見守る観客たちがひそひそ話をしていた。

 

「これは勝負あったかな……?」

 

「結構頑張ったけど、やっぱカードゲーム歴の差が出たか」

 

「手塚さんも結構容赦ねえなぁ……初心者相手なんだから、手を抜いてやればよかったのに」 

 

 結構好き勝手言ってくれてるが、確かに敗色濃厚だ。

 かなり不利だし、経験から見ても俺が負ける可能性の方が圧倒的に高い。

 

 そんな状況の中、キースさんが俺に声をかけてきた。

 

「クククッ……!! ヤバいな、ヤマト。ライフはゼロ。こっちはユニットが一体だけだっていうのに、相手の場には切り札に加えてブロッカーが二体だぜ? こりゃもう、負けが確定した盤面だよなぁ?」

 

 その言葉を聞いた俺は、深く息を吐いた。

 そうした後で振り返った俺は、楽しそうに笑うキースさんの目を見つめながら言う。

 

「……いいえ。まだ、勝ち筋は残ってます。だから、俺は諦めませんよ」

 

「……クククッ、クッ、ククククク……ッ!!」

 

 俺の答えを聞いたキースさんは、今日一番の楽しそうな笑みを見せてくれた。

 最初から俺がそう答えることに期待していたであろう彼女は、実にいい笑顔を浮かべながら口を開く。

 

「そうだ、それでいい。本気を出して詰ませにきてる奴を相手に、この盤面をひっくり返して勝てたら面白いよなぁ!? それができちまうから、カードゲームは楽しいんだ! だから、諦めずに最後まで足掻いてみろ! 勝利の女神は、そういう根性のある奴に微笑むんだよ!」

 

「言われなくても、そのつもりですよ!」

 

「ククククククッ! やっぱりお前に声をかけたのは間違いじゃなかった。やってみろ、ヤマト。勝利の女神がお前に微笑まなくても、代わりにオレがお前にキスしてやるよ!」

 

「うっす! ありがとうございます!!」

 

 人によっては物凄く羨ましく思われるようなことを言われた俺は、深呼吸をした後で自分のデッキを見つめる。

 

 ここまでかなりカードを引き、ライフも全部確認したが……あのカード(・・・・・)は、ここまで一枚も出ていない。

 だったら、このドローで引ける可能性も十分にあるはずだ。この状況をひっくり返せるのは、あのカード以外にない。

 

(頼む……来てくれ!)

 

 心の底から念じ、デッキに手を伸ばし、一番上のカードを手に取る。

 ゆっくりとそれを顔の前に持って行った俺は……答えを見て、歓喜の笑みを浮かべた。

 

「よっしゃ、来た! 俺は場のブレイブドラゴンに、今引いたレベル5ユニット〈紅蓮炎竜将 プロミネンス・バーンドラゴン〉を重ね、進化させます!!」

 

「いっ!? 何だってぇ!?」

 

 ようやく来てくれた俺の切り札。このデッキに収録されている、目玉のユニットカード。

 紅蓮の炎と共に出現したその竜は、爆発する炎を背に大きく翼を広げ、得物である剣を構えて地上に降り立つ。

 

 俺が一目惚れし、デッキを買おうと決めたカード……〈紅蓮炎竜将 プロミネンス・バーンドラゴン〉。

 この土壇場で来てくれたことに感謝しながら、俺は高らかに効果発動を宣言する。

 

「〈紅蓮竜将 プロミネンス・バーンドラゴン〉の登場時効果を発動! 紅蓮炎竜斬!!」

 

「ぬっ!? うおあああっ!?」

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

紅蓮炎竜将 プロミネンスバーンドラゴン

レベル5 P11000 ドラゴン

召喚時コスト10 進化時コスト5

 

効果……登場時、このユニットの進化元になっているカード二枚ごとに、このユニット以下のパワーを持つ相手の場のユニット一体選択し、破壊する。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 今、プロミネンス・バーンドラゴンの下には四枚の進化素材がいる。

 つまり、手塚さんの場のユニットを二体まで破壊できるということだ。

 

 その効果を使い、手塚さんのブロッカー二体を破壊した俺は、続けてアバターカードの効果を発動する。

 

「〈紅蓮炎竜将 プロミネンス・バーンドラゴン〉で手塚さんに攻撃! その時、アバターカードの効果を発動! ダメージを+1します!」

 

『グオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 プロミネンス・バーンドラゴンが構えた剣に、紅蓮に燃え盛る炎が渦巻いていく。

 より強力な力を得たその剣を振り下ろした竜は、手塚さんのライフを刈り取る強烈な一発を繰り出してみせた。

 

「ぐああああっ!! ぐっ……まさか、ここまでやられるとは……! だが、ここまでだろう? 君の場には、もう攻撃できるユニットは――」

 

「ええ、俺の場にはもうユニットはいません。ですが……まだ、使えるエナジーは残っています」

 

「え……?」

 

 『エヴォルVS』では、ターン中のプレイヤーの行動に順番などない。

 ユニットで攻撃した後で別のユニットを召喚してもいいし、オプションカードを発動してもいい。

 

 最後のライフを削り取った時に、また〈溶岩流〉のようなカードが出たらマズいと思って手札に温存していたが……もう大丈夫だ。

 そう判断した俺は、残ったエナジーを使用して最後のユニットを召喚する。

 

「〈イグナイトダッシュ・ワイバーン〉……こいつは場に出したターンに攻撃できる能力を持っています。手塚さんの場にはブロッカーは存在していないし、ライフもゼロ。こいつのダイレクトアタックで、ゲームセットです」

 

「お、おお……おおおおおおおっ!?」

 

 ユニットを召喚し、そのままレスト。最後に召喚した飛竜の攻撃がヒットし、派手な音楽が流れる。

 勝負が決したことと、勝者が俺であることを告げる立体映像を目にしながら……俺は、最後の最後に味わった大逆転の喜びを噛み締めるように、拳を握り締めながら笑った。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「今日はありがとうな。おかげでいい記事が書けそうだぜ」

 

「こちらこそ、スリーブとかデッキケースとか、色々プレゼントしてくださってありがとうございます」

 

「クククッ、気にするな。言っただろ? 先輩カードゲーマーとして、初心者へのプレゼントだってなぁ……!!」

 

 初のバトルを終えた俺は、手塚さんに挨拶をしてからキースさんと一緒に店を出ていた。

 店の前で話し込む中、不意に邪悪(に見える)笑みを浮かべた彼女が言う。

 

「どうだ? 『エヴォルVS』の味は……? 最高だっただろう? スリルと興奮の先で味わう勝利の喜びは、もう忘れられねえだろ? お前もこっち来いよ。オレと一緒に、どこまでも堕ちていこうぜぇ……!!」

 

「いや、あの、キースさん? 言い方考えてもらえますか? あと、服装も考えてもらいたいです」

 

 露出度が滅茶苦茶高い星条旗ビキニの爆乳お姉さんに妖しい雰囲気でそんなこと言われたら、色々とおかしくなりそうだ。

 絶対にこの店の子供たちの中に性癖を捻じ曲げられた犠牲者がいるだろうと思う俺に対して、キースさんがこう続ける。

 

「楽しいぜ、カードゲームって。お前も今日、そう思っただろ?」

 

「……ええ、まあ」

 

「だったら、また遊びに来いよ。オレはほぼ毎日通ってるから、見かけたら声をかけてくれ。それに、今日のバイト代も払わないとだしな」

 

 そう言って笑うキースさんは、カードショップに居た時とは違う優しい表情を見せてくれていた。

 その微笑みにドキッとしてしまった俺は、咳払いでごまかした後で彼女へと言う。

 

「……まあ、気が向いたら遊びに来ますよ。バイト代も欲しいですし」

 

「ああ、待ってるぜ。またな、ヤマト」

 

 そう言ってくれたキースさんに頭を下げ、俺は家への道を歩き出す。

 途中で振り返れば、彼女はこちらをまだ見つめ続けてくれていた。

 

(待ってる、か……)

 

 言われたばかりの言葉を思い出し、ちょっとした充実感を覚えた俺が小さく微笑みを浮かべる。

 別に本気でのめり込むつもりはないし、そんなに時間を割けるとも思えないけど……バトルの中で確かに感じた、楽しいという気持ちを否定したくはない。

 

 もう少しだけ遊んでみよう。他に趣味もないし、飽きるまで続けてみようじゃないか。

 バイト代も貰いたいし、あと一回はあのカードショップには行くつもりだ。その時にまた色々と教えてもらうのもいいかもしれない。

 

 そういう小さな楽しみを見つけて、珍しく期待し始めた俺は、上機嫌で家に帰った。

 別にアニメみたいに派手な事件が起きるわけじゃない。命を賭けた闇のゲームに臨むわけでもなければ、世界の命運を背負った勝負をするわけでもない。

 

 何の趣味もなかった高校生が、カードゲームにちょっとだけ興味を持った。ただそれだけの話。

 だけど、たったそれだけのことを経験した俺の目には、この世界が普段よりほんの少しだけ鮮やかに見えていた。




こんな感じで不定期に更新していきます。

面白かったら感想聞かせていただけると嬉しいです。
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