無趣味な俺がカードゲーム始めたら、人生楽しくなった件について 作:苦労砲丸
(ここ、そんな名前の店だったんだ……)
カードショップ『レイニー』……数日前に『エヴォルVS』のカードデッキを購入した店の前に立つ俺は、前に来た時には気にもしていなかった店の名前を確認しながらそんなことを思う。
初めてカードバトルを楽しんでから数日、少し『エヴォルVS』に興味を持った俺は、もう少しこのカードゲームを楽しんでみようと思い、学校帰りにまたこの店を訪れることにした。
やや緊張しながら中に入れば、活気づいた店内の空気が俺を迎えてくれて……店の中を見回した俺は、そこに目当ての人物の姿を見つけ、声をかける。
「あっ、キースさん、どもっす」
「あぁん……? ヤマトじゃねえか。また遊びに来たのか?」
「ええ、まあ。ちょっと気になりましたし、バイト代も貰おうと思ったんで」
「ククク……ッ! オレもお前のおかげでいい感じに稼げそうだからなぁ。礼を言おうと思ってたところなんだ。ちょうど良かったぜ」
要約すると、「俺の初バトルを題材にして書いた『エヴォルVS』の記事はいい感じのPVを叩き出し、結構な収益が見込めそう。協力してくれてありがとう」ということなのだろう。
美人だが悪人にしか見えないキースさんと会うのはこれで二回目だが、もう随分彼女のことがわかるようになっていた。
「それでどうです? 発売から数日経ちましたけど、『エヴォルVS』は盛り上がってますか?」
「ああ、かなりな。夕方に放送されてるアニメの効果もあって、子供から大人まで存在が知れ渡ってるってのがデカい。プレイ人口がかなり大きいゲームになりそうだぜ。おかげでほら、ブースターパックも売り切れだ」
「あっ、本当だ。マジでいい感じに人気出てるんですね」
『エヴォルVS』はスターターデッキと一緒に、二種類のブースターパックも発売したらしい。
その両方といくつかの種類があったデッキも売り切れている様子と、『次回入荷未定!』という文字を目にした俺は、『エヴォルVS』の人気っぷりに少し驚いてしまった。
「メーカーもこのチャンスを見逃すほど馬鹿じゃねえ。すぐにでも追加のカードを刷るだろうさ。今はそれを待ちながら、デッキの研究を進めてるってところだな」
「デッキの研究かぁ……」
当たり前だが、カードゲーマーたちはスターターデッキをそのまま使い続けたりなんかしない。
パックを買ってカードを手に入れ、それで自分のデッキを強化していくというのが常だ。
俺が対戦した手塚さんも今は別のデッキを構築したのか、バトルスペースで『エヴォルVS』を楽しんでいる姿が見えた。
この間の一戦は運が良かっただけで、このスターターデッキじゃあ自分に合わせたデッキを構築した手塚さんには勝てないよなと考える俺へと、キースさんが言う。
「ククク……ッ! ヤマト、お前の考えてることはわかるぜ? 自分もデッキを改造してみたい……そんなところだろう?」
「まあ、そうっすね。でも、改造するにもカードがないんですけど」
「そう言うと思ったぜ……! そんなお前に、こいつをくれてやるよ」
「えっ!? こ、これって……!?」
そう言いながらキースさんが谷間に手を突っ込み、明らかにその中に入り切らないであろうサイズの箱を取り出す。
『エヴォルVS ブースターパック第1弾・進化の激動』と書かれているそれが、今は入手困難なブースターパックであることに気付いた俺へと、ニイッと笑ったキースさんが言った。
「今回のバイト代だ。きっと欲しがると思って、キープしておいてやったぜ」
「あ、ありがとうございます! すげえ嬉しいです!」
「ククク……ッ! 大袈裟な奴だ。だがまあ、転売ヤーとかいうクソ野郎共の手に渡るよりかは、お前みたいに純粋な目をしてる奴に渡した方がカードも喜ぶだろうぜ……!!」
そう言って、鼻を鳴らしたキースさんが顔を上げる。
店内を見回した彼女は、この階層に響き渡るような大声でこんなことを言い始めた。
「お~い! 初心者が『エヴォルVS』のカードパックを開封するぞ~!」
「えっ? マジっすか!?」
「公開パック開けか! ちょっと覗いてみてもいいかな?」
「いいな~! まだ箱で残ってたのか~!」
「ちょっ、えっ!? き、キースさん?」
キースさんの声を聞きつけたお客さんたちが、ぞろぞろと俺の周囲に集まってくる。
その間に店員さんからハサミを借りたキースさんが、俺にそれを差し出しながら口を開いた。
「ククク……ッ! いい感じにギャラリー共が集まってきたじゃねえか。おい、ヤマト。こいつらに見せつけてやれよ。お前の引き運ってやつをよぉ……!!」
「えっ? えぇぇぇ……?」
なんでわざわざ見世物にならなくちゃならないんだとは思いつつも、キースさんのことだから結果として俺のためになることをしてくれているのだろう。
初心者に優しい爆乳お姉さんを信じることにした俺は、手近な席に座ると共に受け取ったハサミを使い、大勢の人たちが見守る前でパックを開けていった。