異世界にてその力を振るうため正体を隠した俺、案外バレない。   作:かめーん

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1 どうしてバレないんだ……

 異世界に転生したら。

 チートと呼べるくらいの力を手に入れたら。

 それを振るってみたいと思うのは、決して間違いではないと思うんだ。

 無闇矢鱈に振るったり、それで他人を傷つけたら。

 それこそ噛ませ転生者一直線みたいになりそうだけど。

 一切振るわずに腐らせたら、それこそ何のために転生したのやら。

 

 だから、俺は力を振るうことを選んだ。

 ただまぁ、それでも色々とためらうことはある。

 なにせ、明らかに他人よりも優れた力だ。

 嫉妬ややっかみの類は、当然されるだろう。

 何より、強くなればなるほどその強さには責任と立場が伴う。

 

 冒険者であれば、ランクが上がる。

 国に仕えれば、出世していく。

 どちらにせよ、そんな重圧に前世はただの社畜オタクでしかなかった俺は耐えられるのか?

 無理だろ、どう考えても。

 だとすれば、取れる選択肢は二つだ。

 

 ある程度実力を隠し、ある程度の立場で満足する。

 転生モノでは、そういう立場を目指して実力を隠す転生者ってのは結構いた。

 それもいいだろう、気楽な立場で気楽な人生というやつは悪くない。

 目立たず、騒がれず、かといって評価されないというほどではないくらいの。

 まぁ、地に足ついた生活ってやつだよな。

 ただ、これにもやっぱり問題はあって、実力がバレる場合があるということだ。

 というか、よっぽど気をつけないと誰かしらにはバレる。

 実力隠しはバレてからが本番っていうしな。

 

 もう一つは、いっそ覚悟を決めて全力で力を使う。

 非常にシンプルな答えだ。

 ただやはり責任という重圧は伴う。

 でも、もし目の前でどうしようもなく困っている人がいた時。

 遠慮なく力を振るって、その人を助けられるというのは一つの利点だ。

 何より、実力を隠したことでそういう人を見捨てたという罪悪感を背負わなくていい。

 小心者の俺にとって、実力を隠した時に一番最悪なのは、人を見捨てたことで後悔することなんだから。

 

 正直、どちらも利点もあれば欠点もある。

 最善の答えはないだろう。

 だからこそ、考えた。

 多少なりとも、俺が納得できる方法。

 責任に対する、目のそらし方。

 覚悟の決め方を。

 

 

 正体を隠せばいいのだ。

 

 

 顔を隠し、存在を隠し。

 正体を隠した個人として振る舞おう。

 何、俺が転生した世界には濃ゆい人が多いのだ。

 ちょっとくらい顔を隠して行動しても、変に思われない。

 もしバレてしまったら、その時は素直に正体を明かして顔を隠した理由を話そう。

 そう決めて、俺は顔を仮面で隠して変身中は髪を魔術で染めることにした。

 結果――

 

 

 活動を始めてから数年、今のところバレる気配はない……何故か。

 

 

 

 □

 

 

 その日、俺――セスタは正体を晒してセスタとして冒険者ギルドにやってきていた。

 無論、それで正体を隠した時の俺と、セスタである俺が一致することはない。

 顔を隠して髪を染めるというのは、それだけで変装としては効果があるらしいのだ。

 何より、俺はセスタとしても冒険者ギルドに登録しているからな。

 

 セスタとしての俺は、空気みたいな地味冒険者だ。

 なにせ、普段はほとんどソロで行動している。

 ギルドに顔を出さない日も多い。

 いてもいなくても変わらない、みたいな扱いのモブその2みたいな立場だ。

 それでいいと思う、あくまでセスタとしての立場は情報収集のためにギルドにおいているだけだからな。

 

 今日の目的は、情報収集と以前受けていた依頼の達成報告。

 受けた依頼は、薬草の採取とゴブリン退治。

 どれもありふれた依頼で、特別なところは何も無い。

 それらをギルドに報告して、報酬を受け取ってそれで終わりだ。

 ギルドの受付さんと話をしたりはしない。

 情報収集も、基本的には聞き耳で人の話を聞くのがメインである。

 ちょっと行儀が悪いかもしれないが、この世界では人に聞かれる話を外でするほうが悪いというのが常識だ。

 それをアテにしている冒険者もいるし、普通の行為だな。

 ただまぁ、

 

「――セスタ、こっちだ」

 

 今日は、知り合いがギルドにやってきていたのでそいつと話をすることになるのだけど。

 肩まで伸びたセミロングの黒髪に、真紅の瞳。

 前者はともかく、後者は目立つ。

 それを隠すための眼鏡を身に着けた、その眼鏡のでかい黒縁のせいで逆に目立つ少女だ。

 名を――

 

「おはよう、カミラ」

「おはよう……くく、昨日は大活躍だったね」

「まあ……そうだな。とんでもないことになったな」

「とんでもないことになったねぇ。……ああ、無論消音はしてるから心配なく」

 

 まぁ、確認しただけなのは事実だが。

 とにかく、カミラというこの十代半ばくらいに見える少女が、おそらく(セスタ)の唯一と言っていい冒険者仲間。

 理由はまぁ、お察し。

 で、そんなカミラと俺は、現在ギルドの酒場になっているスペースで話をしている。

 だが、カミラの消音魔術によって、その声は周囲に聞こえない。

 外で聞かれたくない話をするなら非常に便利な魔術だ。

 

「仮面公マスクウェル、新たなる奥義にてエンシェントドラゴンを滅殺す。今、このギルドでそれ以外の話題をしている人間はいないね」

「まぁ、そうだろうな」

「すごかったからねぇ、あの新術。噂に寄ると古代聖王国を滅ぼした、竜殺しの禁術だそうじゃないか」

「その設定、本当にどこから出てきた。というか古代聖王国と竜は関係ないだろ」

 

 くつくつと笑みを浮かべながら、カミラはすでに頼んでいた紅茶を一口飲む。

 実に優雅だ、こいつ正体隠す気ある?

 対する俺は、見ての通りの地味な冒険者。

 まさか俺を仮面公マスクウェルだと思うヤツはいないだろう。

 名前が安易? わかりやすくていいじゃないか。

 

「しかし驚いたのは、町の側でアレだけ派手に魔術を使ったのに、誰も正体に気付かなかったことだ。魔力っていうのは使う人間によってある程度クセが出るから、近くで多くの人間が戦闘を見ていればわかるものだと思うんだけどねぇ」

「不思議だよな。一応ちょっとはクセを変えてるけど、それでも見たらわかると思うんだが」

「少なくとも、私の目から見ればバレバレだね」

 

 仮面公マスクウェル。

 その正体を知るものは、唯一人の例外を除いて今のところいない。

 そう、いないのだ。

 無論、正体を隠してはいる。

 だが隠し通せるものではないと、割り切ってもいる。

 なのにバレない、何故か。

 どころか――

 

「その正体は、一説には十年以上前に騒乱で滅んだ亡国の王子と言われている。美しい金の髪と、仮面の下に隠れているであろう美貌から、そう言われているんだね」

「他にも、魔神の貴公子だとか、実は女だとか」

「千年前に滅んだと言われる魔神の生まれ変わり。魔神が正義の味方を気取るのも、おかしな話だけど」

 

 それはもう、ありとあらゆる噂が飛び交っているレベル。

 特に、実は女ってなんだよ。

 背丈も声もどう考えても男だぞ。

 

「正体を明かそうとした時もあったっけ?」

「以前、その亡国の王族を助けた事があってな」

「お兄様! お兄様ですよね!? って言われてたねぇ」

 

 くつくつとからかうように笑うカミラ。

 どうやら気付いていないようだから、教えてやろう。

 

「それについて、一つ恐ろしい話をしてやろう」

「何かな?」

「後で調べたらその王女様に兄はいなかった」

「いやそれは本当に怖いね?」

 

 そうなのだ、恐ろしいのだ。

 

「他にも、竜族は俺の正体を竜神が人の姿を取って降臨した姿だとかいい出すし、最近じゃ教会すら俺が実は神の化身なんじゃっていい始めてるぞ」

「これはもう、一種の呪いかなにかだよねぇ」

 

 紅茶の入ったカップを揺らしながら、カミラは呟く。

 

「誰もが正体を追い求める仮面公マスクウェル、神出鬼没、正体不明の謎の男。その注目は、日に日に高まるばかりだ。冒険者ギルドの人間もそう、貴族や街の庶民だって誰もが一体彼が何者なのか知りたがってる」

 

 やがてその瞳が、俺を見た。

 

「なのに、どうしてその正体が、君――一介の冒険者セスタだと、誰も気付かないのか」

 

 隠そうとはしている。

 でも、どう考えても隠し通せるものではない。

 なのに誰も気付かない。

 どころか、なんか記憶を捏造したりする始末。

 ――まるで、カミラの言うように、本当にそういう呪いなんじゃないかと思うほどに。

 

「最初のウチは、仮面公が一体どこまでの存在になるか、私は楽しみだったんだ。世界を救い、善をなし、人々の偶像となっていく姿を見るのが楽しかった」

「結果的に、その通りになったな」

「だが、今は――」

 

 そうして、カミラは手にしていた紅茶のカップをテーブルに置き、

 

 

「――怖い。これから仮面公どうなっちゃうんだろうね……」

 

 

 頭を抱えた。

 正直、いい出したのはお前だろう、とか。

 背中を押した責任は取ってくれよ、とか。

 言いたいことは色々あるけれど、最終的に結論として。

 

「……安心しろ、カミラ」

「なんだい?」

「――――俺もめっちゃ怖い」

 

 そうして、二人揃って頭を抱えるしかないのだ。

 

 仮面公マスクウェル。

 その実力は圧倒的で、冒険者登録をしてから一年と経たずに最上位のSランクに到達。

 以降は世界中で人々を苦しめる魔物や悪党を退治している。

 まさに、正義の味方。

 

 その正体は、亡国の王子だったり、魔神の貴公子だったり、実は女だったり、神の化身だったり。

 噂が噂を呼んでいる、とんでもない存在だ。

 誰もが正体を知りたいと望んでいて、しかし正体を知るものは世界に二人しかいない。

 なぜか、バレない。

 どうしたって、バレない。

 

 段々と、俺の手から離れつつある偶像。

 それが仮面公マスクウェルだ。

 

 ああ、本当に。

 

「こんなはずじゃあ、なかったのになぁ――」




そこまで隠してないのにバレなくて頭を抱える主人公とその周囲のお話。
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