異世界にてその力を振るうため正体を隠した俺、案外バレない。   作:かめーん

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2 お兄様! やっぱりお兄様なのですね!

 この世界で目を覚ました時、俺は滅びた村にいた。

 魔物か何かの襲撃を受けたみたいで、生きている人間は俺唯一人。

 その俺にしたって、どうやら”俺”が目覚める前はこの世界の住人として過ごしていたはずなのに記憶がないのだ。

 ほとんどそれは、死んでいるようなものだった。

 

 何とか荒れ果てた村の中から、読める本とかを探し出して情報を集め。

 自分の名前がセスタであること、この世界がよくある中世風ファンタジー世界であることを理解した。

 文字が読めたのは、”俺”が目覚める前のセスタの知識に寄るものだろう。

 

 村を出た俺は、自分に特別な力が宿っていることに気付いた。

 いわゆるチートと呼ぶべきそれは、おそらく”俺”が目覚めたことによって手に入れた力だ。

 でなければ、”セスタ”の村が壊滅することなんてなかっただろうし。

 

 そこからは、チートを少しだけ使ってこの世界で地盤を築き。

 カミラとであったり、色々なことをした。

 この世界で生活して解ったことは、この世界において悲劇というのは前世よりもありふれているということだ。

 いや、前世だって俺の周りで悲劇が起きなかっただけかもしれないが。

 少なくとも、身近に悲劇が起きる可能性は前世よりも圧倒的に高い。

 

 なんとなく、それが気に入らなかった。

 

 そんな時だ、カミラが俺に――正体を隠してそういった悲劇を解決してみるのはどうかという。

 ある意味で。すべての始まりである提案をしてきたのは。

 

 

 □

 

 

 ある日、俺はセスタとして街を歩いていた。

 普段、俺は何もなければセスタとして行動している。

 そもそも仮面公マスクウェルとして街を歩くと、大問題なんだから当然だけど。

 だからその日は、なんてことのない日のはずだったんだ。

 本来なら、休日の予定だった。

 

 思いもしなかったんだ、その日が”セスタ”としての運命を大きく動かす日になるなんて。

 

 

「――失礼いたします、どいてくださいまし!」

 

 

 不意に、裏路地から一人の少女が駆けてきたのだ。

 当然ながら、そんなこと思いもしなかった俺は、少女の警告にも関わらず回避が遅れてしまう。

 それでも何とか、少女を倒れることなく受け止められたのはマスクウェルとの経験ゆえか。

 

「だ、大丈夫か?」

「申し訳ありません、感謝いたします!」

「いや、怪我がなくて、よかった……よ……」

 

 何とか少女を支えつつ、感謝の言葉に返答しようとしたその時。

 俺は気付いてしまった。

 

 

 この人、以前助けた亡国の王女様だ――――!

 

 

 アレだ、俺……というか仮面公を存在しない兄だと思い込んでいる人だ。

 凄く優しい性格で、死地にマスクウェルを慮ってくれたいい人なのだけど。

 帰ってきたらマスクウェルを兄だと思い込んでいた。

 こ、怖い。

 

「……あの、どこかでお会いいたしましたか?」

「え? あ、いや……き、気のせいじゃないかな?」

「そうですか……失礼いたしました。そうだ、一つお聞きしたいのですが」

「ええっと、何でしょう」

 

 いかん、結構長い間王女様の腰を抱いて支えてしまっていた。

 慌てて手を離すと、小首をかしげてこちらを覗き込んでくる王女様。

 

「お兄様……仮面公マスクウェル様について、何かご存知ではありませんか?」

「げほっ! ごほっ!」

「あ、あの、大丈夫ですか!?」

「む、むせただけだから、大丈夫……」

 

 今目の前にいます、なんて言えるわけない。

 ただでさえ仮面公の正体は秘密なのに、眼の前にいる王女様はマスクウェルをあいも変わらずお兄様と呼んでいる。

 怖すぎて言えるわけない!

 

「先日、この街の近くに出現したエンシェントドラゴンを、マスクウェル様が討伐したとお聞きしたのです」

「な、なるほど。仮面公の正体を調べてる、と。そういう人はよくこの街に来るからね」

 

 なにせ、そのエンシェントドラゴンの件を含めて、この街の近くではマスクウェルが複数回確認されているからな。

 俺のホームだからというのもあるけど、何かこの街やたらと仮面公が出張らないと行けない案件が多いんだよ。

 

「でも、残念ながら俺も詳しくは知らないかな」

「そうですか……貴方に聞くのが一番だと、私の直感が言っていたのですが」

「へ、ヘェ、ソレハスゴイネ」

 

 怖いよぉ……!

 なんか、俺とマスクウェルのつながりを見抜いてきそうな直感だ。

 と、戦慄していると――

 

「見つけたぞ、あそこだ!」

 

 裏路地から、声。

 何かがこっちに近づいてくる。

 これは……王女様を追っている!?

 

「まずいですわ! 申し訳ありません、今すぐ逃げてくださいまし!」

「誰かに追われてるのか!?」

「は、はい。ですがご迷惑をおかけするわけには――」

「――こっちだ!」

 

 俺は慌てて、王女様の手を引いて走り出す。

 彼女がここで立ち止まっていたのは、そもそも俺が原因だ。

 そのせいで王女様が追手に捕まったら、あまりにも情けないぞ!

 

「わたくしのことは置いて、逃げてくださいまし!」

「そういうわけには行かないだろ、ただでさえ迷惑かけてるのに!」

 

 俺は急いで、王女様が出てきた裏路地とは別の裏路地に飛び込んで、追手を撒こうとする。

 しかし相手の動きは明らかに早い。

 というか動きに迷いがない、明らかにプロだ。

 セスタとしての俺じゃ、相手にならないかもしれない。

 

「あっちだ!」

「お、追いつかれます!」

 

 考えろ。

 ここから取れる選択肢は二つ。

 一つはセスタとしてプロを撃退すること。

 お姫様にマスクウェルではなくセスタを警戒されてしまう危険性があるものの。

 この場を切り抜けるだけなら、これが一番安全だ。

 もう一つはお姫様の言う通りに、一旦この場を離れてマスクウェルとして介入すること。

 亡国とはいえ王女がプロに追われてる時点で、どう考えても最終的にはマスクウェル案件だ。

 

 そんな連続して、マスクウェル案件が起きるのか? と思うかもしれないが。

 案外起きる。

 というか、なんなら連続して起きることのほうが多い。

 先日のエンシェントドラゴン事件が、今回の件に関わっている可能性があるからだ。

 前にも、そういうことは何度かあった。

 

 ともあれ、安全を考えるなら取るべき選択肢は後者だ。

 せっかく築いてきたセスタとしての立場を、捨てることになるかもしれない無茶はできない。

 だけど――

 

 俺がマスクウェルになったのは、こういう悲劇を見過ごさないためだ。

 そう考えたら、後者の選択肢は絶対にない。

 

「――しょうがないな!」

 

 俺は、王女様をかばうようにしながら、追手を迎え撃つために足を止める。

 せめて人目につかないよう、裏路地の奥まったところまで逃げたのだ。

 どこからでも――

 

 

『――その必要はないよ、セスタ』

 

 

 その時、どこからか声がした。

 聞き馴染みの在る声――この場においては福音ともなりうる存在。

 

『――カミラ。気付いてくれたのか』

『もともと街が騒がしい気がしていたからね。まったく、せっかく頑張って隠してきたのに、こんな簡単に正体を明かしちゃ意味がないじゃないか』

『流石にそこまでやるつもりはなかったよ。それに、セスタでいる時に巻き込まれるなんて初めてなんだ。しょうがないだろ』

 

 ちょっとだけ本気を出す程度のつもりだったんだ。

 まぁ、その”ちょっと”で俺とマスクウェルの関係を見抜いてきそうな王女様は恐ろしいんだけど。

 ともあれ、カミラが来てくれたら俺が本気を出さずともこの場を切り抜けられる。

 本当に助かった。

 

『やれやれ、貸し一つだぞ』

 

 カミラの声が俺だけに響き、次の瞬間。

 

 

 裏路地を、煙のような何かが包んだ。

 

 

「な、なんですか!?」

「これは……今すぐ逃げてくれ! この視界なら逃げ切れる!」

 

 待っていましたとばかりに、王女様をこの場から逃がそうとする。

 とはいえ、そう簡単に逃げてはくれないだろうけど――

 

「そんな、だめです! 貴方こそ逃げてください!」

「どっちも逃げるんだよ! それぞれ別方向に逃げよう、そうすれば逃げられる確率も上がる!」

「で、ですが……」

「悪いけど、俺はあっちだ!」

 

 こういう時は、有無を言わさないに限る。

 俺は即座に声がした方向へと飛び出す。

 王女様の制止を振り切って。

 

 ――この場合、必要なのはあくまで王女様から距離を取ることだ。

 別にこのままセスタとして追手を倒すつもりはない。

 視界さえ隠れていれば、俺はいつでも仮面公に”成る”ことができるんだから。

 

 

 □

 

 

 亡国の王女――クラリッサにとって、仮面公マスクウェルは救いそのものだった。

 幼い頃に故郷であり自分の国であった王国が滅び、以来放浪の日々を続けてきたのだ。

 加えてクラリッサには、特別な能力があった。

 それを狙うものは多く、味方は少ない。

 他人から差し伸べられる救いの手には、一つの例外もなく打算が混じっている。

 孤独の中で生きてきたクラリッサにとって、人とは信じられる存在ではなかったのだ。

 

 そんな彼女を、初めて本当の意味で救ってくれたのが仮面公だった。

 仮面公マスクウェル。

 世界各地で、救済を求める声に反応して姿を見せる、正義の使者。

 クラリッサが初めて彼と出会ったのも、追手に追い詰められたときのこと。

 もはやこれまでと思い、クラリッサは神に祈った。

 誰でもいい、救いがほしい、と。

 

 その救いこそが、仮面公だったのである。

 

 仮面公には、こんな話がある。

 彼は、人々が最も強く救いを願った時に、現れると。

 救いを求める人間が追い詰められ、もはや助からないと思ったその時。

 まるで神が遣わしたかのように現れるのだ。

 

 これには一つのからくりがある。

 マスクウェルの能力は、人々の生きたいという意志に反応するのだ。

 それを探知して駆けつけるので、どうしても窮地に現れがちなのである。

 別にマスクウェルだって、そんなギリギリに現れたくはないのだが。

 

 そして何より、窮地に現れるからこそマスクウェルは信奉されるのだ。

 何より大事なのは、「この人は自分のことを第一に思ってくれている」感。

 マスクウェルが事件を解決する時、何よりも優先するのは人命だ。

 たとえどれだけマスクウェル本人が危険に陥ろうと、助けるべき人の命を優先する。

 世界の崩壊と自分の命を天秤にかけた時、自分の命を優先してくれるのではないかと思ってしまうくらいに。

 

 そして何より、マスクウェルは強い。

 直面した困難を、すべて自身の力で乗り越えてきた。

 救われた人々にとって、これほど安心できる存在はいない。

 だからこそ、思うのだ。

 

 

 この人こそ、神、もしくは救世主、もしくは――兄ではないかと。

 

 

 最後の一つは何かおかしいが。

 理屈としては変わらない。

 マスクウェルが、彼らの眼を曇らせるのだ。

 人々が救済される度、マスクウェルは彼らにとっての偶像に変わる。

 こうであってほしいという願望によって染められる。

 なぜ、マスクウェルの正体がバレないのか。

 それはあまりにも単純な理由。

 知りたいと思いながらも、知りたくないとも思ってしまう。

 そんな神秘性が、マスクウェルに在るからだ。

 

 そんな神秘性に、ちょっと焼かれすぎてしまった王女クラリッサの前に。

 その日――まるで最初の出会いの焼き直しのように。

 

 再び、仮面公マスクウェルは降臨した。

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