異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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変装

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 ──変装

 

 

 七海たちを乗せたトラックは、カイマン・アーマメントの工場が位置する、首都エリジウムのジュール・ヴェルヌ地区に向かった。

 

「ここら辺は本当に工場ばっかりだな。それも近未来チックなの」

 

 七海はソーラーパネルが屋根に貼られていて、外壁は白く清潔感がある建物が並ぶのを見てそう呟く。そこに七海が知っているような煙突があって、パイプが曲がりくねり、塗装は灰色の工場は存在しない。

 

「そうだな。そして、このジュール・ヴェルヌ地区の工場地帯こそが、まさに地球との冷戦のきっかけになった場所だぞ」

 

「例の企業連合による地球企業の資産差し押さえ?」

 

「そうだ。火星政府が安全保障上の問題と称して、企業連合による地球の資産の接収を認めた。この工業地帯には地球も相当な出資をしていたのだが、それが全部企業連合に奪い取られたんだ」

 

「安全保障上の問題、ねえ」

 

 実に胡散臭いと七海は言った。

 

「火星が独立したときから、地球との関係は悪かった。火星が独立できたのは地球の出した金のおかげだと地球の人間は考えていて、火星では自分たちが開拓者になったからこそ独立できたと思っている」

 

「きっかけは関税問題だったり?」

 

「何だ、知ってるじゃないか。地球政府は火星の移住者たちを最初は丁重に扱っていたが、後々になって質の悪い移民が送り込まれるようになると、負担が増大した。だから、火星のあらゆるものに税金を課し始めた」

 

 酸素税、水税、重力税と火星の維持費必要なものには何でもとアドラー。

 

「おいおい。酸素とか重力に税金かけたの? 正気かよ。これまで聞いた中で一番グロテスクな税金だぜ」

 

「火星を運営したのはやはり地球のメガコーポで、連中は火星の住民を奴隷よろしく働かせようしていたからな。だが、やはりふざけた税金には腹が立つものだ。それで反発が起きて、火星は独立を宣言し、7日間の独立戦争を戦った」

 

 当時火星を支配していたメガコーポは警備要員を最低限しか配備しておらず、そのおかげで火星で蜂起した民衆はあっという間に火星を制圧できたそうだ。

 

 火星を制圧と言っても、当時はテラフォーミングが十分ではなく、人類が生息が可能な範囲はとても狭く、人口も1万か2万程度だったそうだが。

 

「なるほどね。重税で独立戦争ってのはまんまアメリカだな」

 

「皮肉なことに火星の独立を許したメガコーポというのが、まさにアメリカ企業だ」

 

「すげえ皮肉だな」

 

 イギリスに約300年にやったことが、今度がアメリカに降りかかったわけである。

 

「そんな経緯があるから、火星が地球のメガコーポを警戒する気持ちはわかる。だが、火星の企業連合とて、まともな連中ではない。連中も政治を牛耳り、自分たちの利益ばかりを追求している点では地球のメガコーポと同じ穴の狢だ」

 

「俺には未だに政府より偉いメガコーポってのが理解できないよ」

 

 七海の時代は企業は明確に政府より下位の存在だった。

 

「さて、お喋りはそろそろ終わりだ。工場に到着するぞ」

 

「あいよ」

 

 アドラーの運転するトラックはジュール・ヴェルヌ地区の一角にある、カイマン・アーマメントの工場のゲートに向かう。

 

「李麗華。IDの偽造はできているな?」

 

『ばっちりー。問題なく入れるはずだよ』

 

「分かった」

 

 アドラーが確認するのに李麗華がそう応じた。彼女はカイマン・インターナショナルに出入りする輸送業者として、七海たちの乗っているトラックのIDを偽造している。

 

「行くぞ、七海。荒事は避けたいが、万が一のときは躊躇するな」

 

「了解だ」

 

 アドラーがそう警告し、七海はいつでも“加具土命”を展開できるようにした。

 

 そして、トラックはゲートに到達。

 

 ゲートには戦闘用アンドロイド2体とカメラセンサーが設置されており、七海たちのトラックが近づくと、それらがトラックをスキャンする。

 

 李麗華のID偽装のおかげで何も問題はなかったのか、七海たちはあっさりとゲートの通行を許可され、ゲートは開き、七海たちは工場の敷地内に侵入。

 

「上手くいきそうだな?」

 

「そうだな。このまま上手くいくといいんだが」

 

 七海が助手席で周囲を見渡しながら言うのにアドラーは緊張した様子だ。

 

 七海たちのトラックはそのまま商品を積み下ろしする集配場に到着し、そこにアドラーはトラックを停車させた。

 

「ああ! やっと来たね! 急いで積み込んでくれ!」

 

 工場の職員だろう男が飛び出してきてそう言う。それと同時にいくつものコンテナが七海たちのトラックに向けてフォークリフトで運び込まれてきた。

 

「了解。後は任せてくれよ」

 

「当たり前だろう。こっちは金払ってんだぞ!」

 

 この工場を運営するカイマン・アーマメントの職員は七海の言葉に苛立った様子でそう吐き捨てると、さっさと立ち去っていった。

 

「さて、と。じゃあ、いただいていきますか」

 

「ああ。全部積み込み終えた。持っていこう」

 

 感じの悪い職員が立ち去るのを見届けたのちに七海たちはトラックに乗り込んで工場から出る。入ってきたとき同様に、七海たちは何の警告も受けずに工場から走り去ることができたのだった。

 

「さて、オポチュニティ地区に戻ったら、適当なところにこの車を捨てて、装備だけいただいたらさっさと逃げよう」

 

「交通監視システムが存在しないか、破壊されている場所を選ぶ必要があるな」

 

「俺には分からないから任せるぜ」

 

 七海とアドラーはオポチュニティ地区までトラックを走らせると、使われていない廃倉庫で車を止めて、荷台からウォッチャー・インターナショナルの装備を降ろした。

 

「へえ。カッコいい装備じゃん」

 

 ウォッチャー・インターナショナルの装備はデジタル迷彩の戦闘服が上下と体の大部分を覆う黒いインナー。そして、バイタルを守る防弾アーマーとタクティカルベスト。ヘルメットは軽いが頑丈でヘッド(H)アップ(U)ディスプレイ(D)付き。

 

「戦闘服は投影型熱光学迷彩付き。インナーはナノマシンによるエネルギー還流システムと医療支援付き。防弾アーマーは磁気流体とナノファイバーによる二重装甲。ヘルメットの戦術支援AIであるODINは……流石にオフラインか」

 

「滅茶苦茶SFな装備じゃん。すげえ!」

 

「しかし、生身の人間が装備するには電磁装甲付きの強化外骨格(エグゾ)も、エネルギー兵器対策のデフレクターシールドも、それに通信装備もなしだ。軍用の装備としては基礎だけの部類に入る」

 

「いやいや。十分だろ」

 

 アドラーは不満そうだったが、七海は未来チックな装備に大満足。

 

「満足ならそれでいいが……。では、早速だが装備をカバンに詰め込んでから、李麗華のところに戻ろう。彼女に装備が入ったことを知らせたら、いよいよ次のステップに進むときだ」

 

「ああ。いよいよ仕事(ビズ)も本番だな」

 

「ぬからずやろう、相棒」

 

 七海たちは奪った装備をボストンバッグにそれぞれ積み込むと、一度李麗華のマンションに向けて戻ることに。

 

「よいしょっと。李麗華、戻ったぜ」

 

 いろいろと機能が備わった装備は重く、苦労して運びながらも、七海たちは李麗華のマンションに戻ってきた。

 

「おー。まずは第一関門クリアだね。次はもっとハードだよ」

 

「任せときなって」

 

 李麗華が満足そうに言うのに七海はそう請け負う。

 

「じゃ、まずはその装備一式にウォッチャーのIDを割り振って、君たちに与えるIDとリンクさせなくちゃね。そうしないと登録されていない装備を付けている不審者になってしまうから」

 

「思うのだが、仮にも火星最大の民間軍事会社(PMSC)であるウォッチャーのIDまで偽造できる腕前なのに我々が協力するまで、この仕事(ビズ)を実行するのを待っていたのか?」

 

「他に頼れそうな人もいなかったからねー」

 

「ふうむ」

 

 アドラーは李麗華さえいれば、この仕事(ビズ)は成り立ち、末端で動く人間は誰だろうとよかったのではないか思えていた。

 

 だが、何故か李麗華は準備万端でありながら、七海たちを待っていた。

 

 その理由は謎だ。

 

「で、次の作戦について話そうぜ。次はいよいよ博物館に侵入だ。どうやって現地まで行くかとか、どのタイミングで立ち入り制限地域に侵入するかとかだが」

 

 そこで七海がこれからの問題になる点を上げていった。

 

「現地まではあたしが準備した車両で向かって。怪しまれないとは思うから。この車両ね。帰る時には使い潰してもいいから」

 

「オーケー。カッコいい車だな」

 

「でしょ? 頑張って盗んだものだからね」

 

 七海たちが使用するのは装甲が施された軍用四輪駆動車で、これも偽造されたウォッチャーのIDが付与されている。

 

「それから火星考古学研究棟の地下に入るタイミングはあたしが合図する。上手く警備を分散させるから迅速に侵入して」

 

「了解した。私の方で博物館の無人警備システムに直接接続(ハードワイヤード)して、乗っ取り(ジャック)する手もあるが、どうする?」

 

「そこら辺の判断は任せるよ。最終的には荒事になるのを覚悟しておいて」

 

「ああ」

 

 この仕事(ビズ)ではウォッチャーとの交戦は避けられない。それに備えて無人警備システムなどを掌握しておくのは、戦術のひとつだろう。

 

「重要なのはサーバーに無線端末を装着するまでは、侵入にばれてほしくないこと。早々にばれちゃうと、データーをダウンロードするどころの騒ぎじゃなくなったやうから。そこはお願いねー」

 

「他に注意点は?」

 

「しいて言うなら死なないで。あたしの仕事(ビズ)で死なれると後味が悪いから」

 

「へえ。優しいな」

 

 李麗華の言葉に七海はちょっと感心したようにそう言った。

 

「誰だってこんなものだよ。では、そろそろ仕掛け(ラン)を始めようか?」

 

「ああ。いつでもいいぞ。やってやるよ」

 

 そして、七海は不敵に笑った。

 

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