異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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古代火星文明

……………………

 

 ──古代火星文明

 

 

 七海たちはそれから追跡されることはなく、無事に李麗華の下に戻った。

 

「お疲れさまー! コーラでも飲む?」

 

「ああ」

 

 李麗華は冷えたコーラで七海たちを歓迎してくれた。

 

「ウォッチャーの連中は諦めたのか?」

 

「そうみたいだね。少なくとも連中は博物館を襲撃した人間を追ってはいないよ」

 

「それは何より」

 

 七海は李麗華の言葉に安堵の息。

 

「では、ここまでの大騒ぎを起こしてまで手に入れたかった情報というのが何なのか、教えてもらえるんだろうか?」

 

「もちろん。その前にひとつ言っておきたいことがある」

 

「何だ?」

 

 アドラーが李麗華の言葉に首を傾げる。

 

「あたしはドラッグはやってないし、至って正気だってこと」

 

「ふん?」

 

 奇妙な前置きに七海もアドラーも怪訝そうな顔をした。

 

「さて、ではこれを見て」

 

 李麗華がARに表示させるのは、何かの石碑だった。七海が昔歴史の教科書で見たことがあるロゼッタ・ストーンのようなものだ。

 

「これは?」

 

「古代火星文明が残したと言われる遺跡の一部。インフィニティは古代火星文明について研究をずっと行っているんだ」

 

「……古代火星文明?」

 

 流石の七海もアドラーも全く李麗華の言っていることが呑み込めず、不可解そうな顔をするばかりであった。

 

「そんなものは存在しないって思ったでしょ? でも、存在するんだよ。火星には地球より以前に文明が存在した。地球とは全く異なるルーツの文明が築かれていたが、それは突然消滅したんだ」

 

「おいおい。じゃあ、火星には火星人がいたってことか?」

 

「そうなるね。面白そうでしょ?」

 

「面白そうっていうか、気が変になりそう」

 

 まさかの火星人が存在するという話であった。

 

 七海がまだ地球にいた2020年にはオカルトブームは既に終わっており、かつて騒がれたほど宇宙人がどうのこうのという話はなかった。

 

 しかし、2095年にはどうやらオカルトブームが再来し、火星を牛耳るメガコーポすらもそれにどっぷり嵌っているらしい。

 

「火星の古代文明というものについては、私も聞いたことがない。どういう文明がこの火星に存在したというんだ?」

 

「彼らは地球を起源とするあたしたち人類とは異なる文化体系を持っていた、と言われている。つまりは科学技術についてもあたしたちとは異なっていたってね」

 

「ふむ。しかし、物理法則が変わらない以上、結局は同じような科学技術に行きつくのではないか? 一種の収斂進化というものだ」

 

「その点が面白いんだよ。彼らが世界に見出していた物理法則は、あたしたちのそれとは違っていたって考えられている。彼らにはあたしたちには魔法にしか見えないような物理法則を見つけていたと」

 

「具体的にはそれはどのようなものなんだ?」

 

「それはこれからこのデータを解析して調べるんだよー」

 

 李麗華はアドラーの質問ににやりと笑ってそう返した。

 

「ふうむ。興味ありだが、まずは最初の約束を果たしてもらいたいんだが」

 

「君たちの仲間になるってことでしょ? いいよー」

 

「おお。やったぜ」

 

 七海たちの目的はこれからの仕事(ビズ)のためにハッカーを味方にすることであった。これで李麗華が仲間になってくれれば、これからの仕事(ビズ)もはかどることだろう。

 

「予定していた第一段階は完了だ。次はBCI手術のための金を稼ぐってことと棺桶(コフィン)ホテル暮らしをやめること。そのためにはスカーフェイスに仕事(ビズ)を回してもらわないとな」

 

「金を稼ぐのが先決だな」

 

「世知辛いが金がなければ何もできん」

 

 七海とアドラーは前のスカーフェイスの仕事(ビズ)で少し稼いだものの、先に上げたBCI手術や棺桶(コフィン)ホテル暮らしをやめるほどの金はない。

 

「ねえねえ。正式にあたしたちが組むことになったわけだし、ピザでも頼む?」

 

「そうだな。一度祝いたいな。火星のピザってどういうものがあるんだ?」

 

「地球のと変わらないよ。合成品しか庶民の食卓には届かない」

 

「まあ、美味ければいいや」

 

 七海たちはそれぞれがピザを選び、李麗華が注文した。

 

 ピザは30分と経たずに届き、熱々のピザが李麗華の家のテーブルに並ぶ。

 

「では、あたしたちのチーム結成を祝って!」

 

「乾杯!」

 

 七海たちはコーラで乾杯し、ピザをほおばる。

 

「これが全部オキアミと大豆の合成品とはね。信じがたい」

 

「これもインフィニティの系列企業が作っているものだよ。インフィニティはサイバービジネスだけでなく、生物学や医療分野でも影響力のあるメガコーポだから」

 

「へえ。全然別物そうなビジネスなのにな」

 

 李麗華が言うにはインフィニティは割と何でもやっている企業らしい。

 

「まあ、合成品っつっても本物のピザとさほど変わりない感じだ。少し化学薬品臭みたいなのがあるけど」

 

「え。本物のピザを食べたことがあるの?」

 

「あるよ。というか、その点の事情を説明しておかなければいけなかったな」

 

 そう、今の火星では本物のピザなど存在しないに等しく、七海がそれを食べたことがあるというのはおかしな話なのだ。

 

 その点は七海がどうして火星にいるのかの経緯から説明しなければいけない。

 

「まず俺も前置きしておくが、ドラッグはやってないし、至って正気だ」

 

 七海は突拍子もないことを話し出す前にそう言う。

 

「俺は2020年に異世界に召喚されて、異世界で勇者をやっていた。そして、魔王を倒して元の世界に戻ってきたはずが、どういうわけか2095年の火星に送り出されたしまった、というわけなんだ」

 

「マジで?」

 

「マジで」

 

 七海が言うのに李麗華が目を丸くして尋ねた。

 

「へえ。それももしかしたら、古代火星文明と関係あったりして」

 

「いや。受け入れられたのもびっくりだが、これも古代火星文明とかいうものと関係あるって言われるのもびっくりだわ」

 

 李麗華がペパロニがたっぷりのピザを一口ぱくりと食べてから言うのに七海がコーラを片手にそう言う。

 

「あたしみたいなマトリクスに入り浸っているハッカーにとって、世の中は不思議なことがいっぱいって認識だから。マトリクスでは様々なうわさ話や都市伝説が流れていて、どれも簡単には否定できなかったりする」

 

「そのひとつが古代火星文明か?」

 

「そう。今回の仕事(ビズ)でインフィニティまでもが真剣にこれを研究しているって分かって、この都市伝説はかなりの信憑性を帯びてきた」

 

 アドラーが尋ね、李麗華が頷く。

 

「それにさ。今回の仕事(ビズ)でいろいろ見させてもらったけど、君の使っている技術は、どんな既存の科学でも説明できそうになかったから」

 

「まさに魔法だからな」

 

「魔法か。十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないって昔のSF作家も言っていたけれど、魔法というのは別に非科学的なものではないと思うんだよね」

 

「いずれ科学で解明できるって点でか?」

 

「そう。魔法や奇跡とかいうのは未解明の科学に暫定的につけられた名称だとあたしは思っている。古代火星文明が魔法のような技術を持っていたって話したけど、それも解明すれば結局は科学に行きつく」

 

「それについては同意する。だってさ。異世界には魔法学校ってのがあるんだよ。つまり魔法は他人から他人に教えられるぐらいには法則があるってことで、法則を解明すればそれは科学になる。だろ?」

 

「いいね、その着眼点。まさにその通りだと思うよ」

 

 七海が言ったように異世界には魔法学校というものがあり、そこでは魔法が教師から生徒に与えられていた。だが、魔法が完全に法則性も何もなければ、それを他者に教えることなど不可能だろう。

 

「中世の錬金術が化学の前身であったようなものか」

 

「そうだね。宗教が人類学に分類される前の神秘に満ちたものだった時期とも同じかもしれない。今やどのような神秘の存在も、科学がどんどん分類し、法則を見つけ出し、神秘のベールを引き剥がしている」

 

「いつまでも洞窟で暗闇に怯えて過ごすわけにはいかないからな」

 

 李麗華が残念そうに語るのにアドラーがそう肩をすくめた。

 

 そうだろう。炎という光のない時代は暗闇というのも、かつては魔法のように謎に満ちた存在だったのだ。

 

「なあ、俺たちはチームを組むわけだけど、何かチーム名みたいなの付けないか?」

 

「確かにそういうものがあった方が名は売りやすいな」

 

「だろ?」

 

 七海がグッドアイデアというように提案するのにアドラーたちが頷く。

 

「しかし、どんな名前にする?」

 

「はいはーい。ドラゴンクロウズってのは?」

 

「私たちのどこにドラゴン要素があるんだ?」

 

 李麗華が真っ先に提案するのにアドラーが渋い顔。

 

「何かこう俺たち全員をいい具合に表す名前がほしいな」

 

「ウィザーズ、というのはどうだ? 七海は魔法使いだし、私や李麗華もマトリクスのハッカーという点では魔法使い(ウィザード)だ。ウィザーズ、魔法使いたちというのは悪くないと思うのだが」

 

「おお。まさにいい感じだな、アドラー。それにしよう!」

 

 アドラーの提案に七海たちが頷く。

 

「では、ウィザーズの結成に!」

 

「かんぱーい!」

 

 こうして七海たちはさらにビッグになるためにチームを結成したのだった。

 

……………………




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