異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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軌道衛星都市

……………………

 

 ──軌道衛星都市

 

 

 火星の軌道上には無数の軌道衛星都市が存在する。

 

 その目的は税や法を回避する目的であったり、あるいは単純に地上ではできない経験をするためであったり、もっとシンプルに富裕層向けの特別感がある高級リゾートであったりと様々だ。

 

 オービタルシティ・ホープもリゾートホテルが中に入る予定で建設されたものだったが、予算超過によって放棄されてしまったものである。

 

 今は宇宙海賊ポセイドンの拠点となってしまっている。

 

「間もなくドッキングだ」

 

「了解」

 

 アドラーがそう言い、七海がドッキングに備える。

 

 アドラーは李麗華からの事前の情報に従ってにメンテナンス用のアクセスポートに接続し、しっかりとシャトルをドッキングさせた。

 

突入(ブリーチ)だ。準備はいいな、七海?」

 

「任せとけって。ここからは俺が主役だ」

 

 アドラーが確認し、七海は不敵に頷く。

 

 そして、シャトルの扉が開かれた。

 

「ゴー!」

 

「殴り込みだ!」

 

 アドラーが七海を援護できる位置に就き、七海が突入。

 

『ヘイ、おふたりさん。今、オービタルシティ・ホープの無人監視システムに侵入した。早速そっちに敵が向かっているよ。注意してー』

 

「あいよ!」

 

 七海たちはメンテナンス用の小さな通路を駆け足で進み、会敵に備える。

 

 中にはちゃんと重力が存在しており、七海たちは地に足を付けて進んだ。

 

 そこで複数の足音が聞こえてくる。敵だ。

 

「いたぞ! コルベットをやった連中に違いない!」

 

「殺せ!」

 

 宇宙海賊たちがそう言って通路に現れた。

 

 宇宙海賊たちは簡易の宇宙服を身に着けており、頭蓋骨などのエンブレムをシールで貼っていたが、が宇宙海賊らしいのはそれだけで、握っている武器は議場のギャングと変わりない。火薬式の蛍光色に塗装した銃火器だ。

 

「来やがったな。相手になるぜ」

 

 七海は“加具土命”を構えて宇宙海賊たちと対峙。

 

「撃て!」

 

「へへっ! その程度!」

 

 宇宙海賊たちが発砲し、七海が“加具土命”でそれを弾きながら、身体能力強化(フィジカルブースト)で一気に肉薄。

 

「なっ……!」

 

「まずはひとり!」

 

 七海の振るった“加具土命”が宇宙海賊をばっさり。宇宙服ごと切断された宇宙海賊が鮮血をまき散らして地面に倒れる。

 

「クソ! この野郎、サイバーサムライだ!」

 

「肉薄させるな! 遠距離から仕留めろ!」

 

 突っ込んできたはずの宇宙海賊たちは後退しながら射撃を始める。

 

「援護する、七海。突っ込め!」

 

 アドラーは自動小銃で後方から的確に七海の脅威となる敵を排除していく。その正確無比な射撃を前に宇宙海賊はさらに押される。

 

「クソ、クソ! 応援を寄越してくれ!」

 

「重装兵、前に出ろ!」

 

 ここで作業用強化外骨格(エグゾ)にDIYでアーマーを取り付けたものが、前に出て来る。装着者は手に重機関銃を握っている。もはや、お決まりの重装兵だ。

 

 だが、宇宙海賊のそれが違うの、彼らがデブリ対策のデフレクターシールドを装備しチているという点だろう。指向性エネルギー場がデフレクターシールドの中からの攻撃を許しても、外からの攻撃をシャットアウトする。

 

「くたばりな、サイバーサムラァァァァイッッ!」

 

 男の雄たけびとともに重機関銃が掃射され、七海は大口径高速ライフル弾を弾きながら遮蔽物に飛び込む。

 

「クソ、またあのデブかよ。アドラー、そっちでどうにかできそうか!?」

 

「無理だな。こいつのネットワークへの侵入を試みているが、(アイス)がなかなかに強固だ。それも無人警備システムからは独立しているらしい」

 

「それじゃあ物理(フィジカル)で暴れ回るしかねーな」

 

「ああ。それしかない。やるぞ。私が前に立って戦線を押し上げる!」

 

「オーケー!」

 

 ここでアドラーもデフレクターシールドを展開し、重装兵に突撃する。

 

「はっはっー! 死に腐れ!」

 

 重装兵がアドラーに向けて重機関銃を乱射。通常、携行可能なデフレクターシールドは重機関銃のような高火力兵器の連続射撃に長くは耐えられない。

 

 しかし、だ。

 

「甘い見込みだったな?」

 

 アドラーのデフレクターシールドは一度銃弾のエネルギーを受け止め、表面が波打つように揺れると重機関銃の射撃を受け止め続けた。

 

「おいおい! まさか多層型デフレクターシールド!? まだほとんど試作段階の超高度軍用技術だぞ!?」

 

「七海! 今だ! 叩きのめせ!」

 

 重機関銃の銃弾が一度尽きたところでアドラーが叫び、七海が前に出る。

 

「くたばりやがれ、デブ野郎!」

 

「ひいっ────」

 

 七海は“加具土命”を振り下ろし、デフレクターシールドごと重装兵を斬り伏せた。デフレクターシールドは既にシェルに搭載されるレベルのものを叩き切った七海だ。携行可能なそれなど相手にならない。

 

「撃破!」

 

 作業用強化外骨格(エグゾ)が爆発し、デフレクターシールドジェネレーターも暴走。そのまま重装兵は撃破された。

 

「次!」

 

 七海がすぐさま次の獲物を狙う。

 

「畜生! なんでこんなやつらが乗り込んできたんだ!?」

 

魔女のばあさん(バーバヤーガ)の呪いか!?」

 

「うるせえ! 文句を言うな! さっさと殺しちまえ!」

 

 宇宙海賊たちの士気はめりめりと落ちていくが、ここで戦うしかない宇宙海賊たちはあくまで抵抗を示す。

 

『おふたさん。キャッチ=22を発見したよ。軌道衛星都市内の発電区画にいるみたい。そこまでのナビを開始するねー』

 

「あいよ!」

 

 李麗華がARデバイスを介して連絡してくるのに七海が頷く。

 

 戦闘は継続され、七海たちは押しに押してメンテナンス区画から外に出た。

 

「お次は?」

 

「このコンテナの数からして、どうやら格納区画だ。主に集められているのは密輸品だろうな。火星では禁輸されている地球製の商品といったところか」

 

「へえ。いくつか貰っていきたいもんだ」

 

「余計なお土産(パッケージ)を持ち帰る余裕はないぞ」

 

「残念なり」

 

 七海たちはそう余計なお喋りをしながらコンテナの並ぶ格納区画を進む。

 

「しかし、李麗華はここが宇宙海賊の拠点だって気づいてたけど、警察とかは気づいてなかったのかね。あんな軍艦まで持って立ってのにさ」

 

「一部の宇宙海賊は賄賂を払うことで取り締まりを逃れている。それに事実上火星を牛耳っている企業連合としても、全く地球の商品が入ってこないのは、技術的な孤立を意味してしまう。だから、見逃しているのだろう」

 

「確かに技術のガラパゴス化っていうもんな。ガラケーとか」

 

「ガラケーとは何だ?」

 

「大昔の携帯電話。スマホに及ばないけど便利ではあったぜ」

 

「ふうむ。知らなかった」

 

 七海は2003年生まれ。彼が子供のころにはガラケーがまだ存在した。

 

 一方アドラーにはガラケーの知識がまるでないあたり、ガラケーは完全に歴史から姿を消したものと思われる。

 

「さて、お喋りはほどほどにして問題のハッカーを目指そうか。ここから2階層上にあがった場所が発電区画だ」

 

「私が先行しよう。援護してくれ」

 

「了解だ、相棒」

 

 アドラーが前に出て進み、七海が続く。

 

 既に宇宙海賊の抵抗はほとんどなくなっており、七海たちは仕掛けられた地雷などを解除しながら、どんどん前進していった。

 

『敵が無人警備システムを作動させようとしているけど、システムを書き換えて敵を攻撃するように仕向けておいたから、安心していいよー』

 

「グッジョブ、李麗華」

 

 ここで無人警備システムのリモートタレットや警備ドローンが姿を見せるも、それらは七海たちではなく宇宙海賊たちを攻撃し始める。

 

「どうなってるんだ!?」

 

「システムがハックされている! 焼き切れ!」

 

「クソッタレ──」

 

 宇宙海賊が阿鼻叫喚。

 

「こいつはいいや。楽勝だな」

 

 七海は宇宙海賊が自滅するのに鼻歌で歌いそうなほど軽快に進んでいく。

 

「李麗華。間違ってハッカーを殺すなよ。やつにはお土産(パッケージ)について話を聞く必要がある」

 

『分かってるよ、アドラー。その点はばっちりですから』

 

 ハッカーからは問題の地球企業に流そうとしている情報──お土産(パッケージ)について話を聞く必要がある。ハッカーが必ずしもそのお土産(パッケージ)を今も持っているとは限らないのだ。

 

「敵の抵抗はもうほとんどない」

 

「宇宙海賊はそこまで所帯が大きいわけではないからな。生き残りも戦意を喪失しただろう。何せ商売道具であるコルベットは今やスクラップだ」

 

「それもそうだな。ここまで来てわざわざ俺たちと戦って死ぬ必要もない」

 

 アドラーと七海はそう言葉を交わし、ついに発電区画に繋がる通路の前に立った。

 

「七海。間違ってキャッチ=22を殺すなよ?」

 

「任せとけ。蹴り破るぞ」

 

「3カウント」

 

 3──無人警備システムは現在は宇宙海賊によって焼き切られている。

 

 2──それによって李麗華にも発電区画の情報は得られなくなった。

 

 1──とはいえ、もはや宇宙海賊は壊滅状態だ。脅威はほぼない。

 

「ゴー!」

 

 アドラーの合図で七海が扉を蹴り破り、発電区画内に突入(ブリーチ)

 

「撃つな、撃つな!」

 

 七海たちが発電区画内に踏み込んだと同時に声が上がる。

 

 そこには両手を上げた宇宙海賊たちが。

 

「はて。降伏するって意図でいいのか?」

 

「そうだ。あんたらの狙いはこいつだろう?」

 

 宇宙海賊はそういうとひとりの中年の男を前に突き出した。それは七海たちが入手したキャッチ=22の身体的特徴と一致する男だ。

 

「まさにだ。で、こいつから地球に送信するように頼まれていた情報があるはずだが、そっちはどうなっている?」

 

「まだ未送信だ。全く、こんなクソみたいな事態になると分かってれば、この仕事(ビズ)は受けたりしなかった」

 

「災難だったな」

 

 宇宙海賊が愚痴るのに七海はそう言い、キャッチ=22の方に向かう。

 

「ま、待て。取引しよう。我々は話し合えると思う」

 

「どうだろうな。お前が地球に送ろうとしていた情報はどこだ?」

 

 七海がそうキャッチ=22に尋ねた。

 

「こ、ここにある。このデバイスの中だ」

 

 キャッチ=22はそう言って首の後ろのBCIポートから、記憶デバイスを抜き、七海に向けて差し出した。

 

「アドラー。どう思う?」

 

「私たちの仕事(ビズ)はあくまでそのハッカーの殺害だ。それはきちんとやっておくべきだろうな」

 

「オーケー。そうしよう」

 

 アドラーの言葉に七海が“加具土命”を構える。

 

「や、やめ──」

 

「あばよ、ハッカー」

 

 七海が振り下ろした“加具土命”はキャッチ=22の首を切断。

 

「これで仕事(ビズ)は完了。地上に帰ろう」

 

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