異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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亡命//偽装

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 ──亡命//偽装

 

 

 七海たちは無事にニューロラボのふたりの研究員であるマルケスとオルソンを拘束。彼らを仕事(ビズ)が終わるまで、適当な倉庫に監禁しておくと、彼らのIDを李麗華が引き剥がして偽装した。

 

「よし。これで問題なくオービタルシティ・ドーンに侵入できるはずだよ」

 

「やったな。これで最初の難関はクリアだ」

 

 李麗華が言い、七海がガッツポーズ。

 

「次の段階について考えたいが、あまり時間はない。ドーンに向かうシャトルの出発までは残り数時間だ。現地で調整しよう」

 

「そうだな。まずはドーンに滑り込まないと」

 

「それに全くの無策というわけでもない。例の電子ドラッグ──G-APPを囮にして、ハイデッガーが拉致(スナッチ)する。その方針に変更は必要ないだろう」

 

「だな」

 

 G-APPという電子ドラッグを囮にして、本命であるハイデッガーを引き抜く。

 

「まずは服装を整えないと。じゃないと、その“さらりまん”スタイルじゃ、研究員として通用しないよ」

 

「そうだな。スラムのファッションでは怪しまれる」

 

 ラフなスーツと蛍光カラー入りのジャケットという“さらりまん”スタイルは、オポチュニティ地区では浮くことはないが、高給取りの研究員や技術者たちが集まるシンポジウムでは浮いてしまうだろう。

 

「君たちが拉致(スナッチ)をやっている間に、服はオーダーしておいたから着替えていくといいよ。ただ急いでね。シャトルに間に合わなくなる」

 

「了解だ。さっさと着替えて出発しよう」

 

 七海たちは李麗華が準備しておいた高級スーツに身を包むと、すぐさまフィリップ・K・ディック国際航空宇宙港に向かった。

 

「今度はちゃんとしたシャトルの客としてきたわけだけど。俺はシャトルの乗り方なんて知らないんだよね」

 

「私が知っているから心配するな。手続きを済ませて、さっさと乗り込もう」

 

「ああ」

 

 七海たちは国際航空宇宙港のフロントでシャトルに乗り込む受付を済ませる。フロントには接客用アンドロイドがおり、手続きはほぼ自動的に行われた。

 

「これで搭乗手続きは完了だ」

 

「よっしゃ。後は乗り込むだけ!」

 

 七海たちは手荷物検査を済ませて、シャトルの搭乗口に急いだ。

 

「あれが俺たちの乗り込むシャトルか。前のと違ってすげー立派でカッコいい」

 

 七海の視線の先にあるのは、白く塗装された巨大なシャトル。地球に存在したジャンボジェットぐらいの大きさがあり、そのジャンボジェットより巨大なエンジンを備えているものだ。

 

「あれも火星製だ。前々から火星は自分たちだけでやっていけるように技術的な自立を心掛けていたからな」

 

 アドラーはそう言ってシャトルの搭乗口で接客用アンドロイドにチケットを示し、シャトルの中の方に進む。

 

「自立っていいうと火星に必要なことは全て火星でできるようにするってことか?」

 

「その通りだ。地球に一切依存しない経済が、独立後の火星には求められていた。資源の上でも、技術の上でも火星は自立しなければならなかった」

 

 七海が広いシャトルのビジネスクラスにて座席番号を見て座り、アドラーもそう言いながら続いて腰かけた。座席は広々としていて、流石は金持ちが乗るシャトルだという感想を抱く。

 

「それは地球と対立しているから?」

 

「ああ。それと地球との物理的な距離だ。未だに火星と地球の間で行き来するのは時間がかかる。地球から輸入するよりも、火星で作った方が安く済むというのは、ほとんどの商品に言えることなんだ」

 

「なるほどねえ」

 

 未来になったからと言って地球と火星の物理的な距離が縮んだわけではない。今も地球と火星は2020年と同じ軌道を回っている。

 

『ご搭乗の皆様。間もなく当機はオービタルシティ・ドーンへと出発いたします──』

 

 社内アナウンスが流れ、七海たちを乗せたシャトルが滑走路へと向かう。

 

 それからシャトルのラムジェットエンジンが点火され加速。続いて反重力エンジンが起動すると巨大な機体は空に舞い上がった。

 

「おお。前に乗ったおんぼろよりスムーズだな」

 

「それは当然だろう。こっちは最新鋭機だ」

 

 七海が感心する中で、離陸は完了した。七海たちは宇宙空間の無重力を体験しながら過ごし、シャトルはオービタルシティ・ドーンへと向かう。

 

 オービタルシティ・ドーンはやはり火星の衛星軌道上にある。

 

「見えてきたぞ。あれだ」

 

 シャトルの尾翼に着けられたカメラが、ドーンの映像を映す。

 

「へえ。きらきらしている。何というか前の言ったホープとはえらい違うな」

 

 七海が見つめる先には金色に輝く軌道衛星都市が見えていた。

 

「廃棄された軌道衛星都市と今も金持ちが集まる軌道衛星都市では違うのは当然だ。そして、李麗華が読んでいたようにウォッチャーと国連宇宙軍(UNSC)の戦闘艦だ」

 

 アドラーがさらに指さすのはウォッチャー・インターナショナルのロゴが入った灰色の戦闘艦1隻と国連宇宙軍(UNSC)のロゴが入った白い戦闘艦が2隻。

 

「どっちもこの前、相手にしたコルベットとは大違いだな。なんだかこの仕事(ビズ)から本当に生きて帰れるのか不安になってきたぜ……」

 

「ぬからずやれば、きっと達成できる。まずは現地で作戦立案だ」

 

「おう」

 

 七海たちを乗せたシャトルはそのままオービタルシティ・ドーンのドッキングステーションに入り、ドーンとドッキングした。機体が完全に静止して空、ベルト着用サインが消える。

 

「到着だ」

 

 だが、ここからが七海たちにとっては本番だ。

 

 七海たちがシャトルを降りると早速ウォッチャーの警備部隊がお出迎え。

 

「現在オービタルシティ・ドーンはテロ警戒中につき、当社のコントラクターと警備プロトコルに従ってください」

 

 ウォッチャーのコントラクターたちはそう言って降りてきた乗客のIDスキャンと手荷物検査を行っていく。

 

「次の方」

 

「はいはい」

 

 七海が前に出てIDスキャンを受ける。スキャンされたIDにはマルケスのものが、七海のデータで上書きしてある。身体的特徴や顔写真などは全て七海のものだ。

 

「オーケー。どうぞ行ってください」

 

「どうも」

 

 七海は無事にパス。

 

「次の肩」

 

「ああ」

 

 アドラーも同じようにIDスキャンを受けて無事に通過。

 

「ここからが本番だ。作戦を立てよう」

 

「その前にホテルにチェックインしておかないと、ニューロラボの本社にふたりが来てないと連絡が行ってしまう」

 

「おっと。そいつは不味いな。まずはホテルか」

 

 七海とアドラーはまずはドーンのホテルに向かう。

 

 ドーンには富裕層向けの高級ホテルが何軒もあり、七海たちはそのひとつにチェックインし、そこで李麗華を交えて作戦会議をすることに。

 

『無事に到着できたようで何より。後はどうやってハイデッガーを拉致(スナッチ)するかだ』

 

「おう。そこら辺の作戦会議をしようぜ」

 

 李麗華がマトリクスから参加し、七海がそう急かす。

 

『何はともあれ、こちらから支援をするというならば、ドーンのネットワークに侵入しておきたい。そのためのお使いを頼めるかな?』

 

「ドーンのネットワークに直接接続(ハードワイヤード)して、(アイス)にバックドアを作る。そういう話か?」

 

『そうそう。話が早くて助かるよ、アドラー』

 

 ドーンのネットワークに侵入できなければ、警報を鳴らすことも不可能だ。まずは何であれ、李麗華がネットワークにアクセスできる状況を作らなければならない。

 

「何か専門用語が多くて分かりづらかったが、要はこっちであんたがネットにアクセスできるようにすればいいんだろう? で、具体的にどこに行けばいいのかは、既に調べてあるんじゃないか?」

 

『まーね。ドーンのネットワークに侵入するには、サーバーのひとつにバックドアを作る必要がある。そのサーバーの位置を教えるから、そこに向かって。後のことはアドラーがやってくれるはずだよ』

 

「了解だ。やってみせましょう」

 

 李麗華からドーン内にあるサーバールームの位置情報が送られてきて、七海が軽い感じに請け負った。

 

「では、サーバールームを目指すか」

 

「待て。今、李麗華からドーンの見取り図を送ってもらっている。今回はウォッチャーのコントラクターには偽装できない。ウォッチャーの警備に見つからないルートを探す必要がある」

 

「ああ。そうだった。それにシンポジウム前に騒動が起きたら中止になっちまうな」

 

「そういうことだ。慎重に行動しなければ、これまでのことがおじゃんだ」

 

 七海が頷き、アドラーが見つからずにサーバールームに侵入できるルートを探す。

 

「一部の無人警備システムを無力化できれば、見つからずに侵入できるルートがあるな。他はどこも警備が堅そうだ」

 

「けど、無人警備システムを黙らせるには、ネットワークに侵入しなきゃいけないだろう? そのルートは無理じゃないか?」

 

「大丈夫だ。無人警備システムに軽く侵入する程度ならば、どうにかなる」

 

「分かった。なら、そのプランで行こう。俺はまだマトリクスとかネットワークとか(アイス)とかよく分からないから、あんたに任せるぞ、相棒」

 

「ああ。任せておけ」

 

 七海たちはまずはドーンのネットワークに侵入すべく、サーバールームを目指す。

 

「しかし、李麗華は火星と地球が牽制し合うから、大した警備はいないはずだって言ってたけど、そこそこいやがるな」

 

 七海がホテルを出てドーンの通りを見渡すと、軍用強化外骨格(エグゾ)で武装した兵士たちや、検問(チェックポイント)を防衛する強化外骨格(エグゾ)より巨大なアーマードスーツなどが、結構な数で存在している。

 

 さらには──。

 

「シェルがいやがる」

 

 七海たちが博物館でやり合ったのと同型の歩行戦闘車両(WFV)シェルがトレーラーでドーンの通りを移動していた。

 

「この逃げ場のない軌道衛星都市であれだけの戦力とやり合うのは自殺だな」

 

「全くだ。静かに、スマートにやりましょう」

 

 アドラーと七海はそう言葉を交わしてドーンの通りを進む。

 

 目の前にはドーンの環境を管理する管理施設が見えていた。

 

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