異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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亡命//パニック

……………………

 

 ──亡命//パニック

 

 

 七海たちがG-APPの強奪(スナッチ)を狙う傭兵たちと接触し、タイミングについて調整を済ませた。

 

 後は時間になったらハイデッガーを拉致(スナッチ)するだけだ。

 

「李麗華からの情報で非常口は確認できている。そして、そろそろ時間になる。向かっておこう」

 

「了解だ、アドラー」

 

 アドラーがBホールでそう言い、七海たちはハイデッガーが避難するだろう非常口の方へと向かった。

 

 七海たちが非常口に向かっている間に、CホールではG-APPの展示が始められている。そっちでは強奪(スナッチ)仕事(ビズ)を請け負ったスハイルとヴィヴェークが準備を進めていた。

 

「あれがエーミール・ハイデッガーか」

 

 七海たちがAホールの非常口に向かう際に、Aホールの演台で講演するハイデッガーが目に入った。

 

 67歳と聞いていたが、まだ30代に見えるほど若いゲルマン系の男。あまり自分の身なりに気が向いていないのか、それとも反骨的な芸術家を気取っているのか、やや不衛生な無精ひげを生やしている。

 

 しかし、ブランド物のスーツはしっかりと着こなしている辺り、どういうことなのかはよく分かりずらい。

 

 そして、そのハイデッガー自身の周囲には黒いスーツの護衛がいる。李麗華が言っていた生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)だ。

 

「他にも護衛がいるんだよな」

 

「ああ。ベータ・セキュリティという民間軍事会社(PMSC)の部隊だ」

 

「やり合うことになりそうか?」

 

「なるだろうな」

 

「うへえ」

 

 アドラーの返事に七海が嫌な顔。

 

 彼らはそんなことを言い合いながらも、非常口を潜り、ドーン・エキシビションの避難経路に到達した。

 

「ここで待ち伏せよう」

 

「後5分で騒ぎが始まる」

 

 七海とアドラーが待ち伏せる中で、パニックは始まった。

 

『火災発生、火災発生。ドーン・エキシビション内にて火災発生』

 

 ドーン・エキシビションの火災警報が突如として鳴り響き、施設内が騒然となる。

 

本部(HQ)よりドーン・エキシビション内の全ユニットへ。火災発生を確認した。避難誘導を開始し、施設から民間人を退避させろ』

 

『了解!』

 

 ウォッチャーのコントラクターたちが動き出し、ドーン・エキシビションからの避難誘導が開始された。

 

 招待されていた聴衆たちは大混乱だが、辛うじてウォッチャーの避難誘導に従い、ドーン・エキシビションの全ての場所から避難を始める。

 

「ハイデッガー教授。こちらへ」

 

 仕事(ビズ)の目標であるハイデッガーもベータ・セキュリティのコントラクターに誘導されてAホールからの避難を開始。

 

『オーケー、オーケー。目標が動き出した』

 

 その様子は李麗華に捉えられており、七海たちに中継されている。

 

「よし。予定通り。このまま騒ぎが大きくなれば……」

 

 七海が李麗華から中継されているハイデッガーが避難する様子を見ながら呟く。

 

 ここでさらにG-APPが展示されているCホールで警報が響いた。

 

『コヨーテ・ゼロ・ワンより本部(HQ)! 展示中のG-APPが何者かに盗まれた! 警報を確認している!』

 

本部(HQ)、了解。対処する』

 

 ここでスハイルとヴィヴェークのふたりがG-APPの強奪(スナッチ)を実行。G-APPがふたりの傭兵によってドーン・エキシビションの外に持ち出される。

 

 これを察知したウォッチャーのコントラクターたちが、持ち出しを防ごうと展開を始め、結果としてハイデッガー周りの警備は減る。

 

 ここまでは全て予定通りだ。

 

「七海。こっちにハイデッガーが向かってきている。やるぞ」

 

「了解だ。任せときな」

 

 七海はアドラーにそう言われて“加具土命”を展開。

 

「アドラー。あんたは武器を持ち込めなかったが、どうするんだ?」

 

「武器なら持ち込んでいる。これだ」

 

 七海に尋ねられてアドラーが右手をすっと伸ばすと、そこにエネルギーブレードが形成された。デフレクターシールド同様にアドラーの体の中に隠されていた武器である。

 

「へえ。カッコいいな。そういうのって憧れるぜ」

 

「お前にはそれがあるだろう」

 

「まーね。自慢の剣だ。これでずっと戦ってきた」

 

 アドラーが“加具土命”を見て言うのに、七海がにやりと笑ってそう言った。

 

 七海は異世界で手にしたこの“加具土命”で戦い、魔王を討ったのだ。

 

『七海、アドラー。ハイデッガーもそっちの向かっているけど、がっちり護衛(エスコート)がついてるから気を付けて。ベータ・セキュリティの生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)だよ』

 

「ああ。情報に感謝する、李麗華。敵の規模はどの程度だ?」

 

『1個分隊ぐらいかな。10名前後』

 

「それなら楽勝だな」

 

『油断しない。君たちが死んだらゲームオーバーだよ』

 

 七海が余裕の笑みを浮かべるのに李麗華が注意する。

 

「ああ。その通りだ、李麗華。最悪でも死なないようにしないとな」

 

「あんたとならやれるさ、相棒」

 

「やってやろう。そろそろだ。音が近づいてくる」

 

 アドラーの音響センサーは重武装の人間が複数近づいてくるのを探知していた。

 

 その音は確実に迫り、そして──。

 

「来るぞ」

 

 問題の生体機械化兵《マシナリー・ソルジャー》が姿を見せる。

 

「あれが人間なのか……?」

 

 七海がそう呻くほど、生体機械化兵《マシナリー・ソルジャー》というのは人間からかけ離れた姿をしていた。

 

 体長は2メートルほどと巨体。口径25ミリクラスの大口径電磁ライフルを装備する2本の腕は巨大で、さらにそれを補助する小型のマニュピレーターアームを備えている。

 

 足は人間のそれではなく、動物のような趾行性のそれで、それが一層のこと異形感を増していた。

 

「連中のそれは一般的なインプラントを入れることや、人体の一部を機械化するレベルではない。専用の戦車のような兵器化された肉体に、自身の脳機能だけを移植しているものだ。油断するなよ、七海」

 

「ああ」

 

 七海は“加具土命”をアドラーはエネルギーブレードを構える。

 

『カトラス・ゼロ・ワンより本部(HQ)要人(VIP)の退避を実行中だが、不審人物に遭遇。相手は武装している』

 

本部(HQ)よりカトラス・ゼロ・ワン。排除して退避を継続せよ』

 

『了解』

 

 ここで不穏な命令が下され、生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)たちが電磁ライフルを構える。

 

「さあ、本当のパーティーの時間だぜ、相棒!」

 

 七海はそう言って生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)に向けて突撃。

 

接敵(コンタクト)接敵(コンタクト)

 

『相手は未知のサイバーウェアを使用している。警戒せよ』

 

 七海との交戦を決意した生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)はこれまでの敵とは全く違うレベルであった。

 

 それはすぐに分かる。

 

「消えた……!」

 

「投影型熱光学迷彩だ! 油断するな!」

 

 七海が突然姿を消した生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)を前に呻くが、アドラーがすぐにそう叫んだ。

 

 次の瞬間、七海は背後に殺気を感じると同時に突然視界に『敵位置6字の方向!』という警告が表示された。

 

「まさか!」

 

 それに従って七海が身体能力強化(フィジカルブースト)を限界まで駆使して自らの背後を守る。

 

 重い衝撃が七海の手に伝わった。

 

 “加具土命”は放たれた大口径ライフル弾を弾き飛ばしたが、七海も衝撃で後ろに飛ばされる。身体能力強化(フィジカルブースト)を駆使していた七海ですらも、そこまでの衝撃を受けたのだ。

 

「マジかよ。こいつはやべえぞ」

 

 相手の姿は見えないまま、銃弾だけが飛来する。

 

「七海! こっちで音響解析をしている! 敵も全くの無音では動けないから、音から相手の位置を割り出す! 5分だけもたせろ!」

 

「了解だ!」

 

 アドラーもエネルギーブレードとデフレクターシールドで生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)たちと戦いながら叫び、七海がアドラーの分析が終わるまで時間を稼ごうと“加具土命”を振るった。

 

『カトラス・ゼロ・ワンより全ユニット。解析が完了した敵のうち1体はシリウスのイシュタルMK18だ。もう1体は不明。生身とは思えないが……』

 

『こいつらサイバーサムライです。間違いない』

 

『サイバーサムライならば近接されるな』

 

 生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)たちは姿を消したまま、七海たちを殺害しようと銃弾を浴びせる。電磁ライフルの電気の弾ける銃声が響き、七海とアドラーに大口径が襲い掛かった。

 

「不味いな。5分って結構あるぞ。このままじゃ押し切られちまう」

 

 七海は生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)の猛攻を前に呻く。

 

 まだ時間は2分しか過ぎていないのだ。あと3分、この攻撃を乗り切らなければ。

 

「こうなりゃ……! イグニス!」

 

 ここで七海はイグニスを召喚。炎の精霊であるイグニスが炎を纏って姿を見せた。

 

「おやおや。また随分な騒ぎになっているね」

 

「あと3分この場を持たせないといけないんだ、姐さん。頼むぜ!」

 

「任せておきな」

 

 七海が頼み込むのにイグニスがにやりと怪しげに笑う。

 

『カトラス・ゼロ・フォーよりカトラス・ゼロ・ワン。あれはなんだ……?』

 

『新手か? クソ、排除しろ』

 

『了解』

 

 姿を消したままの生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)たちが一斉にイグニスを銃撃。劣化ウランで形成された大口径ライフル弾がイグニスに襲い掛かったが、それらは意味をなさなかった。

 

「ふん。相変わらず、妙な戦場だね」

 

 イグニスの熱の障壁が銃弾を蒸発させ、イグニスが躍るように大きく手を振る。

 

 それと同時に炎が舞う。青白い炎が投影型熱光学迷彩で姿を消して、一方的な攻撃を繰り広げている生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)たちへの反撃となった。

 

『不味い。デフレクターシールド展開!』

 

 ここで生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)たちは姿を見られるのを覚悟して、デフレクターシールドを展開し、イグニスの炎を防いだ。

 

「見えた。これで……!」

 

 現在の音響解析情報に姿を見せた生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)たちの位置情報が加わり、アドラーが実行していた解析が一気に進む。

 

「七海! 音響解析データだ! 受け取れ!」

 

「あいよ!」

 

 そして、解析の完了したデータがアドラーから七海の送信されてきた。

 

『敵情報更新。戦術的未来予想を開始します』

 

 すると、また七海の視界にそう表示され、驚くべき光景が広がった。

 

「こいつは……! 敵の未来位置か!」

 

 七海の視界には10体の生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)がどう動くのかを予想したデータが表示されていた。敵の現在地のシルエットに続いて未来位置のシルエットが七海の視界に表示されている。

 

「しかし、こいつはどういう仕組みだ……?」

 

『私は戦術支援AI“FREJA”です、ユーザー様。私はユーザー様の快適で安全な戦闘をサポートいたします』

 

「へえ。李麗華が言っていたAIってこれか。はっ、こいつはすげえぜ!」

 

 七海が新しい玩具でもゲットしたかのように愉快そうに笑う。

 

「じゃあ、叩き切ってやろうか!」

 

 七海は生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)たちの動きを予想するFREJAの情報に従って戦闘を開始。

 

『敵情報解析中。メティス・バイオテクノロジー製アトラス(A)コンバット(C)コンプレックス(C)』を使用した生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)です。敵弱点位置及び未来位置を表示します

 

「了解だ、FREJA! よし、まずは1体!」

 

 七海の“加具土命”が戦車並みの装甲がある生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)を引き裂き、その完全に機械のそれに置き換えられている肉体の弱点部位を的確に断った。

 

 クリティカルヒット。敵は戦闘能力を喪失して倒れる。

 

『こちらの位置はもう既に敵に把握されている。力押しで行くぞ』

 

『了解』

 

 生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)たちは一斉に熱光学迷彩を解除。その代わりにデフレクターシールドを展開させ、その指向性エネルギー場を盾に七海たちとの銃撃戦を開始した。

 

「おっとっと! しかし、だ。それも読めている!」

 

 FREJAは放たれる前の電磁ライフルの弾道すらも把握しており、七海はそれに身体能力強化(フィジカルブースト)を重ねて銃弾を次々に弾いていく。

 

『なんだ、これは……』

 

『火力を上げろ。グレネード弾を叩き込め!』

 

 生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)たちは七海に向けて電磁ライフルに装着されたアドオン式のグレネードランチャーで、グレネード弾を叩き込む。

 

「させんぞ」

 

 しかし、まだ魔力が残っているイグニスが不敵に微笑み、グレネード弾を空中で暴発させ、七海への攻撃を防いだ。

 

「時間がない。一気に仕留めるぞ、七海!」

 

「ああ! やってやろうぜ、アドラー!」

 

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