異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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先にブツを見せな//スカーフェイス

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 ──先にブツを見せな//スカーフェイス

 

 

 オービタルシティ・ドーンの仕事(ビズ)から数日後。

 

「スカーフェイスから連絡が来た。仕事(ビズ)の斡旋だそうだ」

 

 アドラーが七海たちの家のリビングでそう言う。

 

 七海とアドラーが住み始めた家には、今ではテレビやテーブル、椅子などの家具が置かれ、ちょっとばかり生活臭が出始めていた。壁には掃除当番の表も貼ってあるなど、ようやく腰を落ち着けた形だ。

 

「オーケー。いつも通りキュリオシティか?」

 

「ああ。李麗華には具体的な仕事(ビズ)の内容を聞いてから知らせよう」

 

「了解だ」

 

 七海たちはそう確認してから家を出てキュリオシティに向かう。

 

 さて、七海たちの生活でもうひとつ決定的に変化したものがある。

 

 それは車だ。

 

 七海たちは前回の仕事(ビズ)の報酬でついに車を購入。

 

 アレス・システムズ製のSUV“STORM”。強力な四輪駆動車であり、オプションで装甲やアクティブ(A)防護(P)システム(S)やデフレクターシールドまで盛った、七海たちの自慢の愛車だ。

 

 運転はアドラーが行い、七海は助手席で警戒する。残念だが七海はまだ運転免許を持っていないので。

 

 オポチュニティ地区をSTORMは駆け抜け、キュリオシティを目指した。

 

「着いたぞ」

 

「さて、どんな仕事(ビズ)かね」

 

 七海たちはキュリオシティの中に入り、スカーフェイスを探す。

 

「七海、アドラー。こっちだ」

 

 キュリオシティに入った七海たちをボックス席の前にいたスカーフェイスが呼ぶ。

 

「よう、スカーフェイス。仕事(ビズ)だって?」

 

「まだ俺からの仕事(ビズ)を受けてくれるようで感謝している。優秀な傭兵ってのはフィクサーの間で取り合いになるからな」

 

「あんたからの受けた恩は忘れてない」

 

 七海たちがとりあえず一歩を踏み出したのはスカーフェイスおかげだ。

 

仕事(ビズ)について説明する。クライアントはスコーピオンズだ」

 

「元軍人のギャングか。内容は?」

 

「今回は存外楽に終わるかもしれない。仕事(ビズ)の内容はスコーピオンズが行う取引の護衛(エスコート)だ」

 

「へえ?」

 

 七海は初めての仕事(ビズ)の種類に興味を示す。

 

「スコーピオンズは宇宙海賊であるユニコーン(U)バイコーン(B)って連中と取引をする予定だが、クライアントが言うにはどうにも臭うってことらしい」

 

「臭うというのは相手が信用できないのか、それとも第三者の介入か。どっちだ?」

 

「どっちもだと。だから、裏切りが起きずにしっかりとブツが取引されるように名の売れている傭兵に護衛してほしいということだった」

 

「取引されるブツは?」

 

「そこまでは知らされていない。気になるのは分かるが、知らない方がいいこともある。だろう、アドラー?」

 

「それはそうだな」

 

 スカーフェイスにそう言われ、アドラーが頷く。

 

「取引は明日の深夜に行われる。現場はオポチュニティ地区とヴァレンティン・グルシュコ地区の境にある古い工場跡。元はシリウス・ダイナミクスの工場だったが、採算が取れないとかで廃棄されている」

 

「スコーピオンズからも兵隊は出すんだろう?」

 

「最低限な。U&Bの連中が警戒するとかで、主力はセントリーガンとドローンになるそうだ。だから、少ない人員の枠を最大限に活かすために、有力な傭兵を寄越してくれと言われている」

 

 スカーフェイスはそう仕事(ビズ)について説明を終えた。

 

「これが俺が今回斡旋する仕事(ビズ)だ。受けてくれるか?」

 

 そして、彼はそう尋ねた。

 

「受けるよ、スカーフェイス。任せておいてくれ」

 

「助かる。この仕事(ビズ)についての詳細な資料を送っておいた。取引場所の座標などだ。では、幸運を祈る、ウィザーズ」

 

「あいよ」

 

 七海たちはスカーフェイスから仕事(ビズ)の詳細をマトリクス経由で受け取り、キュリオシティを出た。

 

「今回は護衛(エスコート)か。傭兵ってのはいろいろやるんだな」

 

「そうだな。今は仕事(ビズ)を選べる立場じゃない。受けられるものは受けておこう。李麗華にも詳細を送信しておく」

 

「頼む」

 

 アドラーが李麗華に今回の仕事(ビズ)について知らせると、すぐに折り返し李麗華から連絡が来た。

 

『新しい仕事(ビズ)を受けるんだってねー。あたしが手伝うことある?』

 

「取引の護衛(エスコート)だが、脅威が分からねえ。スカーフェイスは宇宙海賊も怪しければ、別の誰かが首を突っ込んでくる可能性も示唆してた。ってわけで、取引前に情報を集めてほしい」

 

『なるほどね。了解、了解。任せておいて』

 

 李麗華はそう気軽に引き受けてくれた。

 

「俺たちの方でも街の情報屋を当たってみる。何か情報が入るかもしれんし」

 

「そうだな。スカーフェイスはああ言っていたが、取引されるブツの中身によって敵に回す人間が変わる。全く知らないでおくのは得策じゃない」

 

「決まりだ。ぬからずやろうぜ、諸君」

 

 こうして七海たちは行動を開始。

 

 まずは情報を手に入れるために七海とアドラーはオポチュニティ地区の最貧民地区を目指してた。いつものように情報屋のスプートニクがいる酒場だ。

 

 七海たちは車を止めて、酒場の中に入る。

 

「よう、スプートニク。景気はどうだい?」

 

「悪かねえが、仕事(ビズ)か?」

 

「そ。あんたに用事があるなんて、それ以外じゃないだろ?」

 

「哀れなおいぼれに酒を奢ってくれたっていいんだぜ」

 

「なら、奢りだ。何か頼めよ」

 

 スプートニクとそう言葉を交わして、七海とアドラーが椅子に座る。スプートニクは安い合成酒を追加で頼み、接客用アンドロイドがそれを運んできた。

 

「で、今回の仕事(ビズ)は?」

 

「宇宙海賊について、だ。U&Bって宇宙海賊、知ってるか?」

 

「知ってる。主に密輸専門の連中だな。誘拐やら略奪やらはあまりやらない」

 

「へえ。地球からの?」

 

「そう。地球からどうやって火星に密輸するか知ってるか?」

 

 スプートニクがそう七海に尋ねる。

 

「レールガンを使うんだろう?」

 

 それに答えたのはアドラーだった。

 

「レールガンで密輸?」

 

「一種のマスドライバーだ。宇宙船に搭載した違法なレールガンを使って、火星に向けて密輸したい積み荷を射出する。ズドンと。それを火星の宇宙海賊は火星統合軍の早期警戒システムが捉えて破壊する前にキャッチするんだよ」

 

「すげえ壮大な話だな……」

 

「確かに仕組みそのものは大掛かりかもしれないが、小学生レベルの知識でもやれるぐらいには簡単だ。必要な軌道を計算するのも、アプリがやってくれるからな」

 

 七海がアドラーの説明する密輸の方法に唸るのにアドラーはそう付け加える。

 

「俺が説明するまでもなかったな。だが、この密輸に少しばかり問題が生じている」

 

「というと?」

 

「航空宇宙軍が密輸の取り締まりを強化している。戦闘艦をあちこちに配置して、宇宙海賊を摘発し、密輸品を押収しているんだよ。おかげで、地球製の品は本当に入って来なくなっちまった」

 

「地球産の品ってはの需要がありそうだな」

 

「もちろんだ。天然の酒やコカインのようなオールドドラッグ、それに地球の進んだサイバーウェアなんかは高値で取引されている。もっとも今はそれらがほぼ完全に途絶え、市場は混乱状態にあるんだがな」

 

 やれやれというようにスプートニクが肩をすくめる。

 

「で、U&Bの連中の話だったよな。連中も今の取り締まりで相当苦しい思いをしているはずだ。密輸ばかりを仕事(ビズ)にしている連中だから、密輸が締め上げられるとな。だが、それでも潰れたって話を聞かないところを見るに秘策があるのかもしれん」

 

「秘策、ねえ。連中が主に扱っている商品は何だい?」

 

「ドラッグ。オールドドラッグも、電子ドラッグも両方だ」

 

「へえ。ドラッグカルテルとも繋がってそうだな」

 

「もちろん繋がってるさ。仕事(ビズ)のパートナーみたいなもんだ」

 

 七海はこの情報を聞いて、スカーフェイスが気にしていた第三者というのはドラッグカルテルだろうかと思い始めた。

 

「他の情報と言えば、U&Bはそこまで大きくはないってことだ。持っている船も旧式の警備艇ぐらい。人員も20名か、30名程度だったはず」

 

「そっか。ありがとよ、スプートニク。情報料を送っておくぜ」

 

「毎度あり」

 

 七海はスプートニクに情報料を支払い、酒場を出た。

 

「なんだか嫌な予感がしてきたな」

 

「ドラッグかカルテルと揉め事になりそうだからな」

 

「ああ。スコーピオンズとU&Bの取引ってのは間違いなくドラッグだろう」

 

 これまでの情報を考えれば、間違いなくU&Bが取引しようとしているのはドラッグ。スコーピオンズは警戒しているのは、この取引にドラッグカルテルが介入してくることだと思われた。

 

「航空宇宙軍が取り締まっているのを潜り抜けてゲットしたドラッグを、これまでの仲良しであるドラッグカルテルではなく、スコーピオンズに渡す。これはドラッグカルテルが腹を立てるのは確実だ」

 

 扱っているものがドラッグだというだけではなく、現在の密輸取り締まりが強化された火星での貴重な密輸品の取引でもある。

 

 ビジネスパートナーであったドラッグカルテルがを裏切って、スコーピオンズと取引するというのは、一般的に不義理といえるものだ。

 

「しかし、地球からレールガンで密輸品を火星に発射しているとはね。すげーダイナミックな密輸方法だよな。で、火星の側では取り締まっているみたいだけど、地球の方ではどうなのさ?」

 

「地球も当然取り締まりはやるだろうが、やはり地球の早期警戒システムの外に出られると対処は難しいのが現状だろう。宇宙は恐ろしく広い」

 

 技術は恐ろしいほどに発展したが、まだまだ宇宙の広大さに人類は圧倒されている。

 

「もうちょっと調べるか? ドラッグカルテルとか、密輸品が入って来なくなった影響とか。どうする?」

 

「李麗華からはまだ何かが分かったという連絡もない。合流するのはまだ先でいいだろうし、私たちも調査しておこう」

 

「オーケー。適当に当たっていこうぜ」

 

 七海たちはそう言葉を交わし、調査を継続した。

 

 彼らが当たったのは他の情報屋やドラッグの売人たち。七海は彼らから情報を買って、この仕事(ビズ)に潜む脅威を探った。

 

「オールドドラッグと酒の不足は深刻みたいだな」

 

 七海はそう調べた結果を呟く。

 

「オールドドラッグの原料になる植物は、火星では厳しく規制されているし、火星でこの手の植物を栽培するのは手間がかかりすぎる。密輸品のオールドドラッグがなくなれば、市場が混乱するのは当然だな」

 

「酒もそうなのか?」

 

「酒自体は火星にもある。だが、地球産のブランド物の酒は高値で取引されている。賄賂にも使われることがあるくらいだ」

 

 七海の問いにアドラーがそう答える。

 

「となると、ますますU&Bの扱うブツが気になるな……」

 

 七海はそう言い、李麗華との合流のためにマンションを目指した。

 

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