異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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先にブツを見せな//ブリーフィング

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 ──先にブツを見せな//ブリーフィング

 

 

 七海たちは一度集めた情報を統合するために、李麗華のマンションに集まった。

 

「李麗華。そっちの方はどうだった?」

 

「航空宇宙軍の動きについて気になることが少々。彼らいきなり密輸を締め上げ始めたけど、その理由が不明だってさ」

 

「へえ。こっちも密輸の取り締まりが強化されたとは聞いてたけど」

 

 李麗華が言うのに七海も首をひねる。

 

「確かに航空宇宙軍が締め上げ始めた理由は聞いてなかったな。マトリクスの方では何か情報はなかったのか?」

 

「何も。憶測ならあるけどねー。地球の方でやばい感染症が流行し始めて、火星当局はそれが火星に持ち込まれるのを恐れている、とか」

 

「ふうむ。密輸は検疫を通さないから、その手のリスクは確かに存在するな」

 

「けど、病気の媒介になりそうな生き物を密輸はできない。だって、レールガンで打ち出すのに耐えられそうないからね」

 

「その後の無補給の火星までの長い旅にもな」

 

 李麗華が言うのにアドラーがそう付け加える。

 

「火星と地球は距離があるもんな。数日で届くわけじゃない。レールガンで動物を打ち出して、それが何か月もかかって火星に届くなんて話なら、動物虐待だぜ」

 

 七海はふたりの話を聞いてそう言う。

 

「理由は不明だが、航空宇宙軍は取り締まりを強化している、か。今回の仕事(ビズ)ではドラッグカルテルが介入してくるかもしれないと思っていたが、こうなると火星当局も介入してくる可能性があるな……」

 

「用心するにこしたことはないな。十分注意しようぜ」

 

「ああ」

 

 U&Bがドラッグカルテルと関係していることから、ドラッグカルテルが介入してくるのではないかと思われたが、こうなると火星当局が密輸品の応酬に突入(ブリーチ)してきてもおかしくない。

 

「脅威についてはある程度把握できたが、やはり取引する商品(パッケージ)が分からないと、完全に脅威は予想できない気がする」

 

「間違いなくドラッグでしょー。ただ取引先がスコーピオンズってのはいまいち分からないかな。スコーピオンズはあまりドラッグを扱うようなギャングじゃないから」

 

「そうなのか?」

 

「彼が裏取引しているのは軍からの横流し品のインプラントや武器の類。ドラッグは扱っているギャングが多いから下手に手を伸ばすと競合する」

 

「だが、情報屋はU&Bがその手のものを扱っているとは言っていなかったな……」

 

「たまには違う仕事(ビズ)もやってみようってだけなのかも。それか新規参入の下準備とか」

 

「分からんなあ」

 

 今回のU&Bとスコーピオンズの取引には謎が多い。

 

 そうであるが故に七海たちはあらゆるものに備える必要があった。

 

「そうはいってもあまり時間はない。取引は明日の深夜。現地で臨機応変にやるしかないだろう。ただ役割分担だけはやっておかなければ」

 

「そうだな。俺とアドラーは現場に出るとして、李麗華にはマトリクスから支援してもらおう。現地にはスコーピオンズのセントリーガンとドローンがいるが、それが敵対組織に乗っ取られないようにしてほしい。頼めるか?」

 

 アドラーが言い、七海がそう李麗華に頼み込む。

 

「任せといて―。やっておくよー」

 

「で、ブツは俺が守り、スコーピオンズの連中はアドラーに任せる。ブツとクライアントの両方が守れれば文句はないだろう」

 

 李麗華が同意し、七海はそう作戦を適当に立てた。

 

「では、明日の取引に備えるか。上手くいくといいんだが……」

 

 七海たちは一度解散して、明日の深夜までそれぞれの自宅で待機。

 

 そして、翌日のこと。

 

「七海。クライアントから連絡だ」

 

「スコーピオンズから? どんな?」

 

 アドラーが翌朝起きてきた七海にそういうのに、七海がそう尋ねる。

 

「今日の警備について話し合いたいそうだ。場所は連中の拠点であるブラックデルタという民間軍事会社(PMSC)の社屋」

 

民間軍事会社(PMSC)の社屋が拠点なのか? どういうこと?」

 

「連中のフロント業は民間軍事会社(PMSC)だってことだ。準備しろ」

 

「あいあい」

 

 アドラーに言われて七海が出発するための身支度を始める。

 

 そして、それが終わるとアドラーの運転でオポチュニティ地区にあるブラックデルタの社屋に向かった。

 

「あれだ。武装した人間が見えるな?」

 

「イエス。がちがちに警備してあるな」

 

 ブラックデルタの社屋は武装した人間に加えて、セントリーガンやドローンなどの無人警備システムによっても防衛されている。それはまるで軍事要塞みたいな物々しい建物であった。

 

 七海たちがそんな建物のゲートに近づくと、すぐにドローンが飛んできて七海たちをスキャン。それで判別されたのか、ゲートがゆっくりと開き、武装した人間とアンドロイドが向かってくる。

 

「よう。話は聞いてるぜ、傭兵。入りな」

 

「あいよ」

 

 ブラックデルタのコントラクタなのか、それともスコーピオンズの構成員なのか分からない武装した男に言われて、七海とアドラーは車を止め、社屋の中に入る。

 

 社屋の中は普通の会社のオフィスのように整然としており、ギャングの拠点とは思えないほどだった。だが、そこにいる人間は派手な入れ墨や人体改造をしている人間たちであり、明らかにガラが悪い。

 

「スカーフェイスから紹介された傭兵はお前らだな」

 

 バイキングのようにもっさりと髭を生やし、その赤毛の髪の毛もヘビメタバンドか何かのように伸ばしまくった、身長が2メートル以上はある大柄な白人の男が七海たちの前に立った。

 

「ああ。ウィザーズの七海だ。こっちはアドラー。よろしく」

 

「俺はスコーピオンズのジャックだ。仕事(ビズ)の件で話がある。来てくれ」

 

 ジャックと自己紹介した大男に連れられて、七海たちはブラックデルタの社屋内にある会議室に入った。そこは武装したアンドロイドによって防衛されており、おまけに生体認証の電子キーで守られていた。

 

「さて。取引の件はどれくらい調べた?」

 

「U&Bはドラッグを扱っていて、取引にはドラッグカルテルと航空宇宙軍が介入してくるかもしれないってことぐらい」

 

「ほう。なかなかちゃんと調べたな。若い傭兵にしてはちゃんとしている。その通りだ。取引にはドラッグカルテルと航空宇宙軍が介入するリスクがある」

 

 七海が告げるのにジャックは満足そうに頷く。

 

「追加で言うならば、俺たちはU&Bの連中もそこまで信用していない。今回の取引が連中との初めての取引だし、連中は航空宇宙軍に締め上げられまくっている。目的の商品(パッケージ)が手に入らなかったのをごまかすために襲撃を偽装するかも、とな」

 

「えらく不穏な取引だが、俺たちに期待するところは?」

 

「まず第一にブツを確保すること。それから人的被害の抑制だ」

 

お土産(パッケージ)を確保して、みんなでお家に帰る、と」

 

「そういうことだ。スカーフェイスからかなり優秀だと聞いている。メガコーポの仕事(ビズ)もやるくらいにと。期待していいな?」

 

「ああ。その期待を裏切るつもりはないよ」

 

「よし。では、計画について話そう」

 

 七海が請け負い、ジャックが会議室のARシステムを起動する。

 

 すると、七海たちの前に取引現場になる廃工場の三次元映像が表示された。

 

「取引はこの工場跡の倉庫で行われる。こっち側の警備システムは、この通りだ」

 

 三次元映像にさらにスコーピオンズが配置しているセントリーガンやドローンなどの無人警備システムの配置状況が記されて行く。

 

 倉庫を取り囲むようにドローンが巡回し、セントリーガンは外部からの侵入を遮断するように配置されていた。さらにそれに加えて地雷の類が廃工場のあちこちに配置され、部外者の侵入を阻害している。

 

「へえ。厳重極まりないじゃん。これって俺たちを雇う必要あるのか?」

 

「ある。無人警備システムはいつマトリクスから乗っ取られてもおかしくない。信頼できるのはいつだって人間だ」

 

「なるほど。俺たちはどこで待機すればいい? 俺たちの計画としては俺がブツを確保して、アドラーが人員を保護するつもりなんだが」

 

「その計画でいくなら、お前はここだ。ブツは倉庫中央で行われる。U&Bの連中はブツを運ぶ人間以外はここで待機。俺たちスコーピオンズはここでイレギュラーな事態に備えておく」

 

 七海が尋ねるのにジャックは倉庫中央を指さしてから、そこから左右に分かれた場所にある車両を指さした。

 

「あんたらとU&Bの連中はそれぞれ何名出すんだ?」

 

「6名。こっちはお前たちを入れるから4名だな。これ以上数を増やすと取引に応じないとU&Bの連中が駄々をこねたからしかたない」

 

「ふむ。最小限だな」

 

「こっちのうち1名は技術者で無人警備システムの管理にかかりきりになる。戦えるのは3名だけだ。だから、何か起きた場合はお前たちを頼ることになる。それでもいいな?」

 

「もちろん、そのつもりで仕事(ビズ)を受けた」

 

「上等だ」

 

 七海は不敵にサムズアップし、ジャックも歯を見せて笑った。

 

「では、取引の時間になったら送っていく。それまでここで待つか?」

 

「そうしよう。デリバリーのピザ、頼んでもいいか? 腹が減っててさ」

 

「好きにするといい」

 

 七海たちはこうして取引時間までブラックデルタの社屋で待機することに。

 

「無人警備システムだけでも結構なものだが、それでも警戒しているな」

 

「ああ、アドラー。だが、ジャックが言っていたように、無人警備システムは乗っ取られる可能性がある。信頼できるのは人間ってのは心理だと思うぜ」

 

「そうか? 最近の戦闘用アンドロイドならば高度な(アイス)で下手な人間より信頼できるぞ。そう、私のようにな」

 

「ここはその最新のがないんだろう。不幸なことだが」

 

 アドラーが言うのに七海はそう返した。

 

「七海。ここのドローンは最新モデルだ。アレス・システムズ製のな。取引現場に配置されているやつも、軍用グレードの大型ドローンまである」

 

「ん? なら、(アイス)はばっちりってわけか?」

 

「宇宙海賊やドラッグカルテル程度を相手にするならば、な」

 

「ははん。じゃあ警戒しているのはそっちじゃないってわけか……」

 

「連中が警戒しているのは航空宇宙軍だ」

 

 七海がアドラーの推理に頷き、アドラーは結論を述べた。

 

「航空宇宙軍ってのはどれぐらいやばいんだ?」

 

「地球との軍事緊張があるため、航空宇宙軍は精鋭が集まっている。装備についてもウォッチャーと同等か、それ以上だ。これまで戦った敵の中では最大の脅威になるかもしれない」

 

「クソ。やばいな、それは」

 

 アドラーの言葉に七海は親指の爪を少し噛んだ。

 

「緊張するな、相棒。私たちならばやれるさ」

 

「そうだな。俺たちならやれる」

 

 そして、アドラーと七海はグータッチした。

 

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