異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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先にブツを見せな//取引現場

……………………

 

 ──先にブツを見せな//取引現場

 

 

 時間は流れ深夜。

 

「出発だ」

 

 スコーピオンズのジャックに言われ、七海たちは取引現場に移動する。

 

 スコーピオンズは軍用四輪駆動車を使って移動し、七海たちは自分たちの車でその後を付いていった。

 

 取引現場である廃工場までは、ブラックデルタの社屋から1時間程度。

 

「異常はないか?」

 

「大丈夫です、ボス」

 

 現地には無人警備システムの設置と見張りをしていたスコーピオンズのメンバーが既におり、ジャックたちが到着すると入れ替わるようにして撤退していった。

 

「さて。いよいよ仕事(ビズ)の本番だ」

 

「ぬからずいこう、七海」

 

「ああ」

 

 七海たちは一応現地の状況を改めて確認する。

 

「ドローンは問題なく飛行しているし、セントリーガンも機能している。マトリクスからどう見えている、李麗華?」

 

『んー。特に侵入(ブリーチ)されたような痕跡もないよー。今のところは大丈夫かな?』

 

「了解だ。引き続き見張っておいてくれ」

 

『アイ、サー!』

 

 七海の頼みに李麗華が元気よく応じる。

 

「無人警備システムは大丈夫だ。李麗華からは侵入(ブリーチ)された様子はないと言っている」

 

「では、後は取引時間を待つだけだな」

 

 七海の報告にアドラーがそう言って、倉庫の壁に寄りかかる。

 

 倉庫内では取引が始まる前から緊張感が漂い、鉄さびの臭いがしていた倉庫の中が、スコーピオンズのメンバーが吸うタバコの臭いで上書きされて行く。

 

「来たぞ」

 

 ジャックがそう言うと倉庫の方に1台のバンが走ってきた。

 

 バンはスコーピオンズの人間によって止められ、そこから武装した男女が降りてくる。その男女が纏っているジャケットにはユニコーンとバイコーンのエンブレムがワッペンとして入っていた。

 

 間違いなくこの人間たちがU&Bだ。

 

 U&Bの人間たちはスコーピオンズのメンバーを一瞥すると、頑丈そうな金属製のアタッシュケースを持った人間が前に出た。

 

「ブツは持ってきたようだな」

 

「金の方が先だ」

 

「まずはブツを確認させてもらう」

 

「分かった」

 

 七海はブツを確認に向かうジャックとともにU&Bの人間に近づく。

 

「こいつだ。確認しろ。言っておくが暗号キーがなければコピーはできない」

 

 U&Bの男の警告ののちにアタッシュケースが開かれ、中にあるデバイスが見えた。

 

「そんな盗人みたいな真似はしない」

 

 ジャックはケーブルをデバイスに接続し、中身を確認する。

 

「問題なさそうか、ジャック?」

 

「待て」

 

 七海が尋ねるのにジャックが右手で七海を押さえた。

 

 暫く時間が流れ、緊張感が漂う中でジャックはケーブルを外した。

 

「確認した。間違いなく、目的の商品(パッケージ)だ。今度は金を──」

 

 ジャックがそう言おうとしたとき、爆発音が響く。

 

「今のは……!」

 

「金だ! さっさと金を寄越せ!」

 

「クソ。送金した。確認できたか?」

 

 ジャックがうろたえるのにU&Bのメンバーが叫び、ジャックが送金。

 

 その間にも爆発音が連続し、倉庫が揺れる。スコーピオンズのメンバーも、U&Bのメンバーも銃を握り、次に何が起きるかを警戒する。

 

「ああ、畜生。この音は……!」

 

「反重力エンジンの音……!」

 

 ジャックが呻き、七海が響いてくる重低の轟音に呟く。

 

 それから倉庫の天井が破れたのはほぼ同時だった。倉庫の天井が飴細工のように砕け、開いた穴から、一斉に重武装の兵士たちが突入してくる。その兵士たちの所属は、まさに──。

 

「七海! 航空宇宙軍の陸戦隊だ!」

 

「おいでなすったか!」

 

 突入してきたのは航空宇宙軍の陸戦隊だ。

 

 強化外骨格(エグゾ)を装備した歩兵1個小隊に加えて、2メートルほどの大きさがあるパワードスーツが6体。それらが降下してきて、スコーピオンズとU&Bの双方に銃口を向けた。

 

「動くな! 我々は火星航空宇宙軍だ! 武器を捨てて、両手を頭の上に置け!」

 

 航空宇宙軍陸戦隊はそう警告を発する。

 

「ふざけんな! 死ね!」

 

「ぶち殺せ!」

 

 しかし、まずU&Bが警告に従わずに発砲。銃弾は陸戦隊のアーマードスーツが展開していたデフレクターシールドに阻まれたが、これが開戦のゴングになった。

 

『アックス・ゼロ・ワンより各ユニット。射撃自由、射撃自由』

 

『了解』

 

 まず狙われたのはU&Bのメンバーたちだった。陸戦隊が装備している大口径電磁ライフルが火を噴き、U&Bのメンバーたちが一瞬でハチの巣にされる。辛うじて生き残った数名も、遮蔽物に隠れることしかできない。

 

「頼むぞ、傭兵! ブツは何としても持ち帰らなければならん!」

 

「あいよ! どうにかしましょう!」

 

 ジャックに託され、七海はそう応じて“加具土命”を抜く。

 

『戦闘状態を検知。FREJAを起動します』

 

「頼むぜ、FREJA!」

 

 それと同時に戦闘支援AIであるFREJAが起動し、七海の支援を開始した。

 

『敵は未知のエネルギーウェポンを使っている。敵はサイバーサムライの可能性あり。警戒しろ』

 

『了解した。近接させないようにしろ』

 

 七海が“加具土命”を手に迫るのに、アーマードスーツが指向性エネルギー場からなるデフレクターシールドを展開し、一斉にグレネード弾を発射。

 

 空中炸裂型のグレネード弾は七海の位置を限定AIが識別して炸裂。七海の周囲に鉄球がまき散らされ、それら小さな殺意が七海を襲う。

 

『やったか……』

 

 相手はもう確実に死んだだろうと考えた陸戦隊の兵士たちだったが──。

 

『待て。センサーが何かの動きを捉えている。敵は生きているぞ!』

 

 その陸戦隊員の報告の次の瞬間、グレネード弾の爆発で生じた噴煙の中から七海が飛び出してきて、デフレクターシールドに“加具土命”が突き立てられた。

 

「勇者舐めんな! これぐらい!」

 

『クソ! こいつ……!』

 

 七海はグレネード弾の攻撃を受けたが、FREJAによる未来予知で可能な限りの攻撃を迎撃し、被弾しても身体能力強化(フィジカルブースト)で肉体を強引に回復させて突っ込んできたのだ。

 

 七海はアーマードスーツが展開するデフレクターシールドを強引に引き裂き、その先にいるアーマードスーツを狙う。

 

『エネルギーブレード展開! 随伴歩兵は警戒せよ!』

 

 迫る七海にアーマードスーツも近接戦闘に応じるべくエネルギーブレードを展開。デフレクターシールド同様に指向性エネルギー場によって構成された青緑色のブレードが、七海に向けられる。

 

『死ね、サイバーサムライ!』

 

「くたばりやがれ、木偶!」

 

 エネルギーブレードと“加具土命”が激突。火花が散る。

 

 しかし、軍用大型兵器であるシェルが積んでいたエネルギーブレードを破った七海だ。アーマードスーツのような小型のエネルギーリアクターしか搭載していない、それのエネルギーブレードに負けるいわれはない。

 

 しかし、今回は状況がやや違う。

 

 七海を狙っているのは数体のアーマードスーツではなく、1個小隊の歩兵部隊も随伴した大規模な部隊がいるのだ。

 

『アックス・ゼロ・フォー。援護する!』

 

 アーマードスーツと近接戦闘を繰り広げる七海を、歩兵部隊が狙ってくる。電磁ライフルの射撃に手榴弾の投下まで使えるものは何でも使って攻撃してきた。

 

「クソ、クソ、クソ! 不味いな、こいつは……! ここはひとつ!」

 

 七海が一度アーマードスーツから距離を取る。

 

「イグニス!」

 

 七海はイグニスを召喚。

 

「おやおや。また大所帯を相手にしているね、坊や。あんたはこういう危ない場所にいないと生きていけないのかい?」

 

「俺は望んでないんだが、結果としてこうなっちまうんだよ、姐さん!」

 

「まあいいだろう。手伝ってやるよ」

 

 七海はそう叫び、イグニスが不敵な笑みとともに炎を広げる。

 

『未確認のエネルギー場を確認。何だ、これは……』

 

偽装投影(デコイホロ)か? 全ユニット、油断せずにやれ』

 

 召喚された精霊であるイグニスを、陸戦隊の装備するセンサーは正しく認識できない。彼らは突然現れたイグニスをホログラムだと思い込んだ。

 

「燃え上がれ」

 

 しかし、イグニスは物理的な実体を有さないものの、精霊として魔力の塊だ。彼女が纏った炎を躍らせれば陸戦隊が一気に炎に襲われる。

 

『畜生、畜生! 何だこれは!』

 

『アックス・ゼロ・ワンより本部(HQ)! 増援を要請する! 敵は未知のサイバーウェアで武装したサイバーサムライだ!』

 

 混乱。恐怖。殺意。

 

 それらが入り交じり、指揮官が悲鳴じみた増援要請を発する。

 

本部(HQ)、了解。増援を投下する』

 

 このとき倉庫の上空には航空宇宙軍所属の駆逐艦ヘイズルーンがおり、そこから格納庫に搭載されてた歩行戦闘車両(WFV)シェル2機が地上に向けて投下された。アレス・システムズ製の最新鋭機ヴァルキリーだ。

 

「おいおいおい。マジかよ」

 

「七海! 生き残っているドローンで援護する! 李麗華も使えそうなものを探しているところだ!」

 

「了解だ、アドラー。何とかしましょう!」

 

 ここでアドラーがスコーピオンズが配置していたドローンを差し向ける。

 

 ドローンと言ってもこれまでの小型機とは違う。ちょっとした軍用車両ほどの大きさがあるそれが飛来し、装備する口径20ミリ電磁機関砲でシェルへの砲撃を開始。

 

『クソ。ドローンがまだ生きてるぞ。母艦の撃ち漏らしだ』

 

『すぐに片付ける』

 

 今回のシェルは口径40ミリ電磁ライフルを装備していた。歩兵の装備するそれよりも大型のものを、シェルのパイロットはドローンに向けて引き金を引いた。

 

 連続した重々しい射撃音が響き、大口径ライフル弾は一瞬でドローン1機をスクラップへと変える。デフレクターシールドも装備していないドローンは己の装甲しか防弾性能がないのだ。

 

 しかし、ドローンは1機ではない。

 

『おーい。一瞬だけど航空宇宙軍のネットワークを撹乱できるよ。シェルそのものは無力化できないけど、敵味方識別装置(IFF)射撃管制システム(FCS)は確実に撹乱できる。その隙をそっちで生かしてー』

 

「了解だ、李麗華!」

 

 李麗華が航空宇宙軍のネットワームに向けてワームを放った。

 

 航空宇宙軍所属の駆逐艦ヘイズルーンが使用した軍用通信衛星だが、そこにシステムの脆弱性は存在していた。

 

 ウォッチャーが下請けとして運用している衛星の(アイス)は航空宇宙軍が求める超高度軍用グレードのそれではなく、李麗華の用意した氷砕き(アイスブレイカー)で突破できるものだったのだ。

 

 李麗華はそこからヘイズルーンのネットワークにワームを侵入させ、さらにはそのネットワークに接続されているシェルのシステムにワームを浸透させた。

 

 シェルのシステムに浸透したワームはそこで攻撃性を発揮し、シェルの敵味方識別装置(IFF)射撃管制システム(FCS)を攻撃。その両方をダウンさせた。

 

敵味方識別装置(IFF)射撃管制システム(FCS)がダウン! 外部からの攻撃です! 現在自己診断プログラムが走っています!』

 

『外部からの攻撃だと……! ただのギャングと甘く見たか……!』

 

 シェルが攻撃不能になる中で、七海とアドラーは動いていた。

 

「よし、このまま斬り伏せる!」

 

「七海、待て! まだドローンがいる!」

 

 アドラーが七海にそう言い、スコーピオンズのドローンを突撃させる。攻撃ができないシェルに向けて突撃したドローンは機関砲を乱射し、さらに小型の爆薬を詰んだドローンが次々にシェルと歩兵部隊を襲う。

 

『デフレクターシールド展開!』

 

 混乱の中でシェルがデフレクターシールドを展開。

 

「いいぞ、アドラー! このまま畳むぞ!」

 

 敵が守勢になった時こそ、追撃のチャンスだ。

 

 七海は前に大きく出る。

 

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