異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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カルテル//噂

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 ──カルテル//噂

 

 

 七海とアドラーはいつものようにオポチュニティ地区の最貧民区画を訪れた。

 

「何か変な人間が増えてないか?」

 

 最貧民地区はいつものようにゴミだらけで、汚物に塗れているが、そこをふらふらとしている人間が何人も存在した。ドラッグジャンキーもここでは珍しくないものだったが、それにしても数が多い。

 

 そう、まるでゾンビアポカリプスを描いた光景のようだ。

 

「そうだな。嫌な予感がする。警戒しろよ、七海」

 

「あいよ。警戒しましょう」

 

 アドラーから警告を受けて七海は周囲に注意を払いながら、スプートニクがいる酒場を目指して進んでいく。

 

 異常を感じるような状況だったが、酒場はいつものように開店しており、七海たちは慣れた様子で扉を潜る。

 

「よう、スプートニク。元気にしてたか?」

 

「まあまあだ。だが、俺の調子を心配してきたわけじゃないだろ?」

 

「まあな。仕事(ビズ)だ。アセンション・ゼロっていうドラッグカルテルについて何か情報はないか?」

 

「アセンション・ゼロ、か。外のドラッグジャンキーどもはみたか?」

 

「見たぞ。いつもより数が多いな」

 

 スプートニクに尋ねられて七海はそう返す。

 

「連中がキメてるドラッグがアセンション・ゼロが流通させ始めた電子ドラッグだ。オールドスカーレットと言われている」

 

「新しいドラッグなのか?」

 

「ああ。市場に出回り始めたのはつい最近。どうにも妙なことに、このドラッグをキメた連中は現実(リアル)に戻ってこない」

 

「何だって?」

 

 スプートニクの言葉に七海が眉を歪めた。

 

「そのままの意味だ。どこかに飛んで行ったまま、素面に戻らない。かなり危険なドラッグみたいだぞ。表にいる電子ドラッグジャンキーどもは、そのオールドスカーレットをキメた連中はほとんどだ」

 

「そいつはまた物騒な……」

 

 オールドスカーレットという電子ドラッグが表にいるドラッグジャンキーたちをゾンビのような存在にしてしまったらしい。

 

「スプートニク。そのオールドスカーレットというのは間違いなくアセンション・ゼロが流したのか?」

 

「間違いないだろう。取引している売人どもは、どいつもアセンション・ゼロに首輪をつけられている連中だ」

 

「ふうむ」

 

 今度はアドラーが質問し、スプートニクはそう答えた。

 

「オールドスカーレットって俺たちでも手に入れられるか?」

 

「入れようと思えば入れられるだろうが、やめておけ。カルテルの連中とかかわりたくはないだろう? トラブルの種だぜ」

 

「そうか」

 

 オールドスカーレットからアセンション・ゼロについて何か分かるかもしれないと七海は思ったのだが、スプートニクがそういうのであっさり諦めた。

 

「他に何か最近の噂はないか?」

 

「噂でよければいろいろとあるぞ。パンドラがインフィニティとメティスが条約違反を起こしているとして、監査を要求してるって話だ」

 

「パンドラってなんだ?」

 

「知らないのか? パンドラ条約も、IPIAも?」

 

「知らん」

 

 パンドラ条約はどこかで聞いた気もするが中身までは知らない七海だ。

 

「パンドラ条約。超知能によって生み出された現在の科学では説明不可能な技術を規制する条約だ。この条約には超知能か準超知能による自己アップデートの結果も規制しているため、事実上の超知能規制条約となっている」

 

「超知能ってあれだよな。凄いAIってやつ?」

 

「そのふわふわした認識でも別に間違いはない。進みすぎた技術は司法や行政、一般社会が受け止めるのに時間がかかるから、ゆっくりとやりましょうってことで、パンドラ条約は締結された」

 

「ふうん。そういうものなのか」

 

 科学技術は進めば進むほど人は豊かになって、幸せになれると七海は思っていた。

 

「そして、そのパンドラ条約の履行を徹底するのが国際(I)パンドラ条約(P)監査(I)機関(A)だ。国連の指揮下にあり、条約違反を見つけ出しては、摘発している連中になる」

 

「だが、火星は国連非加盟国だ。だからインフィニティのようなAIが役員を務める会社がある。なのにIPIAがインフィニティに監査要求を?」

 

 そう尋ねるのはアドラーだ。

 

「まだ分からんよ。何せ噂だからな」

 

 スプートニクは無責任にそう言っていた。

 

「まあ、助かったよ。ありがとな、スプートニク。報酬だ」

 

「どうも」

 

 七海がスプートニクに報酬を支払い、それから酒場を出た。

 

「ジェーン・ドウが仕事(ビズ)を回してきた段階で、問題のドラッグカルテルが新しい電子ドラッグを販売した。偶然じゃあないよな?」

 

「これが偶然だったら驚きだな」

 

「オールドスカーレットってのがジェーン・ドウが消してほしい技術、か」

 

 話を統合すれば、実に簡単に結論は導ける。

 

「オールドスカーレットには古代火星文明の技術が使われている可能性があるということでもある。ジェーン・ドウから渡された情報を李麗華が分析したが、それは古代火星文明の残した遺跡の情報に類似していた」

 

「そんでもってハイデッガーのG-APPに古代火星文明。どうにも繋がりがある」

 

「繋がっているな」

 

 七海が言い、アドラーが頷く。

 

「問題の中心には古代火星文明が存在する。ちょっと前なら馬鹿らしいオカルトと切り捨てたところだが、今となってはそうも言えない。間違いなく古代火星文明は存在しただろうし、メガコーポはそれを追っている」

 

「それから犯罪組織も、な」

 

 古代火星文明。

 

 一見してトンデモ系のオカルトネタだが、火星を牛耳る企業連合のひとつインフィニティが研究しており、他のメガコーポも手を出そうとしてるネタだ。

 

 もはや笑い飛ばしている場合ではない。真剣に考えなければメガコーポの陰謀に押しつぶされるか、犯罪組織の放った流れ弾を食らう。

 

「とりあえず李麗華のところに行って情報を統合しよう」

 

「ああ。それからどうやってアセンション・ゼロのアジトに潜り込むかの作戦立案だ」

 

 七海たちは一度李麗華のマンションに向かった。

 

「おかえりー。何か情報はあった?」

 

「オールドスカーレットってのがどうも目的の技術を使った電子ドラッグらしい」

 

 李麗華がまず尋ねるのに七海がそう答える。

 

「オールドスカーレット? そっちにもその情報が来たんだ」

 

「何か知ってるのか?」

 

「知り合いのハッカーが探してるって。馬鹿みたいにやばい電子ドラッグらしいよ」

 

「そうみたいだな。最貧民地区はそのせいでゾンビだらけだったよ」

 

 李麗華の方もオールドスカーレットの名は聞いている。危険な電子ドラッグであることをフォックスロットから聞いているのだ。

 

「アセンション・ゼロがそのオールドスカーレットを流通させているらしい。間違いなくジェーン・ドウの目的としているのはこれ絡みだろう」

 

「かもね。けど、既に流通しているなら、もう取り消せなくない? 技術ごと流出してるってことでしょ?」

 

「オールドスカーレットそのものが手に入ってないから分からない。不可逆的なコンパイルをしている可能性もある」

 

 確かにオールドスカーレットが目的の技術であり、ジェーン・ドウが抹消を願っているものだとすれば、既にそれは大規模に外部に流出してしまっており、もはや不可能になってしまっている。

 

「とりあえずやるだけのことはやろうぜ。技術者を消せば文句は言われないだろう」

 

「ああ。忘れてた。その問題の技術者がいる場所を突き止めたよ。アセンション・ゼロの拠点のひとつにいる」

 

「おお? ナイス、李麗華。しかし、となるとカルテルの拠点に突入(ブリーチ)しなけりゃならんのか……」

 

「その拠点に関する情報を手に入れたかったんだけど、流石はドラッグカルテル。なかなか情報を掴ませてくれない。無人警備システムも、マトリクスには接続されていないみたいでお手上げ」

 

「悪いニュースが重なってきたな」

 

 七海は一連の流れに嫌な予感を感じ始めていた。

 

「やるだけのことはやろうと言っただろう、七海。それにドラッグカルテルの相手なんて航空宇宙軍やメティスの生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)に比べれば大したことはないぞ」

 

「それもそうだな。で、いつ始める?」

 

「可能な限り早く。兵は神速を貴ぶ、だ」

 

「オーケー。じゃあ、今日だ」

 

 七海たちは作戦の決行を今日とした。

 

 彼らはドラッグカルテルの拠点を襲撃し、技術者殺害を目指す。

 

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