異世界から帰ってきたと思ったら火星。 作:第616特別情報大隊
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──カルテル//先客
七海たちは火星のドラッグカルテルであるアセンション・ゼロの拠点をこれから襲撃することになっている。
アセンション・ゼロの拠点はやはりオポチュニティ地区にあり、その寂れた旧工業地帯に設けられていた。
七海たちは足がつかないようにタクシーで拠点近くにまで向かう。タクシーは前にも使用したビックル・タクシーだ。権利あるAIであるトラヴィス・ビックルが
『お客さん。この先にあるのは犯罪組織の拠点だよ。当社のリスクマネジメントポリシーに従い警告させてもらうね』
「ああ。分かってる。手前でいいから降ろしてくれ」
『了解』
ビックルは七海たちをアセンション・ゼロの拠点がある手前で降ろした。
「さあて。
「ああ。おっぱじめよう、相棒」
アドラーが言い、七海が頷く。
七海たちは李麗華が捉えたアセンション・ゼロの拠点に向けて通りを進む。
『七海、アドラー。どうにも妙なことになってる』
「どうした、李麗華?」
と、ここで李麗華から通信が。
『衛星とドローンの映像だけど、これを見て。拠点が誰かに襲撃されている』
「何だって? 先客がいるってことか?」
李麗華から示されたデータではゲートを守っていたリモートタレットや戦闘用アンドロイドが破壊されており、施設内では火災も発生した。明らかに何者かが、七海たちに先だってアセンション・ゼロの拠点を襲撃している。
「火星の治安機関である可能性は?」
『分からない。けど、今のところ中央捜査局も、ウォッチャーも回線はそこまで活発化していない。何かの襲撃をやっているとは思えないねー』
「となると、同じ犯罪組織同士の抗争の可能性か」
『それも違うみたいなんだよ。襲撃した側は死傷者を一切出してない。衛星とドローンから識別できる被害はアセンション・ゼロのものだけ。襲撃側は恐らく血の一滴も流してないぐらいにダメージが見当たらない』
「クソ。それは嫌な予感がしてきたぞ」
李麗華からの報告に七海が唸る。
「どうする、アドラー? このまま踏み込むか?」
「それ以外に選択肢があるとは思えない」
「オーケー。覚悟を決めよう」
七海たちはそう言って先に進み、アセンション・ゼロが拠点のゲート前に立った。李麗華からの報告に合ったようにリモートタレットや戦闘用アンドロイドが、その残骸をあちこちに晒している。
「行くぞ、相棒」
「ああ」
七海たちは不気味な沈黙に包まれているアセンション・ゼロの拠点に侵入。
あちこちに死体が転がっており、七海とアドラーは警戒しながら拠点内を進む。
「これは……」
「刃物で切られたのか? にしては切れ味が鋭いが……」
七海たちが見つけたアセンション・ゼロの構成員の死体は、ばらばらにされており、まるで最初から切れ目でも入っていたかのように綺麗な切断面をしていた。
「恐らくは単分子ワイヤーだ」
「単分子ワイヤー?」
「恐ろしく鋭利な刃物だと思っておけ。しかし、扱うのは相当難しく、警察や軍の一般部隊ではまず使用されない。この手の技術を使うのは、特殊作戦部隊か、またはプロの殺し屋だ」
アドラーは死体を見て、そう推理した。
「特殊作戦部隊かプロの殺し屋か。やばいことになりそうだ」
「もうなってるかもしれないぞ」
七海が危惧する中で、アドラーはさらに周囲を探る。
そこら中に死体と機械の残骸だ。どれも破壊された方法は同じ。切断である。
そこで七海がある方向を向いた。
「今の聞こえたか?」
「ああ。銃声だ。生き残りがいるぞ」
「行ってみよう。せっかく来たのに先を越されて
七海とアドラーは銃声が聞こえた方向へと向かった。彼らは慎重に、足音を立てないようにした。先にここを訪れ、破滅をもたらした人間が誰であれ、七海たちに友好的とは限らないのだ。
「また銃声だ。悲鳴も聞こえた」
「どうなっているのか全く分からないのが辛いな」
アセンション・ゼロは襲撃を受けた。だが、どこの誰に? 何の目的で?
七海たちはそれを把握するためにも銃声の聞こえた場所に向かった。
「近い。いつでも戦えるようにしておけよ、相棒」
「お前もな。私はいつでも大丈夫だ」
そして、ついに七海は襲撃者に遭遇。
「あれか」
黒に青い蛍光カラーのラインが入ったジャケットの下にはラフなスーツ。そういうさらりまんファッションの男が、大量の電子機器がある部屋に立っていた。
「おや。君たちはカルテルのメンバーではないね」
その男が振り返って七海たちを見る。
男は大柄で190センチほどあり、顔はこれと言って特徴がないものだった。どこにでもいる人間とでもいうべきか。没個性的なさらりまんファッションと相まって、それが際立っていた。
「おうよ。俺たちはカルテルのメンバーじゃない。ただの通りすがりだ。あんたは?」
七海が男に尋ねる。
「
「ふうん。
「そうだとしたら?」
「それは置いていってもらう。俺たちもそれに用事があるんでね」
「それはそれは」
七海は男から殺気を感じていた。明らかに男には七海たちに対する悪意がある。
「こちらとしても残念だが、この技術は渡せない。立ち去りたまえ。それがお互いにとってベストでないにしろ、ベターな解決策だ」
「断る。技術を寄越せ」
七海はそう言って“加具土命”を抜き、アドラーも銃を構えた。
「どうやら交渉は決裂のようだ。残念だよ」
男が嘆くように首を横に振った時、七海は鋭い殺意を感じて後ろに飛びずさった。だが、アドラーの方は何ら回避運動を取っていない。
「アドラー! よけろ!」
「何を──」
七海が叫びあ、アドラーが困惑しながらも後ずさる
「なっ……!」
次の瞬間、アドラーの左腕が切断されて地面に落ちた。これまで見てきた死体と残骸同様に綺麗な切断面を見せている。
「踊るとしようか、傭兵諸君?」
男がそう言い、その姿が消える。投影型熱光学迷彩だ。
「消えた……!」
「七海! 今、音響解析を行っている! 前と同じだ! 今はもたせろ!」
「了解だ!」
姿を消した男を前に七海とアドラーが目隠し状態で戦闘を開始。
『ユーザー。戦闘状態を検知しました。サポートを開始してよろしいですか?』
「ああ。頼む、FREJA!」
ここで七海を支援するFREJAが自動的に起動し、サポートを開始。
『敵未来位置を予想。推奨行動パターンを提示』
姿を消した男の予想される位置が示され、七海に取るべき行動が示された。
「オーケー。やってやろう!」
七海はFREJAの情報に従って行動。
その間にも男が操る単分子ワイヤーという見えない殺意は舞っており、七海たちを確実に狙ってくる。
「ちっ!」
七海は肩に単分子ワイヤーを受けてそこに深い裂傷を負いながら、見えない敵を相手に必死に奮闘する。FREJAの情報はある程度正確だが、反撃するためにはやはりアドラーの音響解析が必要だ。
「アドラー! あとどれくらいだ!」
「2分だ!」
残り2分でアドラーの音響解析が完了する。
「何とかして見せましょう……!」
一歩間違えば死ぬ状況で七海は戦闘を継続。FREJAの情報を頼りに、攻撃を必死に回避し、反撃の機会をうかがう。だが、男の攻撃はこれまでにないもので、七海は苦戦を強いられていた。
「アドラー! 急いでくれ! このままじゃ刺身にされちまう!」
「あと30秒!」
七海が悲鳴じみた要望を叫ぶのに、アドラーが叫び返した。
「くうっ……!」
ここでついに七海が左腕を裂かれた。鮮血が舞い上がる中で、七海は
「解析完了! 七海、これを使え!」
だが、アドラーの解析がそれと同時に終了し、データが七海に渡る。
「オーケー。これで丸見えだ!」
七海はそう言って姿を見せない男のいる場所に向けて“加具土命”を振るう。七海は確かに手ごたえを感じたが、男はこの一撃では倒れなかった。
「ふうむ。やるようだね」
男は熱光学迷彩を解除し、七海たちの前に立つ。
「では、こちらも真剣に行かせてもらおう」
そう言って男はジャケットの内側から2本のナイフを抜いて両腕で構えた。
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