異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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カルテル//完了

……………………

 

 ──カルテル//完了

 

 2本のナイフを抜いた、所属不明のさらりまんファッションの男。

 

「行くぞ」

 

 次の瞬間、その男は信じられない速度で加速し、七海たちに一瞬で迫った。

 

『警告。回避を推奨!』

 

「あいよ!」

 

 七海は迫る男に自身も身体能力強化(フィジカルブースト)を全開にして回避行動をとる。これまで電磁ライフルによる銃撃であろうと、これで回避できてきた。

 

「なっ!」

 

 しかし、男は七海の動きについてきた。元勇者として常人を越えた力を有する七海の動きを見切り、迫り続けたのだ。

 

「不味い……!」

 

「どうした、若者? 息が上がったか?」

 

 男はそう言ってナイフを振るい、七海は必死に“加具土命”で攻撃を防ぐ。

 

「ふっざけんなよ! イグニス!」

 

 七海にはまだ切り札がある。イグニスだ。

 

「おや、坊や。気味の悪いのと戦っているね」

 

「姐さん! 援護してくれ! こっちはぎりぎりだ!」

 

「ああ。分かったよ。燃やしてやろう」

 

 召喚されたイグニスが男を狙って炎を放つ。

 

「奇妙なサイバーウェアを使用しているな。どういう原理だろうか、これは」

 

 だが、その炎は男に達さなかった。多層性のデフレクターシールドが、イグニスの放った炎を辛うじて防ぎ、男は危険を察知して七海から距離を取ろうとする。

 

「今だ!」

 

 そこで七海が踏み込んだ。七海の掲げる“加具土命”が振り下ろされ、男の右腕を完全に切断。切断面からナノマシン入りの体液が漏れ、男は苦笑すると、それ以上追撃される前に完全に距離を取った。

 

「なかなかの腕前だ、若者」

 

「うるせえ。とっとと死ね」

 

 七海はアドレナリンがどばどば出た状態で男をにらむ。

 

「そう言うわけにはいかない。私には私の仕事(ビズ)があるのでね」

 

 すると、再び男が姿を消す。

 

「さらばだ」

 

 そして、男は完全にいなくなってしまった。

 

「クソ。しまった。逃がしちまった!」

 

「この状況ではしょうがないと思うぞ」

 

 七海が唸るのにアドラーがため息交じりにそう言う。

 

「とりあえず、ここに残っている技術の痕跡を消して行こう。それぐらいはやっておかないとジェーン・ドウが怖いぞ」

 

「そうだな。クソ、本当に何だったんだよ、あのおっさん」

 

 アドラーの言葉に七海がそう愚痴りながら仕事(ビズ)を続ける。

 

 残されていた端末などから、ジェーン・ドウが消したがっている技術の痕跡を消していくのだが、面倒なのでまとめて電磁パルスグレネードで処理した。

 

「アドラー。その腕は修理が必要だな」

 

「ああ。またジャンクヤードに行ってこなければいけない」

 

「金ならあるし、正規の品を買ったらどうだ?」

 

「それも考えてはおこう。ひとまずはジェーン・ドウに報告だ」

 

「憂鬱だぜ」

 

 仕事(ビズ)は事実上失敗で、ジェーン・ドウから怒られても仕方ない状況だ。それでもジェーン・ドウに仕事(ビズ)について報告しなければいけない。

 

 七海は渡されていたジェーン・ドウのアドレスにメッセ―ジを送った。

 

「返事がきた」

 

「ジェーン・ドウは何と?」

 

「カール・セーガン地区の喫茶店で待つ、だと」

 

「では、向かうか」

 

「あんたは腕を直しておけよ。俺が怒られてくるから」

 

「しかし、いいのか?」

 

「いいよ。困ったときに助けるのが友人だ」

 

「すまない」

 

 七海はそう言ってまたビックル・タクシーに乗って、今度はカール・セーガン地区を目指した。カール・セーガン地区のあまり目立たない場所に、ジェーン・ドウが指定した喫茶店はあった。

 

「いらっしゃいませ」

 

「待ち合わせをしている。七海将人だ」

 

「しばらくお待ちください」

 

 接客用アンドロイドが七海の言葉に応じて七海を生体認証する。

 

「どうぞこちらへ」

 

 それから七海は奥の個室に案内された。

 

「七海さん。仕事(ビズ)は完了したと聞いております」

 

「ジェーン・ドウ。そのことなんだが、少しトラブルがあってな……」

 

「トラブルと言いますと?」

 

 ジェーン・ドウが目を細めて七海の方を見る。

 

仕事(ビズ)に乱入してきた男がいる。その男が何かを持ち去った可能性は否定できないという状況だ。だが、技術者は全員始末したし、デバイスも電磁パルスグレネードで焼き払っておいた」

 

「そうですか。乱入者の特徴は分かりますか?」

 

「一応記憶してある。そっちにデータを送る」

 

 七海は録画しておいた乱入者の情報をジェーン・ドウに送信。

 

「ありがとうございます。これについてはこちらで調べさせていただきます」

 

「ああ。その、仕事(ビズ)は失敗……か?」

 

「いえ。ある程度の目的は達成していただけましたので、完全な失敗ではありません。報酬はちゃんとお支払いさせていただきます」

 

 ジェーン・ドウは微笑んでそういうと七海に報酬を送信。

 

「おお。悪いね」

 

「我々はあなた方に注目しております。これからもよろしくお願いしますね」

 

「ああ。また仕事(ビズ)があったら回してくれ」

 

 七海はジェーン・ドウにそう言って喫茶店を出る。

 

 それからタクシーで李麗華のマンションに向かった。

 

「李麗華。アドラーは戻ってるか?」

 

「まだだよー。で、ジェーン・ドウは怒ってた?」

 

「いいや。不通に報酬をくれた」

 

「それはそれで怖いね」

 

 七海と李麗華はそう言葉を交わす。しかし、アドラーはまだ修理に時間がかかっているらしく、ここにはいない。

 

「ところでさ、七海。データベースを作る気はない?」

 

「データベースって?」

 

「魔法のだよ。君の知っている魔法の知識をデータベースにしておくってこと」

 

「それって何か意味があるのか?」

 

「もちろんあるよー! 君の知識を分析できるようになるし、応用することもできるようになる。今まではあたしたちは古代火星文明の遺跡について、君から意見を聞くしか知る方法はなかったけど、その選択肢が広がる」

 

「なるほど。なら、協力するぜ。アドラーもまだみたいだし、開いてる時間でよければ作業を手伝う。それでどうだ?」

 

「ありがとー! 早速だけど始めよう」

 

「オーケー」

 

 七海と李麗華はマトリクスに潜り、そこでデータベースの構築を始める。

 

「で、データベースってのはどうやって構築するんだ?」

 

「質問応答型でやろう。AIが君に質問するから、それに答えていけばいい。そうすればあとは情報をAIが分類し、整理し、データベースにしてくれる」

 

「俺が魔術学校で教わったみたいにAIに教えればいいわけか」

 

「そうそう。とりあえずやってみて!」

 

 李麗華に言われて七海はAIを相手に魔術の教師を始めた。

 

 基礎の部分からしっかりと。とは言っても異世界の魔術はそこまで体系化されていない。まだ魔術は未知の部分が多く、科学という体系化された学問になってはいないためである。

 

 それでも七海の教えたことをAIは確実に規則性を見つけ、分類し、データベースとして構築していった。

 

『七海、李麗華? 取り込み中か?』

 

「ああ。アドラー。そっちは終わったのか?」

 

『今終わったところだ。マトリクスで七海は何を?』

 

「魔術をデータベースにしてる。李麗華に頼まれてね」

 

『そうか。直にそっちに合流するが、ジェーン・ドウはどうだった?』

 

「怒ってはいなかったよ」

 

『それは何よりだ』

 

 それからアドラーが李麗華のマンションに合流。

 

「しかし、魔術のデータベースとはな。李麗華も妙なことを思いつく」

 

「いや。けど、これで古代火星文明について分かれば、一連の陰謀について分かることもあるかもしれないぜ?」

 

「確かに仕事(ビズ)の裏にあることについて知っておいて損はないだろうが」

 

 アドラーは荒唐無稽な話だと思っているようだ。

 

「古代火星文明について分かれば、俺がどうして火星に送られたかも分かる。俺はそれが知りたいんだよ」

 

「そうか。ならば邪魔しない。頑張ってくれ」

 

「ああ」

 

 そして、七海と李麗華は魔術のデータベース化を進めた。

 

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