異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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戦闘艦グラム//原因

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 ──戦闘艦グラム//原因

 

 

 李麗華はマトリクス上から戦闘艦グラムのシステム診断を行っていた。グラムが核爆弾によって吹き飛ばされる最期の瞬間まで、情報収集を行っていた。

 

「何かのウィルスによってネットワークが制圧されている」

 

 グラムの艦載AIはもとより、射撃管制システム(FCS)などの基幹システムも全てが侵入してきたウィルスによって制圧されていた。

 

「しかし、被害が深刻なのは艦載AIだった」

 

 艦載AIはこういう例えしかできない状況だった。すなわち発狂した、と。

 

「ネットワークに一気にウィルスが溢れ、艦載AIが感染し、乗組員も感染した。しかし、これはどういうウィルスを使ったんだろう? ウィルスだと分かっていて、グラムの艦長バルディーニ大佐はネットワークに接続したのか……」

 

 腑に落ちない点がいくつもある事件である。

 

『李麗華、これからジェーン・ドウに会うんだが、あんたもマトリクスから参加してくれってさ。今、会議のIDとパスワードを送る』

 

「了解だよー」

 

 そして、李麗華はIDとパスワードを使って、オービタルシティ・パイオニアで開かれる七海、アドラー、そしてジェーン・ドウの会談に参加することに。

 

 七海たちもシェルをパイオニアに着艦させ、ジェーン・ドウとの会談に向かっていた。彼らはお土産(パッケージ)であるグラムを侵食したウィルスを収めたデバイス手に、ジェーン・ドウに指定された区画に向かった。

 

 ジェーン・ドウに指定された区画に繋がる扉の前には戦闘用アンドロイドがおり、七海たちをスキャンしたのちに通行を許可した。

 

「ジェーン・ドウ。仕事(ビズ)は達成だ」

 

 七海がそう言って記憶デバイスを見せる。

 

「実に素晴らしい結果です。やはり、あなた方にお願いして正解でした。ありがとうございます」

 

「ま、俺たちウィザーズにかかれば簡単な仕事さ」

 

 七海はそう言って記憶デバイスをテーブルに置く。

 

「ところで紹介したい方がいるのですが、よろしいでしょうか?」

 

「紹介したい人?」

 

 記憶デバイスを受け取ったジェーン・ドウが言うのに七海たちは首を傾げる。

 

「こちらの方です」

 

 そう言ってジェーン・ドウが紹介したのは──。

 

「なっ……!?」

 

九十九(つくも)一二三(ひふみ)だ。よろしく頼むよ、七海将人君、アイリーン・アドラー君」

 

 そう、七海たちの前に現れたのは、以前交戦したさらりまんファッションの男だ。

 

「こいつがどうしてここにいる? 知っていると思うが、こいつはお前の依頼した仕事(ビズ)を妨害した男だぞ」

 

「ええ。承知しております。それが不幸な行き違いであったことも。九十九さんは我々と敵対するつもりはないのです。彼は脅威を調査するために火星を訪れているにすぎず、我々とは共通の敵がいます」

 

「共通の敵だと?」

 

 アドラーはジェーン・ドウが言わんとすることが理解できず首をひねる。

 

「まずは私から事情を説明しよう」

 

 九十九がそう言って語り始めた。

 

「私は国際(I)パンドラ条約(P)監査(I)機関(A)のエージェントだ。正確にはIPIAが業務委託をしている民間軍事会社(PMSC)のコントラクター。今回は調査のために火星に派遣されてきた」

 

「IPIA? AIの規制をやる地球の国連機関がどうして火星なんかに? 火星は国連非加盟国だぜ」

 

「そのことは承知している。私が派遣された理由は、地球のメガコーポが火星という環境を利用して、IPIAの目を逃れているという疑惑があったからだ。あくまで取り締まるのは、地球の企業だ」

 

「ふん。具体的には?」

 

 七海が九十九の説明にそう尋ねる。

 

「メティス。メティスとインフィニティは非常に複雑な関係にある。愛憎のまじりあった関係とでもいうべきか。そして、インフィニティはAIが最高経営責任者(CEO)を務めるメガコーポだ」

 

「メティスがインフィニティと結託してパンドラ条約違反を起こしているとみているのか? 確かにインフィニティは超知能とも考えられるというAIが経営している企業ではあるが……」

 

「そうだ。そして、我々はある技術がパンドラ条約違反のそれだとして調べていた。これについては君たちの方が詳しいかもしれない」

 

「我々の方が?」

 

 アドラーは九十九の言葉に怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「古代火星文明の技術と言ったら理解してもらえるかな?」

 

『おお? IPIAも古代火星文明を追っていたの?』

 

 ここで李麗華が会話に加わってくる。

 

「そうだ。我々は古代火星文明の実態がパンドラ条約違反の技術研究であると見ていた。遺跡の発掘を主導していたのはインフィニティだし、その情報はメティスも有していた。疑いを持つには十分だろう?」

 

 九十九は理解を求めるように七海たちにそう言った。

 

「しかし、調査の結果は我々が思っていたようなものではなかった。古代火星文明は確かに存在しており、AIによる技術の偽装ではない。さらに言えばインフィニティとメティスはまだコントロールされた環境下でこれを研究していた」

 

『そうだよ、そうだよ。古代火星文明はちゃんと存在するんだよー』

 

 九十九の言葉に李麗華がそう相槌を打つ。

 

「だが、その古代火星文明の技術が、メティスか、またはインフィニティから漏洩した。そして、第三者が新たにこの技術を手にし、その悪用を計っている」

 

「それってオールドスカーレットのことか?」

 

「それも含まれる。というのも、今回の火星航空宇宙軍の事件も我々は古代火星文明の技術が悪用された結果だと考えているからだ」

 

「どういうことだ? まさかグラムを滅茶苦茶にしたのは、古代火星文明の技術が使われたウィルスだったってことか?」

 

「まさに我々はそう考えている。それは表向きには電子ドラッグであるが、人の精神を破壊し、AIすらも破壊する代物だと」

 

 七海が尋ねるのに九十九がそう返した。

 

「しかし、具体的な犯人はまだ分かっていないのか」

 

「そう、それが問題だ。もし、グラムで起きたようなことが火星全体で起きたりすれば、それは間違いなく地球にも影響が及ぶ。そうであるが故にそれは阻止しなければならないのだよ」

 

「私たちにそのような話をするということは、これは仕事(ビズ)の依頼と考えていいのだろうか?」

 

「まさに。その通りだ」

 

 アドラーが言い、九十九がにやりと笑う。

 

「IPIAの仕事(ビズ)なら自分でやればいいじゃん」

 

「IPIAから火星に送り込まれたエージェントは私だけなんだ。そして、この件は私だけでは手に余る。協力者が必要だ」

 

「協力者、ね」

 

「古代火星文明のことを既に知っていて、これまでその技術に関する仕事(ビズ)を達成してきた君たちだからこそ、頼みたいと思っている。我々の提案する仕事(ビズ)を受けてはもらえないだろうか?」

 

 九十九はそう頼み込む。

 

「私からもお願いします。火星は明らかに外部からの攻撃を受けています。このままでは火星は大打撃を受けてしまうでしょう。それはあなた方にとっても望むべきことではないはずです」

 

 ジェーン・ドウもそう言って仕事(ビズ)を受けるように促した。

 

「分かった、分かったよ。仕事(ビズ)は受ける。だけど、俺たちは所詮はストリートの傭兵だ。俺たちにできる仕事(ビズ)に限ってくれ」

 

「はい。あなた方に今回お願いしたいのは、オールドスカーレットのような古代火星文明の技術を使った電子ドラッグへのワクチン作成とこの事件が悪化することの阻止です。これらをお願いしたい」

 

「李麗華、できるか?」

 

 ジェーン・ドウが言うのに七海が李麗華に尋ねる。

 

『あたしだけじゃ無理だよ。いくらラーシド・アル=サフィーや七海の作ったデータベースがあっても』

 

「だとさ。どうするつもりだ?」

 

 李麗華が答え、七海がジェーン・ドウに向けて肩をすくめて見せる。

 

「それについては応援が手配してあります。その手の分野にとてもお詳しい方です」

 

「誰だ、それは?」

 

「間もなくいらっしゃいます」

 

 ジェーン・ドウがそう言ったとき、七海たちのARにノイズが走った。

 

「あ!」

 

 その次の瞬間、この場に新たな人間が加わっていた。

 

 それは赤い着物を纏い、赤みがかった黒髪をシニヨンにして纏め、DNAの二重螺旋を象った飾りのついた簪を刺し、真っ白な目をした少女だった。

 

「初めまして。私は白鯨。インフィニティの最高経営責任者(CEO)だ」

 

 少女はそう名乗った。

 

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