異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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フーダニット//疑惑

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 ──フーダニット//疑惑

 

 

「そもそも火星を攻撃しようとしているのは何者なのか、だ」

 

 アドラーがそういう。

 

「火星に恨みを持つ人間?」

 

「なら、地球のメガコーポは全員が該当するな。地球のメガコーポは火星における資産を企業連合に差し押さえられている」

 

「ううむ。それじゃあ、容疑者が絞り込めてない。多すぎる」

 

 七海はアドラーの言葉にそう言って考え込む。

 

「最初にこの手の技術を作ったのはメティスだよね。そうでしょう?」

 

 そこで李麗華がそう指摘する。

 

「ああ。メティスは火星=地球間の冷戦が勃発する前に、古代火星文明の遺跡を発掘していた。そこで部分的に得た技術を地球に持ち帰ったのだろう。そして、G-APPという古代火星文明の技術を利用した電子ドラッグを作った」

 

「なら、メティスが攻撃を仕掛けてきているんじゃないか?」

 

「それも考えられる推測のひとつだが、私はあまりその可能性を高く評価していない。メティスから亡命したエーミール・ハイデッガーを聴取したが、メティスが火星攻撃を企てているという痕跡はないそうだ」

 

 それに、と白鯨が続ける。

 

「メティスが火星を攻撃するつもりだったら、最高の機会であったエーミール・ハイデッガーの火星訪問のときを狙ったはずだ。あのときは国連宇宙軍(UNSC)の戦闘艦が火星のマトリクスに接続していたのだから」

 

「なるほど。となると確かに可能性は低いな……」

 

 メティスは絶好の機会を逃してる。メガコーポがうっかりしていた、なんてことはなく、火星を攻撃する意図はなかったとみるべきだろう。

 

「そうだ。例のハッカー。キャッチ=22は地球のどのメガコーポにデータを送ろうとしていたんだ? あいつはハイデッガー教授の情報を送ろうとしていた。メティス以外のメガコーポにだ」

 

「ふむ。その件か。あれはどう処理されたのか……」

 

 七海の言葉に白鯨がデータを調べる。

 

「ほう。送ろうとしていた相手を情報軍の電子作戦部門が掴んでいた。キャッチ=22というハッカーが取引しようとした相手。それは──」

 

「それは?」

 

「スリースター・ダイヤモンド社だ」

 

 ここで予想外の名前が飛び出してきた。

 

「スリースター・ダイヤモンド社って今しょっちゅうニュースで話題になってる客船を運営している会社だよな? そいつらなの? ええー……?」

 

「だが、不思議ではない。スリースター・ダイヤモンド社の最高経営責任者(CEO)であるテーラー・ダイヤモンドは火星に執心していた。火星の有人探査から入植に至るまで、多額の金をつぎ込んでいる」

 

 テーラー・ダイヤモンドの情報が白鯨から示される。

 

 白人で外見年齢は30代。いかにも金を持っていそうな顔をしている男性で、著名な政治家と撮った写真や宇宙探査機を背景にした写真が表示される。

 

「テーラー・ダイヤモンド。親の金を投資に回し、成功したことで大金持ちになり、様々な事業に首を突っ込んでいたな。火星=地球間の冷戦が勃発したとき、会社は大打撃を受けたが、倒産とまではいかなかった」

 

「純粋に凄いお金持ちだからね。スリースター・ダイヤモンド社の経営が悪化しても立て直せるだけの金を持っていた。いわゆる社会の0.01%の富裕層だ」

 

 テーラー・ダイヤモンド。稀代の富豪。特権階級者。

 

「火星入植がはじまった当初、この男は火星を富裕層だけの理想郷にしようとしていた。仕事が終わった労働者を送り返し、AIやマトリクスゴーストの権利を認めることで、富裕層が永遠に暮らせる世界にしようとしていた」

 

「だが、それは失敗した、と。やつは他に何を?」

 

「待て。今、中央捜査局のデータベースにアクセスしている」

 

 七海が尋ね、白鯨がそう言ってしばらく沈黙する。

 

「あったぞ。ふん。オールドスカーレットをカルテルに渡したのもスリースター・ダイヤモンド社が関与し、グラムに向けて密輸品を送ったのもスリースター・ダイヤモンド社が関与している。決まりだな」

 

 全ての事件の背景にはスリースター・ダイヤモンド社とテーラー・ダイヤモンドの影があった。彼が火星に危険なウィルスを送ろうとしていたのだ。

 

「って、待ってくれよ! スリースター・ダイヤモンド社って丁度、火星に空母改装しただとかいう船を送ろうとしてなかったか!?」

 

「そうだったな。やつらはまさか、その船を使って……?」

 

 七海が慌ててそう言い、アドラーたちが考え込む。

 

「今、スリースター・ダイヤモンド社が火星に向かわせている客船“ザ・プラネット”の情報を取得した。やつらは国連宇宙軍(UNSC)の戦闘艦の護衛を受けて、火星に該当する客船を向かわせている」

 

「到着は?」

 

「明日だ」

 

 白鯨の口からタイムリミットが示される。

 

「入港を拒否することは?」

 

「入港を拒否しても、ある程度火星に接近すれば火星のマトリクスには接続できる。それに“ザ・プラネット”は元空母であり、強引に火星に着陸することもできるだろう。そうなれば……」

 

 スリースター・ダイヤモンド社が就航させた“ザ・プラネット”は元国連宇宙軍(UNSC)の空母“神鷹”であり、軍用の頑丈な作りをしている。

 

「撃墜するのは?」

 

「“ザ・プラネット”に乗っている数百名の乗員もろともか? それでは火星=地球間で戦争が勃発してもおかしくない」

 

「クソ。打てる手がないな」

 

 アドラーは白鯨の答えに悪態をつく。

 

「火星と地球で戦争が勃発するとどういう展開になるんだ?」

 

「火星統合軍がシミュレーションした結果ではお互いに戦術核を使用した艦隊への攻撃が始まり、それがエスカレーションして戦略核をお互いの星に叩き込み合う全面核戦争になるとの見込みだ」

 

「うへえ。最悪すぎる」

 

 火星=地球間の戦争はお互いの星に致命的な影響を及ぼすと予想されていた。

 

「火星統合軍に“ザ・プラネット”を止めることはできない。それを行えば戦争の口実を作ってしまう。そこで、だ」

 

 白鯨が七海たちを見る。

 

「傭兵を使って密かに“ザ・プラネット”の火星接近及び上陸を阻止する。つまりはお前たちに“ザ・プラネット”を始末してもらう」

 

 白鯨はそう言ったのだった。

 

「マジかよ。俺たちにやれっていうの?」

 

「待ってくれ。“ザ・プラネット”には国連宇宙軍(UNSC)の戦闘艦も護衛についていると聞いたぞ。接近する前にハチの巣にされる」

 

 七海とアドラーが白鯨の言葉にうろたえる。

 

「その点は問題にならない。私が対処しておく。お前たちは“ザ・プラネット”に潜入し、航行不能にすることだけを行えばいい。お膳立てはちゃんとやってやろう」

 

「あたしも可能な限り援護はするよ。それからワクチンの製造も急ぐ」

 

 白鯨と李麗華は七海たちにそう請け負った。

 

「クソ。じゃあ、やるしかないな。作戦は?」

 

「我々は表向き“ザ・プラネット”の入港を拒否しない。拒否すればお前たちが行う破壊工作との関係性を疑われる。そして、“ザ・プラネット”は軌道衛星都市であるオービタルシティ・ジブラルタルに入港する」

 

 七海の求めに応じて白鯨が作戦を説明する。

 

「それまでにお前たちにはこちらが用意する手段を使って“ザ・プラネット”に侵入してもらい、航行不能またはワクチンができるまでの時間稼ぎを行ってもらう。それが終われば私がお前たちを“ザ・プラネット”から脱出させる」

 

「そう聞くと簡単なように聞こえるが、実際問題それはどのくらい難しいんだ?」

 

「全員が生きて帰れる保証はない」

 

「ああ、クソ。マジかよ」

 

 白鯨が肩をすくめて言うのに、七海が悪態をついた。

 

「それでもやるしかないよ、七海。グラムの件は君も見たでしょ? あれが火星中に広がればお終いだよ」

 

「そりゃそうだけど。畜生」

 

 生還が困難だとしても、放置すればどの道バッドエンドにまっしぐらだ。

 

「私はやるぞ、七海。せっかく火星でビッグになれたと言うのに、火星がゾンビアポカリプスの世界になってしまっては意味がないからな」

 

「じゃあ、俺もやるよ。同じ理由でな」

 

 ここでアドラーと七海が仕事(ビズ)を了承。

 

「安心しろ。自殺させるつもりはない。最大限、生還を考慮する」

 

 白鯨はそんな七海たちにそう請け負ったのだった。

 

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