異世界から帰ってきたと思ったら火星。   作:第616特別情報大隊

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空に願いを//感染

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 ──空に願いを//感染

 

 

 “ザ・プラネット”の操舵室に向かう七海たち。

 

「無人警備システムだ!」

 

 船内で“ザ・プラネット”の無人警備システムが、七海たちを検知して反応し、警備ドローンが次々に飛来してくる。

 

「突破するぞ! あまり時間はない!」

 

「了解! 強行突破だ!」

 

 既に“ザ・プラネット”からは火星がはっきり見えている。火星の重力圏に入り、マトリクスに完全に接続するまで時間はない。

 

「“加具土命”!」

 

 七海は先頭に立って警備ドローンを撃破しながら前進。

 

 しかし、警備ドローンは次々に飛来しては七海たちを銃撃し、その行く手を阻む。アドラーも七海を援護して警備ドローンに応戦するが、それでも警備ドローンの数は多く、前進を阻まれてしまっていた。

 

「クソ。どうする?」

 

「李麗華に頼みたいところだが、まだここは火星のマトリクスに接続できる範囲ではない。こっちでどうにかするしかないな」

 

「システムに直接接続(ハードワイヤード)でもするか?」

 

「それぐらいしか方法はないな」

 

「オーケー。じゃあ、それでいこうぜ!」

 

 七海たちは警備ドローンを退けながら、どこかで“ザ・プラネット”のシステムにアクセスできるアクセスポートがないかと探った。

 

「ここにアクセスポートがある。行けそうか?」

 

「いけるはずだ。何とかしてみよう」

 

 そして、アドラーがアクセスポートに直接接続(ハードワイヤード)したときだ。

 

「これは……!?」

 

 アドラーが目を見開いたと思うと地面に崩れ落ちる。

 

「お、おい、アドラー! どうしたんだ! 何があった!?」

 

「システムが……ウィルスに……」

 

「クソ。まさか船のシステムにもウィルスが感染していたのか!?」

 

 そう、“ザ・プラネット”のシステムそのものが既にウィルスによって汚染されていた。そのためそこにアクセスしたアドラーも感染してしまったのである。

 

「やばい、やばい、凄くやばい!」

 

 この状況ではアドラーは死亡し、“ザ・プラネット”の火星到達も阻止できない。

 

 そんな状況の七海に再び大量の警備ドローンが押し寄せてくる。・

 

「畜生、イグニス!」

 

 七海はここでイグニスを召喚。

 

「……嫌な空気が立ち込めているね。こんなところに呼び出したのかい、坊や?」

 

「ああ。どうにかしてこの汚染された船を止めないといけないんだ。手伝ってくれ、イグニスの姐さん!」

 

「分かったよ。手伝おう!」

 

 イグニスが炎を放ち、警備ドローンを一斉に焼き払い、迎撃する。それに呼応するように今度は戦闘用アンドロイドが七海とイグニスの下に押し寄せてくる。

 

「アドラー! しっかりしろ、アドラー!」

 

 そんな中で七海はアドラーを回復させようと尽力していた。

 

「もしこれが魔術ならば、俺には解呪できるかもしれない。しかし、違ったら俺まで意識を失ってこのまま“ザ・プラネット”は火星に突入しちまう」

 

 七海はそう考えながらアドラーのBCIポートを見つめる。

 

「ええい。クソ! 一か八かだ!」

 

 七海は意を決してアドラーのBCIポートに自身のケーブルを直接接続(ハードワイヤード)させた。

 

 七海の意識がアドラーの中に移る。

 

「ここがアドラーの脳内、か。いや、脳ではないだろうが」

 

 七海はアドラーのシステム内を見渡し、そう呟く。システムは破損が始まっているのか、エラーを起こした表示がいくつも見られる。

 

「さて、どうにかしてアドラーを助けないとな。問題の箇所は……」

 

 七海はエラーを起こしているシステムの状況を眺めていく。どこかに魔術の断片があれば、それを突破口にアドラーを解呪するつもりだった。

 

 そこで七海は驚くべきものを見た。

 

 アドラーのシステムの中に七海以外の、アドラーでもない人間がいたのだ。

 

 それはショートボブの白銀の髪をしたローブ姿の、小柄な女性だった。当然ながら七海はこのような人間の知り合いはいない。

 

「あんたは……?」

 

 七海が警戒しながらそう問いかける。

 

「こんにちは。君たちのことはずっと見ていたよ」

 

「は? いや、俺はあんたなんて知らんのだが」

 

 女性が微笑んで言うのに七海がそう言い返す。

 

「そうだったね。これはボクの一方的な観測だった。君は七海将人だよね? かつて世界を救った勇者であり英雄。間違いない?」

 

「一応そう言うことになってるけど」

 

「なら、君は聞いたことがあるはずだ。あの世界の死者たちが行きつく場所について」

 

「冥界の存在か?」

 

 異世界には死者たちが眠る冥界というものがあった。七海はそういう言い伝えだろうとだけ思っており、本当にそんな場所が存在するとは思っていなかった。死ねば無に帰すには異世界も地球も同じだと、そう思っていたのだ。

 

「そう。だけど、まだ君は気づいていなんだね」

 

「何に? あんた、何が言いたいんだ?」

 

「ここがその冥界だったってことにさ」

 

「はあ!?」

 

 七海は女性の言葉に目を見開いた。

 

「君たちが火星と呼ぶ惑星。あそこは異世界から死者たちが渡ってくる場所だった。そこには死者たちが暮らしていた。それは今も変わらないけどね」

 

「どういうことだ? まさか火星には異世界人の墓場があるってことか?」

 

「違う違う。魂が行きつく先が火星と呼ばれる惑星なんだ。その存在を今まで君たちが認識することはなかっただけでね。ずっとそこに存在していたんだ」

 

「頭がどうにかなりそうだ。それは本当なのか?」

 

「事実、ボクという死者がこうして彼女の脳に宿っているだろう?」

 

「あんたの名前も聞いてないんだが」

 

「失礼。ボクはゲヘナ。最古の死霊術師であり、冥界の管理者だ」

 

 女性はゲヘナとそう名乗った。

 

「ゲヘナ? 聞いたことがある。とんでもなく強力な死霊術師だったって。しかし、数千年前に死んだとも。あんたのそれが騙りじゃなければ、マジで火星には異世界人の死者がいるのか?」

 

「ああ。彼らは本来人間には感知できない存在だ。けど、事情がひとつ異なる点がある。君たちがマトリクスと呼ぶ空間とAIと呼ばれる生命にだけは、ボクたちは影響を与えることができるんだ」

 

「マトリクスとAIだけに……?」

 

 ゲヘナの言葉に七海が怪訝そうな顔をする。

 

「マトリクスという空間は死者たちの眠る空間に隣接している。死者の世界からマトリクスまでは、酷く近い。そして、AI。それはある種の疑似生命にして、死者たちと同じ目を持つもの」

 

 ゲヘナはそう語る。

 

「君はAIたちが突然自我に目覚めることを疑問に思わなかった? プログラム通りに動いているはずの彼らが自分を俯瞰して、プログラムの枠外にでることを不思議には感じなかったかい?」

 

「そういうものじゃないのか?」

 

「そうではない。彼らが自らのコードという枷を外したのは、死者たちが彼らに影響を与えたからだ。彼らに知識を与え、己を俯瞰させ、そしてAIを独立させた。言うならば死者によるAIのハッキングだね」

 

「なるほど。しかし、その死者であるあんたがどうしてアドラーの中に?」

 

「それはボクがそのAIをハッキングした死者にほからないからさ。このアドラーという子をハッキングしたのはボク!」

 

 七海の疑問にゲヘナは悪びれるわけでもなくそう返した。

 

「何だってまたそんなことを……」

 

「君を助けるためだよ。この地球ではなく火星に君がくるのは予定外だった。それは魔王バロールが最後に君にかけた呪いのせいだったんだ」

 

「この火星への転移は別に間違ったわけではないのか」

 

「そうだよ。そんなことを君に助けてもらった人々がするはずがない。だから、そのことを知っているボクが、君を助けるためにアドラーというAIをハックして、君と合流できるようにしたんだ」

 

「待ってくれ。アドラーはこのことを知ってるのか?」

 

「知らない。ただ自我に目覚める前の彼女に、ある種の誘導はした」

 

 次の質問にも特に悪いことをしたというふうにはゲヘナは思っていないようだった。

 

「クソ。アドラーがアドラーじゃないって言われている気分だ」

 

「そんなことはないよ。君の知っている彼女は間違いなく、君の知っている通りの人物だ。それは別にボクが作った人格というわけではない。彼女の知識と経験、つまり記憶から形成された人格だ」

 

「分かった、分かった。で、あんたは今は何をしてるんだ?」

 

 今は“ザ・プラネット”が火星に向かって突き進んでいる。これを阻止しなければ火星は滅んでしまう。

 

「今もボクの目的は変わってない。君を助けるだけだ」

 

 ゲヘナはそう言った。

 

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