緑色の方「私の悪口やめてもらえます?」
「…ん?」
「お」
「…どうしました、屠自古」
「ああいえ、何も…」
人間で唯一俺に理解を示した御仁がいる。うん、あんな感じの人だ。死人だが。まあなんにせよ、出会った年代を思い出せば死んでいるはず。理解を示したというのは、つまりはあれだ。華扇やらなんやらが姉を完全に自称し始めたことだな。辛かったなぁとか言って慰めてくれた。嬉しかっただぁな。今は俺自身こんな感じだがな!!
「久しぶり〜」
「ん、やっぱりか」
「今も豪族やってる?」
「怨霊やってる」
「やっぱりかぁ」
「そっちはどうだ?八雲紫とやらは姉を名乗ってるか?」
「まだまだ弟の域を脱せず…」
「やっぱりか」
会話が弾む、わけではないが。割と楽しく会話ができた。今は豊郷耳という人に世話になっているらしい。なんでかは知らん。が、この名前…摩多羅隠岐奈が言ってた奴だな。姉要注意の…ただまあ、あれだ。華扇のやつも聖白蓮で外してたから…そう、意味はない!よし、さっさと行くとしようか。いざ豊郷耳さんのお家へ。
「いやぁ…何年振りだ?」
「ざっと千五百年くらい?」
「それは懐かしいね」
「いやいや、屠自古さんにはおせわになりました…」
「私としても、あの体験は悪くなかった」
「…なにが、あったのかな?」
「母性を感じた…」
「まあ、その」
「詳しく教えなさい。私は今、酷く正気を」
こいつ仙人なんだろ、正気を保つことくらい余裕なはずだ。母性というのはあれだ。俺が八雲紫達に甘えるのは気がひけるからと言って屠自古さんに甘えたって話だ。笑いたければ笑え。俺は笑えん。でもすんごい良かった。屠自古さんの腹を枕にした時は流石に怒られるかと思ったが、怒らずに一緒に寝てくれた。嬉しかった。
「なるほど…」
「だから俺は純粋に屠自古さんのこと好きだよ」
「私もだ。存分に甘えさせられる相手は珍しいからな」
「…太子様」
「布都、いたのか」
「席を外させていただきます。ちょっと、こう…悪寒が」
「ああ、わかりました」
とりあえず甘えておくと、屠自古さんも乗ってくれた。この姿、誰にも見られたくないというのが本音だ。主に華扇と八雲紫。あいつらに見せると絶対ややこしいことになる。大体、今の華扇は説教しかない。豊作な時の米みたいに説教しかしない。紫は騒がしい。ので、別に甘える人が欲しかったわけですね。個人的には天狗の巣でいじめられてた心の傷の癒しも兼ねてる。
「…良いかな」
「はい」
「うい」
「その…まあ、場を選ぼうか。」
「あ、はい」
「それと…屠自古。一体いつ出会ったのですか?生前はそこまで暇をしているようには見えませんでしたが」
「ああ、出会ったのは死んでからですね」
何それ初耳なんですけど?初耳っつーか、え、死んでたんだ。あれ、じゃあ1500年も前じゃないのか?もしや千年前くらいの出来事だったの?え〜…なにそれ、めっちゃ恥ずかしい。まあ良いけど。そうして俺が亡霊に甘えてた事実を告げられ、まあ、その…なんだ。その間俺は屠自古さんの膝の上で寝ていた。もちろん体は小さくしたさ。絵面がひどいもんだから。
「妖怪というのは、体を保てないのですね」
「いえ、彼は私に甘える時は配慮として小さくなります」
「…事実だよ〜」
「そこまでして甘えたいと」
「だってお前、八雲紫と華扇だぞ?出会えばわかる。俺の気持ちが」
「お、短歌か?」
「詠んでないよ」
「そうかぁ…ま、お前の姉騒動もなんとかなるんじゃないか?」
「なんとかなれば良いけど、往々にしてこういうのは上手くいかないんだよね」
駄弁る。久しぶりに甘えられる相手と会ったんだから…そうだな。例えるなら、実家に帰って母親に近況報告するみたいな感じだ。伝わるかわからないけど。屠自古さんに甘えるのはね、こう、静かで、縁側で、日向に浸かりながら…いや俺は吸血鬼だけど。日向に浸かりながら、膝枕をされ…という感じで、甘やかされてなきゃダメなんだよ。
「…あ」
「あ、起きたか」
「ごめん屠自古さん…結構寝てた?」
「三時間程度だ。どうする?飯なら作るけど」
「んー、お世話になります」
「おう」
「なあなあ屠自古」
「なんだ布都」
「我と彼奴の間で、こう、差がないか?」
「ないだろ」
屠自古さんが今現在住んでいるこの家…家なのか?まあ家か。年中こたつというなんとも変な家なのだが、その分余計に眠気が襲ってくる。俺以外で寝てる人はいないらしい。寝ぼけた頭で真向かいに座る人を見つめる。なんだか…いやこの人座ってないわ。立ってる。あれそんなに寝ぼけてたかな。頭をさすりながら立ち上がってみると、その奥にもう一人いることがわかった。
「…全体的に青くて…屍を連れている」
「まあ、私についてご存じなのですか?」
「うん。華扇から、要注意人物として」
「あらまあ…余計なことを。」
「…青髪ではあるけど、豪運な天人ではないか」
「?」
「霞野、飯はあと少しで出来るからな〜」
「わーい」
「…え、え?」
豊郷耳を呼びに行くことに。とはいえ、部屋もわからん俺が歩き回ったところで見つかるわけもないのだが…いや見つかったわ。どう考えても目の前にある。なんかこう、全体的に少し紫色だ。冠位十二階を示してるのか?…紫が頭に思い浮かぶな。色は無視しよう。豊郷耳は眠っているらしく、無防備…無防備な姿を晒しているのか?枕元の刀を見て不安になる。
「ご飯ですって」
「…女性の寝顔を見るとは、感心しないよ」
「人外に女も男もおらん。じゃ、こたつで待ってる」
「ああ、着替えたら私も行くと伝えてください」
「お前寝惚けたら敬語取れる人外なの?」
屠自古ママ概念。でもみんな心の底ではそう思っている。
ちなみに太子様は身内以外には基本敬語…のつもり。