「…ま、この結界ごと自爆すれば傷くらいできるでしょ?」
「じゃあ出るわね〜」
「俺はここにいるけどね」
今までの戦いを通して感じたことがある。手加減されてる。八雲藍は俺を殺せないし、八雲紫は自分から攻撃してこない。俺が大切に思われてるからなのであれば、自爆を許さない。八雲紫が俺の言葉を聞いた途端に俺は後ろに引っ張られる。俺の部屋が眩しくなったかと思えば、スキマが閉じる。ここまで来ればこっちのもの。引っ張られた衝撃で寝転がり、八雲紫を見上げる。
「ようやく近づけた」
「っ」
「マスタースパーク!」
八雲紫の体に向かってマスタースパーク。これが俺の持つ勝ち筋。つーかこれで無理ならまず火力が足りない。よって不可能。まず勝てない。以上、そういう話だ。少し距離をとって様子を見る。何やら突っ立っているだけの様子。なんだろうか…今ので気絶して欲しいんだけど…なんかそういう雰囲気じゃないんだよね…
「藍」
「はい」
「あれって生きてる?」
「え、確認するんですか?」
目を確認。こいつは八雲藍だ。それは間違いない。ただ、八雲紫が立っているだけなのが怖い。一体なぜ?近づかなければならないのか?…いや、大丈夫だ。八雲紫は立っているだけ。目も瞑っている。音を立てず、気配を殺せば近づいてもバレないだろう。多分…
「そんなに勝ちたかった?」
「っ!」
抱きしめられた。嘘でしょ俺より力強いの?前喧嘩した時より随分と力強く感じるが、痛みはない。ただ動けない。というか見てないのにどうやって俺の場所わかったんだよ。どうなってんのほんとに?意味がわからない。ただ、抱きしめられているだけの状況が続く。
「一体私に勝って何がしたかったの?」
「…逆だ。八雲紫は俺に勝って何をしたかった?」
「私のことはいいのよ。ああ、それともただ喧嘩がしたくて条件を付け足したってこと?それじゃあ素直にそう言えばよかったのに。」
「離して」
「はいはい」
「これじゃあどっちが勝ったのかわからないじゃん」
「そうねぇ…私の勝ちってことにして、私に話してくれる?喧嘩がしたいだけじゃないはずだけど」
「えー…じゃあそれ言ったら叶えてくれる?」
「私にできることならね。月に攻めるは無しよ」
…こういう時の八雲紫は、信頼していいのだろうか。今までの喧嘩ではそもそも何かを賭けたりはしない。俺と八雲紫がただ思い立ったから喧嘩してたくらいしか理由がない。だからこういう時が初めてなのだ。いやでもまあ…言っていいのかな。八雲紫もそのつもりで解放したみたいだし。多分言わなかったらまた抱きしめられる。それか道士服を着させられる。
「もう一回っていうか…また姉ちゃんと暮らしたいなって」
「えっ」
「昔みたいに、じゃなくていいんだけど…一時期みたいに何かに没頭して飯抜きとかは無しでさ」
「…なーんだ…てっきり私はお姉ちゃんと禁断のあれこれかと」
「それはお前の考えだよ。で、叶えてくれるの?」
「そうね…良いけど、貴方の結界壊れたのよ?」
「荷物は事前に藍が運び込んでる。どのみち一緒に暮らすって言おうと思ってたし」
「…いや、貴方も貴方よ。私も相当だけど」
「何さ」
ちなみにアンチ八雲紫協会の巫女と霧雨魔理沙に手伝ってもらった。藍が隠蔽役、巫女と霧雨魔理沙が運び役。八雲紫の家に行き、さっさと俺の部屋へ。八雲藍に連れ戻された時とほぼ変わらない間取りの家で、これまた懐かしい。八雲紫は少し驚いたような、感心したような顔でこちらを見ていた。持ち運ばれたものに損害はなく、いつぞやの妖精も来ていた。そろそろ解放するか。
「姉さん」
「昔の呼び方に戻してくれるの!?」
「姉さんの部屋ってどこ?」
「私の部屋は…こっち。懐かしいでしょ?天狗にいじめられた夢をよく見てた貴方が怖いからって一緒に寝にきてたこと。」
「…俺今日からこっちで寝るから。」
「姉弟禁断シリーズ…!?」
「次それ言ったら藍に行くからね」
「そのための式よ?」
…実は藍と出会った当初、俺は藍が嫌いだった。姉が忙しいからと藍が構いに来た時には藍が姉の代わりをしてよと拗ねたくらいには。八雲紫からすれば藍は忙しい時用の代理だったようだが。よくわからんが、それも失敗していたってことだ。ちなみに戦いは早く終わっていたようで。空を見ればまだかなり明るい時間帯だ。
「俺の予定だともう日は沈んでるはずだったのに」
「そのままベッドイン、ね。藍〜!お夕飯までどれくらいかかる〜?」
「スキマ使えば?」
「…ら〜ん」
晩飯までは少しかかるそうだ。なので寝よう。としたいらしいが…いや布団は分けたんだから一緒の布団では寝ないぞ。流石に…いやいや、ほんとだって。ねえ。あ、こいつ境界弄って布団一つにしやがった!ちょっ…キングサイズの敷布団はおかしいだろ…どれだけ引っ張っても取れなくなっちまった。どうしてくれんの??
「これで同じ布団で眠れるわ!さ、早く!」
「…どう思う摩多羅隠岐奈」
「いや流石にやりすぎだと思う」
「華扇は?」
「えっと…私賢者抜けますね…その、同じに見られたくないので…」
「なんであなた達がいるのよ!?」
「いや、喧嘩するって聞いて…なぁ?」
「ええ。その着地点としてこれは…か、帰りますね」
「私も」
二人とも帰って行った。八雲紫は少し固まったままで、俺に顔を向けること以外しなかった。いや俺もまさかまだいたとは思わなかったんだよ…いやホントに。まじで。…傷つけちゃったかなぁ。布団に入ったまま泣かないで。ちょい、本当に泣かないでよ。仕方ない…布団に入るか。真ん中陣取ったまま泣かないで。
「え?」
「寝ないの?」
「ね、寝る!」
「じゃあおやすみ」
八雲紫「…これで終わらせるなんて私が許さないわ!!」
八雲藍「いや私、ボコられてご飯作って終わってるんですけど…」