小林、ボーダー辞めたってよ   作:アルピ交通事務局

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第1話

 

 1月1日、それは実に実にめでたい日である。

 外国ではどうかは分からないが日本では新年の幕開けの日であり国民の休日となっている。そう、お正月である。

 

「はい、お年玉だ……調子に乗って散財するなよ」

 

 お正月と言えば新年の挨拶回り等がある。ボーダーの玉狛支部に入隊した遊真はそのまま玉狛支部に住み込み居る。

 一応は帰る家はあるが殆ど住み込みに近いも同然の支部長である林藤支部長からお年玉を貰った。

 

「ボス、私には?」

 

「おいおい、お前A級で固定給+出来高で貰ってるだろう」

 

「……う〜……」

 

「冗談だよ冗談、そんなに睨むなって」

 

 我等が騙されボーダー最強(さいつよ)ガール、小南桐絵こと小南パイセンは新年の挨拶回りとして玉狛支部に来ていた。

 遊真にお年玉を渡されて自分もあると思っているのだが無かった……と思わされてちゃんと用意している林藤支部長。

 小南を少しだけからかうのは楽しいなと思いながらもお年玉をもらう。

 

「あ、そうだ。遊真を初詣に連れてってくれ」

 

「え、ボスは来ないの?」

 

「今から飲むんだ」

 

 思い出したかのように遊真を日本名物かどうかは不明だが初詣に連れていく様に頼む。

 林藤支部長が行かないのかと聞けば林藤支部長の手にはキンキンに冷えたビール瓶とコップがあった。

 新年だし羽目を外そうとしている……まぁ、どっちかと言えば元から緩いところがあるから羽目外しすぎなんじゃないのか?と見る人が見ればそう思うのだろう。日頃の行いは大事である。

 ともかく今から飲むつもりなので行くつもりは無い林藤支部長、酒が飲めないパイセンは仕方ないかと受け入れて遊真を三門市で初詣をするならばここと定番な神社に連れて行った。

 

「うぉ……スゴいな……こなみ先輩、なんかの祭?」

 

「祭って言うか、新年が無事に開けたのを祝ってる感じよ。今年の無病息災良いことあれって」

 

 はじめての初詣、三門市民の初詣の定番である神社は人集りとか言うレベルじゃないぐらいに人が多かった。

 なにかの祭が行われているんじゃないのかと遊真は聞くのだが、新年を祝い無病息災を願うだけの場所である。

 年が明けただけなのにこの騒ぎようとはこの世界は変わっているところがあるなと思えば香しい匂いの数々

 

「こなみ先輩、おれ、アレ食べたい」

 

「止めといた方がいいわよ、味が微妙だし値段無駄に高いし……お汁粉とかならハズレは無いけど、ここはハズレなの多いのよ」

 

 香しい匂いの正体は屋台の出店。肉や烏賊や焼きそばやと様々なものが焼かれ揚げられている。

 アレは見るからに美味そうだと財布の紐が緩みそうになる遊真を小南パイセンは止める。ああいう屋台の商品は実は業務スーパーの物とか味を濃いタレで誤魔化している粗悪品なのを知っているから。

 こういうところで食べる価値があるのは神社が新年を祝いついた餅を使ったお汁粉とかが良い。一先ずは初詣、神社の賽銭箱にまで向かい賽銭を投げて祈る。今年も良いことありますように、怪我なく過ごせますように。願いは人それぞれだが小南パイセンはなんか良いこと起きろ!と願う。意外と強欲である。

 

「あ、遊真くん!小南先輩!」

 

「千佳に修じゃない……あんた達も初詣?」

 

「はい……あ、あけましておめでとうございます小南先輩。今年もよろしくお願いします」

 

「……あんた、固いわね」

 

 参拝も終わって来た道を戻っていると着物姿の千佳と私服姿の修と遭遇する。

 こんなところでバッタリと出くわすなんて!と言うホントに偶然みたいなところがある。小南パイセンが初詣に来たのかと言えば修はペコリと一礼をする。なんか固い性格、そこが三雲修の良いところでもあり汚点でもある。米屋辺りはあけおめことよろで済ませそうなイメージがあるのだが修がそれはなんかシックリと来ないわと自問自答をしている。

 

「参拝はもう終わったの?」

 

「はい、さっき終わりました」

 

「じゃあ、お汁粉食べに行きましょう!奢ってあげるわ!」

 

 利益とかを求めていない1杯100円のお汁粉を小南パイセンは奢るという

 100円程度ならば妥協とかでなく堂々と出来る、小南パイセンが奢るというのでそれをありがたく受け入れる修達。

 

「やっぱ突き立ての餅は美味いな」

 

「餅川!じゃなかった、太刀川!」

 

「おい、わざとだろ。絶対にわざとだろ?」

 

 餅をニュイーンと伸ばして食べているボーダー最強の男、太刀川慶と遭遇する。

 三門市民達が初詣ならここに行こう、そう言う定番のスポットであるこの神社、ボーダー隊員達が遭遇するのは別におかしくない。

 現に後で合流しようと言っているわけではない修と千佳と会った。探せばボーダー隊員達と鉢合わせすることはあるだろうが今は置いておく。

 

「タチカワ……この人がジンさんのライバルだった人?」

 

「ええ、そうよ」

 

「見ない顔…………ああ、上から聞いた近界民(ネイバー)か」

 

「む」

 

「安心しろ。そういうのはもう終わってるから」

 

 太刀川といえばボーダーが誇る実力派エリートのライバルだと思い出す遊真。

 そう言う遊真を見たことが無いので迅が言っていた近界民だと言うのを太刀川は理解する。遊真が近界民だと知られている、それを理由に発砲された経験があるので警戒はするが太刀川はそれに気付き遊真のボーダー入隊は正式に認められている。その辺のゴタゴタは少し前に終わっている。太刀川自身も近界民だからといきなり発砲することをするタイプじゃない。まぁ、斬るには斬るのだが。

 

「甘いスープ……このお米を潰したのは?」

 

「それは餅、こっちの世界で1番美味しい食べ物だ」

 

「なにを言ってるのよ!カレーが1番よ!」

 

「小南先輩、違いますよ。ごはんこそが1番です!」

 

「千佳、話をややこしくするんじゃない」

 

 汁粉を食べていると餅と出くわす遊真。

 餅を見たことがないので太刀川はこの世界で1番美味い食べ物だと言うが小南パイセンはカレーこそが1番、しかしトリオン怪獣こと雨取千佳はごはんこそが1番だと主張する。修は話がややこしくなるから話に加わるなと制止するが止まらない。

 とりあえず餅を食べる遊真、噛み切れずへばりつくが味は絶品、汁粉の甘さと相まってかとても美味い。と言うかこの世界の飯は大体美味い。

 

「おい、太刀川!卓蔵を見なかったか!!」

 

「ん?見てねえぞ?」

 

「っち……ここにも居ないか……小南か。卓蔵を見てないか?」

 

「……えっと……見てないですよ?」

 

「っち……あいつ、何処に行きやがったんだ!!」

 

 突如として現れた男、ボーダー最強の射手(シューター)、二宮匡貴。

 理由はよくわからないのだが何故かキレている。新年早々にキレており、自分の従兄弟、小林卓蔵(こばやしたくぞう)を見なかったか聞いた。しかし太刀川は見ていない。たまたま近くにいる小南にも聞いたが見ていない。

 2人が見ていないと分かれば聞こえるレベルの舌打ちをした後に汁粉や餅を座って食うスペースから離れていった。

 

「小南先輩、今のは?」

 

「ああ、卓蔵の従兄弟の二宮さん……あんま似てないけど従兄弟なのよ」

 

 二宮とまだ遭遇していない修は誰なのかを聞いた。

 修が知っている人、小林卓蔵の従兄弟と言えばあんまり似てないなと印象を受けるが小南も似ていないと自覚している。

 どっちかが母親似でどっちかがお祖父ちゃん似だったけどどっちだったのかはあんまり覚えていない。

 

「小南先輩、あそこに並んでるの小林先輩じゃないですか?」

 

 しかしなにかがあったんだろうなと思っていると千佳が小林を見つける。

 自分達が今食べているお汁粉の列に並んでいる。ちょうどお汁粉の代金を払いお汁粉を貰っている。

 お汁粉や餅を食べるスペースに居る自分達に向かってやって来ている。

 

「あけおめ!なんか二宮さんがあんたの事を探してたわよ」

 

「……………………あのぉ〜……………」

 

「二宮さんになにしたのよ?」 

 

「……………すみません、どちら様でしょうか?」 

 

「はいはい、そういうギャグはいいから……あんたが悪いことをしたなら素直に謝りなさいよ」

 

「…………あ!もしかして俺がボーダーに居た頃の知り合いですか!」

 

「はぁ?あんたなに言ってるの?」

 

 とりあえず新年の挨拶をした小南パイセン。

 二宮が探していたことについて言うのだがどうにも反応が薄い。それどころかわけの分からない事を言っている。

 

「いや〜すみません。ボーダー辞めたんで、記憶を封印されてしまいまして……なにも覚えてないんですよ」

 

「…………は?」 

 

 ボーダーには言ってはならない守秘義務が多くある。

 小林卓蔵という男はフリーのA級隊員で世間に公表すれば確実にまずい情報の1つや2つ……例えば空閑遊真が近界民である事などを熟知している。ボーダーを辞めるのであれば記憶の1つや2つ弄くる、ボーダーとはそういうことを平然とする組織である。それ自体は分かっているが、卓蔵がボーダーを辞めたと言う言葉を聞いて小南は固まった。

 

「な、なんの冗談を言ってるのよ!?あんたがボーダーを辞めるだなんて」

 

「本当です、自分はボーダーを辞めました。ボーダーの公式サイトから名前を抹消されてますよ」 

 

「そ、そんな嘘を言っても騙されないんだから!!」

 

 なにを言っているんだと小南はスマホを取り出してボーダーの公式サイトをアクセスする。

 ボーダーには極秘裏にしなければならない存在以外の隊員は基本的には公式サイトに載っているのである。フリーだが実力派エリートと言ってもいいA級である卓蔵の名前も当然、ある……そう思っていた。

 

「無い……無い……なんで!?なんであんたの名前が無いの!?」

 

「だから言ったじゃありませんか。ボーダーを辞めて記憶を弄られたって……皆さんの顔を見てもなにも思い出せません。精々分かるのはそこにいるのがボーダー最強の人だってぐらい」

 

 卓蔵の名前が無かった。どうして無くなっているのかが分からない。でも小林は言う。ボーダーをやめて記憶を弄られたと。

 だから小南達の顔を見てもなにも思い出せない。精々分かるのは個人総合1位としてメディアに出た事がある太刀川ぐらいだ。

 

「嘘よ……だって……だってあんた、あんなに頑張ってて」

 

「ですからなにも覚えてないから聞かないでください……誰なんですか貴女達は?ボーダーに居た頃の知り合いでも今はもう関わり合いが無い……いや、関わり合いを持ちたくないです」

 

「っ……遊真」

 

「……タクゾーさん、嘘はついてないよ」

 

 自分はもうボーダー隊員じゃない。ボーダーを辞めて記憶を封印された。

 きっとコレはなにかの嘘に決まっている、小南はそう思い嘘を見抜くことが出来るサイドエフェクトを持っている遊真を見た。

 嘘を言っているのならば何時ものようにつまらないウソをつくんだねとニヒルに笑みを浮かび上げる……でも、嘘をついていなかった。遊真もどういうことなのか理解することが出来ない。

 

「どういう事だよ……二宮の奴、お前をキレながら探してたぞ」

 

「なんの相談もせずにボーダーを辞めたからじゃないんですか?」

 

「だからなんで!?なんでなの!?なんであんたがボーダーを辞めたのよ!!A級に上がったり色々なトリガーを使いこなしたり……」

 

「……………しつこく聞いてくる人が居る場合に開けって手紙を残してます……」

 

 なにも言わずなにも語らずなにも相談せずにボーダーを辞めた。

 その事について太刀川も深く聞く。小南もどうして辞めちゃったのと、卓蔵の背中を、努力を見ていたから理解に苦しんだ。いや、なにも語られていないから理解することすら出来ない。

 問い詰める太刀川と小南に対して卓蔵はめんどくさそうにしながら1枚の便箋を取り出す。小南はきっとなにかがあったに違いない。それに対して相談しなかった事について文句の一言でも言ってもう1回、1からボーダーにと考えた。

 

「【もういい、もう頑張る事に理不尽に抗う事に疲れた。傍観者でもなんでもないモブキャラAになりたい】」

 

「え……そ、それだけ?」

 

「はい、それだけです」

 

 希望があったと思ったが希望の灯は灯っていなかった。

 卓蔵は疲れた。頑張る事や理不尽に抗う事を。だからボーダーを辞めた。傍観者でもなんでもないモブキャラAになりたいと思った。

 なにかがあると思ったが出てきたのは卓蔵が疲れてボーダーを辞めた。もうこれ以上頑張るのは嫌だとボーダーを辞めたという事実。

 

「なんでよ!!なんで誰にも相談をしなかったのよ!!!!」

 

「…………多分、お前には相談はしない」

 

「え?」

 

「お前が俺が辞めたことを悲しんでる。俺がなにを思ってボーダーを辞めたかは覚えていない。でも……お前のことが嫌いだって思いが心に残っている」

 

「っ!!」

 

 卓蔵は記憶を封印された。操作された……でも、卓蔵の思いは変わっていない。

 卓蔵にとっては会ったことも無い小南……だが、コイツは嫌いだ。その思いが残っている。

 記憶を操作されても封印されてもパソコンのデータを完全に消すのとはわけが違う。記憶を完全に消すことは出来ず心の中にあった小南が嫌いだという思いは確かに残っていた。

 

「なにがあったのか覚えてない……でも、これ以上はボーダーとは関わり合いを持ちたくない。お前とは初対面だけどお前のことが嫌いだって思いはある。ボーダーとは関わり合いを持ちたくない、俺はボーダーにいた頃の記憶が無くなった。WIN-WINな関係性だ」

 

「っ……」

 

 もうボーダーは辞めた……記憶は封印された……小南達玉狛は嫌いだと言う思いは残っている。

 記憶を消される前の自分はなにを思っていたのか?それはわからないが疲れたと書かれている。もう頑張りたくない、もう頑張らなくてもいい、好きなことをしても良い……そう思うと卓蔵の胸の内は軽くなった。

 

「じゃあ、失礼します」

 

「待って!待ちなさい!!……ぁあ、ああ!!」

 

 ホントになにも覚えていない、でもコイツは嫌いだ。それはわかる。

 嫌いな相手と一緒にいたくはないとお汁粉の味を堪能せずに早食いをした後に卓蔵は去っていった。小南に待ってと言われても待つことは無かった。

 

「なんで……なんでよ……」

 

 誰よりも頑張っているその姿を小南は見ていた。

 ちっぽけな意地だがそれを守り続けて卓蔵は戦い続けており、小南は口にしないが卓蔵の事が人として異性として大好きだった。頑張っている卓蔵が大好きだった……例え自分が旧ボーダーの人間で嫌われていると分かっていてもだ。




千佳ちゃんよりもパイセン曇らせたい
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