「……?……」
「どうした、秀次?」
「卓蔵にメッセージが届かない」
「故障……なわけねえよな」
新年早々のあいさつを終えたりした1月2日。
三輪は親族等の顔合わせを終えたので友人達との初詣に向かった……と言うか自分が率いている部隊の隊員の米屋が引っ張り出してきた。サスケルート役満男の彼は愛想悪いし隈があったりおのれ近界民!と憎んでいるが仲間思いだったり色々と考える知性を宿している。彼にとって友人と呼べる関係性である卓蔵にも連絡するかとボーダーの端末を使いメッセージを入れる……のだがメッセージが届かなかった。電波が悪いとかじゃね?となるがその程度で故障するほどの物でも無い。動力源がトリオンでスゲえ技術で作ってんだから早々に壊れるわけねえだろうと米屋も端末を取り出す。
「こういう時はダイレクトに電話だよ」
「卓蔵が寝ていたらどうするんだ?新年早々なんだから休ませてやれ」
「んだよ、呼び出したいのお前じゃねえかよ!とりあえず10回ぐらいかけるか」
卓蔵に対して通話を入れようとする米屋……しかし、卓蔵に繋がらなかった。
他の誰かと通話しているもしくは防衛任務、真面目な卓蔵の事だから新年2日目に防衛任務を入れてたりしてと軽いノリになっている。
「…………出ねえ!あいつ、マナーモードにしているのか!?」
「スマホをマナーモードにして連絡入れているのを気付かずに放置して二宮さんに怒られてからブザーモードにしている」
「あ、じゃあスマホに……って、誰もあいつの番号知らねえ!?」
「いちいちリアクションが大きいぞ……出ない……繋がらない?」
メンヘラ彼女のごとく10回連続で電話をかけるが全くと言って出る気配が無い。
ボーダーから支給されている端末で出る気配が無い……と言うよりは何処にも繋がらない。
ボーダーの端末同士の連絡ならば繋がらないのはおかしい……充電切れの可能性もあったりするが……どうして繋がらないのか、留守番電話的なのに繋がらない。
「今日の防衛任務は……卓蔵居ねえな……三ヶ日は出るだけで給料貰えるから京介と漆間は居るな」
「その2人は毎年の事だ」
「よぉ、槍バカ、三輪、あけおめことよろ」
「よぉ、弾バカ。あけおめことよろ」
中々に卓蔵に連絡が入らない中で現れたのは太刀川隊の頼れる
あけおめことよろで新年の挨拶を済ませれば2人は卓蔵に連絡が入らないことを伝えた。
「爆睡してんじゃねえの?……メッセージの1つでも入れといて……あれ……」
「どうした?」
「……小林の連絡先、無くなってる……」
「はぁ?なに言ってんだよ……うぉ!?マジでねえじゃん!?」
過去に通話した通話記録で今の今まで電話をしていた米屋だが出水に言われて小林の連絡先を確認すれば消去されていた。
どういう事だとここまで爆睡か防衛任務のどちらかだと思っていた2人は違和感を感じる。
「小林の爆睡じゃねえなら……クソッ、あいつスマホは完全にプライベート主義だってアカウントもなんも教えてくれねえんだよな。秀次、持ってるか?」
「いや、持ってない…………」
「三輪が持ってねえなら誰も……あっ、二宮さんなら持ってるな」
ボーダーの端末及びスマホの連絡先を知っている三輪と出水。こういう時は便利だよなと二宮にメッセージを送った。
既読が付いた……しかし、返信が無い。おかしいなと違和感を感じているが、二宮さんの事だからなんかあるんだろ言葉足りない人だけどと思いながらも返信が来るのを待っていると数分後にやっと返信が来た。
「卓蔵は爆睡してる……寝てるみたいだな……」
「んだよ、心配して損したぜ…………」
「…………端末の充電切れてるか故障してると思いますのでその事を言っておいてくださいっと」
二宮からの返信は卓蔵は爆睡しているだった。
色々と心配したが蓋を開けてみれば寝正月を過ごしている。心配して損したと米屋が損した気分になっていると三輪は一応はとメッセージを送った。既読はついたが返事は来なかった。既読が付いたのならば卓蔵に言ってくれるだろう。
「2度目の初詣終了!どうする?」
「どうするもなにも、明日は東さんの誕生日だ。なにか誕生日プレゼントをだな」
「ハーッハッハ!甘いな秀次!俺はこんな事もあろうかと釣竿のルアーを購入してたんだぜ!」
「……」
ボーダー随一の軍師と言っても過言ではない東の誕生日プレゼントを用意する。
その手のものをどうすればいいのかが分からない。二宮の誕生日プレゼントは二宮と従兄弟の関係にある卓蔵から聞いてジンジャーエールとか炭酸水を作るやつとかを送っている。今回はそれを相談しようと思えば米屋に先を越された。
「……冬島さんの誕生日は?」
「……あっ……」
同じ日に生まれている冬島はガン無視であった。
米屋は完全に忘れており、出水も顔に出していた。そう言えばあの人も同じ日に誕生日だったと。
A級の隊長である冬島の存在を忘れている。一応はエンジニアチーフであり偉い地位にある人だが影が薄いのか濃いのか……恐らくは東が強すぎる問題だろう。
「もしもーし!冬島さん?なんか欲しい物ある?」
『欲しい物って……いや、小林じゃないからな!?』
冬島の誕生日プレゼント完全に忘れていたので早急に冬島に連絡を取る。
欲しい物を聞いて渡していいのかと、プレゼントらしさが無いのにいいのかと思ったのだがなんか慌ただしかった。
ツンデレみたいな事を言い出してるし何故か小林の名を出している。ホントに何故?と疑問に思っていると電話の相手が変わった。
『米屋か……小林は……居ないだろうな……』
「おー怖え……秀次と弾バカは一緒だぜ」
『……と言うことはお前達はまだ知らないのか。私ですら冷静さを欠こうとしているからお前達なら』
「ん、どういうこと?」
『……小林がボーダーを辞めた。今目の前にいるヒゲから聞いた』
「……は!?」
電話の向こうの相手は冬島……を睨んでいる冬島隊のオペレーターの真木理佐だった。
いきなりの登場でビビっているのだがそれよりも大事な事を聞いた。小林卓蔵がボーダーを辞めたという事を。
「おいおいおい、なにかの冗談だろ?小林が?」
『私もくだらない笑い話にすらならない冗談だと思ったがどうやらホントだ。記憶を封印した人物が目の前にいる』
「っ……どういうことだ!?卓蔵がボーダーを辞めただと!?」
『それは私が聞きたいぐらいだ』
「冬島さん、どういうことだ!?」
なんの悪い冗談かと思えばそれはマジ話だった。小林卓蔵はボーダーを辞めた……それを聞かされた3人は驚いた。
小林がボーダーを辞めるなんて早々にありえない事だ。記憶を封印したのは冬島であり状況を察するに冬島は絶賛問い詰められているところだろう。
『どういうことって言われても……小林がボーダーを辞めたいって言って上がボーダーにとって不都合な知識を多く持っているから封印する様にってなって小林が徹底してくれって』
『そんな誰でも分かる答えは聞いてない。何故小林がボーダーを辞めたかだ』
『これ以上は頑張ることが出来ないって……天羽じゃないのにオーラみたいなのが見える!?っちょ、切る。マキリサ相手じゃ無理!』
「っちょ、冬島さん!もしもーし!冬島さん!?……ダメだ、切れてる」
「……真木が冗談は言わない……と言うことは本当に!?」
冬島が生きてるかどうかは不明だが、小林がボーダーを辞めたという情報を聞きつけた。
なんの悪い冗談だよと思った。いや、そうであってくれと願った。出水も米屋も三輪もボーダーの隊員が載っているサイトを検索する……が、小林卓蔵の名前は何処にも無かった。どういうことなのか分からない。
「秀次、二宮さんだ!二宮さん経由で小林に!」
一般教養は凄く残念だがこういう頭の回転は速い。
二宮を経由して小林に連絡を入れる、先ほどまでメッセージのやりとりが出来たのならば電話も入れれる。
三輪はスマホ、出水はボーダーの端末を用いて電話をかける。どっちかには必ず伝わるだろうと思い電話を入れ……スマホに出た。
『どうした、秀次?』
「そのっ……冬島さんが卓蔵の記憶を封印したって……なにか悪い……」
『……事実だ……』
「なっ!?どうして!どうして」
『オレも何度か卓蔵に聞いたが記憶が封印されていて完全に分からない状態だ……この1,2ヶ月の間に大きななにかがなかったか?』
「それは…………」
三輪は先月に起きた出来事を思い出す。
イレギュラー門の発生、その原因を見つけた三雲修が近界民と繋がりがあった。その近界民がボーダー入隊や黒トリガーを持っているから阻止しようとしたりでゴタゴタがあった。それは絶対に言ってはいけない機密事項なので二宮にも言えない。
「……すみません……俺も今知ったところで……あの……卓蔵の家の住所を教えてくれませんか?」
『ああ……メッセージに送った……あのバカが。誰にも相談しなかったのか……』
一先ずは自分も今知った情報だからで誤魔化して卓蔵の家の住所を聞いた。
近界民が居るのとボーダーが復興支援の資金提供をしている事故物件並に家賃が安いがちゃんとしたセキュリティのあるマンション。
小林は6階建てのマンションの3階に住んでいる。303とボタンを入力し連絡を入れる。
『はい』
「あ、すみません。俺はボーダーの三輪と言います……卓蔵は居ますか?」
『……卓蔵はボーダーを辞めたんだ。後腐れが無いようにキッチリと記憶もしっかりと操作されている……今更なんの用だ?』
「っ……卓蔵、ホントに……なんで……」
『……自分の子供のワガママとは言え、戦争屋に加担している事についていい顔をしない……君は……卓蔵のなんだ?』
「俺は……卓蔵の友達です!」
『……友達か……卓蔵にか……』
「知ってます。卓蔵の事情は……だから、どうして……二宮さん、匡貴さんに聞きました!寝てるって」
『……君達が会ってもお互いに傷つくだけかもしれない。それでも構わないなら出すが』
「お願いします!卓蔵に会わせてください!」
『……分かった。少し待っていなさい』
卓蔵の父に通話が繋がり重苦しい空気が流れる中で卓蔵を呼び出す。
ここまでくればこんな手の込んだドッキリなんて仕掛けない、卓蔵はホントのホントにボーダーを辞めたのだと、だからこそどうしてと3人は思った。
「……え〜っと」
「卓蔵」
「タイム!色々と言いたいことがあるかもしれないがタイム!……カチューシャが米屋で……三輪と……誰だっけ?」
「おいおい、おれを忘れたのか!?」
「いや、すまん。記憶を完全に徹底して封印したからさ、体育祭とか文化祭でなにかしたとかそういうのも覚えてなくてな……この数年間のエピソード記憶がゴッソリと持っていかれてるんだ。クラスメイトの三輪とカチューシャで成績がアレな米屋と……お前は……ダメだ名前が思い出せない」
「日常に支障が出るレベルの封印されてんじゃん!?」
「いや、学校の課題とかはしっかりと覚えてるぞ……数年間のエピソード記憶がゴッソリと持ってかれてるだけだ」
現れた卓蔵は記憶が封印されていた……米屋と三輪はボンヤリとだが覚えている。しかし出水は覚えていない。
明らかに日常に支障をきたすレベルの記憶が封印されているが卓蔵はエピソード記憶がゴッソリと持っていかれただけであり、今まで勉強してきたことはハッキリと覚えている。
「まぁ、コイツはボーダー内だとスゲえとかだけど……学校じゃな……」
「地味に傷つくこと言うのやめろ!」
米屋は成績凄く残念!運動神経抜群!三輪は2年連続で同じクラス!一緒に成績凄く残念な米屋にテスト対策をした!と言うイベントがある。勿論出水もその中に加わっているが、出水はつい最近まで向こうの世界、
「卓蔵……どうして……」
「三輪だったな……お前を見ていると申し訳ない気持ちで沢山になる……記憶を封印される前の俺は記憶を封印される前に色々としていた。当然手紙も残している……パスワードが分からないから中身が見れないUSBメモリと一緒に三輪に書き記した手紙がある。それを渡すから帰ってくれないか?」
「……小林、お前もうちょっとな。三輪は」
「苦しいんだよ」
ハッキリと自分達に帰れと言ってきた。最後の言葉を記した手紙と中になにが入ってるか分からないUSBメモリを渡そうとする。
こんなの明らかに厄介払いをしようとしている。鈍感じゃない出水は三輪が心配しているし自分や米屋も心配しているからその態度は無いだろうと言いたかったがその前に卓蔵は苦しいと言った。
「お前達を見ていると罪悪感と苦しい思いをしたんだって嫌な思いがするんだ……昨日会った小南とか言う奴は見ていたらムカつくとか嫌いとか一緒に居たくないとかの思いだったけど、お前達は申し訳ないって罪悪感ともう無理だって苦しみがあるんだ。その、お前達が嫌いじゃないんだ、お前達に対しては不快感は感じない。ただホントに……悪い、なんて言えばいいのか分からない。この冬休みを頭冷やしたり気持ちを落ち着かせる時間に使おうと思ったんだが、いきなりの来訪で……どういう対応を取っていいのかが……もう、逃げたいって思ってて……」
「小林、お前……」
「雑な対応して悪い……でも、これ以上は苦しい、もう苦しい思いはしたくない。今は割り切ることが出来ない気持ちの整理の時間が必要だから帰ってくれ。記憶が封印される前の俺が手紙を残している。それをボーダーか家で見ていてくれ」
ほんの少し言葉を交わしたが、小林卓蔵は疲れているのが米屋は分かった。
口で辛いと苦しいと言っている。この冬休みを利用して気持ちを落ち着かせる、割り切る心を作り上げようとしている。
出水の名前を忘れるレベルで徹底して記憶が封印されている小林、きっとトリガーの名前も忘れている。記憶を封印されているのならばなにを言っても意味は無い。
「……悪ふざけして警戒区域入った奴等が記憶をパッと封印されてるのは結構見たけど、小林は異常だろ……俺達を殆ど覚えてないって」
「……卓蔵なりの意思だろう……アイツはボーダーも嫌いだから」
帰ってくれと友人に言われてあんまりいい顔をしない米屋。
卓蔵は記憶を封印されている、身近に記憶封印された人が居ないがされた人達は割と見ている。ハッキリと言っておかしい、三輪や自分をギリギリ覚えているレベルはおかしすぎる。
「……多分、ボーダーでの出来事を全て封印している……卓蔵ならそうする……アイツはボーダーを嫌っている。アンチでなく、関わり合いをそもそもで持たない様にしたいタイプだ」
「ガチの嫌いじゃねえか……」
好きの反対は嫌いではない、嫌いとは意識していること……まぁ、嫌いも嫌いで一応は反対であるが。
卓蔵は最初から関わり合いを持たない。全くと言って興味無し、心になにも思わないように徹底するようにしている。
あまりにもガチ過ぎるじゃねえかと思わず出水は引いている。
「で……読むのか?」
「……陽介はUSBメモリを、出水は手紙を預かってくれ」
「……なんでだ?」
「俺も、気持ちの整理がつかないんだ……今読んでもただ泣いて叫ぶだけで終わってしまう」
三輪は思い出す。姉が近界民に殺された時のことを。自分がなにも出来なかった事を。
今の自分は戦う力を持っている。考える知恵を持っている。今すぐにでも読みたい、そう思っている。でも読んだらきっと荒んでしまう。近界民や玉狛に対する憎悪が増えるだけだ。納得がいかないのは自分だけじゃない、二宮さんや太刀川さん、ここに居る出水と陽介もどうして辞めてしまったんだと納得がいく説明が欲しいと、それはどれだけ口が達者でも納得しない面々が何名かいたとしても一先ず1つの答えを知りたい。でも、一度ブレーキを踏む。
「明日は東さんの誕生日だ、プレゼントを……百貨店なら福袋があるだろう……」
東を理由、いや、言い訳に使い今すぐにでも開けたい手紙とUSBメモリを我慢する。
米屋も出水もどうして辞めたんだと思っている……でも、三輪が一旦冷静になろうとしている。だから自分達も冷静になる。一周回って頭が冷えた状態、とは言え何時マグマの如く煮え滾るか分からないが。
「秀次、俺が買ったルアーは三輪隊で相談して購入したって事にしとくぜ」
「なにを」
「東さんを言い訳に使えるかもしれねえけど……無理に他のことを考えて気持ちを誤魔化せるわけねえだろ」
「ほら、とっとと家帰れ」
冷静になったから、三輪の買い物に付き合わない。三輪を家に帰らせた。
三輪は直ぐに自分に対して気遣いをしてくれていると気付いている。その好意を反発することは……出来なかった。
「なんでだ……なんでなんだ、卓蔵……」
自分と同じで近界民に大切なものを奪われた。
自分と同じ時に入隊した。自分と違って東塾の一員じゃない。でも、腐ることなく誰かに頭を下げずに自力で成長した。ライバルだと思っていた。向こうはどう思っているかは分からない。でも、自分は友達だと思っていた。
三輪は家に帰れば涙を流した。引き止めることすら出来なかった。日常生活に支障が出るレベルにまで記憶を封印されても尚、自分達に色々と思うところがある。それほどまで精神的に追い詰められていた事を全くと言って気付かなかった。
三輪は明日は東さんの誕生日だからなと感情を誤魔化そうとする。でも、感情を誤魔化せない。
「そうか……卓蔵は、コレを味わったのか……」
三輪は卓蔵の