友達に連れられて映画に行った結果の産物です。
今まで何で触れてこなかったのか。
問:幼馴染とやらの定義を答えよ。
ネットで軽く調べてみると、ざっくりいえば幼馴染とは「幼い頃から仲が良い人、または物心ついたときからの顔馴染みを指す言葉」である。
それに準じるのであれば、俺に幼馴染とやらはいないことになる。なにせ幼少期から顔見知りである相手はおれど、そいつとは決して仲が良いわけではないからである。というか性別の差もあって小学校高学年くらいから疎遠になり、そして中学で進路が別れてからは当然と言うべきではあるが顔を合わせることすらない。
だからこその、予想外の邂逅。驚愕に目を見開く俺に、真っ暗な目で俺を見つめる彼女。
「…朝比奈?」
そこは崩れた鉄塔とよくわからないオブジェクト以外何もない灰色の空間。その中に飾り気のない部屋着に身を包んだ彼女はいた。
「…
紫がかった髪に端正な顔立ち。もはや朧げになりつつある、記憶の中にある面影を残したままに成長した彼女は─いや、彼女の目は。光を失い、何も映してないように見えた。
俺、夜久夏樹は平凡なる人間である。
さして頭が良いわけでも、運動ができるわけでも、明るくもなく。周りに持ち上げられるほどの人望も人徳も整った顔立ちもなく。何か人に誇れるような特技があるわけでもなく。優等生かと言うほど真面目でもなく、かと言って不良のレッテルを貼られるほど不真面目でもない。何をしても必ず俺の上位互換がいる、その辺の人垣に石を投げたら当たるような凡人である。
そんな俺ではあるが、一つだけ熱中、と言うべきか。打ち込んでいるものがある。それこそが音楽。元々は1人でネットの片隅でやっていたのが、少し前に同じように作曲をしていた『K』と名乗る人物に誘われ、今ではネット上でのサークル活動に勤しんでいる。
そして今日も俺は、『K』の作った曲と作詞担当である『雪』の作った歌詞がマッチするように編曲に勤しんでいるのである。なお作業時間は深夜25時。なんでこんな遅い時間にやっているのかかと言いたくなるが、なぜかメンバー全員この時間が都合いいので仕方ない。
「…はい、ひとまず完成と。」
俺は作業の手を止めて、俺はつけていたヘッドフォンを机に置いた。そばにあるヘッドフォン掛けはもはやインテリアである。それから一度背伸びをして、サークル─通称を『ニーゴ』─のグループチャットに文字列を打ち込んだ。
【ミックス終わりました。共有に置いてるので確認お願いします。】
俺以外のメンバーはだいたいボイスチャットをしているのでもしかしたら確認が遅れるかもしれないが、まあこれでよかろう。そう考えて一度コーヒーに口をつけてそこであることに気がついた。
「…今日も『雪』さん来てないのか。」
今日も、と言うだけはありこの1週間ほど彼女はこのサークルに姿を見せていない。元々『雪』さんはちゃんと時間通りに参加してくる人だったので怪我や病気は心配ではあるが…そもそも彼女は高校生らしいのでテストとかで忙しいのかもしれない。
「まあどうでもいいか。」
どうせ顔も知らない、ネットの中だけで完結する間柄だ。このままこなくなったら作詞担当が抜けることになるがまあ『K』がどうにかするだろう。
『Amia』とかは優しいから心配しているけど、俺はそんなことしていなかった。それなりの期間一緒に曲を作ってきた相手だというのに何の感想も抱かないなんて、自分の薄情さに反吐がでる。
「…あん?」
一度チャット画面を閉じてみんなの会話をBGMにPCをいじっていたら、共有フォルダに知らないファイルを見つけた。形式は音楽ファイルで、タイトルは『untitled』。
「『
このサークルはみんなファイルの名前を正確につけるはずなので明らかに異質なファイルだ。怪訝な顔をしてチャットを開く。【なんか共有に変なファイルあるんですけど誰か知ってます?】と送るとすぐにボイチャが賑やかになった。どうやら誰も心当たりがないらしい。怖過ぎる。
“共有フォルダに入れるなら『雪』なら何か一言言いそうだけど…聞いてみる?”
“…うん。聞いてみよう。”
「判断が早い…。」
会話には参加しないままそうぼやくと、みんなが開くなら俺もとそのファイルを開いた。もしかしたら俺はこのファイルに触れる理由が欲しかったのかもしれない。
そして
「目っ…目があ!?」
真っ暗な部屋の中で突然強烈に発光した画面に目を焼かれ、そして急な浮遊感に包まれた。
白い光がすぐ自分のそばで輝いた。
「…誰?」
それはまるで自分がこのセカイに来た時のようで、先にそこにいた少女─朝比奈まふゆは嫌そうに目を細めた。否、実際に嫌なのだ。このセカイに人が来るのが。
「うげっ、あ痛ぁ!なに、硬い!?」
そんなまふゆの心情も知らず、光の中から飛び出してきた、というより落ちてきた人物は叫んだ。どうやらセカイに来る時に尻を強打したらしく、しきりに尻をさすっている。
「いてててて…あれ、ここどこ?」
尻をさすりながら立ち上がった少年はそう言って首を傾げた。その姿には見覚えがある。記憶の中の姿よりも随分髪と身長が伸びて、声が低くなっているけれど、ワインレッドの髪色と顔立ちは当時の面影を残していた。
「…まじでどこだ、ここ。あの世か?」
周りを見渡してそう漏らした彼は、そこで初めて自分に気がついたのか大きく目を見開いた。
「…朝比奈?」
驚いた様子を隠そうともせずに彼はそう言った。なら彼は私の知っている彼で間違いないだろう。まふゆはそう確信した。
そんなまふゆに彼、夜久夏樹は向き直る。2人の目が合った。そして、それだけでなぜ彼がこのセカイに呼ばれたのかを、まふゆは少しだけ理解できた。
「…夜久くん?」
何でここにいるの?そんな思いを込めてまふゆは幼馴染、というにはあまりにも疎遠な彼にそう尋ねた。
夜久 夏樹
神山高校 2-A
特に何事においても目立たない、平凡にして熱を失った高校生。
『25時、ナイトコードで。』においては主に編曲、ミックスを担当する。
「人生何事も妥協と諦めだよ。」