【お疲れ様です。上げてたデモ案聞きました。私、あの曲とってもいいと思います。さすが『サム』さんですね。すごいです。】
【ありがとうございます、気に入ってもらえて良かったです。…てか『雪』さんまだ寝ないんですか?】
【え?】
【感じ悪かったらすみません。でも『雪』さん明日学校でしょう?早く寝ないともう3時ですよ。】
【心配ありがとうございます。もう寝るので大丈夫ですよ。『サム』さんこそいいんですか?そちらも学校では?】
【僕は大丈夫です。多少睡眠時間足りない分は授業に中寝ますから。】
【…いろんな人に謝った方がいいですね。】
【ごもっともです。】
─ある夜のナイトコード内個人チャットログより抜粋
沈黙だけが俺たちの間を占めていた。その沈黙の中でじっとこっちを見てくる朝比奈に、意を決して俺は尋ねた。
「…なあ、ここどこだ?」
「………。」
答えは沈黙。というより答える気がないように見えた。
「あー…朝比奈?」
「…ねえ。」
「なんだ?」
「…何でここにいるの?」
「さあね。何でか、なんて俺が聞きたいくらい。」
朝比奈の質問にそう答えて、俺は軽く左右を見渡した。どこまでも広がっているかのような空間。暗くて、何もない場所。なのに、不思議とそこは居心地が悪くないように思えた。
「で、朝比奈。ここはどこだ?」
「…ここは、「ここは、『セカイ』」…ミク?」
「…だれ?」
答えは、俺の
「ここは、『セカイ』。まふゆの思いでできた、『セカイ』。」
「…いや全くわからん。もっと詳しく。」
「まあそりゃ、そうなるわよね。」
「ざっくり異世界、くらいの感覚でいいと思うよ。」
俺の疑問に続いたのはピンク髪と茶髪ショートたちだった。うんうん、と頷くピンク髪が妙に頼もしい。
「…ミク。どうしてここに人がいるの?」
俺たちを無視して朝比奈がオッドアイ─ミクに尋ねた。それに対してミクは無言で返した。そんな中、沈黙を保っていた白髪ジャージがポツリと口を開いた。
「その声…『雪』?」
「………!」
俺はその白髪ジャージとは初対面だ。だけど、
「え、『雪』?確かにその声、言われてみれば…。」
「でもなんか、ナイトコードの時と雰囲気違くない?。」
「………!!君ら、」
ピンク髪と茶髪ショートがそれに続いた。さっきは混乱していたから気づかなかったが、こっちの声にも聞き覚えがある。こいつらの声は毎晩のようにヘッドフォン越しに聴いていた声だ。
「『K』さんに『Amia』さん、それに『えななん』さん…?」
「…何で知ってんのよ。」
『えななん』さんが不審そうに俺を見た。そんな彼女を庇うかのように『Amia』さんが前に出る。確かに俺はボイチャに全く参加していなかったから、わからないのも当然だと思う。
「あー、俺は」
「…もしかしてだけど、『サム』?」
自分から名乗ろうとしたところで『K』が口を挟んだ。
「…そういうことです。何でわかったんですか?」
「前にナイトコードで聞いた声と同じだったから…。忘れかけてたけど。」
「いや、むしろよく覚えてたと言うべきか…最後に会話したの1年前とかでしょ。」
それこそその2人はいなかった頃でしょ?そう言って俺が苦笑いを浮かべたのと対照的に、『えななん』と『Amia』は驚いたような顔をした。
「‥と言うわけでそこの3人は初めまして。俺が『サム』です。どうぞよろしく。」
初めてのニーゴメンバー全員の顔合わせ。その様子を朝比奈はただじっと見て、
「うるさい」
その流れをぶった斬った。
「…え?」
「うるさい。ここに来ないで。私は、ここに1人でいたい。」
惚けるメンバーに、さらなる決別を告げる朝比奈。混乱するみんなのその様子を俺は輪から一歩引いて見ていた。
そしてわかった、
一度曲を聞いただけで、凡人たる俺では足元にも及ばないセンスだと、そう思わされた相手。
「…まじかよ。」
驚愕よりも先に来たのは苛立ちだった。よくもまあ、あんな曲を作れるくらいに俺よりもセンスあるくせに俺の編曲を褒めれたもんだ。いや、むしろ俺が阿呆だっただけか?簡単にそんな言葉に騙されて小さな自尊心が満たされていたのだから。
その事実にムカっ腹が立って、一度ぎゅっと目を閉じた。それから『えななん』が騒いでるのを聞き流しながら目を開けると、
(…まあ、どうでもいいか。)
すん、と心が冷めている。これでいつも通りだ。この程度で腹を立てたって仕方ない。だって俺はどうせ凡人だから。誰かに期待されて、賞賛されるなんてあり得ないことは承知している。
(
そう考えて今度は朝比奈がニーゴをやめるだのやめないだのでヒートアップする口喧嘩を前に大きなあくびをした。