TS転生ハイエルフが、幸福になるために必要なこと 作:ハイエー
私、アルナ・ユグドラドはハイエルフである。
ユグドラドというのは、ハイエルフ全体が呼称する姓だ。
それくらい、ハイエルフってのは数が少ない。
ただでさえ生殖能力が低く、子どもが生まれにくい上に長命ゆえ子どもを作るという意欲に乏しく。
そんな種族が、大地を支配する人間と比べて遥かに希少であるのは必然と言えた。
加えて、ハイエルフってのは高値で売れる。
まず容姿に優れている上に他種族との子どもが生まれないから、色々と
それ以外にも、ハイエルフには自身のマナを結晶として生み出す能力があった。
マナってのはファンタジー世界によくある魔力の呼称なんだけど。
ハイエルフは体内で生成したマナを、加工することができる。
そうして生み出された結晶は非常に美しく、宝石としても価値が高い。
そしてもちろん、魔力の塊であるがゆえ魔術の媒体としても優秀。
何と言うか、狙われないわけがない種族なのだ。
結果、私が生まれたハイエルフの里は、私が外で山菜を採取している間に襲撃を受けて全滅した。
いやぁ帰ったら森が燃えてるんだから、びっくりしたよあの時は。
正直、転生者である私にとって、森の中の閉鎖的な環境は苦痛でしかなかったけど。
わざわざ一族の言いつけを破って、里を飛び出すようなこともなかったくらいには、あそこは私の現世における故郷だった。
それが一瞬にして、崩れ去ってしまったのだ。
そこからはまぁ、大変だった。
ハイエルフってのはどこに行っても狙われる。
幸い、この世界にはエルフも存在していて、エルフとハイエルフには身体的な差異がほとんどない。
ユグドラドの姓さえ隠せば、そうそう正体を見破られることはないのだ。
加えて私は、里にいた頃から他のハイエルフに負けないくらい自分を鍛えていた。
賊に襲われても、それを撃退することは容易い。
それでも、どこからかハイエルフであることが露呈することもあったし、襲撃の際に攫われた故郷のハイエルフを見かけたら流石にほうっておくわけにも行かないし。
色々と、厄介事は多かった。
だからどうしても、考えてしまうのだ。
結局、人生っていうのは幸福よりも不幸のほうが多い、と。
転生で他人が羨むものをを手に入れても、それが幸福につながることはない、と。
それを呪ったこともあったけど、攫われたハイエルフの件が片付いて落ち着いた今は思う。
受け入れるしかないのだ、そういう不幸は。
だから、不幸の中の幸福を見つけて生きていこう。
少なくとも、今の私はそう考えている。
――
性格破綻者な私の友人である黒髪の狼族少女――ルアラは開口一番私に言った。
「アルナくんって、ハイエルフだったんだねぇ」
「それ、私以外のハイエルフに言ったら、今この瞬間蜂の巣にされてても文句は言えないぞ」
「当然、相手を見て発言しているさ」
狼族だからという理由では、言い訳ができないほどボサボサの黒髪。
明らかに睡眠時間が足りていない隈のあるちょっとイっちゃった感じの目。
ブカブカのローブの上でもわかるでかい胸。
あと、狼耳。
そんな特徴の、一言で言えばマッドな魔術師がルアラだ。
冒険者仲間でもある。
「言っておくけど、私だって自分の正体を口に出されるのは嫌だぞ」
「その割には、正体を隠すつもりはないみたいだけど」
「隠し通せるものでもないだろ、自分から公言することはないけどさ」
正直、ルアラのデリカシーが足りてないのはいつものことだけど。
ついに一線を越えてきたか、と身構えてしまう。
とはいえ、私がハイエルフであることを隠そうとしていないのはその通り。
隠してはいる、けど積極的に隠蔽を図ったりはしない。
理由は色々あるが、結論から言えばわざわざ気を使って隠すのが面倒だからだ。
「それに、堂々としてれば案外バレないものだよ。すくなくともルアラだって、結構長い付き合いなのに気付かなかっただろう」
「ヒバリくんも、気付いてないみたいだしねぇ」
ヒバリというのは、私が懇意にしている受付の女の子だ。
先日、ゴブリン対策魔術の件で話をしたあの娘。
「ちなみに、どうしてバレたんだ?」
「面白い薬がないかと、スラムに足を運んだら怪しい会話をしている輩がいてねぇ。とりあえず彼らには新薬の実験体になってもらったけど」
「それは助かる」
なんだぁ、ルアラっていい奴じゃん。
ルアラの実験台になったってことは、おそらく無事ではいないだろう。
手間が省けたな。
「それにしても、ハイエルフっていうのは興味深いねぇ。見た目はエルフとそう変わらないんだね。例のマナ結晶とか、出してみて貰ってもいいかい?」
「まぁ、私の代わりに厄介なのを片付けてもらったお礼ってことで、見せるくらいなら構わないけど……」
「本当かい!? ぜひ見せてほしいねぇ! ああでもやっぱり実物も欲しい! ボクに売ってくれないかい!? お金なら幾らでもだすからさぁ! なんだったら君の人権でもいいよ!」
「前言撤回、もう二度と見せん」
なんだコイツ、一気に二つくらいライン越えてきたぞ。
まぁ、こういうヤツだからいいけどさぁ。
「ボクの実家なら、絶対に君の安全を保証できるんだけどなぁ」
「一応こっちのことを考えての発言なのが、またムカつく。ええい、本題は私の人権じゃないだろ」
正直、ルアラなら本当に私の安全は保証してくれるだろうけれど。
そのうえで、里みたいに窮屈な暮らしを強いたりはしないだろうけれど。
それでもルアラと私の寿命は違いすぎるのだ、ルアラが死んだ後の安全まで流石に保証はできないだろう。
加えて言えば、誰かに安全を保証してもらうことが、私の幸福ではないのだ。
多少面倒であっても、自分の選択で幸福を手に入れることが、私の幸福である。
「そんなハイエルフの君に、試してもらいたいアイテムがあるんだ」
「言われてはいそうですか、って頷くほど私は単純じゃないぞ」
要するに、自由でありたいのだ。
誰かに束縛されたくないのだ。
面倒は許容する、やるしかない仕事だって、必要ならする。
でもそれは、私が自分で選んだ選択じゃないと意味がない。
だから、今回だってルアラのいいようには――
「――君たち、ハイエルフにしか使えないアイテムなんだけど」
「……詳しく話を聞かせてもらっても?」
乗った。
種族限定装備とか、浪漫極まりねぇ!
そんな装備を使わせてもらえるとか、私ってば幸運だなぁ!
――
曰く、構造自体は非常に単純なものらしい。
「マナに指向性を与えて射出する杖、ねぇ」
受け取った杖を、しげしげと森の中で眺める。
現在私は、ルアラに頼まれて受け取った装備の試射に来ていた。
試射の相手は、先日に引き続きゴブリンである。
いつでも受けれるくらい、依頼が常駐してるからね。
私が暮らす街ではゴブリンはとりあえず実験台にしておけ、という格言がある。
格言ではないな。
「普通に射出するだけだと、ただのマナは何の効力もないけど――ハイエルフにはマナの結晶化能力がある」
ようするに、結晶化したマナを射出するだけの簡単な魔導具だった。
あいつこんなことのために、わざわざ時間を取って私に会いに来たのか?
しかも、この後は予定があるからって試射に付き合わないし。
「まぁいいや、結構浪漫のある武器には違いない。早速見つけたゴブリンに撃ってみよう」
というわけでゴブリンを探すことしばし。
今回は、周囲に伏兵がいない、かつソロのゴブリンを発見することができた。
ゴブリンは基本、数匹で群れる生物なので、ぼっちのゴブリンは希少だ。
なんとなく、親近感を覚える。
が、それはそれ。
時には村を襲い、女を襲い、人の人生を滅茶苦茶にする魔物に慈悲はない。
「距離よし、位置よし。今度こそ返り血は浴びないぞ」
うっかり、村を襲うとか考えてしまったせいで、以前立ち寄った村がゴブリンに壊滅させられていたときの記憶を思い出してしまい、ちょっと吐き気を催しつつ。
私は、怒りでもって杖をゴブリンに構えた。
「フォイア!」
そして放たれたマナ結晶は――
着弾したゴブリンを中心に、辺り一帯を無に帰した。
「……は?」
――後に解ったことだけど、どうやらハイエルフのマナ結晶は特殊な加工を加えて一定以上の速度で射出すると、爆発してしまうらしいのだ。
そしてルアラが開発した射出杖は、偶然にも射出の際にその特殊な加工に必要な傷をつけてしまう
再現性が乏しいせいで、この時私もルアラも何が起こったのか理解できなかった。
しかも、もし万が一この事が世間にバレた場合、ハイエルフのマナ結晶にさらなる需要が生まれてしまう。
結果、状況をギルドへ説明するわけにも行かず、森の一角に謎のクレーターができたとしばらく騒ぎになるのだった。
私の幸福は、あいも変わらず遠いところにあるなぁ。
素知らぬ顔で堂々としていた結果、誰にもバレなかったのは幸福になるかな。
ならないだろうなぁ。