FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話   作:アッポラピッタポン

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護衛任務

 

 

 

トリニティ自治区

 

 

その名が示す通り、トリニティ総合学園の管理する自治区である。

 

キヴォトス三大学園、ゲヘナ、ミレニアムとその肩を並べる学園の1つ。

 

ゲヘナの「混沌」とは正反対に「秩序」や「規律」を重要視する伝統が続いている。

 

学園に通っているのは殆どが実家の太い令嬢であり、それに比例して学園が所有する資金も莫大な物となる。

 

しかし、ゲヘナやミレニアムに比べれば少ないものの、このトリニティにもスラムというものが存在している。

シスターフッドなどが時折炊き出しをしているのはその為である。

 

依頼方法として選ばれたのはそんな廃墟の一角だった。

 

 

 

 

 

 

ブラックマーケットの様な不健康そうな光ではなく、規則正しく並んでいる街灯、その光の届かない場所で数人の黒い人影が蠢いていた。

 

人通りが全く無いにも関わらず、過剰な程の警戒をしながら、人影は廃倉庫の周りを取り囲む。

 

「ラプターより各隊員、現状報告」

 

暗闇の中で彼らの存在を証明するものは、頭部の複眼から漏れ出る僅かな光しかなく、全身は完全に周囲の風景と同化していた。

 

『イーグルより、周囲に通行人は確認できず』

『こちらレイヴン、現状トラップなどは発見できず」

『倉庫の内部からも生体反応はありません』

『……罠じゃないみたいだな』

「ホーク、油断はするな」

 

肩の力を抜こうとする副隊長を引き止める。

 

 

 

カイザーコーポレーションの持つあらゆる技術、莫大な資金をかけて作られたアーマーは様々なセンサーを内蔵する。

自身の身を覆っている鎧は、倉庫には何の異常もないと伝えてくる。

 

だが、それすらも命取りになりうると知っている身からすれば、安心する材料にもならない。

この神秘多きキヴォトスに於いて、機械の信憑性など高が知れているのだから。

 

だからこそ、信頼するべきなのは自身と仲間の目である。

 

「……突入する。スワロー、クロウは俺と正面から。ホーク、レイヴン、アウルは裏口から、イーグルとホームは外部から援護しろ」

 

倉庫の扉の側に立ち、扉を開けて小部屋を順に制圧する。

事前の確認通り、中には誰も居らず、直ぐに倉庫の制圧は終了した。

 

少し埃の舞った倉庫の中で、数人が壁に背中をもたれる。

 

「……依頼書を探すぞ」

「了解、物が少ないので直ぐに見つかると思いますが……」

「っていうか、新しいそうな箱なんてアレだけだろ」

 

指を指す先に多くが灰色を被っている中、真新しそうな木箱が、薄暗い倉庫の中で輝いていた。

 

 

「……入っていたのがこれか」

 

箱の中には一発の弾頭と数字の書かれた紙

 

「雷管と爆薬は入ってないみたいですね」

 

「L118のヤツだよな、これって」

 

ティーパーティ傘下の砲兵隊が使用する砲弾を見て、部隊内に僅かに緊張が走る。

 

「……これを使えるのは?」

「ティーパーティーのお偉いさんか、砲弾を盗んだ盗人だな」

「後者はないだろ、砲弾を盗むメリットもない」

「ということは……」

 

隊員達の雑談を背に、砲弾を開ける。 

小気味の良い音と共に砲弾が開き、中から何かが出て来る。

 

「……通信機か」

「これトリニティの諜報員が使ってるやつだな」

「……説を補強するな、気が重くなる」

 

頭を押さえながら、通信機を箱の上に置き、スイッチを入れる。

 

僅かなノイズ音と共に映像が浮かび上がる。

『これを見ている、という事は無事に辿り着けた様ですね』

 

「……成程」

「あーあ、言わなきゃよかったな」

「実際に見ると衝撃がありますね……」

「大口の依頼、だな」

 

 

 

 

 

 

通信機に浮かぶ人物は、トリニティ総合学園 現『ティーパーティー』ホスト 桐藤ナギサの姿だった。

 

『ブラックマーケットから、態々自治区内にまで来て頂きありがとうございます。

こちらとしても、立場上私自身が向かう事は不可能でしたので、この様な形となってしまいました。』

 

その点はお詫び申し上げます、と桐藤ナギサは映像の向こう側で頭を下げる。

 

「……L118を使ったのは、せめてもの誠意、といった所か?」

「だろうな、箱の中にそのまま置くだけでも良かった訳だ」

 

『さて、では本題へ入りましょう。傭兵屋Rの実力を信じて、この依頼をします。』

 

「ティーパーティーのホストからの依頼か……ゲヘナへと破壊工作とかか?」

「空崎ヒナへの襲撃とかだったら帰ろうぜ」

「……静かにしていろ」

 

 

 

 

 

『依頼はティーパーティーの秘密裏での護衛です。期間は1ヶ月、良い返答を期待しています』

 

通信機からの映像が無くなり、倉庫内を静寂が包み込む。

 

秘密保持の為に通信機が焼き切れた音が、妙に耳の中で響いていた。

 

 

 

 

 

「……護衛依頼か」

 

学園のトップからとは思えない依頼に僅かに違和感を覚える。

 

「態々ブラックマーケットの傭兵に?」

「いやいや、ティーパーティーの傘下には正実の剣先ツルギがいるんですよ?」

「正実には命令できない。いや、信用できない、か?」

「……ここ最近、表に姿すら表さない百合園セイア、ティーパーティーは持病での入院だと発表してはいるが……」

「1ヶ月前から続報は無し、今はシャーレのお陰で誤魔化せている?」

「成程、百合園セイアは何者かに襲撃された、だが下手人の正体は不明、だから正実には要請できない」

 

「正実に裏切り者がいる可能性がある、と」

「おいおいおい、流石に憶測で話を飛ばしすぎだろ」

 

急速に進む考察の裏で、RAPTOR1は結論を発する。

 

「……つまり、今回の依頼は剣先ツルギとの戦闘を考慮に入れる必要がある」

 

その言葉は隊員達を振るい上がらせた。

「……っ!?……それは……」

「……3:7くらいか?勝率は」

「相討ち前提ですけどね……」

「正実全体とならもっと下がるだろ、2割くらいか?」

 

 

 

剣先ツルギ

 

『トリニティの戦略兵器』の異名を持つその生徒は、カイザーに被害こそでていないものの、脅威度では空崎ヒナと対等であり、カイザーによるトリニティへの拡大の壁の一つと認識されていた。

 

 

 

そんな脅威を前に、隊員は反対が殆どだった。

唯一、RAPTOR2とRAPTOR8のみが隊長の判断に従う様子を見せていた。

 

 

手で顎に軽く触れる。

 

一瞬の逡巡

 

トリニティはカイザーを酷く警戒している。

 

その大元からの大口の依頼

 

しかも自分達とカイザーの関係には気付いていない

 

これを逃せば————

 

 

 

 

「……依頼を受けようと思う」

 

下した判断は任務の受託

 

 

「……隊長の判断を疑う訳ではありませんが、危険過ぎるのでは?」

「いや、どの道トリニティには用がある。少し早まっただけだ」

 

「あぁ、アレか……確かにいつかはそうなるか」

「任務の報酬として、て訳だ」

 

まだ正義実現委員会が敵かどうかわかっていない護衛任務と、確実に敵に回す事になる潜入作戦、どちらを取るかは明白だった。

 

 

 

砲弾と一緒に入っていた、数字の書かれた紙切れを手にとる。

 

スマホに番号を打ち込む。

 

 

 

 

 

 

 

「……傭兵屋『R』だ、依頼を受けよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、態々私に何の用だ?」

 

カイザーコーポレーションに存在するジェネラルの部屋。そこでそれまでの経緯を聞いていたジェネラルは溜息を溢す。

 

「そもそも、RAPTOR小隊と傭兵屋Rはプレジデントの直属だろう?私の許可は必要ない筈だ」

 

「……今回のトリニティでの護衛任務の連絡要員として、お前の直属を借りたい」

 

その言葉に、頬杖をつきながら机を叩いていたジェネラルの指の動きが止まる。

 

 

「……独立狙撃中隊(アンタレス)はお前達の召使いではない、連絡員なら執行部隊で充分だろう?」

 

「その執行部隊は今、ゲヘナとトリニティの諜報員狩り中だ、こちらに回す余裕はない」

 

「…………SOFなら余裕がある筈だ、私から出す必要は————」

 

部隊の提供を拒もうとするジェネラルの言葉を、RAPTOR1は遮る。

 

「正義実現委員会の部隊を相手に少数で離脱するには……SOFは力不足だ」

 

「……ジェネラル………いや、まだ明かされない、お前が連中にトリニティ自治区を捜索させているのは知っている」

 

もはやカイザー上層部では周知の事実だったが、ジェネラルは押し黙る。

 

「……お前もどこかで分かっている筈だ、現実的ではない、と」

 

「…………」

 

「この依頼が成功すれば、トリニティの古書館に入れる。情報の入手も出来る……今を逃せば、次はない」

 

RAPTOR1の言葉に、ジェネラルは椅子に背を預けた。

 

胸に付いているカイザーとサソリの勲章が揺れる。

 

「……いいだろう、手の空いている奴が1名いた筈だ。お前の指揮下に置いてやろう」

 

「……助かっ——「必ず、成功させろ」……当然だ」

 

割り込んできたジェネラルに苦笑しながら、RAPTOR1は退出した。

 

 

 

 

 

 

静かになった部屋の中でジェネラルは徐に懐からロケットを取り出す。

 

カチャ、という音でロケットが開く

 

「……ままならないものだな」

 

朝日が窓から差し込み、ロケットの中で輝く写真を見ながら、ジェネラルはそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、RAPTOR小隊の基地では

 

 

 

 

 

 

「今頃、隊長はジェネラルを説得してるくらいか?」

「いや、もう終わったらしいぞ、今帰って来るってよ」

ある者は雑談をしながら整備をし

 

「特殊弾……これ一箱で何百、何千万掛るんだか……」

「使わない事を祈りますか……」

ある者は値段に震えながら、弾薬を積み込み

 

「セーフハウスの場所は10分前に連絡か」

「まぁ妥当ですね」

「脱出はゲヘナ方面に抜けるか?」

ある者は地図を見ながら脱出ルートを練り

 

「ハンヴィー2台と防弾の車両1台か……中々に大所帯だな」

「空いてる車庫を使わせてくれるらしいからな、待機用の部屋まであるのは意外だったな!」

また、ある者は依頼人の気前の良さに喜んでいた。

 

 

 

 

「……準備は出来たか?」

 

基地に帰還したRAPTOR1からの問いにRAPTOR2が答える。

「あぁ!もう全部積み終わった、そっちはどうだったんだ?」

「こちらも無事に終わった、手の空いている者が来るそうだ」

 

「変に意地を張られなくて良かったな」

「……そうだな……そろそろ出発するぞ」

 

その言葉と共に、それぞれの車に乗り込む。

 

「……相手が数分間警備を退かしている時に強行突破する。HOME、お前の腕にかかっている」

『了解しました!任せて下さい!』

 

アクセルを強く踏み込み、ハンヴィーが防弾車を挟む形で発進する。

 

「…………久々の長期任務だ、気を張っておけ」

 

こうして、3台の車両はブラックマーケットから飛び出して行った。

 

 

 

 

 





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