FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話   作:アッポラピッタポン

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任務初日

 

 

閑静な住宅地、ではなく学園

 

殆どの生徒が夢の世界に旅立っている。

例外なのは不眠症か、夜更かしか、又は祈りを捧げる敬虔な信徒くらいだろう。

しかし、そのいずれかも建物の中であり、外を出歩いている者はいない。

 

そう、誰一人として

 

警備局のロボット達はティーパーティーからの命令を受け、少しの疑問を抱きながらも数分間の小休憩に入っている。

 

 

 

人っ子一人いない、深夜のトリニティ総合学園を爆走する3つの影があった。

 

いや、爆走というのは語弊がある。

 

正確には、『静音モードの最高速度』と称するべきだ。

 

 

 

 

「ヒュー!いいね!夜風が気持ちいいな!」

「黙ってろ、誰かに見つかったらどうする」

 

ハンヴィーの銃座席に立って、騒ぎ立てるRAPTOR7。

無論、本人も弁えている為、本当の大声という訳ではないが、バレる可能性があるのは否めなかった。

 

「まぁ、そこまで過敏にならなくでもいいのでは?鳥の鳴き声くらいにしか聞こえていないでしょうし」

「お前の運転が荒いのが原因だろうが!」

「痛っ!」

何処となく上機嫌なRAPTOR6の頭をRAPTOR5が引っ叩く。

 

 

騒がしく先頭を走るハンヴィー1とは正反対に、列の中心では

 

 

「あそこの建物ですね、目的地は」

「……あぁ、前の奴らが騒がしくなる前に到着する」

「……もう手遅れでしょ……既に五月蝿いし」

後部座席で気怠そうに呟くRAPTOR3

前方からの騒音は彼の耳によく届いていた。

 

「……イーグル、事実は人を傷つけるぞ」

「自傷行為でしょ……」

「否定出来ませんね……」

 

HOMEの丁寧な運転に安心感を感じながら、一向は指定された建物へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目的の建物に到着し、車を車庫に入れ、部屋への扉を開く。

 

「……流石に豪華だな」

「埃は被ってますが、問題ない範囲ですね」

「……狙撃もされにくい」

「応接室にソファあったぞ!」

 

部屋の中はそれなりに片付いており、埃こそ被っていたが、隊員達には関係のない話だった。

 

部屋の確認が終わった一行は、依頼の為に準備を進めていく。

窓を塞ぎ、壁を補強し、カメラを設置する。

 

多少の快適さの為にRAPTOR2がソファを人数分持ってきていたが、本筋には関係のない話である。

 

 

 

 

「……一通り終わったな」

「待機部屋としては十分だな」

「ドローンも正常に稼働しました!妨害されなくて良かった」

「取り敢えず、第一段階は無事に終わったな」

 

ソファに腰を下ろし、一先ずの安全確保が成功した事を確認した隊員達は、自身の眼下に広がる地図に目を向けた。

 

「襲撃が真昼間から行われるとは考えにくい、正実の目もある」

「襲撃と言えば夜だしな。HOME、例の資料」

 

そう言われたHOMEがタブレットを差し出す。

 

「過去にトリニティで百合園セイアが入院するまでに発生した銃撃、爆発の事件を調査してみました。ICBの手が借りられなくて完全性は保証できませんが……」

「十分過ぎるな……弾薬庫の誘爆に銃の暴発、その他もろもろか」

 

「……その中で原因もその後も不明だったのは……これだけ」

 

RAPTOR3の言葉で各隊員のアーマー内に数ページ分の情報が送られる。

 

「……トリニティ内で正体不明の爆発、か」

「爆発は小規模だった為、音を聞いた生徒も少なく……」

「加えて、この日の夜に青い何かを窓から見た、という噂が出た」

「百合園セイアを襲った亡霊だ何だのと言われていたが、恐らくは」

 

アーマーに一人の人物が映し出される。

 

「救護騎士団団長の青森ミネとみて間違いないだろう」

「現在は行方を眩ませているのも、証拠ですね」

「青森ミネが救護に向かい、百合園セイアと共に姿を消した」

「つまり、下手人はその時にはいなかったって事になりますが……」

「……目的が掴めない、色々と中途半端過ぎる……」

 

謎が深まる中、アーマー内の画像を消し、RAPTOR1が頭を上げる。

 

「……対応はどうなっている?」

 

「ドローン10機とトロフィーシステムを設置済みです」

「襲撃された場合は?」

「ドローンによる時間稼ぎを行います、ここからなら遠くても20秒もかかりません」

 

軽く脚部を叩くその姿は、驕りなどではなく、ただ事実を語っていた。

 

「……初日にしては上々だ、交代順は前に決めた通りに……以上だ」

 

それに満足した後に、RAPTOR1は解散を命令し、席を立った。

 

「どちらへ?」

「……用事を2つ程片付けてくる」

 

「……成程。お気をつけて」

 

 

何かを察した様なRAPTOR6の声を背に、RAPTOR1は深夜のトリニティへと歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

建物と建物の間を進み、ティーパーティーの本部に到着する。

威厳すら感じる大扉を、ゆっくりと音を立てずに開き、内部に入る。

 

通路には埃一つなく、横を見てみれば、美術館に置いてある様な壺や絵画が飾られている。

 

やけに長い通路を歩き、通路の最奥を右に曲がり、関係者以外立ち入り禁止の扉の前に立つ。

 

素早く3回ノックし、その後2回ノックする。

 

それが、依頼人との間で決めていた合図だった。

 

「……どうぞ、入って頂いて構いません」

 

扉の向こうからの声に応えて、ドアノブを回す。

 

が、回そうとした手を止める。

「……部屋に入る時のマナーはあるか?」

 

「……部外者にそこまで厳しくするつもりはありません」

少し呆れた様な声を聞きながら扉を押した。

 

ティーパーティーに所属する事を表す、白い服。

全体的に白く、所々に金の意匠を感じる椅子が、服に良く似合っていたが、薄暗いセーフルームに於いてはどちらも浮いている様に見える。

 

「……夜遅くまでご苦労な事だ」

 

「いつもの事ですので、お気遣いなく………何か報告でしょうか?」

 

ナギサは書類とペンを置き、机の上の紅茶に手を伸ばす。手にあるそれからは薄く湯気が出ていた。

 

「……任務の初日だ、挨拶をしておこうと思ってな」

 

「……必要でしたか、それは」

怪訝そうな顔をするナギサに、僅かに苦笑する。

 

「……必要だ、敵と間違えられては敵わないからな」

 

顔を見せない形での依頼では、珍しい事ではない。

護衛しにきた筈が、敵だと勘違いをされるのは何度か経験があった。

 

「それは……」

ナギサの紅茶を持つ手が止まる、図星だった様だ。

 

「……話を変えよう、我々が古書館を利用する事についてだが……」

 

外にも関わらず空気が重い中、RAPTOR1が話を持ちかける。

 

「……あの件ですね、生徒のいない夜間であれば利用しても問題ないです。念の為、警備局には私が許可を出した客人だと言ってあります。」

 

その言葉に体が強く熱を持つ、ようやく入る事が出来る。

幾度となく侵入作戦を立ち上げたが、プレジデントから許可が降りる事はなかった。だが、それも今日までだ。

 

「……感謝しよう」

 

「構いません、貴方方も危ない橋を渡っているのですから、私も渡ります」

 

その言葉に、RAPTOR1はナギサの目を見る。

 

その目は目的の為なら、大事な物を切り捨てる覚悟と、僅かな怯えを孕んでいた。

 

カイザーでもこの目をする者はそう多くはない。

 

 

 

「……どうか、ミカさんを宜しくお願いします」

 

RAPTOR1の驚きを他所に、ナギサは頭を下げる。

 

「……了解した。では失礼する」

 

「はい、良い夜を」

 

扉に向かおうとするRAPTOR1だったが、足を止める。

 

「……これは、ただの節介だが……睡眠時間はとるべきだ。下手人がいて安心出来ないのは分かるが、我々の護衛では安心出来ない、と吹聴されるのも困る」

 

「…………」

 

「今度こそ、失礼する」

ナギサの返礼を聞かぬまま、RAPTOR1は部屋を去った。

 

 

 

 

 

一人残ったナギサは、既に湯気の途絶えたカップを見やる。

 

最後にキチンと寝たのはいつだったか、襲撃が起こってから、僅かな物音が怖くて、十分な睡眠は取れていない。

 

「……今日は、早く寝ましょうか」

 

寝てない事を自覚すると、途端に眠気が襲ってくる。

 

残りの仕事は、明日にするとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティーパーティーの本部から遠ざかり、そのまま灯りの届かない小さな細道に入る。

 

何者かに後を尾けられている気がしたからだ。

 

だが、その気配からは刺す様な空気は感じない、どちらかというと興味深いから見ている、といった感じだ。

 

「…………誰だ」

 

 

暗闇から、相手がぬるりと姿を表す。

 

トリニティの制服にヘイロー、頭に浮かぶそれを認識した瞬間に、RAPTOR1は腰の拳銃を引き抜く。

 

姿は見られたが、気絶させれば問題はない。

 

瞬きすら長く感じられる程に素早く抜かれた拳銃は、相手の頭部へと向けられた。

 

そのまま、引き金を絞ろうとした所で

 

「失敬、戻すのを忘れていました」

その指を止めざるを得なかった。

 

生徒から、女性ではない声が聞こえる。

生徒が首にあるチョーカーに触れると、ノイズと共に姿が変わる。

制服の下からは黒い戦闘服が見られ、ヘイローは霧散した。

 

 

「…………ジェネラルの部下はジョークの才まである様だ」

「申し訳ない、声を変えていたので忘れていました」

 

相手の胸にあるサソリのマークを見ながら、RAPTOR1は溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが、カイザーコーポレーションは3つの派閥に分かれていた。

 

これは、互いに敵対している訳ではなく、一人の独裁によっての企業の衰退を防ぎために互いを監視し合っている、という事である。

 

1つ目は最大勢力であるプレジデント

軍事力の命令系統を見ても、カイザーPMC、カイザーセキュリティ、カイザーSOFを含む特殊部隊を多く抱えている。

 

他2つの派閥と比べても圧倒的な支持を得ており、カイザーコンストラクション、カイザーローン、カイザーインダストリーからの支持が特に高い。

 

 

2つ目は、先日壊滅した理事の勢力だ。

彼の直属部隊は、ゲヘナの戦車部隊への対抗部隊を源流とする『デカグラマトン大隊』であり、日々巨大な敵と戦っている彼らの練度はそれ相応となる。

 

現場に出る事が多い為か、カイザーPMCやカイザーコンビニエンス等の一部の労働者からの支持が高い。

 

ちなみに、派閥の壊滅によって部隊は一時的にジェネラルに引き取られた。

 

 

 

先述した通り、プレジデントが誤った判断をしたままにしない様に理事とジェネラルの合計戦力はプレジデントの戦力に及ぶ事はないものの、少なくない打撃を与えるため、プレジデントを止める事が出来る。

 

ジェネラルの派閥は支持する人数が少ないが、これはジェネラルがプレジデントの側近を務めている為であり、評価が低い訳ではない。

 

出自も相まって、カイザーセキュリティやSOFからの支持を得ている。

 

 

 

そして、そのジェネラルの直属部隊こそが

 

独立狙撃中隊(アンタレス)

 

 

プレジデントからの許可を得て設立された、ジェネラルの直属兵。

 

名前は、当時ジェネラルが所持していた長距離射撃(アンタレス)勲章に由来する。

SOFから兵を引き抜いて作られた、という点ではRAPTOR小隊や執行部隊に通じるものがあるだろう。

独立狙撃中隊とはいうものの、単独での任務が常であり、狙撃だけではなく、『武芸百般』が求められる事となる。

 

故に、隊員の練度と忠誠心は高く、『特殊アーマーを着れば、RAPTORと同じ働きをするだろう』と聞いていた。

 

「………お前が例の連絡員か」

 

「はい、ジェネラルの命令で貴方の指揮下に入ります。名前は……好きな様に呼んで下さい」

 

人の良さそうな声をしているが、その目は笑っていない。

 

RAPTOR1は顔を見ながら、かつてジェネラルが自分に語っていた事を思い出す。

 

 

 

『いつかは分からないが、全てのSOFの練度を貴方達と同じくらいに上げたい、独立狙撃中隊はそのモデルになる』

 

RAPTOR小隊の様な高価過ぎる装備を使用せずに、最高の戦力を創り上げる。

 

高らかに言うジェネラルの姿は、今でも鮮明に覚えている。

 

 

 

 

改めて、目の前の隊員を見る。

 

立ち姿に油断はなく、その目は盲信とも言える忠誠心を持っている。

 

きっと、ジェネラルの理想そのものなのだろう。

 

 

 

 

「………良いだろう、これからはアンタレス1と呼ぶ、復唱」

「アンタレス1了解、今日はこれで失礼します」

 

呼び名を決めた後にアンタレス1はそそくさと暗闇に足を向けて、そのまま消えていった。

 

RAPTOR1はアンタレス1にかつての自分を幻視したあと、真上に浮かぶ月の光を体に受けながら、ようやく拠点への帰路に着くのだった。

 

 

 

 

 

 




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