FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話   作:アッポラピッタポン

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探し物

 

 

「アンタ、カイザーコーポレーションじゃないよな」

 

目の前の、こちらに背を向けたまま歩く男から発せられた言葉は、刹那にも等しい時間だったが、RAPTOR1の動きを止めた。

 

「……何故そう思った」

 

出来る限り声から動揺を消しつつ、RAPTOR1は目の前の男を見据える。

 

幸い、周囲に人はいない。情報の拡散は防ぐ事が出来る。

どの様な取引ならば、この男の口を閉ざす事が出来るのか。

 

思考が深みに嵌った時に、警備員の男はヒラヒラと片手を振った。

 

「特に理由なんかねぇよ、強いて言うなら————あぁ、歩き方だな」

 

「…………」

黙るRAPTOR1に遠慮せずに、警備員は話し続ける。

 

「アンタの、その周囲を警戒する歩き方だ。自然な動作でありながらいつでも攻撃に移れる。その歩法を使うのは百鬼夜行の治安維持部隊、百花繚乱だ」

 

「『百花繚乱射撃術』ってヤツだな、攻撃と回避を織り交ぜるのはソコくらいだ、だが」

 

「見たところ、百鬼夜行の客人ではなさそうだ、他に似た射撃術を使うのはSRTとかの特殊部隊だ、なら話は早い」

 

そこで警備員は振り返り、口元を少し曲げて笑って見せる。

 

「アンタみたいなロボット市民の特殊部隊を抱えることが出来るのは、カイザーコーポレーションくらいだって事だよ」

 

「……だが、カイザーPMCの練度はそこまで高くないだろう」

 

 

 

「なら、カイザーセキュリティか?はたまたSOF?執行部隊の可能性もあるが」

 

「……何者だ」

 

正体不明の男を前に、RAPTOR1は警戒を露わにする。

 

カイザーセキュリティはともかくとして、SOFや執行部隊はそれぞれが二級機密と一級機密に分類される。

 

外部の人間どころか、内部の人間ですら、そう簡単には辿り着けない情報だ。

 

「そうかっかするなよ、悪かったな、久しぶりにテンションが上がっちまったんだ」

 

そう言いながら警備員が取り出したものは、RAPTOR1の見知ったカードだった。

 

それは、タコが盾を高く持ち上げている勲章

 

 

「……カイザーセキュリティ」

 

「元、だけどな」

 

その声に満足したのか、警備員は懐にカードを戻した。

「仕事を辞めてボーっとしてた所で、この職場が目に入ったって訳よ」

 

「……そう簡単に辞められるものでは無い筈だが?」

 

 

 

 

カイザーセキュリティ

 

カイザーコーポレーションに於いて、SOFの下位互換の扱いを受けることもある彼らだが、その実態は全く違う。

 

カイザーセキュリティには、SOFの3つの入隊試験。戦闘、サバイバル、戦術の内、戦闘と戦術の試験を合格した者のみが入隊を許される。

SOFと比べると、入隊難易度は低いが、戦闘能力に関してはSOFと同等の扱いを受ける。

 

故に、特殊部隊と同義であり、簡単に離隊する事は出来ない。

(セキュリティからSOFへの編入をする場合はその限りではない)

 

 

 

 

「いやね?カイザーセキュリティが設立された頃からずっと働いてたんだが、ずっと現場で働きたかったから昇進は蹴ってたんだよ」

 

「今は同期の殆どが幹部だの何だのになっちまった、それはいいんだが、アイツらが最近、無理矢理に昇進させようとしてきた」

 

僅かに肩を落とす警備員だったが、RAPTOR1は男の同期に対して理解を示していた。

 

見た所、かなりの実力は持っている。

RAPTOR小隊や独立狙撃中隊には及ばないが、新兵の教官役としては十分過ぎる程だ。

実際、彼と共に戦ったなら、入りたての新兵の見本になる。

上司としては、いつまでも前線で暴れずに、後方で育成などをしていて欲しいのだろう。

それに、同期が自分の部下の部下あたりになっているのも、本人達からすれば歯痒い思いだった筈だ。

 

 

「ったく、向いてないって言ったんだがねぇ……んである日、とある任務で大失敗してな、誰かが責任を取らなきゃならないってんで、オレが名乗り出たんだ」

 

丁度、昇進要請が増え始めた頃だったからな、と警備員はイタズラ少年の様に豪快に笑う。

 

「……引き留められなかったのか?」

 

「……いや、まぁ、勘弁してくれって言われまくったがね。入ったばかりの新兵に、同期、オレが面倒見てた現SOF、執行部隊からも何人か来てた。それに戦友だった戦術飛行中隊の隊長にも怒鳴られた、『血迷ったか馬鹿野郎!』ってな」

 

「でも、新しい世界を見てみたかったんだよ……さっきの勲章も本当なら退職と同時に返す予定だったんだが、持ってろって許可を貰ってな、後は言った通りだよ」

 

先程よりも更に肩を落とす警備員を見て、RAPTOR1は数ヶ月前に体に包帯を巻いた戦術飛行中隊の面々を見た事を思い出していた。

 

「……喧嘩別れでもしたのか?」

 

「……いや、互いに納得はした。荒っぽくはあったけどな」

 

僅かに苦笑し、少し歪んでいる様に見える手のフレームを軽く振って、目的地に足を踏み入れた。

 

 

 

 

「……感謝しよう、案内がなければ迷っていた」

 

「いいってことよ、さっさと見つけようぜ」

 

「お前も探すのか……」

 

「休憩時間が延びるみたいなモンだよ」

 

「そうか……ではまず、ユスティナ生徒会と当時のアリウス自治区の資料を探す」

 

そこからは特に特筆するものでは無い、黙々と資料を机に引き出し、一枚一枚確認していく。

 

 

ページを捲るが、中々見つけることが出来ない。

 

時間はある筈だが、自然と読む速度を上げる。

 

 

目的はアリウス自治区へと続くカタコンベの内部の構造が書かれた資料だ。

 

 

奇跡的に自治区に入ることの出来た一年前、あの時に行われた機密作戦『流星』は失敗に終わった。 

 

奇跡は二度も訪れない、故に自身の力であの場所を見つけねばならない。

 

あの日、部下の命惜しさに逃げ帰った自分への決別を。

 

そして確実に、あの女の息の根を止める。

 

あの日からカイザーは変わった。

 

『神秘』の研究を進め。

 

ゲマトリアと手を組み。

 

多くの兵力を育て上げた。

 

大馬鹿野郎が一人で挑んだあの時とは状況が違う。

 

全てはあの女を殺す為だけに、あの地獄を止める為だけに。

 

 

機密作戦『流星2号』の作戦立案は終了している。

 

後は狼煙を待つ、自分の教え子が上げるであろう狼煙を、自分が勝手に背負ったものの決着を着けると言っていたアイツの。

 

その前に、アリウス自治区の位置を突き止めなければ。

 

『我々は二度と敗北しない』

 

『我々は嵐を恐れていたあの頃に戻ってはならない』

 

『RAPTORに翼を折ることは許されない』

 

 

探し出せ、どんなに細やかな情報でも見逃すな、ある筈だ、絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

ページを捲る指に力が入っていた事に気づく。

 

「大丈夫かよ、随分と集中してたみたいだしな、話しかけても返ってこないし」

 

持って来た本を机に積み重ねてタワーの様にしている警備員に諭され、時計に目を向ければ、それなりに時間が過ぎていた。

 

側には既に読み終えた物がこちらも積み重なっていた。

 

「結構読むのが早いんだな、何を探してるかはハッキリとはわからんが」

 

「……問題ない、要点は全て覚えている」

 

「マジかよ、オレなんか護衛の時のルール覚えるだけでも精一杯だったてのに」

 

「……それでよくカイザーセキュリティに入れたな」

 

「だから昇進したくなかったんだよ……」

 

そうして少しの休憩の後、RAPTOR1は再び本に手をつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が白み始めた頃、二人は古書館の入り口に立っていた。

 

「……世話になったな」

 

「いや?良い休憩になったぞ?」

 

「……これからも毎晩俺の部下が訪ねてくる、悪いが——」

 

言葉を続けようとしたRAPTOR1を手で制する。

 

「案内をして欲しい、だろ?任せな、それに周りにも言わねぇよ」

 

「……俺がカイザーだとは肯定していないんだが」

 

「バカ言え、オレだって噂くらいは聞いた事がある。目の潰された鳥の勲章、即ち不可視の猛禽、プレジデントの虎の子の話くらいはな」

 

どうやら、彼の築いてきた人脈は並ではないらしい、データにすら残らない部隊について見識がある程度には。

 

「……そこまで特定されるのか、気が緩んでいるらしい」

 

「油断大敵はお互い様だ、オレも客人に素性を話しすぎた」

 

「……確かにな」

 

そうして互いに苦笑した後、二人はそれぞれの仕事場に戻った。

 

 

 

この二週間後、シャーレがトリニティに襲来、事態は急変することになる。

 

 

 

 




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