FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話   作:アッポラピッタポン

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尾行

 

 

"お待たせ。用件を聞いても良いかな?"

 

「先生は上手くやってるかな、って思って」

 

 

 

 

補習授業部の監督を勤めるシャーレと、聖園ミカが接触した。

 

この情報自体には、特に驚きはなかった。

 

そもそもティーパーティーなのだから会う事くらいはあるだろう。

 

だが、問題だったのは

 

 

 

「……見失った?」

 

『はい、追跡中に振り切られました』

『尾行には気づかれた素ぶりはないから、多分たまたまだと思うんだが……』

 

『こちらイーグル、対象を再捕捉』

『うわ、かなりの速さで走ってますね。シャーレは人気らしいです』

 

 

聖園ミカの身体能力の高さ故に、走るだけで隊員達を置き去りにしてしまう事だった。

 

「意味が分からないな……あの体のどこにそんな力が……」

「これも神秘の力ってやつだろ?聖園ミカは武闘派だと聞いてるしな」

 

待機部屋の中で、RAPTOR1は頭を抱えていた。

普段は気にも留めない外の音が、頭の中で鳴り響いている。

要するに、頭痛がしていた。

 

「……秘密裏とはいえ、ここまで護衛対象に動かれるとややこしい事この上ないな………」

「まさか、側近の一人も連れないとは……本人の戦闘力故か?それとも単に警戒心が薄いだけか……」

 

恐らくはどちらもであるのだろう。

自分に類する敵がいない、というのは本人の警戒心を著しく下げるのだから。

猛禽のいない島で、小動物が騒ぐ様に

 

「…………聖園ミカが襲われる可能性は?」

『限りなくゼロに近いかと、倒せるのはそれこそ学園の特記戦力くらいでは?』

 

ゼロだと言っている様なものだが、襲撃犯の手口は不明だ。

身体能力を奪う神経ガスや、酸素を焼き尽くすサーモバリック爆弾なら、彼女を倒す事が出来る可能性はあるのだから。

 

とは言え

「桐藤ナギサの護衛に専念するべきか?」

 

という考えが頭をよぎらないかと言われたなら、否定は出来ない。

 

動きの予想が難しく本人の自衛力が高い者よりも、定位置に留まる者の方が優先されるべきではないのか?

 

様々な考えが頭を回る、時計の秒針が半回転する頃に、なんとか結論を出した。

 

「……聖園ミカの護衛は不要だ。だが、監視は継続しろ」

 

今はこれで良い、今はこれよりも大事な事を確認しなければならない。

 

 

「……シャーレとの会話内容は何だ?」

 

『…………すいません、この場所からだと口元が見えなくて……』

 

会話の内容が分からない。

軽い世間話をするためにこの場所に来た訳ではないだろう。

 

態々シャーレに接触した、その目的を掴まなければ

 

『……えー、「ナギちゃんに裏切り者を探してほしい、と言われたりした?」』

『「ナギちゃんにも困ったなぁ、そんな重荷を先生に……」……死角に入られました。これ以上は厳しいかと……』

 

頭を情報で強く殴られる。

現地の隊員が読唇術を使って辛うじて得た情報は、RAPTOR1に衝撃を与えた。

いや、RAPTOR1だけではなく、現地の隊員も、待機部屋にいた者も同じだっただろう。

 

それもその筈だ、聖園ミカは今こう言ったのだから。

 

『桐藤ナギサが秘密裏に裏切り者を探しているのは知っている』と

 

だが、まるで、これでは自分はナギサの知らない情報を持っているから話に来たかの様に捉えられる。

 

「…………いや、実際に持っているのか?」

 

情報に確実性はないが、きな臭くなってきた。

可能性の一つとして考えておいてもいい程には。

 

 

「半分陰謀論に足を突っ込んでる気もするけどな……」

 

「……そうだな」

 

RAPTOR2の発言に同意しつつも、頭の片隅には言葉に出来ない嫌な予感が居座る。

それが杞憂である事を祈りつつ、隊員達は護衛を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜のトリニティ自治区

 

この前のスラム街とは違い、正義実現委員会の目が届いている場所。

安全性を証明するかの様に店の明かりは光を発している。

 

とは言え、学生の殆どが寝ている時間ではあり、道は獣人やロボット市民が昼間よりも忙しなく動いている。

 

そんな中、その群れの外側に歩いている二人の人影があった。

 

「すいません、こんな事に付き合って貰って……」

「仕事ですので」

「いえいえ、ほぼ巻き込まれたみたいなものでしょう?」

 

どちらも似た背格好で同じ様な話し方をしているため、聞くだけでは判別がつきづらいが、見た目の違いは分かりやすく、二人の立場を表していた。

 

RAPTOR8とアンタレス1

この二人が外出している理由は、RAPTOR5の様に買い出し目的ではなく、逃走ルートの偵察だった。

 

元々予定していた主要ルートが爆弾によって陥没し、通行止めになったため、急遽予備のルートの安全確認に駆り出されていた。

アンタレス1は定期報告に現れた所をRAPTOR2、5に捕獲され、付き添いをさせられていた。

 

「予備ルートの方が静かですね、道幅も十分です」

「同感です、ここを抜ければ直ぐに元のルートに出られます」

「これで確認は終わりですね、サクッと帰りましょうか」

 

一通りの確認を手早く済まし、再び人並みに飲まれる。

 

本社であれば、本来顔を合わせることすらない二人の会話は、自然と弾んでいた。

 

「ジェネラルの調子はどうでしょう?最近はあまり話していないので……」

 

「最近は、増えている仕事に振り回されていますね。理事の勢力を吸収したこともあり、再編に苦労しているようです」

 

「貴方としてはどうなんですか?直属の上司が更に権力を得るのは、我々はプレジデント(最高権力者)直下なので、よく分かりませんが……」

 

その言葉にアンタレス1は軽く顎に手を置き、考え込む。

 

「……やる仕事は変わりませんし、それにジェネラル御本人が『私の手に余る、理事を早く戻したい』と仰っていました。その内手放すかと」

 

上司の言葉を漏らして良いのだろうかと思うが、夜の街の空気に少し酔っている

のか特段気にしていなさそうだった。

 

 

 

その後も隊内で聞く噂話の審議

 

「ヘリのプロペラにペンライトを巻いて飛んだらしいですよ?」

「やっぱりあそこはちょっとイカれてますね……」

 

 

話題の装備カタログ

 

「シールドドローンですか……」

「まだ開発中らしいですが、追従機能が難航していると聞きます」

 

 

終いには、根拠のない都市伝説まで

 

「廃遊園地に出る幽霊……」

「はい、護衛中に耳に入りまして」

「後で一応、ジェネラルに伝えておきますか……」

 

 

雑談は続きに続き、気付けばかなりの距離を移動していた。

 

「……少しばかり、熱中しすぎました……」

「同感です、もう戻った方が良いでしょう」

 

人通りが少なくなっていることに気付き、帰還を考える。

既に偵察は終了しているのだから、遊んでいる暇はない。

 

二人の考えが一致して、足を逆方向に向けた時、

 

 

 

"夜中でも開いている店が多いんだね"

 

「そうなんです、24時間営業の店もありますし」

 

「き、来ちゃいましたね……」

 

 

 

 

訓練で鍛えられた反射神経は、本能と同期し、二人を物陰に隠した。

 

建物から覗いて見れば、シャーレと補習授業部の五人が、向こう側からやって来ていた。

 

ここからでもかなりの距離があるため、気づかれた可能性はないだろう、声を捉えられたのは幸運だった。

 

肩に入っていた力を抜きつつ、二人は顔を見合わせる。

 

「シャーレだけならまだしも、補習授業部までいるとは……試験が終わるまであの施設ではなかったでしょうか?」

 

「こっそり抜け出して来たのでは?学生らしいと言えばらしいですが」

 

完全に予想外だ、そもそも監督者が率先して外出するのはどうなのか?とどうでもいい考えも出てくる。

 

「……尾行はしておきましょう」

「了解、連絡はしておきます」

 

彼女達の会話によって、何か情報が得られるかもしれない。

 

足音と気配を殺して、ひっそりと一向の背後につく、態々物陰に隠れる必要はない、ただ一定のリズムで行動して、いることを悟られずに情報を聞き出す。

 

 

「あっ!こんな所にスイーツ屋さんがありますよ!」

 

"少し中を見てみようか"

 

 

 

「元気ですね、もう深夜なのに」

「私達だって、夜間訓練で遊んだでしょう?」

「それは確かに、よくやりましたが」

 

少し昔の自分達と重ねて懐かしくなっている大人二人をよそに、補習授業部はスイーツ屋に入店。

 

合わせて入店し、二人席に陣取る。

 

「自分は顔が割れています、そちらの影に隠れる形で……」

「分かりました、では始めましょうか」

 

アンタレス1が懐から小さな箱を取り出して、アンテナを伸ばし机の上に置く。

 

「……読唇術かと」

「今のSOFの試験では、読唇術はありませんので」

 

技術の進歩と僅かな寂しさを胸に、箱に目をやる。

 

補習授業部は偶々いたらしい、正義実現委員会の羽川ハスミと話しているようだった。

 

『"コハルは最近、すごく成績が伸びてるよね"』

 

『「そうですか、これからも精進するんですよ、コハル」』

 

『「は、はいっ!」』

 

 

 

「特にこれといったものはないですね」

 

「そうですね……外れでしょうか……」

 

安堵もあるが、落胆の割合が高い。

危険な賭けだったというのに、リターンは世間話だった。

コーヒーの一杯でも飲んでから帰ろうか。

 

 

 

 

『先生、誰かが先生の話を盗聴してるみたいです!』

 

 

 

アロナと呼ばれるサポートAIは所有者や所有者の指揮下の生徒に対して、力場や確率操作などのあらゆる神秘を駆使して、絶大的な力を発揮する。

 

簡単に言えば、命中率、身体能力、精神安定、回避率、の上昇が当時のRAPTOR小隊の監視によって報告されている。

 

更に加え、神秘の薄い機器に対して、ありとあらゆる操作を可能とする。

 

これが悪さを働き、先生の周囲にあった盗聴器の存在を察知されたのである。

 

"えっ?"

 

「先生?どうかされましたか?」

「どうしたの?」

 

 

『「私達が今、盗聴されてるみたい?」』

 

 

「「はっ……?」」

 

急な展開に呆気に取られる。

何故バレた?

位置的にも確認は不可能な筈、ここからの対応は?

 

頭の中でショートしかけたところで、アンタレス1よりも早くRAPTOR8は動いていた。

 

「おや?阿慈谷さん、奇遇ですね」

 

「えっ?あ、アウルさん!?なんでこんな所に」

「依頼があったので暫くこちらに居座っているんですよ」

まるで偶然出会ったかの様に、平静さを保ったまま話しかける。

 

「え、誰?ヒフミの知り合い?」

「はい、私は傭兵団『R』のアウル、というものです、以後お見知りおきを」

 

「ヒフミちゃんは傭兵の方と繋がりがあったのですか?」

「え、えっと、はいっ!そうですね……」

「…………」

 

背後の白洲アズサが静かなのが気掛かりだが、今は離脱を優先する。

 

"久しぶりだね"

「先生までいらっしゃいましたか!こんな深夜に皆様どちらへ?」

"少し散歩しようと思ってね"

 

軽く探りを入れるが、今有益な情報を聞き出すのは難しいだろう。

 

 

"さっき盗聴されてたんだけど、これは……"

「……申し訳ありません、情報収集の一環で周囲の方々の会話を聞いていたのですが……まさか先生だったとは」

 

冷や汗が表に出ない様に回答を返す。

 

"そうだったんだ……"

「申し訳ありませんが、そろそろ戻らなくてはなりません、詳しいお話はまた後日という事で……失礼します」

 

 

踵を返して、無理矢理店外に足を運び出す。

 

疑いは持たれるのは仕方がない、それ以上にシャーレの特異な能力を隊長に伝えなくては

 

先に出ていたアンタレス1が申し訳なさそうな顔で口を開く。

 

「感謝します……突然の事で頭が真っ白になってしまいまして……」

「大丈夫です、流石にあれは予想出来ません、今は報告を最優先に、直ぐにジェネラルとプレジデントに」

 

「了解しました、では」

 

この重大情報を伝えるために、アンタレス1はトリニティ自治区を走り抜ける。

 

『こちらアンタレス、シャーレが神秘能力を使用した疑いあり、至急神秘科学局に連絡を』

 

 

『こちらアウル、シャーレの尾行は失敗ですが、シャーレが何かの能力を使用したのを確認しました』

 

『『恐らく、これからの我々を左右するかと』』

 

 

 

 

 

これが、カイザーが後に頭を抱える事態の最初の事件だったが。

 

その惨事が起こるのは、少し後の話だ。

 

 

 

 

 




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