FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話 作:アッポラピッタポン
「私はもともとアリウス分校の出身。今は身分を偽って、トリニティに潜入している」
補習授業部の寮の一室の中で、アズサの独白が響く。
第二次学力試験も不合格となり、いよいよ後がなくなって来た。
ティーパーティーの桐藤ナギサの言う、裏切り者とは誰なのかという疑問は、ついに晴らされた。
「アリウスの任務として、桐藤ナギサのヘイローを破壊するために」
「明日の朝、アリウスの生徒達がトリニティに侵入する……私は、ナギサを守らなきゃいけない」
「また、アリウスの様な学校を生まないために……」
自分はアリウス分校の出身であり、それを隠したせいでみんなを巻き込んでしまったことへの謝罪。
そして、自分はアリウスを裏切ってでも、桐藤ナギサを守るという覚悟を示した。
自分は何も諦めてなどいない、ということを
「ナギサさんを守り切って、その上で正々堂々と試験に合格しましょう」
「それが、今の私達の唯一の答えではありませんか?」
ある者は己の正義感によって
ある者は過去の自分との決別のために
ある者は友達を助けるために
そして、ある大人は生徒を守るために
補習授業部が、持てる全てを使って、動き出そうとしていた。
ただ、彼女達にとって、誤算があったとすれば
桐藤ナギサは、この計画のために、恥も外聞もかなぐり捨てて、全能力を用いた、ということである。
猛禽が動き出す。
「……先生」
"どうしたの、アズサ"
各々が準備に取り掛かる中、アズサが先生に話しかける。
「この前、スイーツ屋であった。アウルって名乗ってた人についてだ」
「私は、アリウス自治区であの人を見たことがある」
"!?"
「自治区の中で、銃の使い方を教えていた。……私は、直接の関わりがなかったから、顔を覚えられなかったみたいだけど……」
僅かに肩を振るわせる、遠目から見た時のあの不気味な見た目を、店内で見た時は心臓が止まるかと思った。
「傭兵っていうのは……嘘だと思う……理由は、説明出来ないけど……」
"アズサ……"
息も途切れ途切れに、自分なりの説明をするが、確たる証拠もない。
やはりただの勘違いだった、と言ってしまおうか、でも——あの寒気のする目は——
「いえ、確かに、あの人は傭兵というには違和感がありました」
そこに現れたのは、浦和ハナコ。
自身の才故に、トリニティを離れようとしていた才女は、今その才能を存分に使っていた。
「先生に盗聴について聞かれた時に、一緒に座っていた誰かを隠す様に動いていました。同じ様な見た目をしていましたが、あの装備は恐らく正規品……アズサちゃん、アリウス自治区で見かけた時にその人が何と言っていたか覚えていますか?」
「……確か……『RAPTOR8』って……」
隊長らしき人物に、建物内から呼ばれていた時に偶然聞いた、その言葉は、ハナコの推理を答えに押し上げた。
「コールサイン……つまりは元、いや今も軍人として動いている?トリニティで依頼を受けた、と言っていましたが……」
「ハ、ハナコ?」
「それに、あの鎧の様な装備は、一傭兵が保有するにしてはあまりにも……」
"ハナコ、大丈夫?"
「……先生、少し計画を変更します」
一人で答えに辿り着いたハナコは、時間が惜しいというかの様に、部屋から出ていった。
「時間は、思っていたよりも無いかも知れませんっ!」
『こちらイーグル、対象が動き出した』
『人数5名、補習授業部で間違いない』
『武装している、戦う気マンマンだ』
「……ホーム、警備局に連絡しろ、今なら連中を捉えられる」
『それが……先程、警備局が機能を停止しました。連絡もつきません』
『スワローよりラプターへ!学園の外縁部に中隊規模の人数が待機してやがる!正義実現委員会は何してんだ!?今もまだ増えてるぞ!』
「……補習授業部が動き出し、警備局も正義実現委員会も停止した。何故そんなことになる?」
「シャーレが襲撃犯を指揮してるってことか?」
三つの勢力が動き出した夜間のトリニティ総合学園は、混沌と化していた。
一般生徒は何も気付かない、混沌の渦に……
「……離脱を優先する。全隊員、時間稼ぎを始めろ、俺とホークが依頼人を連れ出す、10分後に車庫に集合しろ」
『了解、幸運を』
「……幸運を」
通信を切り、RAPTOR2に向かい直る。
「……想定よりも状況が悪い、直ぐに向かうぞ」
「わーってるよ、クソ、とんだ依頼を引き受けたな、隊長」
「……そうだな、今度お祓いにでも行くとしよう」
嫌な予感が的中した様な、まだしていない様な、曖昧な判別のつかない感情を隅に置いておき、二人は待機部屋から飛躍する。
窓枠に足を置き、息を吐く、吸うと夏の湿り気の多い風が喉を撫でる。
一歩目
右足の跳躍ユニットを起動、窓枠を強く蹴り飛ばし、前方に跳ぶ。
二歩目
左足の跳躍ユニットを起動、空中で半回転の後に体勢を整えて、建物の壁に着地すると同時に斜めに跳ぶ。
三歩目
両足を深く踏み込み、ブースターを点火、目標に到着。
建物の3階の窓を掴み、外側から突入する。
ガラスを破るなんて初歩的なミスは犯さない。
「ら、ラプターさん?そんな場所からどうして……?」
書類仕事を片付けていたらしいナギサが、首をこちらに向けて固まっている。
「……襲撃だ、既に戦闘が始まった」
「……っ!そうですか……分かりました。護衛をお願いします。」
状況を伝えると、直ぐに理解したらしく、仕事から手を離し、席を立った。
「このまま車庫に向かい、トリニティ自治区から離脱する。……朝まで逃げ回れば我々の勝ちだ」
勝利する前提のためにも、一刻も早く向かわなければならない。
「では、急いで車庫に向かいましょう。ルートは?」
「問題ない、直線で向かう。ホーク、抱えろ」
「……えっ?ちょ、ちょっと待って下さい。まさかとは思いますが…!?」
急に顔色を悪くしたナギサを見る事もなく
「ちょっと失礼するぞー、安心しろよ。落としはしない」
「ちょっと……!?っきゃ!?」
ナギサの側に近づいたRAPTOR2は、右手でナギサの背中を、左手で両足を抱え込む。
咄嗟にRAPTOR2の首に腕を回し、何とかバランスを取るナギサ。
地に足がついていないせいか、羽をバサバサと揺らしている。
「おっ?案外軽いな、これならスピードも出せそうだな」
「……そうか、出発するぞ」
そう言って、二人と抱えられた一人は窓枠に足をかけた。
自身の嫌な予感が的中しそうなナギサは必死に叫ぶ。
「あ、あの!陸路は!陸路はありませんか!?」
「……? 陸路だろう、これは。ヘリ等は使っていない」
「それよりも、口を閉じといた方がいいぞ、舌を噛むと悲惨だ」
ナギサの届出は、互いの価値観の差異によって無力化されてしまった。
「跳躍ユニット起動、出力増大を確認………行くぞ」
瞬間、RAPTO1の姿が掻き消える。
どこに行ったのかと、ナギサが辺りを見渡した瞬間、周囲の風景がブレた。
自身の顔を襲う風で目を閉じる、周りは見えないが、間違いなく自分は空を飛んでいる。
体験した事のない浮遊感に身を任せて、じっとする。
やがて、風が少なくなり目を開ければ、自身の眼下にしか物体は存在しなかった。
満月が、いつもより近くにある様な気さえしてくる。
試しに、手を伸ばしてみようとして——
「悪いが、落下は荒っぽいぞ?捕まっとけよ!」
「……っ?!?」
荒っぽい声によって、現実に引き戻される。
先程別れを告げた筈の浮遊感が再び体を覆うと共に、重力にも体を引かれる。
下を見ればどんどんと地面が近づいてきている。
このまま叩きつけられれば、ヘイローの有無に関わらず、重傷を負うだろう。
だが、僅かな焦燥感を感じるものの、それ以上は何も感じなかった。
自分の周りが、ずっと冷静な声を保ったままだからだろうか
「ブースター逆噴射まで、4……3……2……今!」
炎の噴き出る音が自身の体を押し上げた。
そのまま、ゆっくりと降下していき、三人は車庫の真上に降り立った。
「…………正直、叫び声を上げるかと思っていた」
「あぁ、新兵にやると泣くんだが……流石はトリニティのトップだな」
「あの……次からは安全第一でお願いしますっ……!」
二人の賞賛の声は嬉しいが、精神的にはかなりキツイものがある。
そのまま、車庫の中に入ろうと入り口に向かうと
「な、ナギサ様……そのお姿は……?」
「……えっ?」
聞き覚えのある声に、思わず顔を上げると
"ナギサ大丈夫?"
「あらあら♡これは……」
「えっ!?ど、どういう状況、アレ!」
「…………不思議だ」
補習授業部のメンバーと隊員が待ち構えていた。
話は、二人が待機室から飛び出した頃に遡る。
寮から離れて、ティーパーティーのホストの隠し部屋に向かおうとする補習授業部。
そこに声を飛ばす二名の影があった。
「あー、悪いが、今ここは立ち入り禁止なんだ、用があるなら朝まで待ってくれ」
"『R』……貴方達がナギサの護衛だったんだね"
そこに姿を現したのは先生、何か言いたげな顔で二人を見る。
「あれ?シャーレでしたか、先日はアウルが失礼を働いたと聞きます、申し訳ない……」
RAPTOR6の謝罪をものともせずに、先生は話を続ける。
"貴方達の正体は分からないけど……通してもらうよ"
「皆さん!今です!」
「す、すいませーん!!」
先生が話しかけて気をひいている間に、補習授業部の四人が銃弾を浴びせる。
だが、それに気が付かない程、二人は平和ボケしていなかった。
「容赦ねぇな。レイヴン、始めるぞ」
「了解しました。迎撃始め」
二人がそれぞれ左右の遮蔽物に移動し、背中を預ける。
先生の指揮があるとはいえ、四人の内二人は戦闘経験に乏しく、コハルも戦闘が得意かと言われればそうではない。
唯一、アズサは違うが……
「確実に一人ずつ無力化しろ、お前は白洲をやれ、オレは三人をやる」
「わかりました……さっきから銃がブレるんですが……まぁなんとかします」
二人相手ではどちらにせよ、時間の問題だろう。
そうして、二人が同時に飛び出しそうとした時に
『三時の方に敵性反応!回避して下さい!」
その場にいた全員に、平等に銃弾が降り注いだ。
「おいスワロー!侵入して来てんぞ!ちゃんと防げよ!」
『バカ言え、大隊規模だぞ!?ここまで時間稼ぎした事を褒めろよ!』
通信相手の怒鳴り声を聞く限り、余裕はなさそうだった。
『徐々に包囲が狭まっています!直ぐに車庫に向かって下さい!』
「……離脱するしかないか」
一足先にその場を離れようとするクロウとは違い、レイヴンは補習授業部の方に意識を向けていた。
そこに、ヒフミが話を持ち掛ける。
「あ、あの!レイヴンさん!私たちはナギサ様を守るために来たんです。アリウスの生徒達から!」
「……何故ヒフミさんがアリウスの事を……?」
(やっぱりアズサちゃんの見間違いではなかった。ということは……)
「……私が、アリウス自治区の出身だったからだ」
アズサの回答によって、RAPTOR6は事態の全容を把握した。
「……成程。お久しぶりです、と返す程、私はあの時の生徒達の顔を覚えている訳ではありません。ですが……」
「ホーム!この人達も連れて行きます」
「はぁ!?何言ってんだお前は!?」
命令違反とも受け取れる行動に声を荒げるRAPTOR5だが
「敵の勢力が明らかになった今は、戦力が必要です!」
「そりゃ分かるが——クソッ!もう時間もない!」
時間はそれを待たずに追いかけて来ており、各自の判断で行動するしかなかった。
「いいかっ!これから車に乗って離脱するから着いてこい!遅れたら置いていく!」
吐き捨てる様に叫ぶと、二人は一瞬で車庫に向かって距離を詰め始めた。
"みんな!急いで向かおう!"
急な展開に呆気に捉われるも、先生の声を聞いて、補習授業部は急いで後を追う。
今日一応テストある筈なんだけど……と考えていたのは、最後尾で走っているコハルのみだっただろう。
兎に角足を動かして、必死になって二人を追いかけて、なんとか車庫にたどり着いた補習授業部が見たものは、お姫様抱っこされている桐藤ナギサの姿だった。
そして、時間軸は現在に戻る。
「補習授業部の皆さん!?どうしてこの場所に……?」
目の前に現れた事に混乱するナギサ、補習授業部の誰かが裏切り者だとは考えていたが、まさか全員が……
「あらあら、ナギサさんのその姿は一体どういうことなんでしょうか♡」
「えっ?…………あっ」
改めて自分の姿を確認して見れば、首に腕を回して、体を完全に預けている。
これではまるで————
「いや、違いますよ!?これは……そう仕方なく!仕方なくです、ハナコさん!」
急いで降りて弁明するが、変態には火に油だ。
「仕方なく殿方とそういう事を!?ティーパーティーの風紀は一体どうしたのですか!?」
「エ……エッチなのはダメ!死け……逮捕!」
(コハルが言い直した……流石に自重したか……」
"アズサ、声に出てるよ……"
トリニティの面々が騒がしくなっている一方。
「……ホーム、何故報告しなかった、危うく撃ちかけたぞ」
「ホークさんに報告しました、応答はありませんでしたが……」
「…………ハハッ、そういや来てたわ。いや、降りたら言おうとしたんだが」
小隊内で、RAPTOR1がRAPTOR2の頭を引っ叩く。
疲れたかの様に、溜息をつくと補習授業部の方に向き直る。
「……詳しい話は後だ。今はここから離脱することを重視する」
車庫の中にある車を指差して、誰が何処に乗るかを指名していく。
「車両は三台、前方にホーク、先生、補習授業部が乗れ。白洲アズサ、車載機銃の使用を許可する。弾薬費はこちら持ちだ、気にせず撃て」
「……分かった」
渋々ながらも、アズサの許可をとって話を進める。
「……中央はホーム、オウル、クロウ、俺、桐藤の五人だ。なんとしても守り抜く」
「最後尾はイーグル、レイヴン、スワローだ。恐らく一番の被害役だ、気張れよ」
「……さっさと乗れ、残された時間は少ない」
RAPTOR1の声を皮切りに、隊員達は自分の役割を果たせる場所に向かい。
一泊置いて、補習授業部も車の中に向かう。
ドアを閉じ、鍵を挿し込み、エンジンをかける。
「……こちら二号車、準備は?」
『一号車、問題無し』
『三号車、問題無し』
返事代わりの様なエンジン音が響く
「……一号車、前へ」
こうして長い長い逃走劇が幕を開けるのだった。
感想、誤字脱字ありましたら、ご報告お願いします。