FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話 作:アッポラピッタポン
トリニティ総合学園外縁部
緑に囲まれた学園に今、150人を超えるアリウス生が集結していた。
「……チームⅣ、到着。特段変わった様子は無し」
重大な作戦中だったが、生まれて初めて見る光景に、僅かながらに息を飲む。
3年生が偵察で外に出る事は知っていた。
1年生である自分も、まだ見ぬ外の世界を楽しみにしていた様な、恐れていた様な。
まさか、こんなに早く見ることになるとは思わなかったが。
静かさは自治区と同じくらいだが、瓦礫はなく、夜間にも関わらず昼間と見紛う程明るさを保っている。
ガスマスクを外しても、悪臭はないのだろう。
ガスマスクに防弾プレートを付けている自分達は、雰囲気からして場違いに浮いている。
元は同じ分派とは信じられない、信じたくない。
いつかは、せめて晩年は、こんな場所で暮らしてみたいものだ。
「……隊長、チームⅤ、チームⅥ、チームⅦ、全て準備が完了したとのことです」
「あっ、うん、分か……了解した」
同級生からの敬語は慣れないが、相手も同じだ、早めに慣れなくては。
襲撃班150人と予備戦力50人の計200人は、全員1年生なのだから。
私は、あの『スクワッド』に隊長に選ばれた。
元々、戦闘中に考え事をする癖があったからだろうか
招待された時は、とても嬉しかったが、訓練は苛烈そのものだった。
思い返すと、体が震える。
思い返すついでに、数刻前の会話も反芻する。
『錠前先輩、何故この作戦は1年生だけなのでしょう』
『……ここでは教官と呼べ。……そうだな、隊長であるお前にだけ明かそう。他の1年生には言うなよ?』
錠前先輩はそう言って、作戦の本意を教えてくれた。
曰く、これは成功しても失敗してもいいらしい、どちらにせよ、勝ち方が変わるだけなのだと。
他の生徒に知られると士気が落ちる。
だから、この話は誰にもしていない、副隊長にすらだ。
緊張から、無意識に銃を撫でる。
「ターゲットの位置は確認済み。予定通り、作戦を開始する」
失敗しても成功してもいいなら、どうせなら成功したいものだ。
「総員、前へ」
さぁ、まずは一歩を踏み出そう。
数百年前に、ボコボコに殴られた私達が、たったの一発殴り返すための。
ある種の覚悟と共に、足を前に運んだその時、鋭い音が耳に聞こえた。
「……車?」
『こちら一号車、突入する。衝撃に備えろ!』
『こ、これ!ちょっとスピード出し過ぎなんじゃ!』
『随分と激しいんですね♡』
『二つの意味で頭ピンクは黙っとけ!舌噛むぞ!』
『 "待って!ぶつかるぶつかる!"』
「……元気な連中だ」
「まぁまぁ……いつものことですし」
寿司詰め状態の車内からくる無線を聞き、ジ◯リで似たような描写を見た様な気がしたRAPTOR1。
そんな頭を抑える隊長を嗜めながらも、HOMEは巧みな運転で、周囲からの攻撃を回避していた。
銃撃、グレネード、果てにはロケットランチャーといった、火器の総攻撃を物ともしていない。
「……見事な運転ですね」
「……素直に受け取っておこう。三号車、そちらはどうだ?」
『耳が割れそうです!跳弾が喧しいったらありゃしない!』
『後で耳鼻科いこ………』
「………」
私情塗れの報告に眉を顰めつつも、RAPTOR1の頭に懸念がよぎる。
「桐藤、正面ゲートを突破したいが、この車で出来るか?」
「……難しいかと、戦車2、3台がぶつかってもびくともしませんので……」
「……補習授業部の奴らの総体重が、戦車5台分である可能性は?」
「隊長、それ殺されますね……」
「隊長寝不足ですか?頭沸き上がってません?」
「無線切っといて良かったです……」
隊長の御乱心(?)に総ツッコミを入れる隊員達を横目に、ナギサは冷静に問題の解決策を提示する。
「……ゲート近くのスイッチで開閉を操作してますので……そこに向かうしか……」
「……そうか」
包囲が狭まっている中、スイッチを押しに走る時間があるのかと思案しているRAPTOR1の耳に無線が鳴り響く。
『……く……ちら……こちら警備局、こちら警備局』
「っ!?」
『これよりゲートの開閉を行う、心置きなく通過されたし』
声を聞いて、遥か前方を見てみれば、トリニティの紋章を掲げた数十人のロボット兵がアリウス兵と撃ち合いながらも、スイッチのある建物を死守していた。
『我々警備局員10名は、この事態をトリニティ存亡の危機だと判断し、独断での行動を起こした』
『もし、これに感謝の意を感じるなら……減給処分は勘弁してくれ』
『ハハッ!確かにモヤシ生活はゴメンだな!』
無線の先から、銃声と笑い声が聞こえてくる。
既に包囲されつつある建物から、楽しげに。
結末は火を見るより明らかだったが、目を逸らす。
「……このまま突っ切るぞ」
3台の車両が、ほぼ同時にアクセルを踏み込み、加速する。
アリウス生達が、なんとか食い止めようとしているが、既に間に合わない。
機関銃の弾丸を撒き散らしながら、車両は学園外へと抜けていった。
サイドミラー越しに、サムズアップする警備員達を見ながら。
「よーし、行った行った!」
残像すら見えそうな速さの車を見送りながら、警備員達は高らかに笑う。
「いやー、すまんな!面倒ごとに巻き込んだ!」
「気にすんな、スーパールーキーの頼みだ」
「何カッコつけてんだ……実力差があり過ぎるっての」
割れた窓から外を見てみれば、敵の一部は車を追っかけに行ったらしい、
以前として、建物を取り囲んでいるが、簡単に負けてやるつもりはない。
「さあ!いつも休んでんだ!全力で働くぞ!給料泥棒共!」
学園内から飛び出し、自治区の大通りを走る。
離脱の第二段階は成功した、そんな中最も忙しいのは
後方からの攻撃を受けている三号車の面々だった。
「車両3!バイク10!後方から接近中!対処して下さい!」
「……あー、面倒くさ。スワローがやってよ」
「オレの武器がショットガンなの分かってるか!」
「早く!」
「……はいはい、銃座借りるよ」
ため息を吐きながら、銃座から体を乗り出して狙撃銃を構えるRAPTOR3。
「……まずは車から」
狙撃銃の二連射で、左右の前輪を破壊して車をクラッシュさせる。
数台のバイクも巻き込まれるが、勢いは変わらない。
「ほらよ、行ってこい!」
RAPTOR7もドアを軽く開けて、隙間から手榴弾を転がしていく。
命中こそ期待は出来ないが、相手は大きく態勢を崩し、そこを狙撃で減らしていく。
バイクの荷台からのロケットランチャーを回避しながら、順調に撃ち減らしていき、台数が3台程度になった時に、敵は撤退していった。
音が遠ざかっていき、メンバーに一時の静寂が与えられた。
そのまま、高速道路に入っていき更にスピードを上げる。
「……白洲アズサだったか?」
緊張が解れたシャーレと補習授業部の中、唯一の部外者であるRAPTOR2がアズサに問いかける。
「……お前が、何故桐藤ナギサを守ろうとしたのかは興味はない。だが、その行為がアリウスの命令に背いていることはわかる」
「…………」
「アリウスの現状を体感してきて、それでも背くのか?」
"ホーク……"
「いや、らしくない事をした。自分の意思で決めたなら文句はない」
「だが」
そこで、RAPTOR2は顔を後ろに向ける。
真っ直ぐにアズサと目を合わせる。
「もしこの先、お前が錠前と対峙した時には」
「言葉で止めようとするのは止めておけ、もうその段階は過ぎた」
「お前同様に自分の意思で、トリニティへの復讐を決めたんだからな」
和解の可能性を否定されて、車内が静まり返る中、ハナコが静寂を破る。
「この際に、一ついいでしょうか?」
「……手短にな、今運転中だ」
「アズサちゃんから、貴方達がアリウス自治区で戦闘訓練を行っていたのは聞いています。しかし、どの様に自治区に辿り着いたのかは、見当が付きませんでした」
思わず吹き出してしまいそうになる。
それは、任務中でなければ大笑いする内容だった。
目の前の少女は、自分達が自治区への行き方を知っていると思っているのだから。
だが、態々教える義理もない、警戒させるだけさせておけばいい。
「さてね、企業秘密だ。部下のプライバシーは守らなくちゃな」
錠前の目的を手助けすることは出来ないが、応援はしている。
トリニティとゲヘナがどうなろうと、カイザーからすればどうでも良い。
だが、アリウスが死に物狂いで、ゴールまで辿り着いた時に、声援を投げかけてやりたいものだ。
「そうですか……話は変わりますが——」
RAPTOR2の言葉を想定していたのか、特段気にする気配もなく、ハナコが話を続けようとしていた所。
視線が固まった。
ハナコだけではなく、RAPTOR2も、先生も、他の全員も、車の正面に視線を釘付けにさせられた。
正面の窓ガラスの上部から、何かが落ちてきていた。
色は車と同じ砂の色、大きさも車と同じ位、違う点は煙を吹いて、形を歪ませている点にあった。
つまり
三号車が上空から落ちてきていた。
「クソッ!!」
瞬間的にハンドルを回して、回避行動をとる。
落下位置が奥側だったのもあり、回避自体は問題がなかった。
急停止の後、RAPTOR2はドアを足で蹴り上げて、外に飛び出す。
『二号車も横転しました!今ので護衛対象が気絶しています!」
『ホーク!三号車が破壊された、三人のバイタルは無事だが、脱出に時間がかかる。援護しろ!』
久しぶりに聞く隊長の切羽詰まった声を聞きながら、RAPTOR2は応答する。
「隊長、悪いが無理だ」
それは不可能だと。
「あっ!やっぱりあってたんだ。日頃の行いがいいからかな☆」
「……既に補足された」
目の前の少女を半ば呆然と見据える。
シャーレとの接触時から警戒していた対象
ティーパーティー パデル分派代表 聖園ミカ
彼女の背後の足元には、巨大な穴が空いていた。
考えてたくはないが、高速道路の下から突き破ってきたのだろう。
それでいて、傷一つ負わない。
順当に考えれば、各学園の特記戦力クラスの————
「何考えごとしてるのかな?」
気を抜いたつもりはないが、その声には震え上がりそうだった。
「……いや、トリニティのお嬢様はタクシーの止め方を知らないのかと思ってな」
「あー!遠回しにバカにしたでしょ!確かにあんまり頭は良くないけど!……ナギちゃんを早く渡してほしいんだけど、こんなつまらない会話をしてる場合じゃないんだよね」
人好きしそうな笑みを消して、こちらに笑いかける。
「悪いが襲撃から守るのが依頼だ、さっさと帰れ、こっちは眠いんだよ」
呆れた話だ、本当に渡すと思っているのだろうか。
やはり頭はよくないらしい。
「へぇー、そんなこと言うんだ、なら——」
途中で音がブレる。
代わりに背中に妙な感触を感じる。
「遠慮なく壊すね?」
「っ!?」
後ろに回り込まれ、左腕を掴まれる。
逃れようとするが、圧倒的な腕力はそれを許さない。
「あは!ねぇ?何で渡さなかったの?こんなにあっさりやられちゃうのに」
左腕を捻じられフレームが嫌な音を立てて軋み始める。
「私この後、先生とも戦わないといけないからさ!貴方は前座なんだよ?」
歯噛みをする。
この握力、感知出来ないスピードを生み出す脚力
まさに天賦の才と言っていい
それは————
「
「きゃっ!?」
なんて分かりやすいのだろう。
破壊される数秒前にRAPTOR2の左腕の肘から先が落ちる。
緩んだ一瞬を突き、銃撃を加えながらミカから距離をとる。
「ロボット兵の相手は初めてか?」
自分達にとって、キヴォトスで四肢が取れるのは当たり前だ。
高々一本で支障が出る程にやわではない。
「一回抜け出したから何?今度は全部取ってあげようか?」
「まだ自分が有利だと思ってんのか?笑い話にもなんねぇな」
「っ!?まさか!」
意図に気付いたミカが後方を振り向く。
銃口
ミカの背中に向けられた7つの銃口は、確実に対象を捉えていた。
「オレ一人に時間をかけ過ぎたな、嬢ちゃん」
「……時間稼ぎにしては上出来だ」
「あー、一瞬天使が迎えに来てたぞ……」
「良かったな、羽の生えたゴリラが迎えに来たぞ」
「もうちょっと褒めてくんね?一応危機だったんだが……」
微妙な顔をするRAPTOR2の背後から、先生が歩いてくる。
"ミカ……どうして"
「……ちょっと面倒くさくなっちゃったなぁ……」
先生からの問いに頬を掻きながら、苦笑いをするも、ミカは自分の考えを語り始めた。
ゲヘナとの和平なんて鳥肌が立つ。
それなら自分がホストに立ち、ゲヘナとの全面戦争を行う。
アリウスはその為の仲間なのだ、と。
「だからさ、早くナギちゃんを渡してくれる?大丈夫、痛いことはしないよ?残りの学園生活は檻の中かも知れないけど」
「話は終わったか?長くて欠伸が出そうなんだが」
「どんだけ喋るんだよ、ゲボでも吐いてんのか?」
「嫌いの三文字をここまで引き伸ばすとは、トリニティの語学力は確からしいですね」
「……外野は黙っててくれないかな?私は今、先生と話してるんだけど」
「人の家の車壊しといて、外野扱いするなよ」
「ゴリラと目を合わせるなよ、直ぐに暴れるぞ」
「数分前の出来事を忘れるとは、高速道路に頭でもぶつけました?」
"R……"
ミカに対する皮肉が止まらない面々に対して、先生が口を開きかけるが、自身の背後で燃え盛る三号車と、後部が歪んでいる二号車を見て、そっと口を閉じた。
「……お前の目的はどうでもいいが、依頼人を襲うのなら、容赦はしない」
RAPTOR1が強い口調で言うが、ミカはどこ吹く風である。
もう、全面戦闘は避けられない。
「なら、力づくでいくね☆」
今までが小手調べでしかないことを、ミカの頭上が証明する。
高濃度の神秘による、擬似的な現実改変能力
形成された小宇宙から、隕石が顔を覗かせる。
「……構えろ、来るぞ」
「じゃあ、始めよっか!」
隕石の爆発が戦闘の狼煙と化した。
銃弾も、手榴弾も、かわすまでもない。だけど
「あーもう!!さっきからずっと鬱陶しいんだけど!!」
戦闘が始まり、早数分
聖園ミカは明確に苛立ちを感じていた。
銃撃戦など柄ではなく、サクッと拳でケリをつける予定だった。
多少の数の差などは気にしていなかった。
だが、先程から絶妙な距離感を保たれて、間合いに入ることが出来ない。
無理に入ろうとすれば、ショットガン持ちの二人が無理矢理に押し返してくる。
アサルトライフルの射撃は痛くも痒くもないが、ずっと顔に撃たれると邪魔でしかない。
的確にこちらの銃と落とす隕石を撃ち抜いてくる狙撃手も鬱陶しい。
一人一人が面倒臭い
それが、ミカが抱いた印象だった。
とはいえ、有効な攻撃は狙撃くらいなもの。
殆どが、ミカに有効打を与えるには至らない。
「じゃあそろそろ反撃しよっか!せぇーのー!!」
道路にパンチで穴を開けた後、そこを掴んで思いっきり引っぺがす。
一枚の壁を掴んだミカは、腕に力を入れて投げつける。
「マジかっ!?」
「回避を!」
相手の陣形が崩れた隙に、ミカは壁ごと突貫する。
こうすれば、相手は壁で自分のことが見えない。
狙うのはあの隊長らしき男、彼が連携の要だという確信があったからだ。
「そこかな?」
最後に相手を見た場所に向けて、足を強く踏み出す。
強い神秘によって強化された身体能力の生み出す力は、ミカを瞬歩の領域にまで持ち上げる。
土煙を突き進み、目の前の人影に拳を振り上げ。
相手を認識した時には、相手は格闘戦の構えをとっていた。
「えっ」
既に突き出した、右腕を掴まれ、相手側に引き寄せられる。
腕を勢い良く振り回して、振り解いたはいいものの、背中を見せる隙だらけな格好となってしまった。
慌てて相手に向き直ると
こちらに銃口が向いていた。
「えっ、なんで————あああぁ!!」
謎の先読みに困惑する聖園ミカに対して、銃のアンダーバレルから特殊弾が放たれる。
一時的に視界を失い、混乱したミカの腹に、強い蹴りが叩き込まれた。
この場において、本人達以外は知り得ないことだが。
聖園ミカの殴りつけようとしたアーマーは
キヴォトス屈指の大企業が威信と資産を賭けて制作したものであり、内蔵されたレーダー機器類は、接近するミカを所有者に報告していた、ということだ。
また、如何に威力が高い拳や銃撃でも、訓練もしていない素人の攻撃では回避も迎撃も容易いのだから。
開けた高速道路上で勝負を挑んだ時点で、聖園ミカが即座に拘束されるのは道理だった。
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