FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話   作:アッポラピッタポン

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ちょっと過去編


追憶 ①

 

 

 

「…………」

 

体が芯から冷えていくのを感じる。

 

桶の水をひっくり返した様な土砂降りが、体を冷やしていく。

 

だが、今はどうでも良かった。

むしろ好都合と言えるかもしれない。

 

雨によって視界は遮られ、音も聞こえにくいが、追手から逃げるというという状況下においては、全てがプラスに働く。

 

懸念点は無事に合流地点に辿り着けるか、ということのみだった。

 

「いやー、まさか二小隊じゃなくて、三小隊だったとは」

 

「……作戦中だ。あまり話すな」

 

この大雨の中でも問題なく声が聞こえるのは、自分の耳がいいのか、はたまたRAPTOR2の声が大きいのか

 

前者であることを願いながら、足を進める。

 

「RAPTOR2……あなたはもう少し副隊長の自覚を——」

「はいはい、オレだってやる時はやるからな?あんま心配すんなよ」

 

「だからそういう所が……はぁ」

 

「……RAPTOR4、お前も会話は慎め」

 

列を振り向き、その中でも一際目立つ得物を抱えている人影に注意を飛ばす。

注意された人影は、一瞬足を止めて謝罪する。

 

「……申し訳ありません、RAPTOR有るまじき行いでした」

 

「相変わらず真面目というか、なんというか……」

 

 

RAPTOR小隊が設立されてから、もう少しで一年が経とうとしていた。

 

この日、RAPTOR小隊は任務の最中にSRTからの奇襲攻撃にあい、撃退しつつも退却している最中だった。

 

設立されてから、長期間SRTへの妨害行動を続けた結果、SRT側も排除に動き始めたらしい。

 

FOX小隊以外のSRTは殆どが相手にならないが、三小隊に追い回されるのは初めてのことだ。

 

一刻も早く離脱しなければならない。

 

その時、RAPTOR1に通信が入る。

 

『RAPTOR3よりRAPTOR1へ、ポイントβにSRTを確認、四小隊目だ……メンド……』

 

「……そうか、監視を続けろ。直ぐに連絡する」

 

まさかの事態に僅かに驚愕するRAPTOR1

合流地点までの道に待ち構えられるとは、相手はここからジワジワと包囲を狭めていくつもりだろう。

 

どうにか突破したいが、消耗した状態で短時間で突破出来るとは考えずらい、更に、後続が追いついて挟み撃ちにされれば助かる手段はない。

 

最悪の場合、建物内に侵入する可能性を考慮していると、一筋の光明が差し込んだ。

 

「RAPTOR1、付近にはトリニティの遺跡群があります。この天候で隠れるにはうってつけかと」

 

「……ルートは?」

 

「少しズレますが、特段問題はないかと」

 

「……いいだろう、HOMEに移動を連絡しろ」

「了解」

 

提示されたルートに不備がないかを確認しつつ、通信を入れる。

 

「RAPTOR1よりRAPTOR3へ、今ルートを送った。偵察を頼む」

 

『はぁ……了解、早く帰りたい』

「……すまない」

 

愚痴を言いながらも、仕事を果たしているRAPTOR3に感謝を抱きながら、RAPTOR1は指示を下す。

 

「……これより我々は、RAPTOR6の進言に従い遺跡群に潜む。各自、迷彩装備の点検を怠るな」

 

「「「「「「了解」」」」」」

 

兎にも角にも、一旦の休息が必要だ。

そう思いながら、小隊は歩みを早めるのだった。

 

まさか、それが最悪とは言わないまでも、厄を呼び込む選択だったことには気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

トリニティの遺跡群

 

かつて、幾つもの分派が争った戦国時代の時に建設されたと言われている建物群。

如何にお嬢様が多いトリニティでも、この遺跡に値段を付けるのは不可能に近いだろう。

 

既にかなりの時が経ち、手入れも行き届いておらず、所々崩れかけてはいるものの、雨風を凌ぐには十分なものだった。

 

「危なかったな、危うくバレる所だった」

「まだ難所の中だろ、気を緩めるなよ」

 

隊員達もそれぞれの場所に腰を下ろしている。

隊員達の位置を確認できる少し小高い場所に陣取り、RAPTOR1も休息し始めた。

 

懐からもう随分とかるくなった水筒を取り出す、蓋を緩め少し傾けて喉を濡らす。

時折口に入る雨のおかげか、体はそこまで水分を欲していなかった。

 

アーマーの充電を確認すると、残り60%の文字が目に映る。

他の隊員も半分は切っていない様だ。

 

できる限りの節約をしているらしい、いつも騒がしいが、こういう所は繊細な連中だ。

 

苦笑と感心の入り混じったため息を吐くと、こちらに誰かが向かってくる気配がする。

 

「よっ、水は大丈夫か?この雨じゃ問題なさそうだが……」

 

「……RAPTOR2、まずは自分の心配が先だろう。……食料の残りは?」

 

態々ここまで雑談をしに来たのかと、咎める様な口調のRAPTOR1。

 

「残りは少ないな、それにそろそろ味にも飽きる。まぁオレたち以外の数名は歩き方からしてなんか持ってきてそうだが」

 

「……はぁ、懲りないな。何処にそんな物を入れるスペースを……」

 

こっそり食料を持ってくるという遠足の様な状況に、苦笑いを止めることが出来ない二人。

 

そろそろ強化訓練月間でも入れるか、という考慮は周辺の警戒にあたっていたRAPTOR4から連絡が入り、中断することになった。

 

 

『RAPTOR1、こちらにSRTが接近してきました。まだ気づかれてはいない様ですが……先制しますか?』

 

「……いや、まだ手は出すな……そうだな……」

 

この場所も完全に隠れ切れる保証はない、それならばこちら側に引き付けてから各個撃破する。

隊員達に命令を出そうとした時、RAPTOR2が割って入る。

 

「いや、まだオレ達の体力も回復しきってない。各個撃破どころか一網打尽でコッチがやられる」

 

「……ならどうする、他に手があるのか?」

 

「もちろんだ、即興にしてはいい手だと思うがな」

 

RAPTOR1の問いに、RAPTOR2は小さく笑いながら地図を空中に映し出す。

現在自分達が居る場所から一段下の地形。

 

「この遺跡群の地下には、広大な地下墓地が広がってる。長さ数十キロだ、隠れるにはもってこいだろ?」

 

「……入り口は?」

 

「さっき見つけた、草木に隠れてるから早々には見つからない筈だ」

 

だから、さっき報告する為に来たんだよ。と笑うRAPTOR2の横で、RAPTOR1は考え込む。

 

弾薬も爆薬も余裕はない。

RAPTOR2の言う通り、ここで戦っても敗北する可能性が高い。

 

一番の優先事項は、離脱よりも生存だ。

(……考え込む時間も惜しいか)

 

「……移動する、急ぐぞ」

 

体に叩きつけられる雨を退かしながら、隊員達を立ち上がらせる。

 

「……RAPTOR2、案内を頼んだ。RAPTOR5、ここから街の外れに自爆ドローンを飛ばせ、僅かでも引き離す」

「RAPTOR5了解、出来るだけ爆薬は節約するか」

SRTが一小隊でも離れれば、その分見つかる可能性も減る。

 

囮の準備を命じながら、痕跡を消し、RAPTOR2の後に続いて、鬱蒼と茂る森の中に入る。

 

目の前の男は休憩時間に探検ごっこでもしているのだろうか、そうでないと納得が出来ないくらいには、地下への入り口は森の奥深くだった。

 

「……ここか、早速入るぞ」

 

歴史を感じる苔むした階段を踏み締めながら、地下墓地に足を踏み入れる。

ネズミが走り回り、地下にその音を響かせているが、外の雨に比べれば静かなものだった。

 

階段を降り切ろうとした時、全員が思わず足を止めた。

 

 

 

 

嫌な予感がする。

 

この一年、RAPTORとして従事する中で磨き上げられた第六感とも言えるものが悲鳴を上げている。

今直ぐに踵を返すべきだと叫んでいる。

 

普段ならそれに身を委ねたが、今は優先するべきことがある。

 

「……長居するべきではないな」

 

そう呟くのが精々だった。

群がる不安を消し去るかの様に、フラッシュライトを点灯させる。

 

だが、それでも先までは見通すことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩の為に奥深くまで移動した、先程までの狭い通路とは違い、少し開けた広間となっていた。

 

自分達が進んできた道以外にも、何本か道が通っている。

 

 

「……止まれ、ここで休息をとる」

 

別に探検に来たわけではない、ここで十分だろう。

これ以上は進まない方がいいと訴えかける本能に、理性で理由付けをする。

 

「……三十分だ、その間に装備を整えろ」

 

「了解。あーあ、ケツが痛いのなんのって……」

「なんだ?痔にでもなったか?」

「岩に座るのが痛えってことだよ、俺はお前と違ってケツは柔らかいんだ」

「何で俺の尻の柔らかさを知ってんだよ、気持ち悪りぃ……」

「……眠い……」

「RAPTOR3、丁度ここに柔らかい枕があるぞ?」

「……ケツじゃん」

 

「…………」

 

思い思いに話を始めた隊員達を無視しながら、RAPTOR1は時間を確認する。

 

16 : 29 : 45

 

あと数秒で四時半になろうとしていた。

出発する頃には、追跡が緩んでることを祈るRAPTOR1だったが

 

 

 

何故か、時計から目が離せなかった。

 

16 : 29 : 56

 

 

16 : 29 : 57

 

 

16 : 29 : 58

 

 

16 : 29 : 59

 

 

 

 

目が、離せなかった。

 

 

 

16 : 30 : 00

 

 

 

 

 

来る

 

「っ!?総員警戒!!」

 

叫ぶと同時に、自分が揺らぐのを感じる。

精神的な意味ではなく、肉体的な意味で

まるで、糸を解くかの様に、全身がバラバラにされたかの様な

 

軋む脳を働かせて、周囲の様子を見れば、自分と同じ状態のRAPTOR2がなんとか見える。

 

違うだろうという確信を持ちつつも、隊長として、RAPTOR1は声を張り上げる。

 

「地震だ!頭を守れ、落石に注意しろ!」

 

分かっている、地震の揺れ方などではないと。

 

不確定情報を流すべきではない、だが————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————、——っ!? ふぅぅ。……ふぅぅぅ……」

 

酸素の不足を訴えた脳が、意識を無理矢理こじ開ける。

 

横たわった自分の体。

どうやら気絶していたらしい。

 

手足に回る酸素を実感しながら、ボヤけた視界で改めて辺りを見渡す。

自分と同じ様に倒れている隊員以外は風景も変わりがない。

 

隊員達も目立った外傷はない、何者からかの攻撃という線は現状低そうだ。

 

体に喝を入れ、アーマーの自動調律機能と合わせて姿勢を安定させる。

 

「……今のは一体……」

今の現象について考える前に、周囲の安全を確認する。

未だに動きが鈍い手で拳銃を握りしめて、近くのRAPTOR2の下に向かう。

 

「RAPTOR2、無事か?」

 

軽く体を揺さぶれば、直ぐに眼部に光が戻る。

 

「……ゴホッ!……無事に見えるか?確かに怪我はないが、頭がまだ揺れてるぜ……」

「……他の連中を起こすのを手伝え、ここを抜け出すぞ」

 

またあの揺れが起こる前に脱出しようと、隊員達の意識を起こそうとするが、RAPTOR2はそれを止める。

 

「……なんだ?今は時間がない、後に——」

「一回落ち着け、周りを良く見ろ。違和感を無視するな」

「何を言って……」

 

肩を掴まれることで動きが止まり、周囲の風景がハッキリと目に映った。

 

変わっている。

 

 

先程通った通路が消えて、代わりに別の場所に新しい通路が見える。

 

「…………」

「どうやら、面倒な所に入ったらしい」

「……言ってる場合か」

 

RAPTOR1の思考が固まったことを知ってか知らずか、RAPTOR2は遠い目をしていた。

 

「原因は分かるか?揺れが来る前に叫んでたよな?」

「……恐らく時間だ、四時半きっかりに揺れが起こった。時間が経てばルートが変わるらしい」

「そんなアホみたいな話……ありそうだな、キヴォトスなら」

 

銃弾を弾く人間がいる時点で、キヴォトスに常識など求めてはならない。

学園都市に住むロボット市民は、疑問に感じることすらないだろう。

 

「……ともかく、脱出を優先する。閉じ込められるのだけは防ぐ」

「天井でもぶち抜くか?」

「いや、爆薬の量が足りないな、それに崩落する可能性もある。歩いて探すのが一番だろう」

 

落ち着きを取り戻したRAPTOR1は、二人で隊員達を復帰させ、自分達が居る場所にマーキングを施した。

 

「……HOMEとの通信は繋がらないか……ジャミングという訳ではなさそうだが……」

 

「特異性、というやつですかね。短距離なら使えますし」

「恐らくな、確証はないが」

 

揺れた脳で考えるにはあまりにも難題だったが、難儀出来る程情報はなかった。

分かっていることは、これは自力でしか脱出出来ないという確信のみ。

 

「……間隔に気をつけろ。揺れが来たら直ぐに停止する」

 

「了解、早く抜け出したいな、空気が重い……」

「食料は……最悪ネズミでいいが、生は勘弁したいな」

「ネズミも勘弁ですけどね……」

「想像させないで欲しかった!」

 

ゾッとする様な話に、喉奥が会話を拒否しているが、ないとは言い切れないのが嫌な所だ。

頭の中でネズミが走り回っている。

 

「……行くぞ」

 

神頼みではあるが、祈っておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(二時間後)

 

小隊は歩き続けていた。

 

「……なーんか、同じ道を回り続けてるって感じがしてきたな」

「実際は、メチャクチャ広いだけですが」

「出発してから、2 回揺れたが頭痛はしないな、体が慣れたのか?」

 

道の傾きを確認して、上に向かおうとはするものの、道自体が変わってしまってはどうしようもなく。

完全に八方塞がりとなっていた。

 

一般人なら絶望している所だが、隊員達は違った。

 

十分程前から、僅かに状況が変化していたからだ。

それは、長く移動してきたからこそ知覚出来たこと

 

通路に水の流れが出来ている。

外の雨はここでも幸運をもたらした。

 

これを辿れば、外に繋がる。

その確信があったからこそ、気楽に軽口を飛ばしていた。

 

徐々に増える水量に比例して、期待も膨らんでゆく。

 

そして、流れを辿り曲がり角を曲がろうとした時。

 

 

 

 

 

RAPTOR1が、無言で左手を挙げて停止を促す。

 

それは

 

 

 

 

 

 

 

 

「————よ?——って——」

 

不明な勢力が居た際の合図だった。

 

 

 

 

 




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