FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話   作:アッポラピッタポン

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追憶 ②

 

 

「————よ?———って———」

 

 

奥から聞こえる声は、通路の密閉空間と相まって、怪物の叫び声の様に聞こえた。

だが、間違いなく話し声なことは確かであり、故に緊張が走る。

恐らくは、この地下墓地の住人。

 

気がつけば、先程までの楽観的な雰囲気は消え去り、全員が一切の音を殺して、耳をすましていた。

 

この距離まで近づかれた以上、相手は自分達の声を聞いており、こちらを認識している。

最早、通信音でさえ相手に相手に聞かせる訳にはいかない。

 

—— こちらから仕掛ける。指示に従え

 

RAPTOR1のハンドサインを全員が食い入る様に見つめる。

 

—— RAPTOR3と4は1ブロック後退、援護を頼む。

 

—— RAPTOR7と8を前に、残りはこの場で待機だ。

 

了承の頷きすら不用だとでも言うかの様に、隊員達は即座に場所につく。

呼吸音と足音をなくし、相手の響き渡る足音が脳に残響する。

 

—— 始めるぞ

 

全員の準備完了の合図を聞いて、RAPTOR1は戦闘の開始を決意する。

懐から手榴弾を取り出して、ピンを抜かずにそのまま落下させた。

 

 

カンッ カーンッ

 

重量に従い落下した手榴弾は、勢い良く地面にぶつかり、跳ねて、またぶつかった。

長い沈黙、嵐の前の静けさを再現した様な状況、間違いなくこちらの位置を認識した。

 

相手の足音が途絶える。だが、接近してくる筈だ。

聴覚ユニットが微々たる音を検知している。

 

 

接敵まで、後

 

3メートル

2メートル

 

「——っ!」

 

曲がり角から、物凄いスピードで人影が飛び出す。

手にはアサルトライフルを持ち、ジャンプした状態で発砲した。

 

ダダダダダダッ!

 

牽制の弾幕

体勢が悪い為、手前の壁に全て当たり、こちらに損害はない。

数名が即座に撃ち返すが、直ぐに隠れられてしまう。

 

そしてそれと同時に、飛び出して来た側の壁から、新たな人影が顔と銃を覗かせる。

 

対物ライフル

 

RAPTOR4の持つものとは異なるが、口径的に間違いはない。

 

「RAPTOR3、対処しろ!」

 

既にスコープを光らせおり、射撃状態を取っている相手に、RAPTOR3は照準を合わせるが、敵狙撃手の後ろから何かが見えた。

 

「っ!? ミサイルだと……!」

 

驚きの声を掻き消す様に、ミサイルの発射音が響く。

発射された弾頭は、空中で幾つもの小型弾に分かれて、目標に向かう。

目標にされたのは、前にいた6人。

 

「迎撃しろ!」

 

その指示の前に、既に迎撃を始めていた。

だが、数発落とした所で、クラスターミサイルの量を減らすには至らなかった。

 

「このまま仕留める!」

 

相手の指揮官らしき少女の声が聞こえる。

確かにこのままではマズイだろう。

 

だが、やり方はある。

 

前に立つ二人がトリガーを構える

常にRAPTORの前衛を担当し続けた二人が共通して持つその銃は、分間三百発を誇るショットガンであり。

 

「全部落ちろ」

「なっ!?」

 

その威力は、有効射程距離に存在する物体を悉く粉砕する。

爆風と破片を肌で感じながら、驚愕で動きが止まった敵を狙い撃つ。

 

RAPTOR3が伏せていた狙撃手の頭部に弾丸を叩き込み、相手は強く突き飛ばされた。

 

『狙撃手のヘイロー消失を確認、沈黙した』

「了解」

 

「ヒヨリっ!」

「……っ!」

 

気絶した狙撃手を、先程のミサイル持ちが遮蔽物に引き込む。

 

「……このまま一人ずつ減らしていく」

「了解、援護する」

 

相手の動きも悪くはないが、いかんせん数的有利が強く働く。

とはいえ、無理矢理距離を詰めるわけにもいかず、膠着状態へと移行した。

 

先程までの激戦が嘘かの様に静まり返ったカタコンベ内に、相手の声が僅かに木霊していた。

 

耳に意識を傾けると、足音が静かに遠ざかっていく音が聞こえる。

 

「………逃げる気か、追うぞ」

 

外に脱出出来るかもしれない切符を手放す訳もなく、相手を追いかけようとした時。

 

影から、何かが飛び出して来た。

 

「っ!迎撃しろ!」

 

RAPTOR1の声と共に、姿が浮かび上がる。

青色の髪を靡かせながら此方に突撃してくる人影。

手には手榴弾らしき物を持っている。

 

自爆

 

(油断したか…!)

 

内心歯噛みする。

 

この閉鎖空間で爆発した場合、ヘイローの無い自分達はまず助からない。

生徒とロボットの違いを上手く突かれた形になってしまった。

 

後方にいる狙撃手達は助かるかもしれないが、重傷は免れないだろう。

 

 

自分の不甲斐無さに苛立ちながら、RAPTOR1は何処に疑問を感じていた。

 

 

 

 

 

———なら何故仲間を先に逃した。

 

 

———何故、少女の目は死を覚悟している。

 

 

———何故、ピンを抜くのを躊躇っている。

 

 

 

 

 

 

まさか

 

 

 

 

最悪の想定が脳を過り、RAPTOR1の思考を加速させ、最善手を導き出す。

 

「隊長!?」

 

荒々しい音と共に、愛銃を地面に投げ捨てる。

僅かに軽くなった足を動かして、少女に衝突しようと強く地面を蹴った。

 

「っ!?」

 

驚愕に染まった少女の顔を見て、確信を持つ。

最後の一歩を踏み込むと同時に、少女の両手首を掴んで押さえつける。

生徒特有の馬鹿力をいなしつつ、そのまま体を中に浮かし、背負い投げの要領で背中を地面に叩きつけた。

 

「がっ……!」

 

鈍い声と合わせてヘイローが消失する。

 

「………ヘイロー消失を確認、対象を無力化」

 

RAPTOR1の呟きと同時に、隊員達が駆け寄ってくる。

「誤射注意もなく前に出るなよ、危うく撃ちかけたぞ」

「全くです。肝が冷えました」

 

「…………」

だが、そんな声を無視し、RAPTOR1は少女の握っている手榴弾に手を伸ばす。

気絶して尚強く握られた手榴弾を手に取り、書かれていた名称を確認する。

 

サーモバリック手榴弾

 

治安が存在しないキヴォトスに於いては数少ない、所持が禁止されている兵器だ。

 

周囲の酸素を燃やし尽くし、地下で使われた場合には甚大な被害を与える。

無論、ヘイローがあろうが無かろうが関係はない。

至近距離にいたのなら死亡するだろう。

 

「………覚悟の上か」

 

「オレ達諸共って所か、危なかったな、オレ達もコイツらも」

「残党を追いかけましょう、また道が変わったら……」

「流石にウンザリだな……」

 

強化アーマーの下からでも分かる程、ゲンナリとした声を出すRAPTOR5に同意を示しながら、隊員達は足を前へと回し始める。

 

だが、RAPTOR1は倒れ伏した少女を見下ろしていた。

 

土埃に塗れた体、傷だらけの服、使い込まれた銃器、痩せ細った腕

 

これらの要素は、少女のこれまでの道筋を無言で示しているかの様に見える。

RAPTOR1が、彼女達の来歴を察する事は、そう難しいことではなかった。

 

恐らくは————

 

背後からRAPTOR2が声をかける。

 

「どうしたんだよ?………連れてくつもりか?」

 

「……あぁ、悪いが背負ってやってくれ、交渉のカードになるかもしれない」

 

「あいよ、隊長に背負わす訳にもいかないからな、っと………軽いな……何食ってんだ?」

 

重さを感じない少女に驚きつつも、RAPTOR2は少女を背負い、先を急ぐのだった。

 

 

 

とは言え、追跡劇は直ぐに幕を閉じた。

 

精強な特殊部隊相手に、そう長く逃げ続けられる筈もなく。

追い詰めた相手に降伏を要求していた。

 

「おーい、出てこーい!早く降参しろー!」

「大丈夫だ、ちゃんと捕虜の扱いはしてやるぞ!」

「まぁ、今の私達に捕虜扱いをする余裕は……」

「何で今言った!?オレが騙してるみたいじゃねえか!」

「余裕がないのは事実だがな……」

「………眠い……」

 

 

壁越しに降伏勧告を行うも、返答はない。

物音はするものの、会話をする気がないのか黙りこくっている。

 

隊員達が業を煮やしかけていたその時、後方から小走りのRAPTOR1と RAPTOR2が合流する。

 

「おいおいお前ら、子供相手に脅しなんて恥ずかしくないのか?オレに任せろ」

「副隊長に言われたくないです……」

「大人の悪い所の福袋みたいなクセに……」

「まぁ、でも任せて見ても………あの、その担いでる少女は……」

 

自身満々に、隊員達の前に躍り出るRAPTOR2。

 

「お前達のリーダーは預かった!!出て来なければリーダーを撃つぞ!」

 

「「「あーもう!!ややこしくなった!!」」」

「隊長、アレ撃っていいですか?」

「部隊の癌だな、早めに切り取るか」

「外道を一輪車で爆走してる奴がいるな……」

 

「………オレの身の安全の為にも、早く出て来てくれると助かる!」

 

部隊の銃口がRAPTOR2に向けられ、トリガーに指が触れかけた時。

 

「………………」

 

壁から何者かが頭を覗かせた。

 

先程の戦闘では見かけることのなかった、ピンク色の毛髪と顔を覆う謎のマスク。

柔らかい雰囲気を纏った少女が、両手を上げながら壁から出てきたのだ。

その少女に釣られてか、残りの二人も壁から顔を出した。

 

「………偶には脅しも有効か」

「同意します……実行したのがRAPTOR2なのが不満点ですが」

「控えめに言ってもマフィアだったな……」

「笑顔でいってましたし、昔からやりたかったんじゃないですか?」

 

「一応功労者なんだが、よくやったぐらい言ってくれないか?後早く武装解除しろ」

 

さっきのヤクザ風味は何処へ行ったのか、真面目な顔で正論を投げるRAPTOR2に怒りを覚えながら、隊員達は武装解除を行う。

 

「このランチャーはオレが持つ、弾は抜いとくか……」

「……好きにして」

「さっきの爆破は中々だったぞ、いい腕だ」

「…………」

 

「うわぁーーん!!捕まってしまいました!どうせ死ぬならご飯食べて雑誌を読んだ後がいいです!!何か下さい!」

「雑誌はありませんが、後でドライフルーツを何個か渡しますから、大人しくして下さい」

「どうせなら全部下さい!!」

「さては結構図々しいですね?貴方」

 

「…………」

「ありがとうございます、その仮面も確認したいのですが……」

「…………」

「えっーと……手話?」

「……姫は喋れないから」

「成程、ありがとうございます。『仮面は外せないけど、武器じゃない』……分かりました」

 

隊員達が回収した銃器を背負い、準備を整える。

 

 

「………道案内を頼めるか?また道が変わる前に」

 

「……分かった……でも、さっきの戦闘で疲れたから時間がかかるかもしれない」

 

足も怪我したし、と肩を竦める少女。

だが、それよりもRAPTOR1の目を引いたのは、腕に巻かれた包帯と、傷跡の方だった。

心底から面倒だという表情で溜息を吐く彼女にとって、肉体はよっぽど不便らしい。

 

「……そうか、では俺の背中に乗りながら指示を出してくれ」

「………?」

 

頭に疑問符を浮かべる少女を横目に、RAPTOR1は隊員達に通達する。

 

「各隊員に通達する。捕虜連中を背負ってやれ、背負ってない奴は周囲の警戒だ」

「………子供じゃないんだけど」

「子供だろう、どう見ても」

 

不満か強がりかは定かではないが、少女が恨めしそうにこちらを見上げている。

尤も、傷だらけの状態では威嚇にもなりはしないが

 

「RAPTOR1……!このガキが煩いので静かにさせてもいいですか!」

「うわぁーーん!!早くドライフルーツを下さい!」

 

額に青筋を目立たせながら怒気を発しているRAPTOR4と、その背中で泣き続ける少女。

 

隊員一同は心の中で黙祷した後

 

「………RAPTOR4、幸運を祈る」

「RAPTOR1!?」

 

そっと見ないフリをした。

何やかんやで、結局は面倒を見ると知っているが故の行動である。

 

「………地獄みたいになってるけど」

「その地獄を早く終わらせる為に、背中に乗ってくれるとありがたい」

「…………」

 

かがみ込んで尚高いのか、軽いジャンプの音と共に、背中に重さが追加される。

「………これでいいんでしょ……」

耳元に不満気に口を尖らせている声が響く。

 

「……あぁ、指示を頼む。では出発するとしようか」

 

こうして、8人と4人の奇妙な部隊は、地下墓地の出口へと向かい始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下墓地に迷い込んでから早数時間、一向は変わらずに通路を歩いている。

必然、外に出られるという安堵から雑談という名の情報収集が始まっていた。

 

「次の角を右……」

ぶっきらぼうな声を背中に受けながら、歩みを進める。

 

「了解した。………お前達はここに住んでいるのか?」

 

「………言う必要ある?……私達が住んでるのはここを抜けた先にある自治区」

 

「自治区?……学園があるのか?チンピラの隠れ場かと思っていたが……」

 

「………まぁ、名ばかりの場所だけど……アリウス分校って聞いたことある?」

 

頭の中を探すが、それらしい知識を発見する事は出来なかったが、横で警戒していたRAPTOR6が会話に割って入ってきた。

 

「アリウスですか……確かトリニティの分派の一つですね。大昔に追放されたと聞きましたが、こんな所に隠れていたとは……」

 

「………詳しい歴史は知らないけど、多分あってると思う。それ以来ずっとここで暮らしてる」

 

「………追放されたのは数百年前ですよね?未だに見つかっていないとは……」

「……トリニティの連中は、もう忘れてるんじゃないか?」

「まぁ、トリニティの校風的には、違和感はないですけどね。少数の敵に大人数で石を投げるってのがお得意でしょう?」

「お嬢様学校だからな……陰湿ってのは言い過ぎか?」

 

「………そっか、向こうはもう私達なんて眼中にもないんだ……そりゃそうか……」

「………」

 

アリウス追放時の話を聞きながら、小さな声で呟く少女の言葉を耳元で聞いて、複雑な気持ちを抱いていると、遠くに日の光が差し込んでいた。

間違いなく出口を示している。

 

「……あそこが自治区の入り口………ここまで来ればあと少しだから……降ろして…」

「ミ、ミサキさんは背負われてる所を見られるのが恥ずかしいんですよ」

「………成程」

「いいから!」

 

図星を突かれて顔を赤くしながらも背中を強く押して、無理矢理逃れる。

列の後方で何の躊躇いもなく背負わせている太々しい少女とは対照的だった。

「貴方は少しは躊躇を知りなさい!体を預け過ぎです!」

 

下で潰されかけている哀れな犠牲者も先程と変わらずに叫んでいるが、隊員達は気にしない。

 

「………自治区に入ったら、マダムに報告しないと……」

「よくその冷静な顔出来たな、さっきは赤かったのに」

「うっさい!」

「痛っ!?一応捕虜だからな!」

 

足を蹴られて悶絶するRAPTOR2を因果応報の目で見ながら、RAPTOR1は疑問を問う。

 

「………マダムというのは、ここの支配者か?」

「……そんなところ、マダムのとこまでは案内するから」

 

顔に影を落とした少女を見ながらも、地下墓地の外へと足を踏み出す。

 

永く暗い地下にいた為か、明るさに目が慣れておらず、光に飲まれたかの様な感覚に陥る。

掌を盾にしながら目を慣らす。

 

そこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灰色の世界が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリウス自治区にようこそ……何もない場所だけど」

 

 

 

 

 

 

 

 




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