FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話   作:アッポラピッタポン

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追憶 ⑥

 

 

隣の射撃訓練場からの銃声や、爆弾の爆発音が耳に届く。

喧騒である事に違いはないが、そんなことで気を揺らす程軟弱な筈もなく。

 

雑音を遮断して、机の上に広げられた物を見据える。

四隅に重りを乗せて、一点の皺を無いようにピッチリと広げられた地図

 

偵察で外に出た時に見た風景とも合致する、トリニティ自治区の地図だった。

 

「……どうだ?イメージ出来たか?」

 

「裏道は理解したが……」

「大通りは余り見ていないので、十分には……」

 

サオリとスバルの言葉に、RAPTOR1は軽く頷いて同意を示す。

「だろうな、百聞は一見に如かずとも言う。だが、残念ながらお前達には時間がない」

 

言外にこれ以上の想像は意味がないと言いながら、机の下から何かを取り出し、机に転がす。

ゴロゴロという重低音が、ひび割れた机の上で転がっていく。

 

「これは……?」

 

サオリがその内の1つを手に取り顔の高さまで持ち上げる。

手に収まるサイズのそれは、よく見れば人の形や、他にも何かを模っている様に見えた。

 

「……俺と何人かで作ったものだ。それぞれ歩兵、戦車、砲兵、ヘリ、トラックだな」

 

木製で出来た模型と言っても遜色ないそれは、外の店で売っている物と同じ見える。

 

「手作りなのか……?」

「結構細かい所まで……あっ、窓もあるんですね」

 

その言葉にRAPTOR1が顔を背ける。

娯楽になったのは確かであり、隊員全員の士気の低下を防ぐ一助にもなったが、まじまじと見られるのは何処か気恥ずかしい。

「……ちょっと楽しくなったのは事実だが……まぁそれの出来は今は関係ない。トリニティの戦力をカイザー目線で作っただけだ、今回はお前達二人でこれを攻略してもらう」

 

「「……」」

 

フィギュア鑑賞をしていたら、急に訓練が始まった。

しかも極めて本番に近いものが。

 

そして、僅か一週間程度の付き合いだが、目の前の教官がこういう状況で冗談を口にしないのは、サオリ、スバル両名が良く理解していた。

 

沈黙の間にもRAPTOR1は手早く模型を並べていく。

「……お前達の足元にも、同じ模型が置いてある。早く手に取れ」

 

その言葉に、反射的に下に目を向ければ、木製の目と視線があった。

手に取れば、先程よりは数の少ない人形が姿勢を正しく起立していた。

 

「……サオリの方の人形、なんか凝ってません?」

 

「……これは……私たちか?」

 

スバルの手持ちが向こう側の人形と同じ様な人形なのに対して、サオリの手にはスクワッドの特徴を捉えている人形が四体いた。

 

マスクをしていたり、ランチャーらしき箱を持っていたりと、芸が細かい。

 

「……スクワッドは性質上、一人で一部隊換算にさせてもらった」

 

「まぁ……それに異論はないですが……」

どうせなら、自分の分も——と考えるスバルを尻目にRAPTOR1は互いの戦力を説明する。

 

「今回の仮想敵はトリニティだな……戦力は歩兵が十個大隊、戦車大隊が三、砲兵隊が四だな……ヘリはあって数機だ、平時には要らないからな」

 

「それに対して私達は……」

「二個大隊と少し、か。迫撃砲もあるにはあるが……」

「戦力差は10倍位ありますね……加えて相手の委員長クラスも加わって」

 

「……低いとは思うが、シスターフッドや救護騎士団の参戦もあり得る。順当に行けばすり潰されるだけだな……」

 

「「「……はぁ」」」

 

覚悟をしていたつもりだったが、想定以上の戦力差に溜息が漏れ出る。

二人の手元の駒と、RAPTOR1が持つ駒の量は、見たくない現実を如実に映し出していた。

 

「最低でも、初手で半分程度は削りたいが……」

 

「……まぁ兎に角、一度やってみるとしよう。本番では、これにゲヘナも加わるのだからな……始めるぞ」

 

「「了解……」」

 

こうして、気の遠くなりそうな演習が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あっ、ここキルゾーンだ」

「砲兵か……出来るなら最初に潰しておきたいが……」

 

「戦車の巡回が厄介だな……耐えられる上に応援まで呼ばれる」

「内部に潜入して、ルートを得る所からですね」

 

「二方向からの奇襲なら結構安定しますね」

「だがそれは相手も同じだ、大規模な分断をしてからでないと、直ぐに囲まれてしまう」

 

「委員長クラスの戦力が厄介なことこの上ないな……」

「スクワッドが壊滅するのは流石に……作戦とか言ってる場合じゃないですね」

 

「戦車は上手く誘導出来れば、高所から破壊出来るのでは?」

「市街地に誘導出来るならアリだな……ノコノコと来てくれるかは分からないがな……」

 

 

必死に頭を回転させながら、盤上の駒をなんども動かし続け、勝ち筋を見つけ出そうとする。

試行回数を増やす度に、絶望的な戦力差を見せつけられ、まだ若い胃がキリキリと痛む様な音を立てている。

 

気付いたら誘い込まれている砲兵隊のキルゾーン、中盤から市街地を破壊しながら直線でこちらに突っ込んで来る戦車、ホラゲーの敵の様に神出鬼没な殺戮兵器と化している特記戦力、純粋に歩兵の数の暴力。

 

奇襲が出来る程度のアドバンテージでは到底制圧不可能な戦況は、二人の頭に血を上らせる事態になっていた。

 

「……今日はここまでにしておくか」

 

頭から湯気が出ている様な幻視さえしてしまう程には、二人は考えこんでいた。

「やはり散発的な奇襲を繰り返すしか……」

「私が五個大隊位倒せばいけるか?」

 

「落ち着け錠前、それは現実的じゃない……」

 

サオリの言動に呆れつつも、軽く腕を押さえるRAPTOR1。

リアルタイムで数十個の駒を動かし続けていた彼も、かなり疲労が溜まっていた

 

「……今これ以上考えても碌な案は出ないだろう。互いに分かったことを上げていけ」

 

・榴弾砲は少人数での奇襲で破壊する。

・大規模な分断が必要不可欠。

・戦車は上手く釣れたなら撃破は可能だが、奇襲が望ましい。

・補給路は相手の武器庫も利用する。

・特記戦力は決定打不足で対処法が無い。

・現段階の戦力では開始から1日持たない。

 

希望がある様な、ない様な。

現状を鑑みて、改めてため息を吐く二人に、RAPTOR1は気を紛らわせるかの様に話す。

 

「……とは言え、トリニティは多頭型の学園。緊急時に全員が足並みを揃えられるとは思えない、というか内紛が起きる確率が高い。数百年前に追放した分派が復讐しにやってきた、なんて殆ど信じないだろうが……」

 

「ある程度時間が経てば、この兵力が相手になる……」

「……ティーパーティー三名の暗殺、無力化は前提になりそうですね……」

 

「……トリニティ、ゲヘナの重鎮並びに主要戦力を奇襲で壊滅させた後、相手の内紛を発生させ、その隙にまた奇襲を仕掛ける」

 

RAPTOR1の出した結論は、二人に異論こそ出させなかったものの、疲れが顔に出ていた。

 

「マダムは心配は要らないと言っていたが、どうやって勝つつもりなんだ?」

「その言葉、外で聞かれたら罰則ですよ……気持ちは分かりますが」

 

「……そもそも」

 

ベアトリーチェは本当に、ゲヘナとトリニティを倒すつもりがあるのか?

 

RAPTOR1はこの疑念を二人に漏らさず、晴らすことも出来なかったが、一先ず棚上げする。

疑念が晴れるには、きっと1年掛かるだろう。

 

 

 

 

 

「……そういえば、先日ウチのRAPTOR5(バカ)が戒野を泣かせた件についてだが……何を頼んだか聞いているか?」

 

話を変える意味合いもありながら、純粋な疑問を投げかける。

 

「そんなことが?意外な様な、そうでもない様な……」

「ミサキが?私は特に……いやそういえば、何か言っていたな」

 

てっきりサオリにも相談が入っていると思っていたRAPTOR1は拍子抜け、と言った感じで椅子に腰掛ける。

 

「意外だな……RAPTOR5に聞いても頭を抱えているから、本人に聞くしかないと思ったんだが……」

 

「……確か『……一つだけ願いが叶うとしたら何がいいと思う?』とかだったか?……ミサキらしくない言葉だったから覚えていたんだが……」

 

普段のミサキなら口にしなさそうな希望を含んだ言葉はサオリに暫くの違和感を与えていた。

いつの間にか、スバルも席につき、模型を触りながら耳を傾けている。

 

「なんて答えたんです?トリニティに隕石が落ちるとかですか?」

 

「……私と姫が答えるよりも先にヒヨリが——」

 

『お願いを100個にして貰います!』

 

余りにも想像しやすい現実に、RAPTOR1は笑いが漏れる。

小学生の様な発想だが、RAPTOR5が頭を抱えるのも納得だ。

 

肝を冷やしながらお願いを聞いてみたら、召使い同然になってしまった。

同情は出来なくもないが、『なんでも』の定義をしていなかったRAPTOR5の落ち度だ。安心して飲み会のネタにできる。

 

「……残り10個位になったら、更新した方がいいな」

 

「……いいのか?自分の部下がこき使われているんだぞ?」

「いまさらですが、命令権の混同では?」

 

「……確かにそうだが、アイツも公私は弁えてる。どちらを優先するかはアイツが決めることだ」

 

軍隊では致命的な点を笑い飛ばすRAPTOR1、笑顔を見たことはあったものの、笑い声は初めて聞いた二人は目を点にしていた。

 

暫くしてから軽く息を吐き、二人に向き直る。

 

「……いや、少し安心しただけだ。こちらの想像以上に、お前達は自由で反骨心があったんだな」

 

洗脳された少年兵の軍隊だと思っていたが、彼女らはもう直ぐにあの傲慢な怪物を乗り越える力を持つだろう。

 

だが例えいつか乗り越えるとしても、禊は必要だ。

 

このある種澱んだ場所から、解放される為の禊が。

 

 

そこまで育て上げる。

 

「……錠前も梯も、何かやりたい事があるならミサキを通して言いつけるといい。100個もあるからな……太っ腹に使ってしまえ」

 

「急に言われると、悩みますね……」

「そうだな……やりたいことか……」

 

いつか復讐を終え、彼女達が目的を失っていたのなら、カイザーに誘ってもいいかもしれない。

 

 

「……さて、休憩は終わりだ。続きをするとしようか」

 

遠く、輝かしい未来に想いを馳せながら、RAPTOR1は席から立ち上がった。

 

 

 

 

RAPTOR4離隊まで後———

 




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