FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話   作:アッポラピッタポン

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最近自分の作品見てたら、文字量が安定してなくてびっくりした。


追憶 ⑦

 

 

最早家同然にすらなり始めた、宿舎の地面から起き上がる。

其々が座る場所すらなんとなく決まっている。

 

恐らくRAPTOR2が持って来たであろう綿が出尽くした、何の役割も果たせない椅子はRAPTOR4が銃を立て掛けたりしてみて、意味を見出そうとしていたが、完全に置物と化していた。

 

窓の縁部分には、木彫りの模型が並んでいて、こちらを見守っている。

案外、守護神なんてのはこういうのから生まれるのかもしれない。

 

窓の外を見てみれば、太陽は昇っておらず、自治区一帯を霧が満たしている。

数十分後には、山を乗り越えた太陽が自治区に差し込み、それに霧が反射して生み出す幻想的な風景が目に入るだろう。

 

環境は劣悪だが、この時の美しさは、キヴォトスでも有数の物だと確信がある。

とは言え、その美しさは自分の精神安定以上のものではないのだが……

 

そんな感傷的かどうか分からない曖昧な感情を抱えている間に、他の隊員達も次々と目を覚ましていく。

 

ここにコーヒーさえ有れば完璧なんだがな、と苦笑する。

 

「おはようございます、隊長」

 

「……あぁ、そうだな『便利屋』」

 

「………隊長もその名前で呼ばないで下さいよ……」

「実際そうだから仕方がないですね……」

 

先日の一件で、ミサキの願いを100個叶える事になったRAPTOR5は、実質自治区全員にとっての便利屋になっていた。

 

——巡回中に雑誌拾うの手伝って下さい!

 

——夜間の歩哨に一緒に立って欲しい

 

——クマの人形作って……木彫りでいいから

 

——射撃訓練に付き合って貰えないだろうか

 

——楽譜ないですかね……フルートとかの

 

依頼内容は趣味から訓練まで幅広いが、余りの過労振りを哀れに思った数名が、時折り代わりに依頼を受けている。

 

彼女達が自由に意思を出せるのなら、きっと喜ばしいことなのだから。

 

当然、ベアトリーチェには怪しまれない様に言葉の綾、誇張、意図的な勘違いを多発させているのだが。

  

「懐かれてるからいいじゃないか、オレは最近なんか怖がられてる気がするんだよな……」

「鬼教官は必要ですよ、RAPTOR7」

 

他愛もない会話を交わしながらも、体は任務の為に動いている。

 

「……さて、今日は試験日だ。俺達の訓練の成果がどれくらいのものか……それを見て、今後の方針を決める。RAPTOR6」

 

「はい、既に偵察用ドローンの配置は終了しました。自治区外縁までバッチリ見えます」

 

「試験内容は今日発表だろ?連中夜も眠れてないんじゃないか?」

「そこまで緊張はしてないだろ、いつもの訓練を同時にやるだけだ」

「それが難しいと思いますよ……」

 

日頃の訓練の成果を見せる日において、一番緊張するのは当然受ける側であるのだが、それを見守る教官側の人間も、それ相応に緊張するものだ。

 

「大丈夫でしょうか……日程に不安が残るのですが……」

「大丈夫だろ、乗算みたいな感じで訓練の密度上げてたし」

「ヒヨリが途中で寝ないかが不安要素、ですかね」

「他に不安要素ないのかよ、指導に自信持ち過ぎだろ……」

 

約一名、自信を持ち過ぎな者がいたが、いつもの事なのでスルーして、隊員達は広場に向かうのだった。

 

 

 

 

 

広場に貼られた試験内容の書かれた紙の前に、生徒達が殺到している。

 

 

 

発表された試験内容は訓練を受け続けて来た生徒達にとっては、達成可能な内容だった。

 

試験内容

 

①完全装備でスタート地点へ

②スタートと同時にガスマスクを装着

③自治区外縁を一周した後、銃を分解し、組み直す

④そのまま射撃に移行、小銃2マガジン、拳銃1マガジン分射撃後、自治区外縁を一周

⑤走行中に行われる狙撃を回避しながらスタート地点へ

⑥二人一組で近接格闘、終了したならガスマスクを外し、外縁を一周

⑦ガスマスクを装着し、③〜⑥を5回繰り返す

⑧終了したなら、広場にて待機

 

時間はかかりそうだが、体力的には問題ない。

唯一の懸念点は⑤だが……

 

「……流石に加減するから……そんな顔しないでよ……」

「まぁ私達二人が全力を出した場合の想像が出来ているようでなによりです」

 

不安と恐怖の混じった視線を向けられ、鬱陶しそうに手を払うRAPTOR3と、何処か自慢げなRAPTOR4。

 

容赦の無い対狙撃訓練で毎日ズタボロにされ、時に気紛れで参加したRAPTOR4にタンコブを量産させられた為に、スナイパー二人の印象は『鬼教官』で固定されていた。

 

「……とは言え、そこまで優しくするつもりはない。全力で挑むことだ……俺達の評価にも関わるしな……」

「胃が無くなりそうだ……」

 

教官達の会話を聞いて、試験前に相応しい緊張感を持ちつつ、生徒達はスタート地点に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試験開始まで!5、4、3……始め!!」

 

合図と共に一斉に走り出す生徒達の圧巻とも取れるその光景を、RAPTOR1は広場の高台から望む。

 

「………流石に速いな」

 

ヘイローによる身体能力の強化とRAPTOR小隊の指導の成果もあり、生徒達は速度を上げながら外縁を走っている。

自分達と比べても遜色ない動きを見て、改めて実感する。

 

「基本的には、身体能力じゃ勝てないからな……ヘイローある連中には」

『オレ達にも有ったら楽なんだがなぁ……』

「無い物ねだりしても仕方がないです。その分技量を上げる方向で伸ばすのがウチのやり方でしょう?」

 

軽口を叩き合いながらも、隊員達の目は常に生徒達に向いている。

最前列をキープし続けるスクワッドの面々。それに追走する梯スバル。

既に射撃を終えて、半周が終了しようとしているが、落伍者は見られない。

 

「……梯は中々やるな。スクワッドに負けてたまるか、という反骨心か?」

「他の方も今の所は、まぁこの程度で脱落されたら立つ瀬がないですから……」

 

 

『こちらRAPTOR3……そろそろ撃つよ……』

『こちらも同じく、もう撃ちます』

 

通信機越しにRAPTOR3とRAPTOR4の声が聞こえるのと同時に銃撃音が辺りに響き渡り、悪路を走っている生徒達の足元に砂埃が舞い上がる。

 

試験用にサプレッサーを外した二人の狙撃銃、特にRAPTOR4の物は20mmの大砲と化しており、射撃音だけで鼓膜が揺れる程だった。

 

『先頭集団の煙幕展開を確認。回避行動をとっている。……だからどうしたという話ですが……』

 

姿こそ見えなくなったが、高々煙幕程度で目を潰される狙撃手などRAPTORには存在しない。

煙の薄い箇所や、センサーが察知した場所に次々と弾丸が撃ち込まれる。

 

だが

 

『……熱源反応?まさか——!?』

「マジか!」

 

RAPTOR3の言葉よりも早く、煙幕の中から数本のミサイルが煙で空を描きながら射出される。

 

射出されたミサイルは真っ直ぐに、狙撃手達の陣取る高台に着弾する。

 

ドゴォォォォン!!

 

爆発音と共に、高台が木端微塵となり、苛立った声の通信と重なる。

 

『——っやられました。まさか一周目で気付かれるとは……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たったか?」

煙幕の隙間から、高台が煙に包まれる様子が見える。

 

「……見れば分かるでしょ、粉々になったよ」

 

サオリからの問いかけへのぶっきらぼうな返答を返しながら、ミサキはランチャーに次弾を装填する。

 

「きょ、教官に攻撃していいんでしょうか!?失格になってしまうんじゃ!?」

アワアワと慌てた顔をしながらも走るスピードは落とさない、器用な事をしているヒヨリ。

 

「(スッ、スッー)」

 

「えっ、『教官の妨害行動の妨害は禁止されてないから大丈夫』ですか?」

走りながらの手話と、こちらも器用な事をしているアツコの言う通り。

 

この試験は教官に対する直接攻撃は禁止だが、妨害行為に対しての妨害は禁止だという明記はない。

 

明らかに意図的なものであり、生徒達はこれを『ただ狙撃を躱すのではなく、対抗くらいはして見せろ』という隊員達からのメッセージだと受け取った。

実際、ミサイルを発射したが何のお咎めもなかったことがその事を確信させた。

 

「姫の言う通りだ……これで暫く狙撃は沈黙した。早く移動するぞ!」

 

サオリの言葉に呼応してか、また一段と速度を上げるアリウス生。

この調子ならば、直ぐに一周を終えてしまうだろう。

 

 

 

 

 

ただ唯一、生徒側が勘違いしていたことは。

 

 

「……もっと後半で気付くと思ってたんだがな……」

「そうだな……思ったより抜け穴突くのが上手いな」

 

『言ってる場合?Bポイントに向かうから次来たら教えて』

『えぇ、次は蜂の巣にして見せます』

 

隊員達は、まさか試験前に気付かれるとは思ってもなかった。という事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に三周目に突入した者もいる中、試験は過激さを増していた。

狙撃エリアに突如として追加された地雷原、射撃場では隊員達が銃撃を加え始め、近接格闘中に閃光手榴弾が投擲され始めていた。

 

だが、始めた時こそ面食らった様な顔をしていたが直ぐに体勢を立て直し、地雷原諸共爆破し、隊員達への反撃も行われていた。

 

数十年前の紛争の様な形相を醸し出していた試験会場のスタート地点では、二人の隊員が慌ただしく動いていた。

 

「弾のなくなったマガジンはこちらに!入っている物は10メートル先にあります!キチンと自分の分だけ持って行って下さい!!」

「ありがとうございます!行って来ます!」

 

「おいコラ!!マガジン投げんな!!タダじゃねぇんだからな!?」

「すいませ〜ん!!」

 

机を横に一列に並べて、上にマガジンを置いているRAPTOR7とRAPTOR8。

教官役ではあるものの、自身の武器がショットガンだったために補佐役に徹していた。

即ち、補給係である。

空になったマガジンに弾を込めては並べる。千個近いマガジンに延々と弾丸を込め続ける二人は、半分くらい考えるのを停止していた。

 

「……オレ達よく二人でこれやってるな……労基に駆け込んだら勝てそうだ……」

「口ではなく手を動かして下さい、こちらのスピードに合格が掛かってるんですよ、彼女らは」

 

手の部分に残像を起こしながら、マガジンの山を積み上げるRAPTOR8。

なんやかんやで余裕がありそうに見える辺り、RAPTOR1の判断は適切だったようだ。

 

 

「……ランチャーの弾切れた」

「次の補給で貰うぞ、後煙幕も貰っておくとしよう」

「わ、私のスナイパーライフルもそろそろ……」

 

 

 

 

「「……寒気がする」」

 

訂正、その余裕は案外儚い物だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員が四周目に入った。落伍者はゼロだが先頭集団との差が……いや、錠前達が速いだけだな、かなり良い調子だ」

「いや〜、フル装備であのスピード出されるとはな……一年後には抜かされちまうんじゃないか?」

「随分と弱気だな」

「いや負けるつもりはないけどよ……」

 

広場に陣取りながら、もの思いに耽るRAPTOR2の頭を軽く小突く。

もう後数十分もすれば、試験は終了するだろうという頃合いだ。

 

特に大きな問題もなく、強いて言えば補給係が悲鳴をあげていたがいつもな事なので無視する。

全員が好成績を残している。いくら報告の度に寿命を縮めざるを得なかったベアトリーチェだろうと、この結果を見れば黙り込むだろう。

 

そうしたら、もうお役御免になり、自分達はこの自治区から立ち去る。

 

本来の予定よりも、随分と長い任務になってしまった。

カイザー本社は無事だろうかと思わない訳ではないが、出来る事は特になかった。

ようやくその不安から解放されるのだから、喜ぶべきことの筈、なのだが。

 

「…………」

 

心の何処かでつっかえている物がある。

この三週間、彼女らに対して情が湧かないと言えば嘘になるだろう。

それが憐憫か同情か、はたまた別の何かなのかは判別がつく事はない。

 

 

たった一つだけ、ベアトリーチェに公然と逆らった物がある。

ベアトリーチェが求めていたのは『駒』だった。自身の命令を何の疑問もなく実行する、自身の手足となる存在だった。

 

けれど自分が育てたのは違う物だった。

自分が育てたのは『兵士』だ。本質的には駒と同義かも知れない。何が違うのかを他者に尋ねられても、きっと答える事は出来ないだろう。

 

だが間違いなく自分は兵士を育て上げた。

どちらが幸せか、というのは分からない。分かる筈もない。ベアトリーチェに全てを託して、身を委ねながら生きる方が幸せかも知れない。

だから、選択肢の多くなる様な未来をとった。

 

「…………」

 

自身の都合の良い思考に吐き気がする。

結局の所、『かも知れない』という曖昧な表現に逃げ込み、人を救っている気になっているだけの偽善者に変わりはない。

 

所詮自身も兵士でしかなく、つまり駒でしか無かった、という事なのか。

 

或いは——

 

 

「聞こえてんのか?もう直ぐ試験終わるぜ?」

 

「……あぁ、すまない。直ぐに向かう」

 

RAPTOR2の声に思考を切り替えて、直ぐに立ち上がる。

何はともあれ、今はまだ気を抜く事は出来ないのだから。

そうして、歩き出そうとした時

 

「随分と弱気だな……なんてな」

 

背後の声に動きを止める。

 

「……バレてたか?」

 

「お前が座って動かない時は、陰鬱な考え事してるか、又は便所だ」

 

今は一つだけだ、と笑っているRAPTOR2を見て、軽く笑う。

 

「……悪い癖だな、治せるなら治したいものだが」

 

「別にいいだろ、いつもポジティブってのも気持ち悪い。偶にはバランス取らなきゃな」

 

いつもはおちゃらけた態度のクセに、こういう所では真剣な表情をするのが、如何にもこの男らしい行動だ。

 

「……連中のことが気になるってなら、話してみたらいいんじゃないか?今の時代はセクハラに厳しいが、ここじゃ適応外だ」

 

あのババアのケツは遠慮するけどな、と一人で爆笑している男を見て、ひっそりと上がっていた評価を元に戻す。

 

「……さっさと行くぞ、アイツらを迎えに行かなくてはな」

 

「なんか冷たくね?」

 

「気のせいだ」

 

お陰様で気持ちが楽になったのか、シモに流れたのかは分からないが。

そんな体の耳に、ゴールを示す音が流れ込んできて、二人は急いで広場に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの生徒が震える足で広場に立っていた。

座り込みそうな状態だったが、過去の訓練の記憶がそれを許さなかった。

 

「疲れたぁ……」

「水筒の中無くなっちゃった」

「……流石に疲れたな」

「お腹も空きましたし……」

 

もう既に太陽が沈みかけ始めた夕暮れ時、広場では独り言と言っていい感想が、会話を成していた。

 

そんな中でRAPTOR1が手に結果の書かれているであろう紙を持ち、高台に登壇する。

 

「……たった今、集計が終了した。楽にして聞け」

「今回の試験の結果についてだが……」

 

「「「………………」」」

 

 

「……全員、基準点を上回っていた。つまり——合格だ」

 

 

広場から息を飲み込む様な音が重なって聞こえていたが、RAPTOR1の発表により一瞬にして霧散した。

 

大きな声で歓声を上げる者こそいなかったが、拳を握り締めたり、隣の者と顔を見合わせる者が、彼女らの感情を良く表している。

 

「……射撃試験300m地点での命中率9割。350m地点では8割2分程度だな……被弾率も15%未満、被撃破はゼロ。速度も近接格闘も及第点だ。良くやった」

 

騒めきの最中でも、RAPTOR1は発表を続けるが、その結果は彼らにも驚きを与えていた。

 

「詰めたとは言え、三週間でこれかよ……しかも殆ど一日一食だろ?」

「成長速度は目を見張りますね……もう一人前の兵士を名乗れます」

「……まだ半人前でしょう。静止目標なら400m位までは当てられてこそ、一人前です」

「試験後半殆ど撃てなかったからって拗ねんなよ、RAPTOR4」

「頭を吹き飛ばしますよ?」

 

RAPTOR1の背後で取っ組み合いが発生していたが、特に気にも留めていなかった。

騒めきも収まり、RAPTOR1の言葉に耳を傾けている。

 

「……正直に言えば、数人は不合格が出ると思っていたが……俺の認識が浅かったな」

 

「もう一度言うが……本当に良くやってくれた」

 

心底安心した表情を見せるRAPTOR1に釣られて、生徒達にも笑みを浮かべている者がいる。

 

誰も欠けることなく、試験に合格した。

誰にとっても喜ばしいことだ。

 

 

 

だが、まだ隊員達の『サプライズ』を見せていない

 

その為

 

「さて、本来なら直ぐに休息と自由時間を、と言いたい所だが……」

 

「自治区周辺の掃除を済ませるとしようか」

 

試験終了後のちょっとしたイベントに、彼女らを巻き込むとしよう。

 

 

 

 

 




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